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03

 ふと気づくと、そこは見慣れない風景だった。さっきまでいた雪も墨もおらず、天の残滓も気配を消していた。


 「え……、ここ、どこ?」


 ピローン


 目の前に広がる風景にそぐわない電子音がなったと思うと、視界に無機質なウィンドウがポップアップしてきた。雪からのフレンド申請の通知だった。


 「えっと、ここを触ればいいのかしら?」


 同時に表示されたボタンらしい立体映像を触ると、フレンド申請が受理されてフレンドチャットのウィンドウがポップアップした。入力はウィンドウに触れながら頭で念じると文字になるようだ。


 雪『お姉さま、どこにいらっしゃるのですか?』

 姫『雪、それが、ちょっとよくわからないのだけど』

 姫『そこは「オーズ」の中よ』

 雪『天さま!?』


 どうやら私の体というか元は雪の体は今は天の残滓だけが残っていて、スマホから私のアカウントを操作しているようだ。


 姫『あたしの本体はその世界のどこかに潜んでいるはずだわ。急いで探して捕まえて』

 姫『ちょ、その前に、私はここから出られないわけ?』

 姫『? 出られるよ』

 姫『??』

 姫『ログアウトしたらいいじゃん』


 言われてようやく視界の隅にあったメニューアイコンに気づいて、中からログアウトを選ぶと視界が暗転して次の瞬間には雪の顔が目の前にあった。


 「お姉さまっ」


 雪と目が合うと、いきなり雪が飛びついてきた。よしよしと頭を撫でてやるとしばらく胸に顔を埋めていたが、ふと我に返って恥ずかしそうに距離を取った。


 その後、天の残滓を交えて状況をもう一度確認した。


 まず、天は昨日の夜にオーズの世界に作ったアバターに自分の人格を移した。その拍子に私と雪の人格も入れ替わってしまった。


 私と雪の人格の入れ替わりを戻すには、天の人格を雪に体に戻さないといけない。


 「んー、でも、せっかく天が自分だけの体を持てたのなら、わざわざ元に戻すのはかわいそうな気も……」

 「そんなこと、あたしがやってることなんだから、絶対そのうちよくないことを企むに違いないじゃないの」

 「あ、そうなんだ……」


 オーズの世界に入れるのは私だけ。でも、私は神力を失っているので外から神力を供給してもらわなければいけない。


 「神力はオーズの中ではメダルの形状になるの」


 雪が私の体に宿った神力をスマホ経由でオーズ世界のメダルに変換して、ゲーム内トレードで私に渡す。そのメダルを使うことで私はゲーム内で強力な必殺技を使うことができるのだ。


 そして、オーズの中のどこかにいる天照を探して必殺技で倒して捕まえたところで、天の残滓が天のアバターを乗っ取って強制ログアウトさせるという手筈なのだ。


 「よし。とにかく、頑張ってみるわ」

 「お姉さま、頑張ってください」

 「姫さま、ご武運を」


 ということで、雪と墨に見送られつつ、私は再び仮想世界オーズの中へとダイブしたのだった。


 「で、一体、どうすれば天を探せるのかしら」


 今いる場所はどこかの高原らしく、周りには草原が広がっていて遠くのふもとのほうに町のようなものが見えていた。その町からは高い塔のようなものが空に向かって伸びていた。


 「……よくある話としてはあのカリン塔みたいなのを上っていけば神様の宮殿に着くってことでいいのかしらね」


 天の思考を推測してみると、ああいうものにはすぐに飛びつきそうではあるけれど、逆に裏をかいて別のネタを仕込んでいるという可能性もある。今度はどちらだろう?


 ピローン


 無機質な電子音がなってウィンドウがポップアップした。雪のトレード申請だ。さっそく了承すると、メダルが大量にアイテム欄に追加された。


 そうだ、フレンドチャットがあった。


 アイテム欄を見るためにメニューを開いた時に、メニューの中にあったフレンドチャットの項目を見て、最初に天をフレンド登録したことを思い出した。


 さっそくフレンドリストを開いて、数少ないフレンドの中から(別に僕は友達が少ないというわけじゃないよ!)『天照』のハンドルネームのキャラをタッチした。


 トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル


 何このレトロな呼び出し音は?


 ガチャッ


 フレンドチャットを起動したはずなのに、呼び出し音の後に目の前に受話器が出現して、手に取るとどういう理屈か通話がつながった。


 「もしもし」

 「おかけになった電話番号は現在電波の届かないところにいるか電源が入っていないため……」

 「天、冗談はやめて」


 絶対にこういうふざけた冗談をするのは天に違いないという確信を持って呼びかけると、自動音声のような声がちょっと詰まった。


 「ふはははは。よく見破ったな」

 「今どこにいるの?」

 「月よ」

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