第53話:ロボすぎる、スポーツ。
今日は一日穏やかでしたが、マイカーが黄砂だらけに。PM2.5も混じってんだろうなあ。
今日はロボフトのお話です。やらかしぐせのある有人格アプリ、ブエルも出るよ。
[新地球暦1841年2月10日 惑星ガイア]
[スフィア時間:星暦1552年4月25日]
(名門大学なのに、勝手に部外者とゲームなどしても問題は無いのでしょうか?)
ゼルが呆れたように言う。
(ただのトレーニングの一環のつもりだよ。まあ、ホントのところは、僕の無様さを露呈させて、スフィアの騎士など大したことがない、と言いたくて仕方がないだけなのだろうけどね。)
凜は相手の気持ちを代弁してやる。
(で、頼んでいたことは済んだかな?)
ゼルはにやりとする。
(色々調べましたが、ここは一つ意表をついて、旧世界(地球)で行われていた類似のスポーツ、アメリカン・フットボールの技を持ってきました。)
(ホントに意表をつくためなの?)
凜は意地悪そうに尋ねる。
(まあ、機械の動きを数値化するよりも、元となている人の動きをなぞった方が味わいがあります。⋯⋯ごめんなさい。やっぱり、私の趣味です。)
ミニ・ゲームと言っても、試合ではなく「インターセプト・アンド・ラン」だ。
ロボフトのルールを簡単に説明すると、ラグビーのボールのような楕円形のボールを相手陣地に持ち込む、あるいはゴールバーの間にけり込む、というものである。
ラグビーと違うのは野球のようにオフェンスとディフェンスが分かれているところにある。
攻撃側は4回の攻撃権が与えられ、10m進めなければ攻守交替。10m進めばさらに4回の攻撃権が与えられるのである。野球的に説明すると、1アウトで攻守が交替する、ということだ。1ダウンが1打席に当たる。4回攻撃が空ぶれば交替。10mの全身を獲得できればヒットとみなされて、ノーストライクから攻撃続行、という感じである。
フィールドはセンターラインから両翼50mずつある。両端のエンドラインの両脇にさらにエンドゾーンとよばれる10mの区画があり、そこにボールを持って走り込む、あるいはパスをそこに投げて、味方がキャッチすれば「タッチダウン」として6点、その奥にあるゴールポストの上を投げたり蹴ったりしてボールを通過させれば3点である。
やはり、フォーメーションがしっかりあって、お互いの最前列同士がぶつかり合って、ボールキャリア(ボールを運ぶ人間)の走る道やパスコースを開けるか開けないかで争い、その後ろのグループがタックルでボールキャリアをとめたり、パスされたボールを横取りしようと待ち構えているのである。
個人のランの素養を見るためなのか、ミニゲームは『インターセプト・ゲーム』である。インターセプトとは、この競技の見どころの一つで、オフェンス側のパスを横取りした瞬間に攻守が一気に入れ替わる、というルールがあり、一発逆転のチャンスとなるのである。
「で、僕が勝ったら何かご褒美があるのかな?」
凜が尋ねるとマシューは笑いながら答えた。
「もう勝利が前提かい?」
「だって、その方がやる気が出るでしょ?」
「じゃあ、私たちの研究室にご案内!⋯⋯で、どう?」
リーナが手を挙げて提案する。
(それではあなた方へのご褒美にしかならないのでは?)
ゼルは不満そうだ。
「では、それで。」
凜が構える。
「レディ、ゴー。」
オズボーンがボールを自陣10mラインにいる凛に向かってボールを蹴り上げるするとゲームスタートだ。ボールをキャッチしようとする凛の操る『ベル・スター』に向かってディフェンスが待ち構える。いわゆるゾーンディフェンスである。
凛がボールをキャッチして着地すると、ディフェンスは次々と凛にタックルを試みる。ボールキャリアのオフェンス選手は相手を『掴む』ことができないため、押す、払う、避けるといった行動で前進しなければならない。
『ベル・スター』は一気に加速する。最初の二人をステップのフェイントで躱す。
次は第二のラインの選手たちが一気に凛の周りに殺到した。凛は走る方向を右へ左へと変える。
「捕まえ……あれ?」
タックルをするりと抜けた凜の機体はそのまま集団を抜けると、開かれた空間となったサイドラインよりを一気にエンドゾーンまで駆け上がる。
笛が吹かれてミニゲームはあっという間に終了した。
驚きのあまり、操者たちはみなヘッドセットを上に上げた。今見たことを信じられない、と言わんばかりだ。
「まあ、私たちも槍や剣の斬撃をかいくぐりますからねえ。当たっても死なない程度のぬるい攻撃では、今ひとつ恐怖心はわきませんね。」
マーリンが澄ました顔で言う。
(良くいいますね。いつも魔法の杖を盾に一歩も動こうとはしないくせに、いい面の皮です。)
ゼルがマーリンに皮肉を言う。
「確かに、どの競技にも共通するものはあるよね。」
オズボーンの言葉はほぼ負け惜しみに近かった。
「どう、私のお兄ちゃんはすごいでしょう? だって、わたしの騎士だもの。」
リーナは凜の腕に絡みついた。その顔は誇らしげである。正直、オズボーンは少しいらっとした。
「よし、もう一ゲームお相手してもらえないかな? 今度は膝下タックルもありで。」
膝下タックルとは、膝より下の部分に対する低姿勢のタックルである。危険な技だが、所詮はロボット同士である。
「OK。こちらも少し加減が分ってきたようだし、手加減は不要ですよ。」
凜は快諾する。心配そうに見つめるリーナにゼルは言った。
「何度試しても良いですが、結果は変わらないと思います。というより、経験を積めば積むだけ凜の動きは良くなるだけですから。」
ゼルの言葉通り、2ゲーム目、3ゲーム目、いずれも凜の突進を止めることはできなかった。
「くそう、ヌルヌルとにげやがって。」
自分が走る訳ではないので体力的に疲れることはないのだが、走る感覚が伝わってくるため、思いのほか体力を消耗した。おそらくはまさに頭を使うスポーツなので、頭が疲れるのであろう。
「お兄ちゃん、ご褒美に私の研究室を案内するね。」
リーナは凜の手を引いて案内する。
「信じられない。初見であんなに動かせるものなのか?」
チームメイトたちは不承不承で付いて来た。行先が同じなので凜が不思議がって尋ねた。
「みなさんも同じ研究室なんですか?」
「ああ、そうだよ。ボクらは選手として練習している他は、こっちの研究室で、有人格アプリの開発に協力しているのさ。」
しかし、さすがに同僚でも、国家機密である「ティンカーベル」の存在は知らされていないようだ。人差し指を唇に当て、リーナがウインクした。
(ティンクのことは黙っててね、お兄ちゃん。)
研究室は凜が想像していたものよりもずっと立派で大きいものだった。地上2階、地下1階の建物で、地下には実証用の生体コンピュータが、1階は実験施設、2階は研究室になっていた。
「これはまた、随分と立派だね。」
凛が褒めると、
「そりゃそうさ。この技術を真っ先に手にする国が、この惑星の次の指導的立場を手にすることになるからね。国も援助を惜しまないのさ。」
マシューは胸を張った。
「それで、やっぱり凜の中には、いるんだろ? その有人格アプリが?」
みんながそれを聞きたいようであった。
「やはり、バレていましたか?」
マーリンが答えると、
「そりゃそうさ。普通の人間が初見で傀儡をあれだけ操れるとは聞いたことがないもん⋯⋯というか、実は教授が教えてくれたことがあったんだ。
彼女がここに入学した早晩、この研究室に入ったのは、彼女が有人格アプリの所有者と接触した経験がある、ということだったからね。つまり、その該当者がキミしかいないんだよ、凜。」
「それはご明察。」
凜はマシューの頭のキレの良さに脱帽した。なるほど、知力と体力の二つを兼ね備えていないと難しいと言われるロボフトでも要のクオーターバックを張っているだけのことはある。
「じゃあ、メイン・ゲストを紹介しなきゃ、だね。みんな、リーナと接続してくれないかな?」
彼らがリーナにリンクすると初めて、そこにゼルが立っているのを見ることができたのである。
「あれ? この娘誰?」
「私はアザゼル、凜に宿る『有人格アプリ』です。わたしはずっとここにいました。皆さんの目に見えていなかっただけで。」
ゼルが自己紹介する。
「え? こんな感じになるの? これってホログラム映像?」
皆、興味津津でゼルの周りに群がる。ゼルに手を突っ込むものもいる。しかも手つきが怪しい。
「皆さん、『お触りはあきまへんでー』。」
ゼルは「化肉」(マーリンのように肉体を付けること)をしていないので、触ることはできない。
「ねえ、みんな。ゼルの外見より機能を見せてもらったほうがいいと思うよ。」
リーナに呆れたように言われ、皆ハッと気がついたようだ。
「嫌です。」
ゼルはあっさりと断る。
「私はチンドン屋じゃありません。この銀河系数多に存在する有人格アプリの最高傑作の一つなのです。それは、私の歌を聞いてもらえば理解ります。」
そう言うと、背中からマイクを取り出す。慌てたマーリンと凛がゼルを抑えた。
「ゼル、ダメだよ〜。どうどう。」
「離してください。私の歌でみんなを黙らせてやるのです。」
ゼルはイヤイヤをする。
「うん、そうですね。あなたの歌だと(物理的な意味で)みんな沈黙しちゃいますから。凜、早く。」
マーリンがゼルを抑える。そして、凜を急かした。
「ええと、歌やダンスが得意な有人格アプリを出しますね。来たれ、ブエル!」
マーリンがゼルのマイマイクをとりあげている間に、凛はブエルを召喚する。
「むぐむむむ、むぐうぐー(私だって、歌は得意です)。」
マーリンに抵抗するゼル。
「でも、なぜマーリンさんはゼルを触れるのかしら?」
この状況で気がついたのはリーナだけである。
床に召喚陣が描かれると、ブエルは「ベティ・ブー◯」のチアリーディング扮装で現れたのだ。
「前回、『赤パン裏声ネズミ』の扮装で味を占めやがりましたね。」
ゼルが毒付く。
「おお。」
ただ、観衆の反応は悪くは無かった。
「ブプッ・パ・ドゥップ」
得意のネタから入る。
「んふ、ブエルよぉ。今日は『一人チアリーディング』をやっちゃいます。ミュージック・スタート!、」
そして、ブエルは5人のベティ・◯ープに分かれると、一階の実験場のマリオネットを動かし、一緒になってチアダンスを踊り始める。
曲は、アブリ◯・◯ヴィーンの「ガールフレン◯」であった。ボンボンを振りながら、タワーを作ったり、ラインダンスを踊ったり、マリオネットに上に放り上げられたりとアクロバティックで見事な構成であった。
皆、大盛りであった。
「すごい、何が凄いって、 この作業をたった『一人』でやってのけるのが凄い。」
最後の決めポーズを終えると拍手喝采であった。
「とりあえず『らき☆す○』のオープニングで無くて良かった⋯⋯。」
凜のホッとしたところは間違っている、とマーリンはツッコミを入れようかどうか迷っていた。有人格アプリのデモに興奮気味の観衆に、
「そりゃそうです。一人で宇宙戦艦を稼働させることだってできますからね。」
ゼルは少し寂しそうに説明した。
「ねえ、ゼルのコピーとか取れないのかな?」
マシューの申し出にマーリンは直ぐに断った。
「残念ながら、それはできない相談です。一応、銀河連盟での譲渡禁止技術の一つですからね。それに、彼女のスペックは現在でも銀河系最高レベルなのです。地下の生体コンピューター程度では動かせませんよ。」
「そんなものか。」
マシュー・オズボーンは少し考えてから凜に提案した。
「ねえ、凜。うちのチームに来ないか?」
「え?」
あまりに意外な申し出に凜もマーリンも言葉を失う。
「いや、その、なんだ。凜はガイアとの友好を深めたいのだろう? スポーツで交流なんてとてもいいと思うんだ。今シーズンだけでいいから。⋯⋯キミからも有人格アプリの話も聞いてみたいし、ダメかな。」
「ゼル、色々問題がありそうだけど、どうなの?」
凜は思わずゼルに尋ねた。
「そうですね。とりあえず、今年は『祭り』のシーズンだけ確保できれば問題ありません。それこそ、プロチームですと問題になりますが、アマチュアの大学リーグであれば問題は無いのではないでしょうか。」
凜はあっさり断ってくると思っていたため、おや、と思ってしまった。
「リーナからもお願い。ねえ、いいでしょ?」
リーナに首をぎゅっと抱かれ、たわわな胸を背中に押し付けられると、凜も冷静な判断を欠きそうになってきた。
「そうだね。2、3試合くらいなら大丈夫⋯⋯じゃないのかな。考えさせてよ。」
「大学リーグはテレビ放送も入り、プロチームの試合並みに人気があるのは事実です。これを機にガイア諸国が求めて来た『交換留学生』の制度の設置に役立つと思います。」
ゼルの意見は妥当なものに思えた。
宿舎であるホテルにリーナを連れて戻ると、ロナルドとリズが娘を待っていた。
「今日のお兄ちゃん、超カッコよかったんだよ。」
リーナは録画してあった。動画を見せた。
「それでマシューが、お兄ちゃんにチームに入らないか、って誘ったんだよ。」
ロナルドは乗り気だった。
「「それ、すごく良いアイデアだね。凜、ぜひともトライして欲しい。これは何よりも良い宣伝になるよ。⋯⋯手続きなら心配ない、僕に任せてくれ。」
とんとん拍子であった。マーリンも苦笑を隠さない。
「どうやら裏口入学も出来そうですね。よかったですね、凜。」
こうして、2週間の訪問の予定を無事に終え、凜は再びガイアを後にした。
次回は「奉納試合」の話ですが、少し毛色の違う競技が登場。「第54話:華麗すぎる、マスカレード。」
投稿は4・29(祝)を予定。メグと凜が華麗に……、お楽しみに。




