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ティル・ナ・ノーグの最強騎士〜「生ける理不尽」と呼ばれる少年が挑む理不尽なミッション  作者: 風庭悠
第8部:「ネコ耳家族は意外に浪花節っ」―鉄拳×レース編―
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第75話:戦隊すぎる、復帰戦。

爽やかな秋晴れというより残暑厳しいです。今日の敵は「五人揃ってー◯◯ジャー」です。さらっと凜の新兵器も登場。

[星暦1551年9月17日。惑星スフィア。フェニキア植民都市エウロペ。宇宙港。予選第5戦。]


第5戦である。(ミーン・マシン)は第1戦目で勝利しているため、ポイントは必要ないし、付与もされない。だから、大抵一度予選を優勝すれば本戦(ファイナル)まで出場せずに、他の星系のレースへ行くのが普通だ。もちろん、賞金だけは順位に応じて支払われる。


ただ、「(ミーンマシン)」の場合、彼らはルーキーである。よって、場数を踏むことが必要であった。また、上位のカテゴリレースに挑むことが目的ではないため、他の星系のレースにまで手を広げる必要はない。


レース当日、ロゼはジェシカと共に宇宙港にあるホテルで朝食を摂っていた。レース関係者の宿舎であるが、ピットクルーよりも一つ高級なホテルである。朝食はブッフェ形式で、取材陣の立ち入りも許可されていた。

「ジェシカ、あなたのレース参戦は意外でした。修道院(ヴァルキュリア)を出た後、パイロットとしてのオファーは多かったでしょうに、なぜジェノスタイン家に、お兄さんの元おられたチームを選ばれたのでしょうか?」


記者にそう尋ねられたジェシカは、不思議そうな表情を浮かべた。

「ええ、ただ単に兄からの依頼ですわ。ただそれだけです。フェニキア人にとって、家族の絆は最も大切なものですから。」


ジェシカの横顔をロゼは見ていた。

「なあ、ショーン兄やんはジェシカになんて頼みはったん?」

記者の取材を済ませたジェシカにロゼは尋ねた。

「『こいとさんのこと、宜しゅうたのむわ。俺と姉さん(ロゼの母エマ)に代わって、見守ってやって欲しいんや。旦那さんから、そう頼まれたんや。』そう、言っておりましたわ。」


「『旦那さん』て、あん人のことかいな?」

ロゼは意外そうな顔をする。ジェシカがロゼの教育係になったのは、ずっとエマの意向だと思っていたからだ。

「エマ様は関係ありませんわ。だって、旦那様とはもう離縁された方ですから。たとえそれがエマ様がお望みになったことだとしても旦那様にはそれを拒否する権利がおありです。お分りでしょう。ロゼ『様』は旦那様が唯一愛しておられた方とのお子様なんです。決してあなたのことを疎かにはなさったりはされませんわ。」

「⋯⋯ウチにはわからん。」

ロゼはそれだけ言って立ち上がった。


ロゼがピットに入ると、すでに凜とヴァプラ、そしてサミジーナが「(ミーンマシン)」の最終調整に入っていた。

「おはようさん。大福こうて来たで。みんなで食べてや。」


ロゼは明るく挨拶を交わす。

「こいとさん、毎度おおきに。実は今日は旦那様からみんなにと、差し入れがぎょうさん来てます。ほんまおおきに。」

「へえ。」

ロゼはピットの一角に積まれたおやつの山を目の前に、ひたすらお菓子を頬張るマーリンに近づいた。

「マーリン、おはようさん。」

ロゼが背中を張るとパン、という景気の良い音がする。マーリンは驚いて背中をピクリと震わせた。

「もう、ロゼ、驚かさないでくださいよ。おはようございます。今日も頑張りましょうね。」


「しっかしオトンも奮発しよったなあ。⋯⋯ものぐさせんと、顔ぐらい出したら良いのに。」

ロゼがそう言ってノビをする。

「ロゼ、きっとお父さんは『ものぐさ』ではなく、『遠慮』してここには顔を出さないのだと思いますよ。」

マーリンがふと言った。

「なんで? オーナー様なのに? 誰に遠慮すんのん?」

ロゼの言葉にマーリンはウインクしてから言った。

「ロゼ、あなたに、ですよ。だって、ここはあなたの居場所ですから。あなたに余計な気を使わせたくないんだと思いますよ。それにここはかつてあなたのお父さんとお母さんの『二人』の特別な場所だったから。」


ロゼは、誰もいなくなったプライベートピットで一人ポツンと「(ミーンマシン)」 の前にポツンと佇んでいた父の姿を思い出していた。

「そんな、もんやろか。」


第5戦がスタートした。コースパターンは『モンテカルロ』。もっとも難しいコースパターンの一つと言われる。しかし、人気も高いコースだ。しかし、新エンジンに載せ替えたばかりの機体の操縦にサミジーナは苦戦していた。

「コーナリングがキツイ。思ったように曲がらない。」

しかし、厳しい角度のコーナーが続くコースではそれが如実に影響する。レース前半は20台中の7位であった。


「どうだ、サミー。乗り味は?」

ピットインの時にサミジーナが違和感を訴えると、ヴァプラは機体の調整を施す。思いの外、パワーが出ていたようだ。ヴァプラはサミジーナを叱咤する。

「サミー、足回りのセッティングってやつは、パワーとのバランスで変わっていく。エンジンが替わったんだ。お前の思い通りにコーナリングができないのは、当然なんだ。」

その時、ピットに敵襲のサイレンが鳴り響いた。


「行くよ、二人とも。」

凜が「天衣無縫(ドレッドノート)」、そしてジェシカが「美慈麗久(オルトリンデ)」を取り、ピットの外へ出る。ロゼも続いた。襲撃してきたのは「蟻塚団(アントヒル・モブ)」のパイロット5人衆であった。彼らはピットが設営された岩石衛星の崖の上に横並びに立っていた。彼らは5色のパイロットスーツに身を固め、首にはお揃いの白いスカーフ、そしてフルフェイスのヘルメット⋯⋯いや、マスクである。


「オラなんだかワクワクしてきたぞ⋯⋯です。」

ゼルが期待に眼を輝かせる。

「オラなんだかザワザワして来たぞ⋯⋯ですけど。」

凜は嫌な予感に顔をしかめる。


撮影用ドローンが駆けつけると、彼らの自己紹介が始まった。

「ダムダム・レッド!」

彼は鞭を抜くと華麗なジャンプで飛び降りる。そしてポーズを取る。

「ポケッツ・ブルー!」

彼は弓をぬくとジャンプで飛び降りるとやはり、ポーズを決めた。

「ジッピー・イエロー!」

彼は拳闘用の重力グローブで、やはりポーズを決める。

「ソフトリー・ピンク!」

彼女はピンクの銃を構えた。

「ヤックヤック・グリーン!」

彼女は細身のサーベルを取り出す。その柄にはハートの形のグリップがつけられていた。


「5人揃って、ゴメンジャー!」

全員が飛び降りると5人でポーズを決めると、彼らの後ろで花火が5色の煙を噴射した。


「うわあ⋯⋯またずいぶんと濃いのが出て来たよ。」

ゲンナリする凜を横目にゼルの目が輝く。

「やりますね。いいですね、私たちもこれをやりましょう。」

「え!?」

ゼルは不意をついて凜の身体を乗っ取った。

(くそ、憑依(ポゼッセオ)の腕が上がってやがる。)

「凜・イーグル!」

ゼルは凜の両腕をあげさせ、さらに片足もあげてワシのポーズを取らせた。

(やばい、『東A』から苦情がくるぞ。)

「ロゼ・シャーク!」

ロゼも乗っかってくる。ロゼは左足を軸にT字に身体を曲げると片腕をピンと伸ばし、サメのポーズを取る。もう一方の手は腰のところに添え、ヒレを表す芸の細かさだ。

「⋯⋯ジェシカ・パンサー!」

ジェシカも仕方なくそれにのり、両手を前に出してネコ科の猛獣の爪を表現した。もちろん、ネコ耳は自前である。

「三人揃って、サン・ワリカン!」

(なんだよゼル、ワリカンて⋯⋯。たまには奢ってやれよ⋯⋯。と言うか、まさかこの歳になって『戦隊モノ』ごっこをやる羽目になるとは。)

トホホな凜がもう一度、戦闘態勢に立て直す。すると、ダムダム・レッドがジェシカを指差した。


「貴様、ジェシカ・ビジョーソルトだな!? 積年の恨みを晴らしてくれる。」

(?⋯⋯正義の味方らしくないセリフだな。)

凜が呆れてジェシカを見ると、彼女も首を傾げていた。

「申し訳ないが、どこかでお会いしましたか?」

ジェシカには記憶が無いようであった。


「なんだと? 貴様、ブレイク・ショットの『海賊狩り』のことを忘れたとは言わさんぞ!」

ポケッツ・ブルーに言われ、ようやく思い出したようだ。

「そうか、あの時、捕らえた海賊の中にあなた方がいた⋯⋯のだな?」

かなり曖昧なようだ。それもそのはずで、5回に渡る戦役で捕らえられた海賊の総数は万を超える。いちいち顔など覚えてはいられないのだ。


逮捕された海賊たちの中には、収監された者もいるが、腕が立つ者たちの中にはこうしてパイロットになってレースで戦う者たちもいるのだ。これも一つの懲役刑の形態なのである。

「ここで会ったが100年目、覚悟しやがれ!」


「ジェシカさんとロゼは前衛で。僕は『空前絶後(フェイルノート)』でバックアップします。」

凜が指示を出す。

「行くぞ、ロゼ。」

了解(ラジャー)

あちらもブルーが弓のため、同じ陣形を取ることにしたのだ。


「レッド・ビュート!」

レッドが鞭を振り回し、ジェシカの槍を警戒する。鞭を槍に巻きつけようとするが、ジェシカもそれを許さない。

「ヤリビュート!」

鞭を槍に変換するが、ジェシカも天位持ちである。槍技ではジェシカが上である。


ロゼはイエローと拳を交える。これまではパイロットが単独のチームばかりで出番が無かったため、事実上のデビュー戦であった。

「阿蘇山パンチ」

イエローの拳は重い。イエローは身体も大きいため、重力コントロールのグローブでも、異質の重さが伝わってくる。

「くそ、何食うたらこないになんねん!?」

ロゼは渾身のキックを受け流され、肩で息をする。

「カレーライスじゃあ!」

イエローは嬉しそうに答えた。


ブルーはジェシカやロゼを狙って矢を放つが、凜の矢にことごとく撃ち落とされる。

「これが噂の『空前絶後(フェイルノート)』か⋯⋯。」

射手の世界では伝説の逸物を見てブルーは唸る。


「ピンク、援護だ!」

ブルーに促されてピンクが手榴弾のピンを外した。

「良いわね? 行くわよ!」

そういってジェシカの背後をめがけて投擲する。しかし、放物線を描いたそれを、凜の矢が射抜いた。

「グリーン!」

「了解、グリーメラン!」

グリーンはブーメランを投げる。しかしそれも凜に射落とされる。

ブルーは今度は連射を始めた。

「ブルーチェリー、連続撃ち!」

しかし、矢は座標を決めるか的を追うかなので凜の矢の束の餌食にしかならなかった。


完全に戦局は膠着し、残り時間が1分を切る。

「ピンク! ゴメンジャー・ストームだ!」

ついにレッドが必殺技の発動を命じる。

ピンクがラグビーボール状の爆弾を蹴り出す。

「ゴメンジャー・ストーム・キーーーック!」

イエローがそれを受け、グリーンに蹴る。

「ブルー!」

グリーンはブルーに蹴る。

「レッド、トドメだ!」

ブルーはレッドに蹴り出す。


レッドが凜たちを見ると、凜が二人を後ろに下げ、自分が前に出ている。そしてその手には大砲のようなものが握られていた。

「フィニッシュ!」

そう叫んで凜たちに向けて蹴り出した瞬間、それは彼の足元で爆発したのだ。


「なぜだ?」

パイロットスーツの全機能が停止したレッドが倒れた。

凜の手元で銃口からプラズマ状の光がパチパチと音を立てていた。


「マーリン卿。なんだ、今のは? 私は初めて見たのだが?」

ピットに詰めていたメグがマーリンに尋ねた。

「ええ、私も見たのはずいぶんと久しぶりですよ。あれが⋯⋯。」


その数十秒前

「『天下無敵(ジャガーノート)』を発動してください。」

「ええ、こんなところで?」

ゼルの要請に凜が苦笑する。

「 それ、僕の『対艦兵器』ですけど。『対人』で使ったら人倫にもとらない? それに、こう言う切り札は物語の終盤あたりまでは取っておかないと。」


ゼルは首を振る。

「もちろん、最大規模ではありません。最小規模です。たまには虫干しもしないといけません。それにあちらの技、かなり大技なので。」

虫干しと言われ、凜もやや気を悪くする。

「人の兵器を『客用布団』呼ばわりしないでくれ。で、あちらさんの必殺技どのくらい強力なの。」

「『ビックリドッキリメカ』程度は。」

「そりゃ、大変だ。」


凜は両手に『天衣無縫(ドレッドノート)』と『空前絶後(フェイルノート)』を構える。

「では、僭越ながらこの私が召喚(コール)致します。」

ゼルが召喚を始める。

「I have a 天衣無縫(ドレッドノート)。I have a 空前絶後(フェイルノート)。nmm 、天下無敵(ジャガーノート)。」

二つを合わせると巨大な銃が現れる。口径は100mmはあるだろう。バズーカ砲にも見える。その赤と黒で塗られた砲身は金で装飾が施されており、まるで手の込んだ天体望遠鏡のようにもみえるだろう。これが凜の持つ最強兵器、「天下無敵(ジャガーノート)」である。


新エクスカリバーと同じ転移砲だが、こちらは恒星の極一部を砲身に転移させて発射する、というとんでもない代物で望遠鏡に似た見た目から「占星術者(スターゲイザー)」とも呼ばれている。莫大なエネルギーを必要とする核融合炉を使わず、恒星の一部を空間ごと砲身に転移させる、という転移兵器である。無尽蔵に高エネルギービームを撃ち放題、というもので転移させる物質量で艦隊ごと消滅も可能だ。かの「一年戦争」の最強兵器「ソーラー・レイ」がお手軽に撃ててしまうのである。

当初、惑星防御砲の方式の候補にもあげられていたが、余りのチートっぷりに悪用を恐れてお流れになったという経緯がある。


ただ、有害な宇宙線も併せて排出するので、滅多なところでは使えないという欠点がある。「最小威力」であるにもかかわらず5人まとめてノックアウトしてしまった。

「やや盛り上がりにかける初登場だな。」

凜がぼやいた。


「蟻塚団」を撃破した「魁」は1周のアドバンテージを得て、一気に5位に躍り出た。


トップ争いはパゴットの「紅空団(クリムゾン・へーベラー)」とハートマンの「鬼軍曹(アーミー・サープラス・スペシャル)」に絞られた。

「紅空団」が華麗なコーナーワークからの立ち上がりで「鬼軍曹」を交わす。すかさず、「鬼軍曹」の両肩についた主砲が火を噴いた。それを華麗に避ける。

「×(バツ)ーウイングなんざブタの餌だ!」

ハートマンが吼える。

「うるせ〜な。後ろからパンパンパンと。」

レッド・マックスも負けてはいない。


「『鬼軍曹』⋯⋯どこかで見たデザインなんですよね。」

マーリンはモニターを見ながら頭を捻る。無限軌道の上にロボットの上半身が乗り、さらに両肩に二門の主砲を置き、両手には機銃がついているのだ。

「ガン・タ○クだよねえ。あれ。」

「おお、それです、それです。」

マーリンは腑に落ちたといった顔をする。


戦局は最後までもつれる。最後のカーブで2機のラインがクロスし、膨らみ過ぎた「鬼軍曹」は上半身が後ろ向きになってしまう。

「この勝負、もらった!」

再び、並んだ「紅空団」と「鬼軍曹」。

「そうは行くかーーー。」

最後の直線で「鬼軍曹」が後ろに向かって砲弾を放つ。なんと、その反動で「紅空団」の前に出る。そして、そこがゴールであった。

(ミーンマシン)」は何とか7位に入り、復帰戦を無事に終えることが出来た。


ジェシカは表彰式から戻るハートマンとすれ違った。

「おめでとうございます。ハートマン曹長。」

ジェシカが敬礼と共に祝福する。

「ありがとう、ビジョーソルト。次は本戦(ファイナル)で会おう。」


「ところで、曹長はなぜ、レースの世界に飛び込まれたのですか?」

ジェシカがふと尋ねるとハートマンは大声で笑った。

「いや、恥ずかしい話だがな、ワシが除隊して家に戻ってみたら、妻も子供たちもどこにもいなかったのだよ。

ワシのような乱暴者は家にいなかったからこそ我慢できたが、ワシがずっと家にいる人生など御免蒙る、ということらしい。しかも、除隊の時にいただいた金もそっくりなくなっておってな。⋯⋯人生とはまさに戦場だな。どこまでいっても理不尽なことだらけだ。」

そう言って去っていった。その背中は死に場所を探しているようにも、生き場所を求めているようにも見えた。


ゼルが恒例のマトレーの格好で言った。

「旦那さん、奥様との接し方には気をつけましょうね。女は忘れない生き物ですから。ひーーしっししししししししししししし。」





次回、「第76話:頑丈すぎる、愛弟子。」は9/15投稿予定。ロゼが挑む相手とは。

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