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ティル・ナ・ノーグの最強騎士〜「生ける理不尽」と呼ばれる少年が挑む理不尽なミッション  作者: 風庭悠
第7部:「ネコ耳娘を仲間にするぜっ」―チキチキマ〇ンで頭●字D編
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第68話:思いがけなさすぎる、再会。

予選第1戦の行方は……。

[星暦1551年2月7日。惑星スフィア。フェニキア領エウロペ。宇宙港。予選第一戦。]


 レースも後半になってくると、優勝の可能性は数台に絞られてくる。

(ミーンマシン)もなんとか5位につけ、勝利を窺える位置になってきた。


アナウンサーががなる。

「しかし、9年ぶりのレース復帰となった、(ミーンマシン)ですが、大変素晴らしい飛翔を見せています。バックストレートこそ最新鋭には及びませんが、コーナリングが実に素晴らしい。まさにクレージーな突っ込みです。残りの周回数もあとわずか、いったいどう歴戦の猛者たちに挑んでいくのでしょうか?」


バックモニターに「(ミーンマシン)」が映る。4位の『文武丸(バズワゴン)』のドライバー、ソートゥースが驚く。

「ハチロクだと? とっくのとっくに昔の船じゃねーか。そんなもん、コーナー3つでバックモニターから消してやるぜ!」

しかし、そのコーナーで追いつかれ、しかもバックストレートでかわされる。

「なにーー!?」


さらに周回を重ね、ついにバックストレートで現在トップの機体を捉えた。


「来ましたね。私の出番です。」

マーリンが指の関節をならす。ここはキャプテンの出番なのだ。

「『ゼビウ●』そして『グラディウ●』で鍛えた私のテク、ご覧ください。」

「マーリン卿。……それはスフィアの訓練機関なのですか?」

マーリンのギャグを真に受けたジェシカが尋ねる。


「ええ、縦スクロールでも横スクロールでも、OKなのです!」

マーリンがそう言って主砲を打つと量子砲にのった重力ペイント弾が次々に着弾する。サミジーナはオーバーテイクをかけると一気に抜き去った。

「おっと、ここでついに首位が入れ替わった。抜かれたのは『鬼軍曹アーミー・サープラス・スペシャル』です。」


そして、遂にトップに躍り出たところで2度目のピットインだ。

すると、「ミーンマシン」を目がけてエネルギー波が打ち込まれた。

ワームホールの空間では機体が亜光速までスピードが上がっているため、ゆっくりにしか見えない。ブレーキングでサミジーナがエネルギー波を交わす。若干スピードの落ちた機体の前に、先日見たばかりの船が現れる。


「『自在天(コンバート・ア・カー)』のようですね。」

ゼルの言葉にマーリンが頷いた。自在天(コンバート・ア・カー)は戦闘機に手足が生えたような形で銃を構えていた。

「ガウォー●かよ。」

凜が突っ込む。「自在天(コンバート・ア・カー)」は後部のブースターがすでにピットに入っており、前方の戦闘ユニットが戦いを挑んできたのだ。

「凜、こっちは格闘戦はできない機体だ。ピットには近寄らせないでくれ。」

サミジーナが指示する。


凜とジェシカが応戦し、ロゼがピットの警備にあたる。足の生えた戦闘機はさらに変形すると人型に姿を変えた。

「がちで『バト◻︎イド』か。」

凜が呆れたように言う。

「凜、伏せ字になっていませんよ。」

マーリンが注意を促す。


「凜、あれを見てください。ほら、コクピットが『チ●コ』みたいになってます。『チ●コクピット』と呼んじゃいましょう! リアルに教授プロフェッサーが『息子タン』になってます!」

ゼルが嬉しそうに言った。

「女の子がそんな言葉を連呼しちゃダメ。」

凜がたしなめる。


 「よし、坊やをぶっ殺す。」

パットは凜にエネルギー銃を撃つ。凜の背中に4枚の光翼が現れた。

「去年、リーナの奪還戦で人型兵器(セト)とはやりあっているからな。」

凜は転移ジャンプすると天衣無縫ドレッドノートで自在天の膝裏を斬りつける。しかし、手ごたえはない。

「くそ、すでにバリアが展開済みか……。」

そんな攻撃は百も承知、と言ったところか。パットは手に持った銃で凜を叩こうとする。しかし、凜は天衣無縫(ドレッドノート)でそれを受け切った。

「なんて馬鹿力だ。⋯⋯そうか、スフィア十八番(おはこ)の重力兵器か。」

凜は受け切っただけでなく斬撃を銃のエネルギーパックに突き立てた。

エネルギーパックは暴発し、「自在天(コンバートアカー)」の指を破壊する。

凜は光翼で爆風を防ぐ。


「装甲の薄い関節や指を狙ってくるか。『人型』の弱点をとことん突いてくるとは、若いくせに嫌らしいやつめ。」

パットは即撤退する。これ以上は不利だからだ。判定で凜が勝ち、凜に60秒のアドバンテージ、パットに30秒のペナルティーが課せられる。


「なんとかして取り返す。」

パットは再スタートから猛然と飛ばす。しかし、なかなか前方の「ミーンマシン」追いつかない。

「くそ、なぜだ。なぜなんだ?」

パットは焦っていた。直線は自在天の方が速いため、じきに追いつくだろう、そう思っていたが、ジリジリと魁に引き離されているのだ。

とりわけ、(ミーンマシン)はカーブでほぼスピードを落とさない。

「バカな。どんな魔法を使っているんだ。くそ、今日に限ってこいつが遅く感じるぜ。第二縮退炉セカンダリータービン止まってんじゃねえのか?」

ただ、外から見る以上に(ミーンマシン)の中はパニックだった。

「うわー、曲がるのかよ!?」

「ぎゃー、ぶつかる!」

未知のスピードでカーブを攻めるたびに絶叫がコクピット内に木霊する。

「曲がれええ、オレのハチロク!」

サミジーナも必死の形相だ。


そして、なんと(ミーンマシン)はそのままトップのままチェッカーフラッグを受けた。

「やった!」

「勝った」

ジョーダンもついてきた旅団の面々も大喜びであった。

宇宙港に入ると、表彰台が待っていた。

「ありがとう。」

ジョーダンの目には涙が浮かんでいる。

「喜ぶのはまだ早いですよ。とりあえず、本戦(ファイナル)の出場権は確保しました。」


 そして表彰台にあがった凜たちに、主催者から優勝トロフィーと、本戦(ファイナル)のゼッケンナンバー、「00」が渡された。またレースクイーンから花輪を首にかけられ、シャンパンのボトルが手渡される。

「よっしゃあ! シャンパンファイトだ!……一度、やってみたかったんだよね。」

凜がレースクイーンから渡されたシャンパンのボトルを高くかかげた。しかし、長身のマーリンに、ヒョイと瓶を取り上げられてしまう。呆然と見上げた凜にマーリンはにっこりと笑って言った。

「凜、あなたの身体はまだ未成年ですから、遠慮してくださいね。」

「え〜!? 一度やって見たかったのに?」

凜の抗議は却下される。

「私が代わりにやっておきますから。」

かくして、凜は勝利の美酒にあずかることなく表彰式から追い出されてしまった。


「凜、やったね!」

やはり未成年という理由で一緒に追い出されたロゼと共に旅団の連中に迎えられる。

「俺たちもサイダーでやるか?」

リックがニヤニヤしながら尋ねた。

「却下だ。髪がベタベタになっては敵わぬ。」

メグが苦情を入れる。

「そうです。やめておいた方が身のためです。大昔ちきゅうのヤンキーはコーラで髪を脱色していたのです。⋯⋯あ、でもメグは最初からブロンドでしたね。」

ゼルが中途半端な制止をかけたが、

「じゃあ、タンサンでやろうぜ!」

と落ち着いてしまった。

ただ、 シャンパンファイトならぬタンサンファイトをピットでやらかし、ピット長にこってりと絞られることになってしまったのだ。


「だからやめとけ、っていったのです。きーーーーしししししししし。」

ゼルが笑った。



[星暦1551年1月7日。惑星ガイア。フェニキア領エウロペⅡ。]


「俺は一流のレーサーなんだぞ。」

若い男はそう声を荒げた。逞しい、筋骨隆々とした体躯に着慣れぬスーツを纏っていた。袖から覗く新品のドレスシャツを纏った手が怒りで震える。

「それがどうした? 私は自分の家にウガリットの人間を入れるつもりはない。」

彼に相対する初老の男はせせら笑うようにそう言った。

「野蛮人は娘の配偶者には似つかわしくはないのだよ。」


「パパ!」

堪り兼ねて娘が口を挟む。

「どうしてそんなことを言うの? ルーファスはレースでも一流のパイロットなのよ! 彼の出自はどうでもいいでしょ?」


 ルーファス・ラフカットはフェニキア人でも最も古い種族である「ウガリット」人であった。

フェニキア人は銀河系を股にかける種族であるため、星間航海に適するよう長い年月をかけ、自ら遺伝子操作を行ってきたのである。カルタゴ人のネコミミもその名残である。

しかし、ウガリット人はフェニキアの祖星といわれるウガリットに残り、頑なに変化を拒んでいた。彼らは元は貴族階級だったのだ。しかし、星間交易で経済力を増した新興勢力がやがて、シドンに植民都市を作ると、やがてそこが事実上の首都となったのだ。


怒ったウガリット人はシドンを制圧しようと軍隊を差し向けたが撃破された上に、逆に攻め込まれた挙句に負けてしまったのである。貴族階級はその財産と特権を全て奪われ、惑星ウガリットも現在はただの祖星、という地位だけを与えられているのだ。


ルーファスはそんな貧しく、草臥くたびれた星で産まれたのだ。「かつて、我が家は貴族だった」という昔話にしがみつき、無駄に高いプライドだけの周りの大人たちに、ルーファスは失望しかおぼえなかった。

しかし、何ももたない彼が、このフェニキア人の世界でのし上がっていく手立ては「宇宙船レース」の世界をとっかかりにするほかなかったのだ。彼の家に遺されていた、埃をかぶった宇宙船「文武丸(バズ・ワゴン)」を引っ張りだすとレースに打ち込むことになる。そこにいたのは、相棒となるドライバー兼キャプテンの「ソートゥース」という有人格アプリである。


ルーファスは週中は働いて金を稼いで出場費にあて、週末のレースで獲得した賞金で船をさらにチューンナップするという生活を続け、やがて頭角を現していく。彼はウガリットの惑星チャンピオンを3年連続して獲得し、さらに周辺星域でもチャンピオンになり、フェニキアでは名が知られるようになった。


そんな頃に出会ったのがジェニー・ジェノスタインという女子大生である。彼女の本人の魅力もさる事ながら、ジェニーは大店で貴族のジェノスタイン家の係累だったのだ。彼女と結婚しさえすれば、俺はあの、惨めで未練がましいウガリットの連中とおさらばできる、ルーファスはそう思っていた。それに、今の俺はうだつの上がらないかつての俺ではない。一流のレーサーなのだ。

両親に会って欲しいというジェニーのリクエストに応えて、彼はスーツを新調して彼女の実家に乗り込んだのだ。


それなのに、このザマである。ジェニーの父親は正装どころか、ガウン姿で彼を待っていた。屈辱と憤りに身体を震わせるルーファスにジェニーの父、ハルパートはこう言った。

「ルーファス君とやら。私はね、ただの『一流』では不満なのだよ。私が好むのは『最上』なのだ。最上をもってきたまえ。そうすれば君を認めることに吝かではないよ。……その最上とは何か、それはこのグレンジャーに聞いてくれたまえ。」

それだけ言って、ハルパートはリビングを去った。


ハルパートに仕える執事のグレンジャーは、今回のアポロニア・グランプリの本戦ファイナルで優勝するか、(ミーンマシン)のパイロット、棗凜太朗=トリスタンを葬り去るかのどちらかである、と彼に告げたのである。

「それで、いいんだな。男に二言はないからな。」

難しい要求ではあるが、無理ではないものだ。その上、グレンジャーは資金の提供も申し出たのである。ルーファスはその条件を呑んだ。


[星暦1551年3月3日。惑星スフィア。フェニキア領エウロペ。宇宙港。]


 南半球にあるエウロペは秋の兆しを見せていた。といっても南回帰線上という、緯度の低い地域であるため一年中温暖な気候であり、それほど四季がはっきりしているわけではない。耐えがたい暑さが収まり始めてきた、というほうが正しいだろう。


 凜たちは第2戦への参戦のため、再びエウロペを訪れていた。本来、グランプリ本戦(ファイナル)への出場資格を得たチームが同じ予選に参加することは稀だ。プライベーターであれば、最終目標であるギャラクシーグランプリ・ファイナルへの出場機会を求めて、他の植民都市のグランプリの予選や本戦に参加するため、銀河系内を渡り歩くのがほとんどだ。


 レース前夜には恒例のイベントが開かれ、大勢の人々が集まっていた。フェニキア人にとってレースはまさに祭なのだ。普段は銀河系中を散り散りとなって暮らす親族がお互いの無事を確かめあったり、レースをきっかけに新たな交流を求めたりする大切な機会なのである。


カップ戦は植民都市ごとに行われる。アポロニア・グランプリもアポロニア星系の2つの有人惑星、惑星スフィアにあるエウロペⅠそして惑星ガイアにあるエウロペⅡの二つの植民都市が共同で主催しているのだ。そして、そこで優勝すれば、さらに上位のカップ戦に、最終的にはフェニキア・グランドギャラクシー・グランプリという最高峰のレースに挑戦できるのである。


無論、凜たちにそこまで参加したいという意思ははない。レースのもう一つの意義である「戦争」の代理参加なのだ。今回、アポロニアグランプリを優勝したチームのオーナーに二つのエウロペの最高権力者である「主席取引官」の地位を指名する権利を与える、という決定がなされてから、フェニキア国内でこのレースに対する注目度が増したのだ。


そして、凜の提唱する惑星砲が、「紋章式転送技術」の応用である、という噂を聞きつけた銀河系中のフェニキア商人の耳目を集めているのである。

「紋章式」というのは惑星スフィアの先住民族ゴメル人が遺した技術で、重力子世界(アストラル)の中で重要な「意志」の力を具現化する「言葉」を現したものである。つまり、ここからあそこへ行きたい、という「意志(目的)」があれば、それを現実のものに変換する「命令(言葉)」が必要であり、その「言葉」を発するとその目的は達成されるのである。


元々は、創造主(オーサー)がこの宇宙を生じさせるために最初に起こした起動(ビッグバン)に始まり、宇宙を膨張させながら様々な天体を生み出し、運行していく物理法則を研究して得られた成果である。

ゴメル人が他の人類に先駆けることができたのは、創造主をいないものとして、いないのならどのようにこの宇宙を成し得たか、という虚しい研究に終始しなかったからである。つまり「偶然」を神として崇めるのをやめ、自然や宇宙に見られる創造主の「意志」の方向性を研究した結果、得られた技術であった。科学の方向性(ベクトル)を180度変えたのである。


ゼルが口をはさむ。

「ようするに、カワセミやカモノハシの真似をすると新幹線が速くなったり、省エネになったりするわけです。生物模倣技術(バイオミメティクス)の延長です。あと、これはあくまでもこの小説の世界の設定なので、気にしないでくださいね。」


パーティーはマスコミやファン向けの会場と、出場チームのオーナーたちが懇談する会場と二つに分かれていた。凜たちはレーサーとして一般向けに出席しなければならないので、上の懇親会にはメグとラドラーに名代での出席を頼んでいた。


「キミ、なかなか強いね。」

タキシードに「着られた」がっしりとした体躯の男が凜に近づいた。赤毛を肩まで伸ばし、浅黒く日に焼けた顔がその精悍さを際立たせていた。

(先日の「ヘイヘイホー」さんです。)

ゼルが凜に耳打ちする。


「ルーファス・ラフカットさんですね。ああ、その節は。」

意味不明の返しをして凜は自分で苦笑してしまった。

「ところでキミは、スフィアの高官だそうじゃないか? そんなお偉いさんがレースに出てまで、いったい何を手に入れるつもりなのかい?」

ルーファスは割とざっくばらんに尋ねてきて凜は拍子抜けしてしまった。悪い人ではないらしい、凜は勝手にそう思い込む。


「そうですね。我が国の民の命と暮らしの安寧でしょうか。」

凜の優等生的な答えにルーファスは笑った。

「なるほど、富や名声や権力。すでにそれを手に入れると次はそうなるものかな。俺も、いつかはそういう目線にたちたいものだな。」

ルーファスの言には嫌味というよりも純粋な驚嘆に近い波動を感じられた。ちょっと誤解されたかもしれない、凜は苦笑を込めて訂正した。

「少し、違うんです。私は富や権力、といった形のあるものは全て、脳が感じる信号パルスに過ぎない、と思っています。」


「……信号パルスかね?」

「ええ、手にしたものがどうあれ、脳にたどり着くのは信号パルスだけなのです。実際に現実の世界で王様になろうと、ゲームの世界で王様になっても、脳にとってはおなじことなんですよ。だからこそ、脳というか、人間が安心、という精神状態でいられる世界が大切だと思うんです。」


ルーファスは首をかしげる。

「だからこそ金がいるんじゃないのか?権力を持つことが必要なんじゃないのか?」

凜は微笑んだ。


「ええ、もちろんそれも一つの方法ですよね。でもこの惑星の現状は少し事情が違うんです。ご存知かもしれませんが、彗星爆発事故『ブレイク・ショット』によって、我々は深刻な命の危機にさらされているのです。金だの権力だのを奪い合っているうちに、得たものを楽しむための命がなくなってしまうかもしれないのです。

 今、国民が未だに正気を保っているように見えるのは、この危機がどれほど深刻かを知らされていないからです。

 もし、その安寧がひとたび失われれば、たちまち人は正気を失い、暴走してしまうでしょう。私は欲するのは、それを抑止するための『希望』なのです。」

凜は惑星防御砲の話をしていたのだが今一つうまく伝わらなかったようだ。


「俺には難しくてよくわからん。俺はウガリットという鄙びた惑星で生まれ、育った。そこには何の刺激もない、昔の栄光だけが誇りの、終わった世界だった。

俺は学もないし、先祖が遺した古びた宇宙船で故郷を飛び出した、ただの田舎もんだ。だから俺は上を目指す。いつか誰かに追い落とされるかもしれないというスリルに、俺を邪魔するやつらをぶっ飛ばす快感。それだけで俺の脳はドーパミンをドッパドッパと吹き出すのさ。

俺はキミを必ず倒す。なぜなら、それが俺の今ここにいる理由だからね。じゃあ、明日からのレースでまた会おう。」

そう言うと、手を振りながら立ち去って行った。

「宣戦布告でしょうか?」

ゼルが怪訝そうに凜に尋ねる。

「まあ、とっくに戦争は始まっているからね。僕たちに中途ハンパな気持ちで挑んで来るな、と言いたかったのかもよ。」


「なあ、凜。なかなか料理もええもんでてるで。あ、でも、これはウチのやで。……うーん。でも凜だったらちょっとくらいならつまんでもええで。」

ロゼが凜に近づく。その手には山盛りのオードブルが乗った皿があった。

「ロゼ、一人でこんなに食べられるの?」

呆れ顔の凜にロゼは澄まして答えた。

「余裕やん。」


「あら、噂のルーキーのお出ましね。」

次に話しかけて来たのは、第二戦にエントリーしている唯一の女性ドライバー、ペネロペ・ピッツトップである。彼女は見事なプロポーションの身体(ボディ)にピンク色のドレスを身に纏い、妖艶な笑みを浮かべた。凜が自己紹介すると、彼女は値踏みするように凜を見つめた。

「初出場で初優勝なんて、田舎レースの予選でもなかなかたいしたものよ。」

(ペネロペ・ピッツトップは『女番小町(コンパクト・プシーキャット)』のドライバーです。男勝りのドライブテクニックで世の男性から大人気だそうです。)

ゼルが凜に耳打ちする。


「ありがとうございます。」

きれいな人だな、そう思いながら凜は差し出されたペネロペの手を取り、跪いて手の甲にキスをした。

「あら、さすがスフィアの騎士ナイトね。若いのにこういうことをスマートにできちゃうなんて素敵よ。」

ペネロペは予想に反した凜の行為に不意をつかれて頬を赤らめた。

「いいわね。もう出場権は得たのだから、本戦までは高みの見物ね。羨ましいわ。」

凜も立ち上がると答えた。

「まあ、我々はルーキーですのでね。本番まではある程度経験を重ねなければなりませんから。まだまだ必死ですよ。」

「ご謙遜ね。」


「おい、ペネロペ、持ってきてやったぞ。酒が明日に残らないよう程々にな。」

そう言いながら長身の男がペネロペの背後からこちらへ近寄って来る。彼は手に持っていたグラスを彼女に渡した。その男の頭にはネコ耳がのっていた。


「あら、ジョッキで飲まない限りは大丈夫ノープロブレムよ。」

彼女は妖艶な笑みを浮かべながらグラスを受け取るとカクテルに口をつけた。

凜の隣にいるロゼの身体が震えている。

「ロゼ、どうしたの?」

「ちょ、これ預かっとって。」

凜の問いに、ロゼはオードブルの皿を凜に渡した。ロゼは男の前に進み出るとその顔を見上げた。


「ショーン兄やん。」

男は、少女の顔をまじまじと見てから尋ねた。

「もしかして⋯⋯こいとはん?」

ロゼは力いっぱい頷く。ロゼの両目から涙があふれ、零れ落ちた。男は一度頭をかいた。

「おっきく……なられましたなあ。」


思わぬ場面にペネロペは目を丸くする。

「ショーン、こちらのお嬢さんとお知り合いなの?」

「ああ、昔仕えていた商家オーナー末のお嬢(こいと)さんだ。『(ミーンマシン)』、同名の船やなくて、ホンマにあの船やったんやなあ。びっくりしたわ。」

 その男がショーン・ビジョーソルトであった。ロゼはショーンに飛びつきたい気持ちを懸命に押さえ込もうと闘っているようにも見えた。


「彼はショーン・ビジョーソルト。私とタッグを組む凄腕のパイロットよ。今年、こちらのグランプリに出ることになったから、コースに詳しい地元の人である彼と契約してもらったのよ。」

凜はショーンと握手をかわす。

「あなたがジェシカさんのお兄さんなんですね。」

ジェシカもジョーダンの秘書として上の懇親会に出ているのだ。


「そうか、妹とも知り合いなんだね。いや、まさかあの旦那さんがレースにまた手を出すなんて思ってもみなかったよ。でもまあ、考えてみれば尻に火がついているようなもんだったな。

 そうか、それはそれは。こいつは面白そうな催しものだな。生き恥を晒してまで古巣まで足を伸ばした甲斐があったよ。」

 ロゼはその言葉に目頭の涙を拭った。彼の言葉が、自分の父にされた仕打ちを赦しているようにも聞こえたからだ。しかし、続く彼の言葉はロゼの思いとは違っていた。

「⋯⋯これでぶっ潰しがい、というものができたよ。トリスタン君と言ったね。キミが新しいパイロットだね。キミに個人的な恨みはないが、全力で潰しに生かさせてもらうよ。」

そう言うと、その場を立ち去って行った。


「兄やん!」

ロゼが呼んだが、ショーンの後ろ姿はそれに応えようとはしなかった。

「あら、お嬢さん。彼にだいぶ恨まれているようね。しかし、あの男があんなに感情を剥き出しにしたのは初めて見たわ。鄙びた田舎レースだから諦めていたけど、なんだか少し、楽しめそうね。」

そう言ってペネロペも立ち去っていった。



次回、「第69話:アイドルすぎる、音波兵器。」久しぶりのゼルちゃん大暴れ回。レース予選第2戦の戦いをお楽しみに。

 ビジョーソルト兄妹ですが、作者的にはプロレスラーの棚橋さんと「週刊少年マガジン」の「ダイヤのエース」の御幸君のお姉さんっぽいイメージですね。猫耳がけっこう似合いそう。


投稿は7/28(金)予定。

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