一ページ目 『怪物よ泣き叫べ』:二行目
シオリが指した方向にしばらく進むと、小さな町が見えてきた。
その場所だけを砂嵐がよけている。
まるで、ドーム状の透明な屋根で覆われているかのようだった。
まぁ、実際、ドーム状の物質消去レーザーで砂を粉砕しているのだが。
「セーフエリアだな」
先生が呟いた。
『セーフエリア』とは、多くの人々が安全に暮らせるように整えられた場所のことだ。
「シオリ、帽子を被れ」
「あー、うん」
シオリはリュックから帽子を引っ張り出し、目深く被った。
オレンジ色だ。
セーフエリアに入るためには必ず、検疫所で許可を得なければならない。普通、一時間くらいはかかるのだが、先生が『懐中時計』を見せると、あっさりと通してもらえた。むしろ、「さっさと終わらせてさっさと出てくれ」という感じだった。
「お店がいっぱいあるよ! 先生」
防塵マスクを片手に持ったシオリが辺りを見渡しながら言う。
「ああ、そうだな」
「でも、どれも閉まってるね」
「だいぶ暗くなってきたからな......。とりあえず、宿屋を探そう。シャワーも浴びないと」
確かに、二人は砂埃だらけだった。
「シャワーきらーい」
二人はなんとか宿屋を見つけ、シャワールーム付きの二人用の部屋を借りた。若干カビ臭いが、安いので文句は言えない。ベットもある。おまけに、宿主から良いBARの場所も教えてもらった。
「シオリ、シャワーを浴びれ」
「えー、先生は?」
「お前が窓にへばりついている間に浴びた。さっきから何を見ている?」
「向こうに大きな館があるの。逆さまの子が手を振っている」
「......俺には見えん。出かけてくる」
「こんな時間に『仕事』?」
「いいや、BARで情報収集だ」
「いや、それただお酒飲みたいだけでしょ!」
なんだかんだで結局、シオリも連れて行くことになった。
路地裏にあるBARで、なかなかいい雰囲気だ。あの宿主、やるな......。
先生はとりあえず、BARのマスターにジュースを注文した。もちろん、シオリの分だ。
さーて、俺は何を注文しようか。先生はカウンターの席に腰を下ろしながら考えた。
「久しぶりだねぇ、シュガーちゃん。二年ぶり?」
やはり、ここはブルームーンか?
「あっ! 元カノさん!」
「やっほー。久しぶりぃ、シオリちゃん。覚えてくれてたのね。あと、元カノは余計」
いいや、ここはウィスキーミストだな。
「ずいぶん大きくなって――は、いないわね」
「あ、ひっどーい!」
それとも、カサブランカ?
「つうーか、無視しないでよ。シュガーちゃん」
スティンガーも良いな。
「おい種馬」
「なんでお前がここにいるんだよ!! 『ルナティック』!!!」
後ろを振り返ると、そこにはフードを被った青髪の二十代くらいの女性がいた。
世界を渡り歩く情報屋であり、先生の元カノである。