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ティル・ナ・ノーグの最強騎士〜「生ける理不尽」と呼ばれる少年が挑む理不尽なミッション  作者: 風庭悠
第9部:立ちはだかるはいにしえの達人たちっ―英雄の復活編
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第90話:やんちゃすぎる、ガンスリンガー。

グレイス、ジェシカのお姉さまたち主催の「女子会」にお呼ばれした凜ですが、思わぬ闖入者が。

[星暦1554年5月3日:公都シャーウッド]


 こうして、メイフェアの2日目はそれ程波乱のようなものはおこらなかった。ただ、ジェシカから「弁慶」に出会ったという言葉を聞いて絶句しただけだった。凜もゼルもこの先、たとえ「新撰組」の土方歳三や沖田総司が出て来ても驚かないだろう、そう思っていた。


「凜、あなたも一緒にどう?」

ジェシカに誘われた時、凜は遠慮していたが、結局、無理やり連れて来られる羽目になったのだ。シャーウッドの高級ホテルの一角にある会員制のバー、それだけでも心の敷居が高かったのだが、集まる面子が問題だった。


ジェシカと凜がボックス席で待っているとドレスを身に纏ったメグ、そしてグレイスが現れたのだ。凜は思わず立ち上がって敬礼しそうになった。

「久しぶりだな、凜。」

グレイスが妖艶に微笑む。個人的に会うのはアポロニアの大統領選挙の時以来であった。

「ご無沙汰しております。なんかすみません。『女子会』にお邪魔してしまって。」

恐縮しきりな凜にグレイスは鷹揚に笑って言った。

「気にするな、卿に居候する悪魔は女の振りをしているだろう。」


凜は女性陣に対し、かつて地球で名を馳せた武術家を名乗る5人の者たちとの遭遇について語った。そして、背後に黙示録騎士団が関わっていることも。凜がグレイスに意見を求めるとどうにも信じられない、という表情であった。


「陛下には尋ねたのか?」

グレイスの問いはもっともなもので、無論、それはゼルを通して照会済みであった。しかし、そのような「英雄」たちのDNAサンプルは存在しない、という回答だったのだ。ただ、もし、関わりがあるとすれば惑星「ガイア」か、スフィアの「旧貴族」グループによって惑星(スフィア)の小衛星に築かれた要塞、通称「ア・バオア・クー」が関係するだろう、という事だった。


「『ア・バオア・クー』?⋯⋯くだんの『一年戦争』の話か?『連邦の木馬』が活躍したという。」

メグとジェシカが声を出した。

「いいえ、それは陛下が戯れでつけたあだ名ですよ。正式の名は「8057A」というなんとも味気のないものです。そこにはキング・アーサーシステムとは別系統の生体コンピュータシステムが構築されている、と言われています。もしかすると、最初のメテオ・インパクトの時に海中に堕ちた移民船の生体コンピュータを回収した可能性もあります。いずれにしても、そこは僕たち『円卓の騎士』の力が及ばない範囲なのです。それに⋯⋯。」


凜はウインクすると、

「みなさんには積もる話もあるでしょうから、僕の話はここまでにしておきますね。」

そう言って、聞き手に回ることにしたのだ。と言っても、女性陣の共通項は「ヴァルキュリア女子修道騎士会」なので、共通の知人の動向やら現状といった「内輪話」が主であったため、凜にとっては相づちを打とうにも、話半分の状態ではあった。


奏でられるピアノの生演奏を聴きながら凜が考え事を巡らせていると、急にピアノの曲調が変わったのである。

(⋯⋯ジャズ?)

演奏者(プレイヤー)によって如実に変わるジャズだが、それはびっくりするほど自由奔放で危なっかしさを感じさせるものだった。しかし、どことなく優しさや繊細さが織り込まれたものだった。


(素人ですね。でも、荒削り、というわけでなく⋯⋯。かなり運指が細やかなのでしょう。)

ゼルは音痴のくせに立派な評論をしてみせた。


やがて演奏が終わると拍手が湧いた。どうやら、プロの演奏家ではなく、客の一人が即興で弾いたようだった。即興にしては高いレベルの演奏にゼルが興味を引かれたらしく、スフィア人の義眼()にハッキングをかけてご当人を覗き見ようと試みたようだ。その映像は当然、凜の中にも流れ込んでくる。

(ゼル、お行儀が悪いよ。)

そう言いながらも凜はその映像に注意を凝らした。

(まさか、ハワード卿!?)

思わず凜は声を出しそうになった。ハワードが大勢の取り巻きを連れて、バーの一番広い、ピアノのあるブースで飲んでいたのである。そのピアノの前に座っていたのが、背の低い小柄な男であった。おそらく160cmほどだろう。 その男も上機嫌にピアノを再び奏でだす。やや出っ歯気味で愛嬌のある顔つきであった。


(なんだ、期待したのに、全然イケメンじゃなかったです。)

ゼルは落胆したようだった。しかし、ふとその男と目が合う。もちろん、凜も同じ感覚を感じたのだが、驚いたのはハッキングしているゼルにきがついたようなそぶりを見せたからだ。突然、演奏を中断する。


「どうした、キッド。」

ハワードの問いに、

「ちょっとご挨拶に。」

そう言って立ち上がると、ハッキング先の視界から消えた。


「こんばんは。お嬢さん方。」

なんと、その男が凜たちのいるボックスへやって来たのである。

「どちら様ですか?」

ジェシカが問うと男は屈託の無い笑顔を浮かべた。

「俺はウイリアム・ボニー、みんなはキッドって呼んでる。通りすがりのピアニストさ。ねえ子猫ちゃんたち、さっきの俺の演奏、聞いてくれた?」


「ああ、先ほどのか。……大したものだな。」

グレイスは素直に褒める。

「どう、これから俺と一杯?」

一同、男の言葉に耳を疑った。天下の女傑、グレイス・トワイライト・レイノルズを『ナンパ』する猛者が現れたことに。彼女を知らない人間はこの惑星(ほし)ではごく少数派にすぎない。

「申し出は結構なことだが、あいにくと、ナンパなら間に合っている。今日は『女子会』でな。そういう集いでは無いのだ。すまんな。」

グレイスはそう断った。

「でも男もいるじゃん?」

男は凜を見咎めるように言う。グレイスは苦笑する。


「ああ、なるほど。彼は特別ゲストなのだよ。それにこの三人は明日の王太子殿下の御前試合で『犬追物フォックス・ハント』に出る予定でな。あまり夜更かしさせるわけにはいかないのだ。」

その言葉に男は目を輝かせた。

「あ、それ、明日俺も出場するんだよね。ねえ、もし俺が君たちより高い点を出したら、俺とデートしてよ。」


その時点で、ボックスへの闖入を確認したホテルの警備担当者がそこに駆け付ける。

「お客さま、お席をお間違えではありませんか?」

警備員の問いに、男は悪びれた様子もなく、

「いや、たった今デートの約束を取り付けていたところでね。……大丈夫。酔っているわけじゃない。一人で戻れるさ。」

そういって、立ち去り際、グレイスの心臓にむけて左手をピストルに摸して撃つ仕草をすると、

「約束だよ、僕のハニーたち。」

ウインクをして帰っていった。


「なんだ今のチャラいのは?」

グレイスが凜に尋ねる。

「ええ。ウィリアム・ボニー。……で、キッドといえば……。」

凜がため息交じりに言う。


「ビリー・ザ・キッド。有名な無法者(アウトロー)で凄腕のガンスリンガーです。地球時代のね。」

ゼルが答える。ちなみにガンスリンガーとはガンマンのことである。

3人は情報を検索すると顔を見合わせた。彼の画像は本物が残されているのだ。本来なら手の込んだ偽名だと一笑に付すのだろうが、これまでの経緯を考えると冗談ですますわけにはいかない。


「するとやはり、執政官だけでなくハワード卿も一枚噛んでいた、ということで間違いはないようだな。」

グレイスは話題を最初のものに戻した。ジェシカも声のトーンを落とす。

「いったい、目論見はなんでしょうか?」


凜が宿舎のホテルに戻るとマーリンが意外そうな顔で出迎えた。

「あれ、リックとトムは一緒じゃなかったのですか?」

二人は同行していないことを凜が告げると、まだ宿舎に戻っていないというのだ。凜はゼルに頼んだ。

「そろそろ夜遊びを覚える年ごろではあるが、『ほどほど』をわきまえるのも大事だ。ゼル、ちょっと見に行っておいてくれ。」

「了解です。⋯⋯やれやれ、あまり見苦しいことになっていなければよいのですが。」

ゼルがリックに同調(シンクロ)するとそこは「異様な」様相であった。


エルフ族の遊女たちが艶やかに舞を舞い、酒を注ぐ。その光景は肉感を掻き立てると言うより、凛とした趣があり、優雅とか風雅などという表現が似つかわしくさえあった。

(いったい、なんだろう。)

ゼルはこの湧き上がる気持ちをなんと表現すべきか迷っていた。それは、ゼルが凜にインストールされ、「生まれ変わった」時に感じた、凜の精神的な底流を流れるものとの共通性を感じたのだ。それは、真の円卓を構成するアーサーと十人の騎士たちの精神性との共通性であった。


(騎士道文化とは根本的に違う、「懐かしい」ものだ。)

ゼルが我に帰ると、彼女の足元にはすっかり酔いつぶれたトムとへべれけになりながらも遊女の舞いを見つめるリックがいた。


そして、あの『前田慶次』が三味線をかき鳴らして歌っていた。ただ、その音楽は「ビートルズ」であった。それに合わせて遊女たちが舞いを指す。


「苦しい時に聖母に縋ればお告げはただ『なすがままに』。

暗い夜道で光を乞えば、『ただ進むがいいさ、あるがままに』。

『なすがままに、あるがままに』

それが答えさ、最高の。」


「心傷つき泣きたい時も『ただ泣きなさい、なすがままに』。

友と別れ寂しすぎる時も『また会えるさ、きっと。』

『なすがままに、あるがままに』

陽はまた登る、明日へ。」


(『レットイットビー』⋯⋯ですか。)

がっしりとした体躯に合わない甘い歌声に思わずゼルは聞き入っていた。


「ほう、「(リック)」殿、「(トム)」殿、どうやら迎えが参られたようだぞ。」

ゼルが姿を顕してもいないうちに気がついたのだ。ゼルはゆっくりと姿を顕した。

「今日は二人が饗応(もてなし)を受けていたようですね。感謝申し上げます。前田慶次郎様。私はアザゼル、この二人の監督者である棗凜太朗=トリスタンの伴侶たるものです。」

ゼルが慇懃に頭を下げると「ケイジ」は屈託なく笑った。

「おお、そなたが(リック)のお師匠であったか。俺のことは『ケイジ』でよい。それにしても、この国は良いのう。平和で、しかも武芸者が退屈しなくても済む国じゃ。王以外に貴賎の区分けもなく、人は互いに睦みおうて生きておる。ただ、この国で(ささ)を呑むのは二十歳になってからだそうだな。いささか遅うはないか?」


ケイジの問いにゼルは苦笑いしつつも

「はい、医術も進み、人は『人生五十年』と謡われた時の倍以上の年月を生きるようになりました。子どもが子どもらしくしていられるのは平和と豊かさの証しだと思います。ところでケイジさんは、この世界(うきよ)で何をなさりたいのですか?」

そう問い返した。ケイジはしばらく考えてから、

「そうじゃな。まずは、一宿一飯の恩義を返さねばならんのでな。その『根比べ』とやらでな。その先は、まだ決めてはおらぬ。」


ゼルはもう一度礼を述べてから二人を引き取った。リックに憑依(ポゼッセオ)してトムを背負う。そして、そのまま召喚陣(ゲート)を開くとすぐに宿舎にたどり着いた。

トムをベッドに横たえ、ゼルがリックから抜けると彼はすでに酔いつぶれていた。

「呆れてものも言えません。明朝、もし自分たちがどうやって帰って来れたのか覚えていなかったら大目玉を食らわさねばなりません。」


[星暦1554年5月4日:公都シャーウッド]


翌日の「犬追物(フォックス・ハント)」にアンとマーリンを除いた旅団の面々でエントリーしていたのである。

四年前はたった一人でエントリーしたため、強さは目立ったが、かなり恥ずかしかったため、凜はホッとしていた。


馬場に入ると、対戦相手はハワードのチームであった。メグを見かけるとジュニアが寄って来る。

「やあ、メグ。やはり君の姿はいつ見ても、何を着ても美しいね。この犬追物(フォックス・ハント)での僕の活躍を見ればきっと惚れ直すと思うよ。」

(惚れ直すも何も、一度たりとも惚れた覚えが無いのだが。)

メグが返答に困っていると、そこに「ビリー」がしゃしゃりでて来たのだ。


「やあ、子猫ちゃんたち、僕が勝ったらデートの約束、忘れないでね?」

「断る。」

間髪を入れずメグが断りを入れる。

「あなたが生まれ育った時代はどうか知らぬが、ここは騎士の国だ。デートの申し出を受けるか否かは女性が決める。それを尊重してこそ、男子は婦人からの尊敬と信頼を得られるのだ。」


「ふーん、逃げるんだ?」

ビリーの顔が険しさを増した。これは好きになれぬな、メグはそう思う。やはり、生まれ変わっても無法者(アウトロー)無法者(アウトロー)なのかもしれない。

ビリー・ザ・キッドは言い伝えでは二十人の人間を殺し、その中には原住民族(ネイティブ)やメキシコ人の数は含まれていないのである。

「キミたちだって騎士でしょ? 人殺しが大好き、という点ではぼくと共通点が多いと思うんだけどなあ。」


「それは⋯⋯。」

メグが腹に据えかねて反論しようとした時、凜がそれを制した。

「メグ、そろそろ時間だ。」

(メグ、あれは彼の揺さぶりだ。追跡矢(チェイサー)は精神的な状態が命中率に影響を与える。)

凜がプライベートラインでメグに言い聞かせた。メグは身体から余分な力が抜けたようで、照れたような笑顔を見せた。


試合が始まると的をつけたドローンが投入される。

「ヒーハー!」

ライフル銃を持ったビリーが馬を躍らせた。正確な射撃で次々にポイントを挙げる。

ジュニアのチームは十人で、七人でドローンを追い込み、ジュニアとルークが射込む、というものだった。ビリーはもはや制御不能で、自分一人で「狩り」を楽しんでいた。


凜たちはリックとトムとロゼ、そしてリーナが獲物(ドローン)を追い込み、メグが射込むチーム、そしてひたすら凜が射込み、ジェシカが凜の護衛に着く、という2チームだった。さすがにクリスは重すぎて馬には乗れないため、リーナが自ら手綱を握る。牧畜に従事する人が多い国の出身であるため、リーナも乗馬は達者である。


出だしこそ互角だったが、前回は自分を守りつつ矢を射ていた凜は、矢の制御に集中できるため、一気にジュニアのチームとのポイントの差を広げていく。観客は大歓声を上げるが、それは活躍する凜に対してでもビリーに対してでもなく、メグに対するものだった。


ポイント表示する掲示板(ビジョン)を見て、ビリーは舌打ちをする。ビリーは凜に向けて発砲したのだ。ジェシカがバリアを張って防御する。

水平より上に撃つのはルール違反のため、ジェシカはビリーを睨みつける。しかし、ビリーはウインクすると、

「ごめんね。誤射だよ誤射。ちょっと手が滑っただけさ。」

そう悪びれずに度々「誤射」を続けた。

「『一発だけなら誤射かもしれない』というフェイクニュースで有名な新聞が地球にもありましたが、これは明らかに攻撃です。」

ゼルも怒り出し、ジェシカの表情にも徐々に怒りの色が射す。


(ジェシカさん、気にしないで。これくらいは予測の範囲内だから。)

さすがに、凜も全く影響を受けない、というわけではなかった。それほどに彼の射撃は正確だったのである。


(ジェシカさんに護衛を頼んでおいて正解でしたね。)

ゼルは頼もしそうな目でジェシカを見つめる。ジェシカもこともなげに凜を守っているが、「護衛」担当の秘書だったため、そのスキルは一流なのだ。


 試合は1ポイントの差でハワードのチームが勝利した。しかし、ビリーの反則による減点で優勝は凜のチームのものとなったのだ。

「なぜだ?」

ビリーもジュニアも激昂する。

「父上! いくらあちらにメグ姫がいるからと言って、この依怙贔屓はあんまりです。王太子殿下に申し上げてください。」

ジュニアの抗議にも流石の親バカのハワードも首を振る。

「良い。ビリーのやつにルールに従わなければ勝利は剥奪される、ということを身をもって学んでもらったのだ。『本番』で同じ轍を踏まぬよう、お前からもいい聞かせよ。」


表彰の後、ビリーがつかつかと近づいて来る。

「貴様、覚えておけ! 俺は手加減をしてやったんだからな。」

まるで噛みつきそうなビリーの表情に凜は澄まして左手を差し出した。

ビリーは思わず握手をする。凜はニコッと笑ってから言った。

「知っているよ。君の利き腕がこっちだということもね。」

ビリーが右手で銃を扱っていたことが「手加減」に当たること言い当てられ、彼は少し驚いた表情を見せた。

「なぜ、それを知っている?」

「さあね。次は本気で来るのでしょ?」

凜はそういうと立ち去った。ビリー・ザ・キッドの「左利き」説も真偽は定かではないのだ。やはり、「造られた」英雄なのかもしれない。凜は結論がそちらに傾いていくのを感じていた。







最後の英雄は「銃」の達人、ビリー・ザ・キッドでした。⋯⋯バレバレでしたが。次回「第91話:謎めきすぎる、貴公子。」は12/22投稿予定です。ルイがデオンの騎士として再び現れます。「メイフェア編」の最後です。その次話から一次予選の熱闘がはじまりやす。お楽しみに。

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