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06

 「ちぃっ」


 超粒子砲の砲撃がさらに激しくなったけれど、私が片手を掲げると光のシールドが現れて超粒子砲の砲撃をすべて跳ね返した。


 「さらにできるようになったね、姫ちゃん!」


 さっきから天がよくわからないことを言っているけれど、無視してさっさと話を終わらせてしまおう。


 ユキスセミ・コンボのスピードを生かしてタックルを仕掛け、足を取ってテイクダウンした。そしてそのまま寝技に移行し、仰向けに起こして腕を押さえてフォールを取った。


 「無駄だよ、姫ちゃん。もうコロニーは止まらない」

 「そんなのは後回しよ」


 天を押さえつけたままフレンドチャットをクイック起動して呼びかけた。


 姫『天を捕まえたわ』

 姫『オーライ!』


 現実世界でスタンバイしていた天の残滓がすぐさま返事をして天のアバターに乗り移った。


 「あっ、だめっ。入ってくる。お願い、もっと優しく。だめぇぇっ」


 妙な声を上げたと思うと組み敷いていた天の姿がかき消えた。どうやらログアウトできたようだ。


 周りを見て異常がないことを確認して、私もログアウトした。


 「お姉さまっ」

 「あ、雪? 元に戻ったのね」


 次に目を開けた時、そこにあったのは心配そうな雪の顔だった。雪の顔を見ているということは入れ替わりが解消されたということだ。


 「これで一件落着ね」

 「それが、そうでもないんです」

 「?」


 いつの間にか移動させられていた寝室のベッドから体を起こし、雪についてリビングに行くと、墨とすせり姫が2人でテレビを見ていた。


 「地球の周囲を回っている人工衛星が突如軌道を離れました。専門家は、このままでは地球に衝突する可能性が高いとしており、墜落地点によっては深刻な被害をもたらす可能性があると警告しています」


 ニュースのアナウンサーが画面に人工衛星の画像を見せながら墜落の可能性について言及すると、コメンテーターが無責任なコメントを思い付きでしゃべり始めた。


 「ん? 衛星を落とすってのは仮想世界の中の話だったんじゃないの?」

 「姫ちゃん、コロニーだよ」

 「そんなのはどっちだっていいわ」

 「よくないよ。コロニーが落ちたらオーストラリア大陸の16%が消滅するのよ」

 「あなたは、そんな物騒なものを落とそうとしてたのかしら?」

 「ロマンよっ」


 とにかく、コロニーよりも規模は小さいにしても人工衛星が地球に落ちてくるらしい。落ちるところが悪ければ大きな被害が出る可能性もある。


 「それにしても、どうしてこんなタイミングで落ちてきたのかしら」

 「それは仮想世界のコロニーと位置情報がリンクしているからだわ」

 「んっ、げほげほ。何って?」


 天が何気なく重大発言をしたので、思わずむせてしまった。


 「だから、あの人工衛星とオーズのコロニーは位置情報がリンクしてるのよ。大国主がコロニーの軌道計算の手抜きをしたから」

 「じゃあ、仮想世界のコロニーが落ちるとこっちの世界の人工衛星も落ちるってこと?」

 「まあ、本当ならそんなことにならないようにしないとダメだと思うよ」


 私は額に手を当てた。なるほど、要するに大国主がやらかしたということか。後でおしおきだな。


 「とりあえず、仮想世界のコロニーを止めよう。天、どうやったら止められるのかしら?」

 「もう遅いのよ。コロニーは止まらないわ」

 「かっこつけてんじゃないわ」


 ぐりぐり


 「痛い、痛い、やめて、許して」

 「じゃあ、コロニーを止める方法を言いなさい」

 「分かった。言う。言うから。コロニーを仮想世界のデータから消しちゃえばいいのよ」

 「どうやって?」


 天の頭をぐりぐりしていた手を緩めると、なぜか天から恨みがましい目で見つめられた。


 「もう一度、オーズの中にダイブするわ」


 スマホを手に取ってオーズにログインすると、意識が暗転したのちにさっきまでいた月の宇宙港に戻った。隣には同じようにログインした天が立っていた。


 「こっちだよ」


 天の案内に従って宇宙港の中に行くと、管制室らしき部屋に出た。そこには画面いっぱいのディスプレイにスペースコロニーの落下軌道が映し出されていた。


 「この端末からシステム管理者でアクセスしてコロニーのデータを消去すればいいよ」

 「分かったわ。で、管理者のパスワードは?」

 「あたしは知らないよ」

 「は?」

 「だって、このシステムは大国主が作ったものじゃん?」

 「天照の力でどうにかならないのかしら?」

 「無理。大国主の魔法はやたら細かいから。全部吹き飛ばすならできると思うけどコロニーは消えないよ」

 「何かヒントとかないのかしら? 今から大国主を捕まえても絶対間に合わないわ」

 「あっ」


 天は突然大声を上げた。何事かと思えば気持ち悪い笑みを浮かべていた。


 「ふふふ。パスワード分かっちゃった」

 「何?」


 私は半信半疑で聞いたが、天は自信満々に答えた。


 「パスワードは『amaterasu』よ」

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