第54話:華麗すぎる、マスカレード。
ゴールデンなウイーク始まるよ〜。
てなわけで空戦+フィギュアという競技を書いて見ました。アニメ向けな題材だよな。って自分では思ってます。
[星歴1542年8月10日、グラストンベリー。聖槍騎士団官舎]
その晩、メグが凜の部屋を訪れた。その顔は緊張と恥じらいに満ちていた。
「凜、……その、折り入ってお願いがあるのだが、聞いてもらえないだろうか。」
「どうしたの、メグ? 改まって。」
何かいつもと様子が違うメグに凜が尋ねた。
「実は、今回の祭りの夕べの部のことなのだが、一緒に空戦のペア競技にエントリーしてもらいたいのだが。」
「えーと、……あの『マスカレード』に?」
「うん。」
『マスカレード』というのは、男女の騎士のペアで行う空戦競技の一つである。別名、空中舞踏とも呼ばれるもので、ペア同士で戦うというよりは優美な飛行形態で障害物を避けて飛んだり、空中で剣技や槍技を披露したりするもので、空戦の基本練習を発展させ、競技として昇華させたものである。
ちなみに、「仮面舞踏会」と呼ばれるのは仮面ならぬ兜を被るからだ。
これは選挙大戦の種目には入っていないものの、近年、人気が上昇中の競技である。最近では優秀な成績を修めれば、奉納試合の優勝と遜色ないポイントを挙げることもできる。
それに『泥臭い』奉納試合が昼間におこなわれるのに対し、人気の高い天位騎士以上の奉納試合と同じく、夜に開催されることが多いのである。
「別に、僕はかまわないけど。そういえばメグには経験があるの?」
「実は、ヴァルキュリアにいた頃は必須課目だったのだ。凜が留守の間、基礎修練の一環で嗜んでいたのだが、思いのほか奥が深いので、最近少しハマっていたのだ。」
メグは恥ずかしそうに言った。
しかし、参加するならするで色々準備も必要だ。例えていうならば、競泳に対するシンクロナイズドスイミング、体操に対する新体操、スピードスケートに対するフィギュアスケートのような立ち位置の競技だ。とりわけ、コスチュームは自前で用意しなければならない。それに音楽もある。
「あと、いろいろと準備も必要だね。音楽とか、コスチュームとかの準備はどうするの?」
「確かに。⋯⋯そこまでは考えてもいなかった。」
さすがにメグもそこまで思いが至っていないようであった。彼女は凜に承諾してもらえるかどうかばかりに気をもんでいたのだ。
「そうか⋯⋯。思いついたらすぐに参加とは、簡単にはいかないものなのだな。すまない、凜。この件は忘れてくれ。」
用意するものの多さにメグは萎れてしまった。凜はにこっと笑った。
「大丈夫だよ、メグ。裏技を使えばなんとかなるかもしれないよ。あまり、大したものは用意できないかもしれないけど、メグさえそれでよければ。」
「本当か?」
メグの表情がぱっと明るくなる。凜はゼルを呼んだ。
「まーた、お二人で面白そうなことを企んでいますね。けしからん、……わたしも乗っかります。コスチュームと音楽、ですね。音楽はわたしの生歌、というのはいかがでしょうか?」
ゼルは満面の笑みだ。
「いや、ゼル。実はルールでボーカルが入った曲は禁止なんだよ。」
凜はゼルの申し出はすでに折込済みだったようで、ルールを説明するとゼルはがっかりした様子だ。むろん、メグはほっとした表情をうかべる。
「……そうですか。残念無念です。コスチュームの方ですが、早速、『七十二柱』を呼びましょう。召喚モード。こちらオーソリティーコード、アザゼル。召喚対象、序列第59位『オリアクス』。」
「そうか、オリさんかあ。」
凜の顔が曇った。
すると床に召喚陣が展開する。そこからゆっくりと長身の男性が現れる。白いスーツに黒いドット模様のシャツを着て、ボタンは第ニボタンまで開けているハンサムな青年だ。茶色の髪をやや長めにして、首にはスカーフを巻き、大きなティアドロップのサングラスをしていた。
「あらトリちゃん、おひさ〜。」
サングラスを上にあげたその男はなぜかオネエ言葉であった。
「こちらがソロモン七十二柱、序列第59位、オリアクスです。主に軍服などの軍装備品の調達を担当しています。」
ゼルが紹介する。
「あら。ゼルちゃん、やだわぁ。まあだそんな往年のアイドルみたいな格好しているの?私がコーデしたげるわよん?」
オリアクスはゼルの格好に食いついた。
「オリさん、実は、今日あなたを召喚したのは凜の用事なのです。それに、私は、このコスは、これはこれで気にいっているのですよ。」
ゼルは素っ気なく断りを入れた。
「あら、それは残念ね。」
(いったい、なんなのだ、これは……。)
オリアクスの奇天烈な個性にメグは固まっていた。故国のヌーゼリアルでは見たこともない手合いである。凜は苦笑する。
「大丈夫だよ、メグ。彼はゼルやルネのような有人格アプリなんだ。なんだか往年のファッション評論家みたいな格好なのはスルーの方向でお願い。」
凜は参加する競技について説明する。それをオリアクスはオカマっぽい仕草で聞いていた。
「わかったわ。すぐに用意したげる。ま・か・せ・て。でも、その前に二人を採寸しなくちゃいけないわねえ。」
オリアクスの目からレーザーのようなものが放たれ、凜とメグを照射した。レーザーによる3Dスキャン なのだろう。
「はーい、お二人さん、じっとしていてねえ。」
全身を舐め回されているような視線の感覚にメグは嫌悪感を感じた。
「その、彼は透視などしてはおらぬよな?」
凜の耳元でメグが囁く。
「まあ、多少はね。でも、彼らは『アプリ』だから、性的な含みは一切ないんだよね。だから、そっちの方は安心して。」
凜も苦笑する。
「ふう、凜、大分逞しくなったわね。美味しそうに育ってきて、嬉しいわぁ。じゃあ、明日にはワンダフルでアメイジングなコスチュームをお届けするわよ。楽しみにし・て・て。」
オリアクスはウインクをしながら、凜の鼻の頭を指でつつくと召喚陣へと沈んでいった。
「本当に信頼しても大丈夫なのだろうな。」
メグは信じられないようだ。まだ、声がやや震え気味である。
オリアクスが去った後、
「凜、あなたは、ああ言う『手合い』は大丈夫、なのか?」
メグには苦手なタイプのようであった。
「うん。まあ⋯⋯、大丈夫、というか、正確には『慣れた』かな。」
凛も苦笑する。
「彼らは、僕ら地球人種の過去の記憶を漁って、面白そうなキャラクターを見つけるとやりたがるんだよね。どちらかと言えば、ただのサービス精神だよ。なにしろ「七十二柱」だから、まだまだ変なヤツが満載なんだ。おかげでだいぶこっちも慣らされちゃったかな。」
[星歴1542年8月11日、グラストンベリー。聖槍騎士団官舎]
翌日オリアクスが持ってきたのは、メグのための白いイブニングドレスと、凜のためのタキシードであった。得意そうに広げて見せるオリアクスに放った凜の感想は
「案外、普通で良かった。」
であった。
「そう? こう、もっと喜んでもいいんじゃない?」
オリアクスはその反応はあまり面白くなさそうであった。
「こ、⋯⋯こんなドレスを着るのか? その肌の露出が多い気がするが。背中に布地がほとんどないではないか。」
メグは自分で手に取って一度広げて見たものの、すぐに閉じてしまう。自分が思ったより生地の面積が狭いことに不安を訴えた。
「あら、そう? メグは王女様なのだから、これでも露出は抑えめにしたのよ。それに、こんなにスタイルがいいのだから、隠していては勿体無いわよ。」
オリアクスは気にも留めない。
「さあ、試着してらっしゃい。我ら『聖杯システム』の全力の縫製よ。見えそうだけど、絶対に見えないから安心して。」
メグが着替えるため、凜は席を外す。しかし、オリアクスは一歩も動かない。メグはこちらをじっと見ていた。
「ほら、オリさんも。一旦、出て。」
凜が声をかけるとオリアクスは不思議そうに首を傾げた。
「あら、あたしなら平気よ。」
「いやいや、平気じゃないのはメグの方だから。」
「おかしいわねえ。あたしがあれだけナイスバディなら見せびらかしたいくらいだわ。」
首を傾げたまま、凜に部屋から強制排除されていった。
しばらくしてプライベートラインでメグから着替え終わった、との連絡が入り、二人が部屋に戻るとメグはドレスを着て、その上に上着を羽織った状態だった。
「サイズは問題ないんだね?」
凜の言葉にメグは頷く。
「ほら、恥ずかしがってないで上着をお脱ぎなさいな。」
オリアクスに急かされ、二人に背中を向けたままメグが上着を脱いだ。だが、もじもじしてこちらを向こうとはしない。オリアクスは呆れたように両手を広げた。
「メグ、さあ、こっちを向いて。それはね、あなたがいずれ大人になったら着なければならない正装な形よ。メグ、大人になることを恥ずかしがったり、ためらったりしないで。あなたのママも、ママのママもみんな大人になったら着ていたものなのだから。」
なおももじもじとしているメグにオリアクスは声をかけた。
(そうだ。私は大人になりたかったはずではなかったのか。)
メグが決意して振り返った。
凜と初めて出会ってから既に3年近い月日が経ち、メグの身体つきもぐっと大人っぽくなっていた。いつもは、緩めのカッターシャツと乗馬ズボン、という騎士の平服姿であるため、その成長に気にも留めていなかった凜だったが、この時はさすがにドキドキしてしまった。
「そ、その、凜。おかしくはないだろうか?」
恥ずかしそうにうつむき加減に尋ねるメグに凜は
「そんなことはないよ、メグ。すごく、綺麗だよ。……美の女神が舞い降りたかと思ったよ。」
この言葉は腹の底から真実であった。
「うん、デザインがシンプルすぎるかと思ったけど、メグが綺麗過ぎて、かえってちょうどいい落ち着きに見えるね。」
ドレスはフォーマルな純白のイブニングドレスで、ノースリーブで首の後ろに結び目のあるものだった。くるぶし近くまである長いスカートであったが、深いスリットが入っていて動くには問題がなさそうである。
「そ、そうなのか? は、恥ずかしい。」
一昨年の五月祭で来ていたドレスはロココ調のドレスであったため、露出が低く、少女らしさを強調するものであったが、このドレスを着たメグはずっと大人っぽく見えた。
反対に凜のタキシードは至ってオーソドックスな形である。ただ、凜の髪は亜麻色なので、黒い衣装はその髪色を際立たせていた。
「オリさん、なんだか僕って地味じゃない?」
凜が不満を述べるとオリアクスは指を振る。
「あら、凜。あなたはメグという芸術作品の『背景』にすぎないわ。その素敵な亜麻色の御髪も『額縁』に過ぎないわね。」
「は、背景⋯⋯ですか。」
両手を床について大仰に落胆して見せる凜に二人は笑った。
無論、イブニングドレスといっても、重力の鎧をまとった防護服である。露出しているようにも見えるが、何があっても『大切な部分』が見えないよう守られているのである。
「みなさん、『ポロリ』はありませんからね。」
ゼルが男性読者にとっての「悲報」を告げる。
「じゃあ、あたしの仕事はここまでね。あとはゼル、よ・ろ・し・く。」
そう言いながらオリアクスは再び召喚陣へと沈んでいった。
「マスカレード」競技には2種類あり、「クラッシック」と「モダン」がある。これは普通のダンスの技法を指すのではなく、「クラッシック」は重力を操って翔ぶのが男性だけであり、一方、「モダン」は男女共に重力を操るというものである。
今回は初日が「クラッシック」二日目が「モダン」である。どちらもエアレースのように指定されたコースが設けられ、障害物や妨害物を回避したり排除したりしながら4つのステージで得点を競う。競技者同士の直接の戦闘を伴わないため、位階別はまだ設けられていない。
二人は公開されているコースをチェックし、どんな空戦術を使うか打ち合わせをした。空戦術は飛行の回転技ともいえる。基本的には3つの回転の組み合わせである。
進行方向に向かって左右に傾く、あるいは回転する「ロール」。ヘソを中心に(鉄棒で回るように)前後に回転し、立ち上がったり、垂直方向へ下降、上昇するのが「ピッチ」。ヘソを中心に進行方向に向かって水平方向に回転する(水面に浮かんだ葉っぱのようにくるくる回ること)のが「ヨー」である。
そして、重力を操るのは両手両足のグローブとブーツに仕組まれた重力制御装置だ。両手のグローブは主に重力を遮断、あるいは遮蔽して持つものの重さを軽くする働きがある。男性パートが女性をリフトアップするのに用いたり、大きな武器を軽々と扱ったり、手をつないでロールする時に遠心力によって繋いだ手を離してしまわないために不可欠なものでもある。ただ、この競技用のグローブは白い手袋であり、ブーツも革靴とヒールのついたシューズの形状をしている。
一方、両足のブーツは重力の方向を調整するのである。つまり、空を「翔ぶ」ように見えるが、実際には「落下」しているのである。地上戦用と空戦用の重力ブーツの違いは、地上戦用は、空中に地面を設定するもので、跳躍も一度に垂直に3mまで、と決められている。
そして、空戦用の重力ブーツは地面を設定できない。重力の向きを設定するのである。空中での静止は認められておらず、ヘリコプターのようにホバリングする場合は、落下の角度を最小にしているのである。
マスカレードのコースはスタートから飛び立ち、第一関門のトリッキーなコースを通過し、第二関門の移動標的の破壊、そして折り返し地点では60秒の「レビュー」と呼ばれるエア・ダンスを披露し、第三関門の固定標的の破壊、そして最終関門のスピードコーナーをクリアしてフィニッシュ、という流れであった。
ただ、速ければ良い、というだけでなくダンスのように華麗なフォームも要求される。
速く、強く、美しくなければならないのである。
「残念だけど、僕に芸術点は期待しないでね〜。」
凜はそう言って笑った。動きはインプットした通りに動けるだろうが、やはり、デジタルでは測りきれない美しさ、というものは存在するのだ。
「それは問題ない。わたしもそれほどダンスは得意ではない。」
メグも笑う。メグは、最近、ガイアやフェニキアとの交渉で騎士団を留守にしがちな凜と過ごすことができる、少しでも濃い目の時間が欲しかっただけなのだ。
[星歴1542年8月13日、グラストンベリー。祭り会場。]
「マスカレード」はいわゆるフィギュアスケートと同じように順番に「飛翔」するのだ。
二人ともレースは初めてだったので、やや緊張気味だったが、結果を期待されているわけではない気楽さはあった。
二人が登場すると歓声が上がる。とりわけ、グラストンベリーの人々にとって、スタープレイヤーのメグの転籍は衝撃だったようで、いわゆる「メグ・ロス」になってしまったファンも多かったのだ。そのメグが出場するとあって、会場となる地上港周辺の特設会場に大勢の市民が駆け付けていたのである。
「最終組」の出場だった凜とメグは、というよりメグは、大きな拍手喝采を浴びた。音楽が始まるとスタートである。
1日目の「クラッシック」は男性が「空戦」ブーツ、女性が「地上戦」ブーツを履いて行う。
「行くよ。」
「うん。」
凜はメグの手を引いて飛翔を始めた。
まず高く上昇してから一気に下降しながら加速する。凜はメグと手を繋ぎ、ロールしながら第一関門に入る。メグは凜の顔を見る。その眼はまっすぐに進行方向を見つめていた。
「クイック、クイック、ターン。」
そこには狭い間隔でピンが浮遊しており、まさにダンスのクイックステップを踊るようにピンの間を縫って翔ぶ。それに触れたり衝突すると減点の対象である。凜はメグの体を引き寄せたり離したりしながら調整する。
そこを抜けて第二関門へと加速する。第二関門の手前でピッチしてメグが立ち上がる。その手には凜から渡されたスピアが握られていた。四方八方からバレーボールくらいの大きさの重力ドローンが襲いかかる。無論、それにぶつかっても減点だ。
「来るよ。」
「任せろ。」
メグは空中を水切りの石のように跳躍しながら美しい槍技で次次に倒して行く。そして、メグとカウンター気味に突っ込んできた凜の手を取ると一気に上昇へと方向を変える。
それに追いすがるドローンに、今度は上から落下する勢いで襲い掛かり、残りの機体も始末する。ともに修練することが多いので、お互いの考えていることは手に取るようにわかる。そして、その一体感がメグにはとても心地よく感じられた。
そのあとは折り返し地点のダンスシークエンスである。ステップやターン、スピン。そしてヨーを組み合わせながら上昇をするのだ。ただ、二人がともに苦手とするところではある。
重力ブーツから出される重力子が光子化する時に出る光が光り輝くダイアモンドダストのように二人の周りを幻想的に照らす。映画のワンシーンのような場面に観客は静まり上昇が終わると、拍手喝さいがわきおこる。二人は第3ステージへと一気に下降する。
そして、固定標的は三段の雪ダルマである。これは動くわけではなく、一定のダメージを与えれば良いのである。
これも、素早く、そして美しく撃破しなければならない。
「メグ、『オ○フ』をやっちゃって!」
「よし!」
メグは凜から渡された剣を華麗な剣さばきで『オラ○』に斬りつけ、倒す。そして、向かうのは最終の高速コーナーである。
ふたりは物凄い加速で駆け抜けると、最後はゴール地点への着地である。いわゆるお姫様抱っこで降下し、ポーズを決めてフィニッシュである。観客から拍手喝さいが上がった。
結果は技術点はぶっちぎりの一位であったが、予想通り芸術点が振るわず、全体の5位に終わった。
「まあ、こんなものでしょう。」
「おそらく、『モダン』の方がまだマシなので、明日また、頑張ります。」
二人は淡々とインタビューに答えたが、観客は惜しみない拍手をメグに送った。
二人が宿舎に帰ると、ビアンカがふくれっ面をして待っていた。どうやらテレビ中継を見ていたようだ。
「ずるい、ずるい。わたしもあれやりたい。凜に教わりたーい。」
駄々をこねるアンに加え、マーリンも呆れたように二人に言った。
「なぜ、お二人とも私たちに出場することを黙っていたのですか? わかっていれば応援に行ったのに。」
「ごめん、ゼルからみんなには言っていると思ってたから。何しろ、僕たちも急に出場を決めたものだから、準備するだけでいっぱいいっぱいで、それどころじゃなかったんだよね。」
そして、ふくれっ面のビアンカの膨れたほほに触れると
「ごめんねアン。内緒にして、アンのことを仲間外れにしたわけじゃないんだよ。まあ、僕も下手くそだから、見に来て欲しいって言いづらかったのは確かだけど。今度、みんなで一緒に練習しようね。」
「やった。絶対だよ。明日は応援にいくからね。」
メグは凜にべったり甘えるビアンカを見ながら、自分のリクエストを率直に表現できる彼女を羨ましく思った。
[星歴1542年8月13日、グラストンベリー。祭り会場。]
二日目は『モダン』競技である。二人とも空戦用ブーツを履けるので、空戦を得意とするメグは、こちらの方が伸び伸びと演技できるからだ。そして、『前世』を旧世界のアルゼンチンで育った凜にとって、タンゴのリズムに近いモダンは取っつきやすかったのである。
ゼルが選曲した曲も「エル・チョクロ」というアルゼンチンタンゴの名曲であった。ゼルのモデルであるアイドルの『久遠唯』がファン感謝祭で踊った曲でもあり、その地球時代の遠い昔の日が凜の頭を過ぎる。
「凜、ポーズがいやに様になっているな。」
背中合わせでスタートラインに立つメグが囁いた。
「『昔取った杵柄』ってやつだよ。」
曲のスタートと共に、光の航跡を残しながら二人は飛翔を始める。哀愁を帯びたタンゴの主旋律に乗って、凜とメグは抱擁の形でロールしながら第一コーナーを回ると最初の関門である障害物が現れる。二人は身体を離すとピッチとヨーを組み合わせながら華麗にピンを避けて行く。二人は手を打合せて互いの軌道を微調整しながら器用に避けてゆく。会場から拍手が沸いた。
続いて第二関門だ。二人はスピードを上げると斜め上方宙返りで上昇する。こうするとスピードを一気に高度に変えることができる。そこに妨害物が撃ち込まれる。二人は剣とスピアでそれを撃ち落とすと、そのまま上昇する。
一気に斜め下方宙返りで高度を一気に速度に変えるとダンス・シークエンスである。
「速度が速すぎませんかねえ。」
マーリンは首を傾げた。しかし、ここからが二人の真骨頂である。二人は身体を寄せたり離したりしながら、巧みにループを描いて上昇する。最高高度までは脚を絡め合う「ガンチョ」というスタイルで回る。最高高度で二人がダンスを終えると再び拍手が沸いた。そして二人はそこから一気に滑空する。
第三関門のスノーマンは圧巻である。凜がスピア、メグがサーベルを操り、踊るような武技でスノーマン(○ラフ)にダメージを与えた。
「やはり、お二人らしく息がぴったりと合いますね。」
マーリンが感心したように言う。
「うう⋯⋯ずるい、メグずるい。でも、綺麗。」
感動と嫉妬で胸もお腹も一杯のビアンカが呻くように言う。
「アン⋯⋯。だいじょうぶですよ。凜はまだ、誰とも付き合う気はありませんから。」
マーリンがクスッと笑った。
「そうなのか?」
「そうなの?」
「ホンマか?」
リックとビアンカが、その言葉に同時に食いつく。
「ええ。とりあえず、任務が完了するまではね。」
「よかった。まだ、挽回の余地は残っているのね。」
「うんうん。」
「それホンマにホンマなん? マーリンはん。」
「ええ、ホンマです、って。ロゼ?」
マーリンも二人も驚く。突然後ろから現れたのはロゼマリア・ジェノスタインだったのだ。
「いや、なに、二人の演技見んでええのん?」
そう言ってロゼは満面の笑みを湛えた。
凛とメグは最後の第四関門のコーナーを一気に飛翔する。
最後の降下はヨーをしながら降りるのだが、アルゼンチンタンゴのガンチョからの抱擁でフィニッシュを決めた。
観客は惜しみない喝采を与えた。
今回は技術点だけでなく、芸術点も高い評価を得てモダンで1位、二日の総合で3位に入った。
「どうだった、メグ?」
凜の問いにメグは
「すごく、楽しかった。ありがとう、凜。また、わたしと……。」
そこまで言ったところでアンやリック、マーリンがやってくる。
「すごい、凜。わたし超感動した。」
「賞金、いくら出た?」
「肉、肉食べに行こう!」
「おいおい。」
すっかり感動の場面をぶち壊されてしまったが、メグの足取りは軽かった。そして、自分の右手をじっと見る。先ほどまでぎゅっと握られていた凜の手のぬくもりを思い出すかのように。
次回、第55話「想定外すぎる、依頼。」は明日投稿です。
大統領選挙の候補者が決定する党大会。その目前で起こった事件とは?




