第74話:苛烈すぎる、才女。
今日は猫耳秘書OL、ジェシカさんの「猫夜叉」エピソード。
[星暦1551年9月10日。惑星スフィア。フェニキア植民都市エウロペ]
第5戦は魁にとっては『復帰戦』という意味合いがある。
予選前の前夜祭には多くのファンも詰め掛けていた。「魁」はすでに本戦への出場を決めているため、本来、これらの予選の出場は免除されている。それで、ファンサービス的な行事に、まだ本戦出場を決めていないチームより、積極的に参加することが求められているのである。今回は「魁」に載せられた初の「スフィア製」レースエンジンの登場も話題を呼んでいた。
秘書課のジェシカは本来は裏方に回ることが多かったのだが、凜と共にパイロットを務める身でもあるため、表舞台に駆り出されていた。とは言え、いつもの秘書としての癖が抜けないのか、パーティ会場では飲み物の給仕を手伝っていた。
前夜祭もたけなわになるころ、突然、男たちが言い争う声が会場で聞こえる。
「また、貴様か?いい加減にしやがれ!」
「相変わらず威勢だけは良いようだな。拳で語るのはレースの時だけにしやがれ。」
「紅空団」のドライバー、レッド・マックスと「鬼軍曹」のパイロット、サージ・ハートマンが睨みあっていたのだ。
「なんだと、この豚野郎!」
ハートマンは激情する。彼はレッド・マックスの胸ぐらに掴みかかった。
「すまんな。この顔は作り物だ。ただ、本当の顔は二枚目なのさ、お前さんよりずっとね。」
レッド・マックスは顔が豚なのである。
「わあ、リアル『ポルコ・◻︎ッソ』やん。」
「ロゼお嬢様、『伏せ字』はきちんとしたものをお使いください。」
思わず声をあげたロゼをジェシカはたしなめる。
「やかましい。ケツの穴から鉄棒ぶっこんで丸焼きにしてやろうか、このイベリコ野郎め。」
ハートマンがレッドにつかみかかる。
「ちゃんと、鉄棒にはクランクをつけないとまんべんなく焼けないぞ、脳筋くん。それに、軍における階級は私の方が上だったのだがね。退役曹長。」
退役少佐であるレッドに階級のことをつっこまれると、さらにハートマンは激怒する。
「やかましい。お互い除隊してるんだし、軍だって違う。上官風ふかしんてんじゃねえよ。くそ脂身野郎が。ウオッカでフランベにしてやろうか。」
ハートマンの矢継ぎ早にだされる悪口にレッドもやや呆れ顔である。
「フランベするならブランデーにしておきな。ウオッカじゃアルコール度数が高すぎて焦げつくだけだし、香りづけにもイマイチだ。」
「まーた、始まったのかよ。」
「防弾爆弾」に搭乗する「蟻塚団」のキャプテン、クライドが呟く。
「あのお二人、仲がお悪いのでしょうね?」
マーリンが尋ねる。
「まあな。二人とも軍人上がりでな、レッドは空軍の飛行機乗り、ハートマンは陸軍で前線勤務の後、陸軍士官学校で教官をやっていたのさ。」
「お二人の間に何か、あったんたのですか?」
クライドは両手を広げて首をすくめてみせた。
「なあに、同じ酒場の女に入れ揚げただけだろ? 面を付き合わす度にあれだ。正直、最近じゃあみんな慣れっこになっていてね。今やただの風物詩だよ。放っておけ。」
そこにつかつかと女性が近づいてきた。
「お二人とも、おやめください。パーティーの雰囲気が台無しです。ファイティングスピリットは明日のレースから、コース上で正々堂々とお願いいたします。」
見兼ねたジェシカが二人の仲裁に入ったのだ。
「女はすっこんでろ!」
ハートマンは凄んでジェシカを払いのけようとするが、その手首をジェシカに掴まれる。意外に強いジェシカの握力にハートマンはジェシカに改めて顔を向けた。
「なんだと?……お前……、ビジョーソルトか?」
名前を呟くとレッドを掴んだ手を離した。ジェシカも手を離す。
「そうか、確かお前は専科にではなく、騎士団に行っていたのだったな。」
「はい、お久しぶりです。教官。」
ジェシカは敬礼する。レッドは、ハートマンがジェシカに攻撃の矛先を変えやしないかと思ってハラハラしていたが、彼が素直にそれを収めたので意外そうな顔をした。
「元⋯⋯だがな。」
ハートマンは呟く。
「なあに、お嬢さん。ちょっとしたいつものデモンストレーションですよ。しかしお嬢さん。まさかこんなところでお会いするとは、『ブレイク・ショット』戦役以来ですね。⋯⋯『猫夜叉』さん。私を覚えていますか?」
そう言ってレッドは乱れた襟元を直す。
「こちらこそ、お久しぶりです。マクシミリアン大尉。」
ジェシカはレッド・マックスにも敬礼した。
「お二方ともご健勝で何よりです。」
「ふん。ここはビジョーソルトに免じて許してやらあ。」
ハートマンはジェシカの顔を立ててその場を離れた。
「ジェシカさんはお二人ともお知り合いなのですか?」
戻ってきたジェシカに凜が尋ねる。
「ええ、ハートマン曹長は私の陸士時代の『恩師』にあたります。」
「へえ、ジェシカさん、陸軍士官学校におられたのですか?」
マーリンも尋ねた。
「ええ、ただ専科に上がる代わりにヴァルキュリアに入ったのです。」
「その、なぜ騎士団へ?」
凜が不思議そうに尋ねる。
「私は軍には肌が合わなかったのでね。」
ジェシカはそれ以上、自分のことを語りたくない様子であった。
[星暦1551年9月11日。惑星スフィア。フェニキア植民都市エウロペ。宇宙港。]
「ジェシカさんについては団長先生から聞き及んでいる。」
予選を見ながら、昨日のことについて話していると、メグが言い出した。
「ただ、団長先生を経由したジェシカさんの視点からの一方的な話でよければ、だが。」
ジェシカが陸軍士官学校に入ったのは、一に学費がかからない、というところにあった。当時はまだ駆け出しレーサーであった兄に経済的な負担をかけたくなかったのである。フェニキア軍は各星系ごとに基礎過程を学び、「専科」と呼ばれる専門課程教育を首都星などで受けるシステムだ。エウロパの士官学校もご他聞にもれず、座学ではない訓練課程は極めて過酷なものであった。
そして、ジェシカの所属したチームの教官がハートマン軍曹だったのである。彼は砲兵として、二等兵から叩きあげたまさに古強者であった。ただ、彼の指導法はとにかく罵声を浴びせ続ける、というもので、評価は分かれていた。
「お前らはクソだ。馬のケツからひりだされたクソだ。よく覚えておけ。」
初対面で、いきなりこう言われて面食らったことを覚えている。そして一挙手一投足、気に入らなければとにかく口汚く罵られる。そんなトレーニングにみな辟易していた。
「お前らはクソにたかる虫だ。このフンコロガシめ。マグソコガネめ。もっと足を蹴り上げろ! なんだその顔は!? これぐらいで音を上げてるようでは戦場では死ぬだけだ。なんだ不満か?じゃあ、死ね! 今すぐ死ね!ただし、お前の死体は自分で運べ。転がったままでは迷惑千万だ!だったらゾンビになれ、なんだ泣いているのか? ゾンビだったら目からポロポロ蛆虫をタレ流せ。さあ、続けろ!苦しいだと?ゾンビなら、臓物なんか不要だ。ここで全部、ぶち撒けてしまえ。」
(昨日まではクソ、今日からは虫か⋯⋯。そして明日はゾンビと。この人はある意味ボキャブラリーが豊富なのだな。)
ジェシカはムカつきを通り越して感心していた。というよりカリキュラムがあまりにきついため、もはや怒るだけのエネルギーが残っていなかっただけとも言える。
彼の罵詈雑言はもはや名人芸と言ってもよかった。ジェシカも日替わりで「クソ虫」、「雌豚」、「生ゴミ」、「石ころ」など呼び方が変わり、その都度きつい言葉を浴びせ続けられたのだ。
しかし、あまりにきついしごきに、精神的に変調をきたすチームメイトもで始めた。そして、ついに自殺未遂者が出てしまった。未遂で幸いだったが、ハートマンの指導方針も態度も一切変わらなかった。
そして、ついにハートマンを殺そうとする者が現れたのだ。いや、正確には殺意はなかったと言える。夜の官舎裏で、外で飲んで気持ちよく帰って来たハートマンを二人掛かりで襲い、急所以外をナイフで何度も何度も刺したのだ。死んで楽をさせてやりたくないほどに彼を憎んでいたのである。
その襲撃現場を発見したのがジェシカで、彼女はその二人を力づくで止めたのである。
「何者だ?」
最初は、夜陰に紛れていたために、襲われている者も襲っている者の正体も気づかなかったのだが、気づいたいた時にジェシカは愕然とした。
「ダメだ、いけない。教官の理不尽さは戦場での理不尽さに耐えるための訓練の一環だ。これに耐えられなければ、戦場で生き残るのは不可能だ。」
なぜ、止めるという問いにジェシカは必死になって答えた。
ハートマンは命に別状はなかったが、刺された箇所が運動機能を著しく損なっていたため、教官として現場に復帰するのは不可能と診断され、名誉除隊を言い渡された。そして、彼を襲った二人は不名誉除隊の上、傷害犯として裁かれることになった。ただ、ハートマンの指導法が人権侵害にあたる、と認定されたため執行猶予付きの有罪判決が言い渡されたのだ。
指導方法が人権侵害である、という被告側の弁護人の主張に、ハートマンは自ら証言台に立って、こう言い放ったという。
「私の指導方針は間違ってなどおりません。戦場には理想など通用せんのです。そこは、理想の対極にある場所、『地獄』そのものなんです。罪の無い者が頭に銃弾を喰らい、いい奴が手足を失う。愛妻家であろうと子煩悩であろうと、だれもそんなことを省みちゃくれない。そんな世界なんです。人間性の否定そのものなんですよ。
ならば、そんな地獄に、なんの準備も覚悟もできていない若者を送り出せというのですか?そんなことを言う人間こそ、もっとも彼らの人間性を否定する者、つまり彼らの人権と将来を軽んじている卑しむべきやつらである、私はそう信じています。」
そして、その上で彼を襲った二人の若者への寛大な処置を請願したのだ。
彼の退任の日、ハートマンは敬礼して見送るジェシカに近づいて、彼女に礼を述べた。そして言った。
「ビジョーソルト、戦場にヒューマニズムを持ち込むのは極めて危険だ。むしろそこはポーカーのテーブルだと思え。はったりだろうがなんだろうが、相手を騙し切ったやつが勝つ、いや、生き残る。与えられた作戦『だけ』を遂行し、戦場から生きて帰ること、それだけがお前の勝利だ。国の勝利など考えるな。それを考えるのは将軍と参謀の責任だ。だからお前は生き残れ。⋯⋯何としてでもだ。それだけは忘れるな。⋯⋯では。」
ハートマンの餞別は彼の人生訓そのもののようであった。
(しかし、人の命を奪う覚悟と、戦争の道具になる、ということは違うのではないだろうか。生き残ると勝つことが違うように。)
この時、ジェシカの頭をよぎったのが、テレビニュースで見たヴァルキュリア女子修道騎士会の女性騎士たちの姿であった。確かに戦場は厳しい。そこに人道主義は存在しない。それは頭でわかっていても、人間性を尊重した戦いはできないものだろうか? 『天使』という兵器を身にまとい、1人であれば1個小隊、1個小隊なら1個大隊、1個中隊なら1個師団相当といわれる「騎士」。彼らに答えがあるのではないだろうか。
「ビジョーソルト。それは、ただの理想論だ。それも未熟さゆえのな。だが、挫折もまた経験のうちだ。軍へ行って出世しろ、そうすればお前の疑問の答えが見つかるだろう。」
ジェシカの担当教授は彼女の言葉を一蹴した。しかし、ジェシカの下した決断は「ヴァルキュリア女子修道騎士会」への「留学」であった。トップクラスの成績で、専科のどこへでも推薦してやろう、そう慰留されたが、彼女の意志は固かった。
「騎士とは軍隊以前の制度であり、統率された軍隊にかなうはずはない、そうここでは学びました。しかし、『天使』という突出した兵器の出現により、戦争の形態は再び変わりつつあります。力を持ちすぎた兵士、つまり騎士をどのように統率するのか、私の関心はそこにあります。」
彼女はヴァルキュリア女子修道騎士会の門をたたいた。そして、実技選考によって準天位相当の推薦を得た。彼女の最初の上司は「天位」に昇格したばかりのグレイスだった。ジェシカはグレイスに自分がヴァルキュリアを志した経緯を語り、自分の考えが浅薄なものであるかどうか尋ねた。グレイスはしばらく考えてからジェシカのほうは見ずに口を開いた。
「そうだな。理想を追い求めることを浅はかだと言えるのは、年長者の特権であろうな。そして、私はまだそう言えるほど老いてはいない。兵士が『道具』ではなく『人間』として戦える時代か⋯⋯。それには『戦争』そのものの定義を変える必要があるだろうな。自分個人の意思で戦争をしたい者はこの世に恐らくおらんのだろうて。そう言う点で、選挙大戦は戦争の代替としてはいい制度だと思うし、戦死判定制度もまた然りだ。これは『天使』をまとったことから可能になった手段だ。あなたはそれを研究してはどうだろうか?」
きっと頭から否定され、嗤われるだろうという予想を覆され、驚いた顔をしたジェシカをグレイスは優しい目で見つめ、言葉をつづけた。
「……私の場合は、問題なのはむしろ、民間人、特に女子供に対する攻撃や略奪だと思っている。どんなに禁止されても、どんなに取り締まろうと不逞の輩は後をたたぬ。とりあえず私は、そんな犯罪を撲滅したい。これも他の者に言わせれば『見果てぬ夢』を追うことらしい。だが、私はあきらめない。見果てぬ夢だろうが、追求する価値はあると信じている。
ジェシカ、あなたの理想も追求する価値は十分にあると私は信じている。理想を追求することを止めるということは人間性の否定に過ぎない。だから、あなたはその旗(理想)を誇りを持って振ればいい。」
彼女が一人の騎士として脚光を浴びたのがその翌年に起こった『ブレイク・ショット戦役』の時であった。
この物語が始まるきっかけになった天変地異である。恒星アポロンの重力影響圏内にある小惑星帯に彗星ヘンリエッタが突入、爆散したのだ。恒星系に対する影響は甚だしく、巻き起された磁気嵐や細かい破片が飛び散ったため、レーダーが効かない宇宙空間が増えたのだ。そして、そこを航行する宇宙貨物船を狙った海賊が横行しだす。
さらに銀河系内を荒しまわる悪名高い海賊団が噂を聞きつけ、次々に集結し始めたのだ。スフィア王国は治安対策のため、通商路防衛に携わる伝令使杖騎士団、宇宙港の管理・防衛を預かる衛門府、空戦に強いヴァルキュリア女子修道騎士会、医療機関である聖槍騎士団、災害救助のプロである不死鳥騎士団の正統十二騎士団の5騎士団の投入を決定した。そして、フェニキアとの共同作戦に打って出たのである。
ヴァルキュリア女子修道騎士会は派遣部隊の総隊長に副団長であるグレイス・トワイライト・レイノルズ天位を据えた。ジェシカも配下の戦闘部隊、月組の隊長として、またフェニキア人であることからフェニキア側との連絡将校として任務にあたった。
ジェシカは作戦宙域への出立前、グレイスに呼び止められた。
「ジェシカ、今回、私は総隊長として実戦に立つことは出来ぬ。今回、私はあなたに私の思いとともに戦ってもらいたい。」
ジェシカはグレイスの理想を思い起こしていた。ジェシカは敬礼する。
「はい。ではあなたも、私の思いとともに指揮をお執り願いたいものです。」
「ああ。」
その時、ジェシカと前線で一緒だったのがレッド・マックスことマクシミリアン・パゴット大尉であった。フェニキア宇宙軍の戦闘機とスフィアの天使は一対でチームを組んで海賊討伐にあたったのである。
初対面の時、ジェシカはマックスの顔を見て思わず声を上げてしまった。その顔は豚だったからである。
「おや、私の顔に何かついていますか? ああ、これですか? 実はナノマシン擬態なのですよ。」
絶句しているジェシカに、サングラスをとってウインクしてから、自分の顔をゆっくりと拭うとそこには端正な人間の男性の顔になっていた。
「今回は海賊退治ですからね。ホンモノの顔を覚えられて、あとで私や家族に復讐を企んだりする者がいるかもしれませんからね。こうやって擬態をしているのです。」
彼は手でもう一度顔をぬぐって豚の顔に戻した。
「ほら、もう先ほど見た私の顔など忘れてしまったでしょう? それくらい強烈なキャラクターの方が効果的なんですよ。そんなことより、あなたの耳こそ本物なんですかね? 可愛らしい『ネコミミ』のお嬢さん。」
ジェシカは少し拗ねたように答えた。
「私は生粋のカルタゴ人です。⋯⋯この耳は我らが民族の誇りですから。」
マックスの専用機は真っ赤に塗られた戦闘機である。それが「レッド」という彼の二つ名の所以であった。その機体の特徴は可変式の翼が戦闘時に4枚に分かれ、記号のバツのような形で固定される。フェニキアの巨大軍事企業であるインコム=プレイテック社という会社が製作しており、俗に「X-ウイング」と呼ばれていた。
マックスは愛機を撫でながら嘯いた。
「なあに、赤く塗ってツノをつければどんな飛行機でも立派な専用機さ。ただし、性能が三倍になる保証はないがね。まあ安心してくれ。何と言ってもパイロットとしての俺の腕前は並みのヤツらの三倍は確かだからな。」
それから2週間かけて合同訓練を施し、作戦遂行能力を高める。
フェニキアの輸送船団が宇宙港ハコダテを出発し、ワームホールゲートへと向かう。それが作戦の口火であった。積荷は惑星スフィアで採掘された鉄鉱石、しかもゴメル人によるアストラル化実験の影響を受けたもので俗に「オリハルコン」といわれる金属である。スフィアでしか採掘できないもののため、高値がつけられていた。というのも宇宙戦艦の鎧装に需要が高いのである。海賊対策のため、輸送船は大船団を組んでワープインしようとしていたのだが、海賊たちもそれに乗じて荷を奪い取ろうとしていたのだ。
これが、海賊退治のために5回ほど行われた作戦、後に言う「ブレイクショット戦役」である。
惑星とワープゲートの中間地点の小惑星の陰に潜んでいた海賊たちが一斉に船団に襲いかかる。しかし、船団に紛れていた軍が彼らに応戦した。機関部を破壊して貨物船がワープゲートに到着する前に足止めしたい海賊たちと、それを防ごうとする連合軍。輸送船に艤装した空母から戦闘機や天使兵器部隊が射出される。「X-ウイング」の翼の上に能天使が乗る、というのはかなりシュールな光景ではある。
「マックス、敵左翼に回り込んで!」
海賊船の後ろに回り込んでは攻撃し、天使を送り込む。海賊船からも戦闘兵器が飛び出し、格闘戦が繰り広げられる。
「ジェシカ、伏せろ!」
ジェシカが伏せるとマックスの機体からレーザーが放たれ、敵機を破壊する。
「サンキュー、マックス。」
「くそ、取り付きやがった。」
今度はマックスの機体に海賊が襲いかかる。ジェシカ機がその海賊機のさらに後ろから、その背中に槍を突き立てる。
「助かったぜ、ジェシカ。」
戦闘が始まり、18時間が経過したところで、大勢は決した。
「海賊どもに告ぐ。これ以上の抵抗は無駄である。直ちに武装を解除し、停船せよ。この勧告に直ちに応じるものは罪一等を減じ、極刑は免れることになることを約束する。」
物々しい宣告がジェシカから音声のみで発せられる。
数時間後、停戦に応じた海賊たちは逮捕され、武装を解除されると旗艦である空母コペンハーゲンの格納庫にずらりと並べられた。
「スフィア連合軍、空戦部隊総隊長、ジェシカ・ビジョーソルトである。」
戦々恐々とした捕虜たちの前に現れたのは頭に猫耳を乗せた美少女であった。緊張感漲る空気が一気に和む。
しかし、その中に降伏に応じたと見せかけた海賊の決死隊が紛れ混んでいたのだ。その男は音もなく跳躍すると背後からジェシカに斬りかかった。その剣は体内に隠されていたのだ。
危ない! 誰もがそう思ったが、声を発する間もないような見事な攻撃であった。
しかし、次の瞬間、ジェシカは後ろも見ずに抜刀してその斬撃を食い止めると、一閃して海賊の刀を肘から先ごと切り落とし、さらに胴を防具ごと薙ぎ払う。たまらず海賊は血飛沫をあげて冷たい床に突っ伏した。そして、最後はその背中から心臓を一突きして絶命に至らせたのである。
ジェシカは無表情に刀を振ってついた血を落とし、鞘に刀身を戻した。その美しくも冷ややかな所作に敵も味方も戦慄を覚えた。チンという音を鳴らして鯉口を閉じると、ジェシカは振り返りもせず、搬出せよ、と一言命じただけで、何一つ表情を変えず任務を続けた。
その愛くるしい見た目と、非情なまでの強さのあまりのギャップに、彼女は「猫夜叉」の二つ名を奉られることになったのである。
この「ブレイクショット戦役」では、多数の海賊船が拿捕、破壊された。5度の戦役で銀河系を荒らし回る海賊の1割を殲滅した、とさえ言われ、銀河連盟からも褒章を授与された。
この功績により、ジェシカはヴァルキュリア女子修道騎士会では最速で「天位」に就いたのである。




