01
この話の視点はかぐや姫になります。
朝、目覚めると何かが違っていた。
違和感を感じながらも、多分それは寝起きで頭がぼけているだけなのだろうと考えて体を起こした。
やっぱり何か違う。何か足りないような……?
隣で寝ていた雪はいつものように先に起きてご飯の用意をしているようだ。私も起きて顔を洗うために洗面所に行き、鏡を見たところで見慣れた顔が鏡に映った。
「おはよう、ゆ……き……?」
振り返って挨拶しようとして、そこに誰もいないことに首を傾げながらもう一度鏡を見て、さっきから感じている違和感の正体に気が付いた。
鏡に雪の姿しか映っていない!?
思わず両手を自分の顔に当ててみると、鏡の雪も手を自分の顔に当てている。
下を覗き込んでみると足元が見える。いつもはあのでっかい脂肪の塊のせいで足元なんて見えたことがないのに!
手で胸を触ってみると、慎ましやかな膨らみはあれど、あの柔らかいくせに弾力のある暴力的な膨らみは跡形もなく姿を消していた。
「わ、私、雪になってる!!?」
慌てて洗面所を飛び出し、ダイニングへと走っていくと、朝ご飯を作っている私の姿を見つけた。
「雪っ??」
「お、お姉さま!?」
「やっぱり雪なのね!」
予想通り、そこに立っていたのは私の姿をした雪だった。雪の姿をした私と私の姿をした雪がいる。
「雪、私たち、入れ替わっちゃったのよ!!」
朝のラジオからRa〇w〇mpsの曲が流れる中、私はそう叫んだ。
「お姉さま、天さまはどうしてますか?」
「天は雪と一緒じゃないの?」
「いえ、私のところにはいないみたいで」
「天、天?」
天は雪の体に雪の人格と同居していたので、雪と一緒に私の体にいないのであれば私と一緒に雪の体にいるはずだった。でも、そんな気配があまり感じられない。呼びかけてみても少し反応がある気がするもののはっきりしないのだ。
「そもそも、私、神力もほとんど残ってないみたいだわ」
「姫さま、雪さま?」
そこへ、メイド姿の墨が現れた。何かを感じるのか、戸惑った表情をしている。
「墨、どうしたの?」
「雪さま、何か変わりましたか? はっ、もしかして、とうとう姫さまと……!?」
「違いますよっ」
「あれ? 姫さま??」
墨が何か言おうとしたのを私の姿の雪が遮ったので、今度は雪のほうを向いて首を傾げている。
「墨、私たち、入れ替わっちゃったみたいなの」
「ふぇっ?」
驚いた墨が近づいてきて、耳をぴくぴくさせながら鼻をすんすんと鳴らすと何か納得したようにうなずいた。
「確かに姫さまからは雪さまの感じがして、雪さまからは逆に姫さまの感じがします。後、天さまがすごく小さくなってしまわれている感じがしますけど」
「天、いるの?」
「え、いますよ。雪さま、じゃなくて姫さまの中に」
私が自分を指で指すと、墨はうなずいた。体が入れ替わるとどっちを読んでいるのか紛らわしくて仕方がない。
「でも、さっきから呼びかけてもちっとも反応しないわ」
「それは姫さまの体に神力が不足しているからだと思います。雪さまの体から神力を少し分けてもらえば多分話せるようになるんじゃないでしょうか」
さすが元猫の使い魔とは言え1000年も上級神を務めていると頼りになる。神力がなくなったらただの人の私とは年季が違うなあと思った。
「神力を分けるってどうすればいいの?」
「雪さまは姫さまのどこでもいいから体に触れてください」
「雪」
「お姉さま」
私が手を差し出すと、おずおずと雪はその手を握った。仕草は可愛いけれど、それをしているのが自分の体だということに違和感を感じる。
「じゃあ、雪さまは繋いだ手に集中して神力を集める感じで、姫さまはつないだ手で神力をぺろぺろ舐めて飲むみたいな」
「ぺろぺろ」
「ひゃ、お姉さまっ」
「姫さま、あくまでイメージですから」
しばらくするとちょっとずつ雪の体に神力が増えてきて、天の気配も少し強くなってきた。
「んー。おはよう、雪、……、じゃなくて、姫ちゃん?」
体の中で目覚めた点が私の口を使って話した。自分の体が勝手に動くというのは何とも気持ちの悪い感覚だ。雪はこんなのを普段から感じていたのかと思わず感心してしまった。
「天、私と雪の体が入れ替わったみたいなんだけど、何か原因に心当たりはない?」
「んー、ちょっと待って」
「あん、お姉さま」
天は私の質問に返事をする代わりに、体の制御を乗っ取って雪のおっぱいを揉んだ。
「やめなさい」
ゴツン
「「あ、痛たっ」」
自分で自分の頭を叩いて、その痛さに思わず叩いたところを押さえてうずくまってしまった。この状況で感覚が共有されるのって理不尽じゃない?