一ページ目 『怪物よ泣き叫べ』:四行目
次の日。
先生とシオリの二人はふかふかのベットの中で、カビの匂いと共に朝を迎えた。
「起きろ、シオリ。朝だ」
「......ふぇー? あさぁ? ごはんは?」
「起きてすぐご飯を求めるな。......朝食出るのか? この宿」
「おじさんに聞けば?」
おじさんとは、ここの宿主のことである。
あのBARを教えてくれたのも、このおじさんだ。センスない。
先生は朝食が出るかどうかを聞くため、受け付けのカウンターへと向かった。しかし、そこに宿主はいなかった。まだ寝ているのだろうか?
仕方ない。
起こしてやろう。社長はお客よりも早く起きるべきなのだ。
起こすために宿主の部屋へと向かった。が、先客がいたようだ。
十代後半くらいの若い女がドアを叩いていた。
「おじさん! おじさぁん!!」
先生は嫌な予感を抱きながらも、その女に声を掛けた。どっちかというと「何かあったのか?」という気持ちよりも、「面倒くさそう......」という気持ちのほうが強い。
「どうかされましたか?」
「おじさんが――宿主が! 部屋から出てこないんです!! カギもかかっていて!」
「まだ寝ているのでは?」
「そんなはずありませんっ! おじさんは『社長はお客よりも早く起きるべきなのだよ』とか言って、いつも私を朝早く起こすんです!! きっと何かあったんです!!」
「............下がれ」
仕方ない。
たまには、かっこつけてやろう。
先生がドアの前に立つ。
ドアの開く向きを確認し、一歩後ろに下がった。そして、カギの横辺りを思いっきり蹴った。
ドアは派手な音と共に、あっさりと開いた。
そう、先生はドアを蹴破ったのだ。
女は映画のような展開にポカーンとなったが、部屋から流れてくる鉄の匂いで我に返った。尋常ではないその匂いに、女は先生を押し退け宿主の部屋へと入っていった。
そして、無音。
しばらくして、悲鳴。
何事かと駆けつけてきたシオリに、先生は淡々と言った。
「宿主が死んだ。朝食どうする?」