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ティル・ナ・ノーグの最強騎士〜「生ける理不尽」と呼ばれる少年が挑む理不尽なミッション  作者: 風庭悠
第7部:「ネコ耳娘を仲間にするぜっ」―チキチキマ〇ンで頭●字D編
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第65話:踊りすぎる、ネコ耳(オジサマ)。

今回、宇宙船レースの「概要」が明らかに……。

[星暦1550年12月27日。惑星スフィア。フェニキア領エウロペ。]


「いいですか凜、『笑ってはいけない取引現場』です。いいですね?」

マーリンが念を押した。

「分かっているさマーリン、笑ったら『(けつ)バット』だからね。」

凜はそう答えて開かれた会議室に入ると、フェニキアのエウロペの首脳たちが待ち構えていた。その大半は「ネコ耳」だったのである。

(これは⋯⋯きますねえ。)

ゼルが意地悪そうに耳打ちする。真面目な顔をした親父たち。ロマンスグレーの頭の上に、バーコードな頭の上に、キッチリと七三分けになった頭の上に、ネコ耳が載っている風景は「壮観」をとっくに通り越して、「シュール」の域に達していたのである。マーリンは思わず顔を背けた。

(マーリン、アウト!しかしまあ、大晦日まで4日残してこれとは……。)

さすがのゼルも同情を禁じ得ない。


「ようこそ、代理人閣下。」

凜が応接セットのソファに座を勧められる。凜、ラドラー、そしてマーリンに面したのはハルパート氏、ジョーダン氏、そして横側の一番の上座に座っているのは老人であった。

「先代の主席、そして先代の当主だった父です。」

短く紹介された老人は、すでに引退したジョーダン氏の父親ネイサン氏であった。


改めて交渉に入ると、想定通りに、ハルパート氏は凜たちの案に難色を示した。

「しかし、これはすでに惑星のスフィア、ヌーゼリアルの間ですでに合意を得ているものですし、現在アマレクとも、ガイアの7つの大国とも交渉しているものです。是非に協力を。」

マーリンもラドラーも熱弁するが、ブラックホール砲を売りたいハルパート氏はなかなか首を縦には振らなかった。


「この術式の惑星防御砲は貴国にとっても新たなビジネスチャンスを拡げる機会にもなるはずではないでしょうか?」

ジョーダン氏も凜の意向に理解を示すものの、積極的に賛成してくれるでもなく、議論はそのまま平行線を辿っていたのである。誰もが終わりの見えない無為な交渉に疲れを覚え始めていたその時、ずっと黙って交渉を見守っていた『先代』が重い口を開いた。

「では、レースで『決』をとって見てはどうかね?」

(レースで『けつ』バット⋯⋯)

一瞬、凜の空耳が炸裂しそうになる。


「父さん!?」

「それはいいですね。」

戸惑うジョーダンとは対照的にハルパートはその案にすぐに賛成した。

「父さん、いい加減にしてください。これは我らが都市エウロペにとっても重大な決断なのです。そんな『お遊び』で決めていいものではないはずです。」

ジョーダンは眉をひそめる。


「『遊び』だなんて聞き捨てならないね、兄さん。これは由緒正しい船乗りの嗜みだ。」

ハルパートは反論する。


ネイサン氏は息子たちの反応を見て続けた。

「ジョーダン。お前があまりレースで『こと』を進めたくないことを私はよく知っている。確かに、あの時の失敗でお前が懲りたのも仕方がない。一方、ハルパートは正直、レースに入れ込み過ぎているのが玉に瑕だ。

ジョーダン、もしハルパートを説得したいなら弟の得意な分野で説得してみなさい。そうすればハルパートもお前に助力を惜しむまい。

ハルパート、ジョーダンと勝負をつけ、もし負けたと思うなら兄さんの顔も立てておやりなさい。」

ネイサン氏の提案は議論の行方を意外な方向へと向かわせる。


「わかりました。この勝負、受けましょう。来年のアポロニア・グランプリでどうでしょうか。」

乗り気なハルパートに対してジョーダンは及び腰であった。

「父さん待ってください。」

しかし、ネイサン氏はジョーダン氏を一喝する。

「いい加減にしなさい!! ジョーダン。お前はいつまで過去の失敗に足をとられ続ければ気がすむのだ。いい加減に立ち直りなったらどうだ? 商人たるもの度胸が大事。お前がいい加減レースに関わろうとしないのは、ただ慎重なのではなく臆病なだけだ。お前が陰で何と呼ばれてるか知らないのかね?いいモノ笑いの種だ。いつまで私に肩身の狭い思いをさせるつもりかね。」


それだけ言うと、ネイサンは立ち上がる。

「ジョーダン、お前がこれからも逃げの一手しか打てないのであれば、当主の座を退いてもらう。言っておくが、これは、私だけの意志ではない。確かに『身代』はお前に譲ったが、私が未だにこのジェノスタイン商会の筆頭株主であることを忘れるな。家族会を納得させるだけのお前の覚悟を見せてみなさい。」

そう言ってさっさと会場を後にしてしまった。


(これ、どうしたらいいんだろう?)

凜とマーリン、そしてラドラーは突然生じた家族の不協和音にお互い顔を見合わせてしまった。

(ジョーダン氏の耳が垂れています。キュンとなってしまいそうです。)

ただ、ゼルは早くもこの光景にすっかりと馴染んでしまったようである。


ハルパートも立ち上がる。

「話は決まった。アポロニア・グランプリで勝負だ、兄さん。なんと言ったって、兄さんの持つ船は最高じゃないか。まあ、それを乗りこなせるヤツが居ればの話だけどね。それじゃ、楽しみにしているよ。」

そう言って、同じように部屋を後にした。そこで会合は『お開き』、というより『お流れ』になってしまったのだ。


部屋にはジョーダンと、凜たち、そして気まずい空気だけが残されていた。


「お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたな。」

ジョーダンはため息まじりに言った。

「これにて交渉はお預けです。なにしろ、まずこちらの意志を統一しなければなりませんからね。⋯⋯少し、お茶にしましょうか。」

ジョーダンが合図を送ると、テーブルに軽食とカクテルが並べられる。


凜は気難しそうにカクテルを見つめるジョーダンに尋ねた。

「その、昨日、ジェシカさんから『船員組合』からクルーを派遣してもらえない、というお話を伺っています。このままですと、レースが出来ないまま閣下が負け、私たちの協議が頓挫する、ということになってしまうのでしょうか?」


ここでフェニキアとの交渉が頓挫することはガイア諸国、とりわけアポロニア連邦共和国との交渉に大きな障壁となってしまうだろう。

「よろしければ、そうなった経緯を教えていただけませんか?」

マーリンが問うとジョーダンは深くため息をついた。


「お恥ずかしい話でね。今から10年⋯⋯いや、正確には12年前だったろうか。私は父の跡を継いでこのエウロペを統べる存在になった。私もその時はまだ40にもなっていなくてね。とにもかくにも自信に漲り溢れていたよ。銀河系は私を中心に回っている、と思えるほどにね。」


ジョーダン・ジェノスタインは宇宙を股にかける若手の商人の中でも遣り手で有名だった。豊富な資金力と時には『執念深い』とさえ言われる情熱で彼は多大の収益を上げていた。

そんな折、彼も満を持して宇宙船レースへと参入したのである。


「私の船はスフィアで発掘されたビンテージものでね。目にしたものが誰もが羨むような速い船なんだよ。スペックを聞きたいかね? そのころの私なら2時間だろうと3時間であろうともも熱弁できたろう。実際に速かったんだ。その船は。


当時、その船を任せていたのがショーン・ビジョーソルト。そこにいるジェシカの兄だ。彼は本当に優秀なパイロットだったのだよ。しかし、私がつまらないことで癇癪を起こしてしまってね。」


それが、船員組合ともめた事件なのである。ジョーダンはとある星系の鉱山開発の交渉が難航していた。しかし、そこで産出される金属は非常に希少価値が高いもので、誰も交渉から手を引かず、レースで決着をつけることになったのだ。


ジョーダンはレース前にエースパイロットのショーンに念を押した。

「このレース、絶対に勝ってくれ。どんな汚い手を使っても構わない。勝てばボーナスは倍⋯⋯、いや5倍出そう。」

ショーンは自分の腕に絶対的な自信を持つ男だった。成績も優秀で多くのファンもいた。ジョーダンはそんな彼を自分のチームに破格の待遇で引き抜いたのだ。


「汚い手⋯⋯といいますと?」

マーリンが聞いたのだが、ここでラドラーが口を挟んだ。

「ジョーダン、一度彼らに宇宙船と、レースを見せてやったほうが早いんじゃないのか?」


ラドラーの提案にジョーダンは快諾した。

「そうだね。そうした方が良いだろう。明日、見に行くとしよう。実は、私もドックの方に顔を出すのは久しぶりでね。そうだ、随員のメグ姫たちも一緒にどうかね?」


[星暦1550年12月28日。惑星スフィア。フェニキア領エウロペ。宇宙港]


ジョーダンは凜たちを宇宙港にあるプライベート・ドックへと案内した。

「これはすごいね。」

初めて見る光景にリックやアンは興奮を隠せない。ロゼは父親やジェシカが一緒のせいか、少し大人しかった。

「おや、ロゼお嬢様。」

スタッフはロゼを見かけると挨拶をする。

「まいど!」

ロゼも元気に挨拶を返していた。

「大福餅買うてきたで、みんなで食べとってなあ。」

ロゼが差し入れを渡すと、いつもすみません、と女性のスタッフが恐縮していた。

「ロゼはここでは人気者なんですね。」

凜の言葉に

「ええ。旦那様のご家族で、ここに顔を出すのはここ最近はロゼ様だけですから。」

ジェシカがそう答えた。


「え⋯⋯旦那⋯⋯様!?」

スタッフがジョーダンの姿に気がつくと構内放送で全員集合の指示が流された。


「いや、しばらくほったらかしにしてしまっていてね。」

横一列に整列したメカニックたちを前にジョーダンが苦笑した。

「しばらくなんてもんやないわ。」

ロゼが父親に聞こえない程度の声で呟く。

ジョーダンは凜たちをドックの構内でも一番高い場所にある応接室に案内した。

「ここから船が一望できるのだよ。」


そこには白く塗られた優美な船体が横たわっていた。十字架のような形状で、15mほどの全長があり、中央より後部にやはり全幅15mに近い両翼が突き出ていて、その交差部の上部にコクピットが据えられていた。


「どの宇宙船(レーサー)も同じような形状なのですか?」

凜の問いにジョーダンは首を振る。

「いや、特に決められてはいないよ。なにせ空気抵抗は関係のない世界だ。だから『速い』船もあれば『強い』船もある。なんでもアリ、の世界なのさ。」


メグが尋ねる。

「素敵なデザインの船ですね。名はなんというのですか?」

「『(ミーンマシン)』、と言うのだ。正式な名称は型番だがね。アポロニア(Apollonian)星系のエウロペ(Europe)で登録された86番目の機体なので『AE–86』というのが正式な名前さ。こっちの方は味気はないがね。」

ジョーダン氏は昔の情熱がふと燃え上がるのを感じたのか、照れ臭そうに言う。


座天使(スローン)ラミエルで間違いないようですね。我が民によって作られたものです。」

マーリンが凜に囁く。


「ジョーダン殿。思ったよりスタッフの方が少ないのですね。」

メカニックが働く様を観察していたメグがふと尋ねた。

「ええ、現在正式のレースには参戦していないですからね。機体保持のためだけならそれほどスタッフは必要ありません。それに、整備員(メカニック)も船員組合の管轄ですから。今、働いているのは旦那様に個人的に恩義のある者たちばかりなのです。彼らは組合を辞めてまでここで働いているのです。」

ジェシカが代わって答える。


「ジェシカ、レースについて説明してくれないか。」

ジョーダンが本題に入る。

「こちらをご覧ください。」

ジェシカが応接室のモニターを付けると三次元ホログラム映像が浮かび上がる。彼女はそれを示しながら解説を始める。


「サーキットコースは小規模な人工ブラックホールとホワイトホールを接合したいわゆるワームホールが使用されます。それを空間捻転技術で折り曲げてコースの形にするのです。ホームストレートとバックストレートの二本のストレートと、その間に緩急つけたカーブやコーナーを織り交ぜたコースになっています。

エウロペのレースでは、多くの観客は地球人種(テラノイド)の皆さんです。それで古の地球で行われた人気のモータースポーツである『フォーミュラ1』のコースを模しています。その中でも特に人気の高い『シルバーストン』、『モンテカルロ』、『ニュルブルクリンク』、『鈴鹿』の4コースの中から本戦(ファイナル)のコースレイアウトが選ばれることになっています。


レースはホームストレートをスタートとし、サーキットをコースごとに定められた周回数を一番早く回ったマシンが優勝する、という簡単なものです。機体(マシン)を操縦するのは『ドライバー』と呼ばれるクルーです。とりわけ、ヘアピンから高速まで数パターンあるコーナーはドライバーの腕の見せどころとなっています。

宇宙船はタイヤを使いませんから、ピット作業は要らない、と思われるかもしれません。しかし、ブラックホールの特異点がレース中に2回、変わりますので、それに合わせたピット作業が最低2回は必要になります。ピットはホームストレートに併設された一時出口から入ります、そしてそこがバトルステージになります。」


「バトルステージ?」

一同は聞き返す。レースとバトルの接点が想像の範囲外だったからだ。

「ええ、小型の人工ブラックホールを使ったワームホールですから崩壊が速いのです。ピットワークの間に、パイロットと呼ばれる戦闘員同士のバトルが行われるのです。1位と2位、3位と4位、と言った同士で制限時間5分のバトルが行われます。ノックアウトで勝てば1周のアドバンテージ、負ければ1周のペナルティーが付きます。それ以外は判定によって、秒数のプラスマイナスがつけられるのです。」


「でもパイロット、って操縦士のことじゃないの?」

アンが尋ねる。

「ええ、でも元々は『水先案内人』のことです。水先案内人とは港の中の船舶の安全を守る人ですから、ピットの安全を守る戦闘スタッフもこう呼ばれるようになったそうです。」

「へえ。」


「では、キャプテンは何をするのだ?」

メグが腕を組んだまま尋ねた。

「キャプテンの仕事はバックストレートです。ここで背後を取る事が出来れば後ろから攻撃できます。無論、実弾ではなく、重力ペースト弾という量子砲です。その攻撃を担当するのがキャプテンの仕事です。」

「なるほど、それなら砲撃手(ガンナー)、という表現のほうがよいと思うのだが。」

「そうですね。これもフェニキアの歴史から言うと長いので割愛しますが、とある宇宙戦艦の必殺兵器『波○砲』のトリガーをひくのが艦長キャプテンだったからではないかという説が有力です。」

「いまひとつ、そのセンスは分かり兼ねるが伝統、ということなのだな。」

メグはあまりピンとはこなかったようである。


「船は亜光速で飛ぶため、通常の兵器では追いつけません。それで『ワープ砲』とも呼ばれる量子砲が使われるわけです。重力ペースト弾が着弾しますと、その重みで一発あたり、1、2秒の遅くなります。それでオーバーテイクしやすくなるのです。」

ジェシカの解説が終わる。


「そう、そして、そこが私の失敗したところなのだよ。」

ジョーダン氏は続ける。

「ショーンは強いパイロットだったんだ。彼は拳闘士でね。彼と一対一(タイマン)で敵う者はいなかったんだよ。だから、私も過度に楽観していたのだ。」


その日の映像が流される。ぶっちぎりの首位(トップ)でバトルステージに到達した(ミーンマシン)はセッションを換えていた時、後続の機体にピットに突っ込まれ、体当たりされたのだ。そのため、(ミーンマシン)は航行不能に陥る。


そして、彼のライバルの船がそのレースの勝利を掻っ攫ったのである。つまり、そのライバルは(ミーンマシン)を潰すためにもう一隻の船を用意していたのだ。機体同士のぶつかり合いは航行不能に陥る可能性があるため、常識的に考えられない。しかし、当時はまだ禁じられてはいなかったのだ。それでショーンにはそこまで予測はつかなかったのも無理はなかったが、それを守るのがパイロットの役目だったのだ。


「拳で挑まれれば負けることもないが、まさかそこまでするとは。」

ショーンは思わぬ敗戦にうなだれていたとジェシカは言った。


ジョーダンはいった。

「酷く失望した私はショーンを即刻解雇してしまったのだよ。その後、レースの無効と、こんな詐欺的なレースに加担した船員組合を法廷に訴えた。しかし、結果は私の負けだった。確かに、ルールで明確に禁じられていないことを咎め立てする権利は誰にもないからね。敗北を喫した私は、賭けていた事業と共に財産の半分を失ったし、一族の中で私の権威は失墜し、私の発言権も相対的に低くなってしまったよ。

ただ、これに関してショーンに罪はない。だから私は慌ててショーンを探したが、すでに彼は連絡がつかなかった。彼は最近は別の船に乗って、立派に活躍しているよ。

そして、裁判で私に訴えられた船員組合は報復として、私のもとから全てのスタッフを引き上げてしまった、というわけだ。

これが、すっかりこの世界が嫌になってしまった私が、レースに及び腰になってしまった真相さ。もしかすると、私は今回、トリスタン卿の役には立てないかもしれないね。」

そう言うと、窓の外に目をやる。そこには惑星スフィアが輝いている。


「いったい、レースに出場するためには何が必要なのでしょうか? 」

凜が尋ねる。顧客のためならなんでも揃えるのが気概である商人のあまりに無気力な発言に、凜の声は思った以上に上ずっていた。

「まずキャプテン。これはマシンの兵装を扱う。そして、パイロット。これは船の安全の責任者でバトルステージでは船を護衛して格闘戦をする要員だ。そして、運転手(ドライバー)。これは操縦桿を握り、実際に船を走らせる。

私の船は5人乗りでね。パイロットは3人まで乗ることができる。とはいえ、みんな船員組合に所属しているのでね。よって、私にはひとりも揃えられない、というわけだ。」

ジョーダンは自嘲気味に笑った。


「それを先代翁に説明されてはいかがですか? あるいは、先代翁に船員組合と執り成しをしてもらうとかはできないのでしょうか?」

マーリンが尋ねる。

「それこそ、このレースこそが私を潰すための手だ。組合(むこう)は折れてはくれないだろうな。」

ジョーダンはそう言ってため息をついた。


「わかりました。そういうことであれば我々がお引き受けしましょう。」

突然、ゼルが言い出した。

「ゼル?」

凜は慌ててゼルを制しようとしたがゼルは

「私の話を聞いてからにしてください。」

と引かなかったのである。


「まず、キャプテンはマーリンが引き受けましょう。彼は器用貧乏なので、これくらいはできます。パイロットは凜にやらせます。補助に私がついていますし、戦闘だけなら彼の右にも左にも出るものはいないでしょう。」


「なるほど。確かに皆さんなら問題はないでしょうね。ただ、テストさせていただければ、ですが。」

ジェシカが賛同したのでジョーダンも驚いた。

「まさかキミが賛成にまわるとは思わなかった。でも、ドライバーはどうするんだい? いなければ船は1光秒も動かないぞ。」


「ちっ、ちっ、ちっ。」

自信ありげにゼルが指を振った。

「それでは我らが誇るドライバーをご紹介しましょう。」

ゼルが召喚を始める。

「召喚要請。『ソロモン七十二柱』序列第4位、サミジーナ。」

床に召喚陣が描かれるとそこから青年が現れた。

履き古したデニムのパンツにスニーカーを履き、白いコットンのTシャツという軽装であった。

「ああ、ども。」

後ろ頭をポリポリとかきながらの、いかにも気だるそうな態度である。


「ソロモン七十二柱でワープ航行など軍の高速機動を司るアプリ、サミジーナです。デフォルトの具象体アバターは馬の頭をした騎士の姿……あれ?」

ゼルが予想と違う容姿に驚く。

「あれ、サミー、いつもと姿(アバター)と違いますね?」

凜は嫌そうにツッコミを入れる。

「そうっすか?」

サミジーナはとぼけている。

「前回は髪を振り乱して『なんぴとたりとも俺の前は走らせねえ!』って言ってたじゃないですか?」

マーリンが指摘する。

「いや、今回はクールな方がいいかな、と思って。まあ、どっちも『グンマー』から始まってますから問題はないと思うけど。」

サミジーナはボソボソと言う。


「『グンマー』って?」

ロゼが凜に尋ねる。凜はロゼに耳打ちする。

「ここだけの話だが、地球にかつてあった、とある島国の山奥にある土地なんだ。そこには槍で武装し、全身に刺青をした原住民が狩猟や旅行者を襲って生計を立てているという伝説の地だよ。彼らは人喰い民族らしくてね、一度そこに足を踏み入れた者は生きてそこを出られるとか出られないとか。」

「そ⋯⋯そうなん? そんな怖い、ところなんや。」

ロゼの顔がひきつる。凜の珍しいエセ情報にゼルは満足げに親指を立てた。


「よろしくお願いします。サミジーナといいます。フェニキアの宇宙船レースは前から興味があったんたんで呼んでもらえてうれしいです。」

とりあえず版権にひっかるような格好ではないため、ゼルは構わずにことをすすめたいようだ。

「早速ですが、サミー、あなたのドラテクをこちらのクライアントに披露していただけますか?」

了解うっす。」


レースに巻き込まれた凜たち。

次回、「第66話:一癖ありすぎる、レーサー。」。投稿は7/7予定です。

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