05
とにかく、月への道も見つかったことで、臨時休業ということなら明日にはドアが開くだろうと思って街に戻り、それとなく塔のことを聞いてみるとあの塔はここのところ毎日臨時休業が続いているという証言が得られた。
それで、塔まで戻ってきてドアを押したり引いたりしてみたものの、どんな頑丈なドアなのかびくともしない。
じゃあいっそのこと側面を登っていこうかと考えたものの、表面は凹凸が少なくて手掛かりが少ない。それでもメダルで底上げされた身体能力で登れるかもしれないけれど、月までよじ登るとかどれだけ時間がかかるのか想像もできない。
完全に手詰まりだった。
「他に月まで行く方法なんて宇宙船でも作るくらいしか思いつかないわ。はぁ………………、それだ!」
宇宙船を作ればよかったのだ。アイテム生成の作成可能アイテムの一覧を一つ一つ確認して宇宙船らしいものを探す。アイテム一覧は一見何を示しているのかわからない名前のものも含まれているので、よく検討してみないと見落としてしまう可能性もあるのだ。
あった。多分、これだ。
アイテム名は『スノーホワイトベース』。説明には『吹雪型宇宙駆逐艦2番艦。SDD-70。自力での大気圏突入・離脱が可能』と書かれていた。さすがに建造には大量のメダルが必要だ。
アイテム欄を開いてメダルの所持数を確認してみたけれども少し足りなかった。
姫『雪』
雪『はい、お姉さま』
姫『メダルをもう少し送ってもらえない?』
雪『メダルですか? ちょっと待って下さい』
しばらくチャットの応答がなくなったので街をふらふらと歩いていると、再びチャットの着信が入った。
雪『少し作ることはできたのですが、今日はもうこれが限界みたいです』
そう言って送られてきたメダルを足したものの、それでも少し足りないみたいだ。
雪『あ、ちょっと待って下さい。誰かお客さんです』
どうやら家に誰か尋ねてきたようだ。
今日は仕方がないからここでログアウトして明日を待とうかなと思っていると、空に何か奇妙な形の星のようなものが見えた。
「ピンポンパンポーン」
何だろうと思っていると市内放送スピーカーから音声メッセージが流れてきた。
「こちらは広報、広報でございます。本日20時頃、空からスペースコロニーが地上に落下する予定です。皆さま、今日は早めにログアウトしていただき、該当時間にはログインしないようご注意ください。繰り返します……」
内容もふざけたものだったが、それ以上に声の主に心当たりがあった。
「……、天!」
わざわざ仮想世界に人格を移動させてまでやりたかったことがそれかと小一時間問い詰めたくなるが、それが天だと言えばそれまでではある。一体脳内で誰と誰を掛け算しているんだ。
雪『お姉さま』
姫『何かあった?』
雪『すせり姫さまがいらっしゃいました』
すせり『かぐや姫さん』
姫『すせり姫さん、どうしてこっちに?』
すせり『それが、ちょっと先日から主人の様子がおかしくて。今朝から姿が見えないのでこちらに来ているかと』
姫『来てはいないけど、ちょうどよかったわ。今すぐメダルを送ってくださるかしら? 天がちょっとバカをしてて行ってしばいて来ないといけないのよ』
すせり『なるほど。主人の仕業ですね。分かりました。ちょっと待っててください』
すせり姫はすぐに状況を理解したのかその直後にかなりの量のメダルを送ってきた。
私はメダルを受け取ると即座に街の郊外に出てスノーホワイトベースを建造した。そして、乗り込むと月に向かって発進した。
宇宙空間まで仮想世界に実装されているのかと思いきやそこは省略されているようで、ある程度の高度に達したらワープ空間のようなところに入ってすぐ月の近くまで転移した。
さらに進むと宇宙港があり多数並んでいる桟橋の1つに接岸した。スノーホワイトベースから降りると、そこには見たことのある人物が妙なマスクと制服を着て立っていた。
「天」
「やあ、姫ちゃん。とうとう来たね」
「こんなところで遊んでないで帰るよ」
「嫌だね。ここでもっと遊ぶんだから」
「天が戻らないと私と雪の体が入れ替わったままなのよ」
「んー、じゃあ、あたしを捕まえられたらね」
そういって何かの格闘技の構えを取る天。素人っぽい見た目でも普通に捕まえに行ったらあっさり組み伏せられるか投げられてしまうに違いないので、慎重に距離を詰めた。
「はい、ドーン」
天がそう言うと、突然横から超粒子砲が飛んできた。って、格闘するんじゃなかったの?
「ちょっ」
慌てて後ろに飛びのいて倒れそうになったところを後方宙返りで体制を立て直すと、さらに超粒子砲の連射があってスノーホワイトベースの影に隠れた。
これじゃ近づけないわ。
どうしたものかと考えたところで、墨とすせり姫からメダルを貰った時に、それぞれ1枚ずつスペシャルメダルを貰ったことを思い出した。スミ・メダルにスセリ・メダルだ。
すぐに2つを取り出してユキ・メダルとともにメダルスロットにセットすると、ユキ・メダルだけの時とは違うエフェクトが発生した。
『ユキ!スセリ!スミ!ユーキスセミ!ユキスセミッ!!』
あー、なんかこんなのあるね。聞いたことあるよ。うん。
「〇〇ラ〇〇ーなのっ!! だから〇ーズなのっ!!!」
とにかく、どことなくバッタっぽく見えなくもないコスチュームに身を包んだ私は、スノーホワイトベースから飛び出した。