04
私は空を見上げた。この世界は平面的にしか広がっておらず空の描写はただの背景だと思っていたけれど、月に行けるということは3次元的な広がりのある世界だということなのだろうか?
それとも、単に月ゾーンという場所につながるワープゾーンが存在しているということなのかもしれない。
「今すぐ降りてきて」
「やだよ。会いたかったらそっちから来て」
「分かったわ。どうやって行くの?」
「にひひ。自分で探してみて~」
「あ、ちょっとっ」
ツー、ツー、ツー
切れた。
と、同時に受話器もふっと消えてしまった。その後、数回天にチャットをコールしたけれども、今度は本物の圏外メッセージが応答して電話はつながらなかった。
やっぱり自力で探さないとダメみたいね。
まず、あからさまに怪しいのは向こうに見えるカリン塔みたいな塔だ。登れるかどうか分からないけど、近くまで行ってみよう。
歩いていくのは時間がかかりそうなので何か使えそうなコマンドはないかとメニューを開いてみた。
最初に目についたのは『メダルスロット』という項目だった。選択するとメダルを3つはめ込む場所の付いたベルト状のものが出現した。そこへアイテム欄から雪に送ってもらったメダルを具現化してはめ込むとエフェクトがかかって服装が変化した。
どうやらこれは身体能力強化の機能のようだ。
メダルをセットして返信すると体の動きが格段によくなって速く走れるようになった。さらに、『ユキ・メダル』という名前の付いたメダルを使うと身体能力はさらに向上した。
ただ、ユキ・メダル以外のメダルは一定時間使うと消滅してしまうので、時々メダルを補充してやる必要があった。
これは使えそう。
私はこの機能で足を速くしてカリン塔まで走っていくことにした…………
「はぁ、はぁ、これ、いつまで続くんだろう」
走り始めて約1時間。私の心は折れかけていた。最初に見た時は大した距離じゃないと思っていたのに、それからどれだけ走ってもちっとも塔に近づいている気がしない。あまりに高い塔のせいで距離の目算を盛大に誤っていたようだ。
これじゃ埒が明かないわ。何か他の方法を考えないと。
ピローン
と、ちょうどその時、雪からのフレンドチャットが着信した。
雪『お姉さま、ご無事ですか?』
姫『うん。どうしたの?』
雪『先ほど墨ちゃんもアカウントを作りまして、メダルを作ったのでこれから送ります』
姫『分かったわ』
ピローン
するとすぐに墨からのトレード申請が届いてメダルが追加された。その中にはユキ・メダルに似たスミ・メダルも含まれていた。これを使えばさらにパワーアップできるのだろうか?
姫『はーい、姫ちゃん』
姫『天か』
姫『そろそろあたしを捕まえた?』
姫『まだだよ』
姫『えー、遅い』
姫『走ってるんだから仕方ないでしょ』
姫『え、メダル、使ってないの?』
姫『使ってるよ。足が速くなったよ』
姫『そうじゃなくて、武器とか乗り物とか作れるでしょ?』
姫『え??』
私はもう一度メニューを見直してみると、今まで触ったことのない『選択』という項目があり、その下に『配置』『追加』『アイテム生成』とたどるとメダルで生成可能なアイテムのリストが表れた。
姫『分かるか、こんなもん!』
姫『じゃあ、頑張ってねー。あたしを捕まえたら教えてねー』
それで雪からのチャットは終了した。私はアイテムリストからホバーバイクを選んでメダルをつぎ込んで確定してみた。
ボンッ
白煙のエフェクトとともに1人乗りのホバーバイクが出現した。スター〇ォーズみたいでかっこいい。
「よし、出発」
燃料はやはりメダルで、変身して走るのに比べると燃費が悪いが速度は比較にならなかった。そして、わずか30分ほどで塔が目の前に感じられるほど近くまで来ることができた。
塔の周りは街になっていた。
私はホバーバイクから降りてアイテム欄にしまうと、変身したまま徒歩で街に入っていった。
街の中には様々な格好をした人々が行きかっていてなかなか賑やかで面白そうだったのだけれども、今回はすべてスルー。とにかく天を捕まえるのが先決だ。
塔は街の中心の広場の真ん中に立っていた。根元にはドアが付いていて中に入れそうだったのだけれども……
『本日、臨時休業』
ドアのところに小さく案内板がつりさげられていた。
「何なの、それはぁぁぁっ」
ドアの近くにはドアの奥を指す矢印の付いた看板が立っていて『月へお越しの方はこちらにお入りください』と書いてあった。
嫌がらせなのかしら?