一ページ目 『怪物よ泣き叫べ』:三行目
ご安心ください。
物語のネタは口から溢れ出るくらいあります。
もう少し、この世界について説明しておこうと思う。
世界を汚し、すべての国を滅ぼした七日間の戦争――通称『七日間戦争』の後、この世界はいくつかの大企業によって管理されている。
ITと科学技術、そして世界の衛生管理を得意とする『Infinity Science』! 通称Is! セーフエリアを管理しているのもIs!
............。
これだけ!
いや、本当はIsの他にもいろんな企業が世界を支えているよ! いるけれども! ......まぁ、はっきり言って、Isと比べたら他の連中は虫けらみたいなもんだから気にしなくていいわ。
ちなみに、シュガーちゃんが働いているのも、このIs。
後でまた説明するよ!
「以上、悪い子の味方、情報屋のルナティックでした!」
「お前、さっきから誰に言っているんだ......?」
「そりゃあ、迷える可愛い可愛い読者さんたちにだよ。たちかどうかは知らんけど」
ルナティックの性格がよく分かる会話だったと思う。
「隣、いいかな?」
「勝手にしろ」
ルナティックは先生の隣の席に腰かけ、マスターに何かのお酒を注文した。
「最近どう? 『仕事』のほう」
「見ての通りだ。 増えている」
先生はズボンのポケットから懐中時計を取り出すと、ネジを巻き始めた。「カチチチ、カチチチ」と、歯車の回る音が微かに聞こえる。
「ふーん......。大変だねぇ。あんたがクビになる日はいつ来るのかねぇ。きゃははははは!」
「こねーよ。少なくとも――患者がいる限りは」
この世界での患者とは主に、病気にかかったり怪我をしたりした生命体のことを指す。
そんな事を話していると、先生の前に一杯のグラスが置かれた。中には美しい白色のカクテルが入れられている。先生はその白色のカクテルにしばらく意識が奪われたものの、頭を無理やり振ってマスターに意識を向ける。
「......見事だ。ありがとう。とはいえマスター、これは?」
「X.Y.Zです」
「それは分かる。だが、俺は注文した覚えがないぞ」
「隣のお方からです」
左側に座っているシオリを見るが、シオリはぶどうジュースを無我夢中で飲んでいる。相当気に入ったようだ。
「私だよー」
右側をみると、ルナティックがいたずらっぽく笑っていた。
「どういうつもりだ」
「おごるよ。二年ぶりの再会を祝って。ね?」
「図々しい女との最悪の再会だがな」
「きゃははは、相変わらず毒舌だねぇ。でも、ちょっとは薄まったかな? 二年前なら『ああ、祝おうではないか。図々しい上に頭のイかれたこのクソ売女との素晴らしい再会を!』とか真顔で言ってただろうに。やっぱり、男は子育てをすると変わるのかな?」
「......変わってねえよ、何もかも」
先生はカクテルを一気に飲み干し、黒いコードの懐から数枚の金銭を取り出してはテーブルに置いた。
「いくぞ、シオリ」
「え、あぁ、はい。先生」
先生が席を立つと、シオリも慌てて席を立った。
「えっと、ジュース、ありがとうございました。ますたー」
「ああー、ちょっと待ってよ! シュガーちゃん! 一つだけ、情報あげる!」
先生はBARのドアを半分だけ開いた状態で、立ち留まった。
「......なんだ、ルナティック」
情報屋は言った
「この町には、あんまり長居しないほうがいいよ。『怪物』が出るらしいからね」
先生は振り返った。
自分がどんな顔をしているのかも知らずに。
その顔は、シオリが無意識に「ひっ」と声を漏らすほど、とても怖かった。
『とても怖かった』としか表現できない自分にいらたちすら覚えるが、今思いつく限りの言葉の中では、これが一番しっくりくるのだ。