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ティル・ナ・ノーグの最強騎士〜「生ける理不尽」と呼ばれる少年が挑む理不尽なミッション  作者: 風庭悠
第6部:「白人の娘は成長が早いなぁ巨乳眼鏡っ子になってるし」―大統領選挙編ー
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第52話:育ちすぎる、お年頃。

わたしの住む地域も、桜が満開! ただ、そろそろ散りそうです。なんだか週末の天気が悪いよね、最近。

前回の別れから1年半、リーナと再会する凜ですが……。

「幻想月世界旅行記」ールーク・ハミルトン・ジャンセン著より。


「これが……龍眼石?」

アブリルはモニュメントのように立つ岩を見上げた。

「ええ、そうです、お嬢さん。」

黙ったまま佇むリンに代わって、ガイドのピーターが答えた。

「魔龍の化石だっちゃ。人間がここにたどり着く何千年も前に、ここで龍族の戦争が起こったっちゃ。戦場で力尽きた魔龍たちは姿を石に変えて、魔龍王の復活を待っているっちゃ。」

妖精ゼルフォートが説明を加えた。


「だからこの石には魔力が宿っている。強く念じたことをかなえる魔力がね。でも、もう権力や富を得る、といった難しい願いをかなえるほどの力はない。せいぜい、愛する人の病気を癒す、それくらいの魔力しかもう、残ってはないんだ。」

リンがようやく口を開く。

「それだけ、いやそれこそ私が願い求めてきたものです。これがあれば、パパの病気はきっとよくなる。うれしい。伝説はほんとうだったのですね。」

アブリルは感極まっていた。兄のクリントは妹の浮かべる涙をみながら、まだその効果を疑っていた。


「さあ、削るといい。御父上の快復を祈りながら。ただ、ほかの人のためにとりすぎてはいけないよ。」

リンはアブリルにそう促した。夜明け前の空気は夏の終わりにもかかわらずひんやりとしている。北極圏近い土地だけのことはある。アブリルは父親の快復を願いながら、たがねで石を打つ。

「思ったより、柔らかい。」

アブリルは石の破片を拾い上げると、その断面は虹色の淡い光を湛えていた。

「これが、龍の涙。」

アブリルはその石を握りしめた。もう命はないはずの石なのにその感触には温もりすら感じられた。


[新地球暦1841年2月2日 惑星ガイア]

[スフィア時間:星暦1552年4月17日]


「温かい……。」

リーナは凜にもらった『龍眼石』を握りしめた。それはペンダントに仕立てられていた。



 ブラッドフォード大統領の再選に向けて、ロナルド・アシュリーは選対委員長として走り回っていた。主に各種団体、企業に対して選挙戦資金への寄付金や支援を要請する。全国各州ごとにに選挙対策委員会(選対)支部を設け、選挙人の選定を勧めてもらう。インターネットで寄付金やボランティアを募集して、戸別訪問によるローラー作戦のキャンペーンを企画してもらう。そのほかにも、キャンペーン動画の製作、演説原稿のライターを依頼したりと、やるべきことは尽きない。


ただ、ブラッドフォードには現職としての強みがあり、党内で行われる予備選で、対抗馬として登場しそうな候補で有力な者はなかった。また、その他の「泡沫」候補たちも、年が明ける前には早々に撤退を宣言してしまっていた。連合共和党の代表候補を選ぶ予備選挙は、ほぼ無風と言ってよかった。それで、ロナルドの目はすでに正式候補が確定する7月の党大会、そしてそのあとの本選挙に注がれていた。ただ、今回の選挙にかかる結果の重みは、彼がこれまで経験した選挙戦の中で最も重いものだった。


 それは、「世界の命運」だからである。ガイアに住む人類25億人の命運は、この選挙にかかっている、と言ってよかった。

 「スフィアとの連携」を訴えるロナルドが属する与党、連合共和党(UPR)に対して、「地球への回帰」を訴える野党、連邦民主党(DPF)の争いであったからである。

 国民も意見が二分されていた。国民の多くが帰依する地球教会でも共和党を支持する「世俗サドカイ派」と民主党を支持する「原理パリサイ派」に二分されていたのである。


一方、連邦民主党では、候補者が多く、まさにどんぐりの背比べの状態であったが、やがて、アンソニー・クラインが頭角を現していた。彼の持つ抜群の弁舌とフレッシュさ、は支持者たちの期待を集めていた。党員集会での討論会を重ねるたびに彼の支持率は伸びを見せていた。


そんな時に、凛が再びガイアを訪れる。 今回はアポロニア一国ではなく、惑星ガイアの国連に当たる「ガイア惑星会議」の招聘によるものであった。

それゆえ、アナスタシアの宇宙港ブルックリンには、2年前と打って変わって、多くの国の代表者たちが我先に凜を出迎えに来たのである。それで、そこにはロナルドだけでなく、アンソニー・クラインも来ていた。今回も凜はグレイスを隣に置いての登場だった。先回のグレイス人気を慮って前面で活躍してもらうためであった。


 ロナルドは凛とグレイスを満面の笑みで迎える。

「ロナルド、リズとリーナ、そしてロバートは元気ですか?」

凜はロナルドと握手を交わす。

「ええ、おかげさまで元気にやってます。特にリーナはあなたに会えることを切望しているよ。また、時間をとって家族とあってくれると嬉しいのだが。」

ロナルドのリクエストに

「もちろんです。」

凜は快諾すると、トニーにも声をかける。

「こんにちは。クライン候補。民主党の有力候補の呼び声が高いですよ。」

握手を交わすと、

「なるほど、君はちゃんとこちらのニュースにも精通しているようだね。凜、できればぼくもトニーと呼んで欲しいね。ぼくが大統領になった暁には、今度はぼくが君の交渉相手にになるのだから。」

トニーの手にギュッと力が込められる。

「OK、トニー。その時はお手柔らかに頼みますよ。」

トニーの気迫に凜はたじたじとなる。


「キミに本物の選挙(エレクション)を見せてあげるよ。剣よりも強い言論という形でね。」

トニーは選挙大戦(コンクラーベ)のことを言っていたのであるが、『揶揄』といった悪意が込められているわけではなさそうだった。


「剣よりも強いんじゃ、もっと激しそうだね。」

凜は苦笑する。騎士道の極致とみなされる選挙大戦(コンクラーベ)だが、その実態は騎士道の本道からはすでに遠くへそれているからだ。その実態は買収あり八百長ありの表には出せない駆け引きがたくさんあるのだ。


「では、先に僕は『惑星会議』の方に出るから。また、後で。」

凜たちはヴェパールでアナスタシアへと降下した。


 今回「ガイア惑星会議」が凜をわざわざ招いたことには彼らの逼迫した事情があった。当初、彼らは「銀河連盟(GA) 」の救援をあてにしていたのである。


 「銀河連盟(Galaxy Alliance)」 とは 銀河系の知的生命体の懇親組織であり、スフィアもガイアも加盟している。その目的は、惑星間通商のルールを定めることや、惑星間航路の管理と保全が主なものであった。また、先進文明惑星が後進文明惑星を侵略したり、そこを植民地にして住民から搾取したりすることを防ぐためであった。


銀河連盟は、自力で銀河系内を自由航行できる文明を持つ種族をカテゴリー1(C1)、その能力が無い種族をカテゴリー2(C2)と分類しており、スフィアもガイアも後者であた。二つの国はフェニキアの口添えによって加盟することができたのである。ただ、彼らに議決権は付与されていない。彼らは自力で議事が行われる惑星までたどり着けないからであった。


そして、カテゴリー2の種族に関しては、保護区域として、カテゴリー1の種族による侵略は認められていない。いわば「鳥獣保護区域」と見なされているわけである。

それは、スフィアもガイアも宇宙人の侵略から保護されていることを意味するが、皮肉的な一面もある。それは自然災害による救済は認められていない、ということだ。つまり、今回のメテオ・インパクトは救済の対象外、ということになる。

「野生動物」なんだから、生きるも死ぬも「自然(なりゆき)」に任せよう、ということなのである。


「それで、先日フェニキアを通じて、災害救助要請が却下されたことが正式に伝えられた、と陛下のほうにも報告があったのです。ようは、ガイアは銀河連盟に見捨てられたわけです。」

ゼルが説明する。

「そのようななこと、なぜわざわざスフィアにも伝えてきたのか?」

グレイスが疑問を差し挟む。


「それは、スフィアの方は例外的に助けてやらんこともない、という知らせがあちらからあったからです。ただ、条件があんまりでした。」

 ゼルが眉を寄せる。確かに、スフィアに関しては彼らが先住種族であるゴメル人の知恵を受け継いでいることが知られているための措置だった。ただ、それにはキング・アーサーシステムに接続されている、ゴメル人の智慧の遺産レガシーである「聖櫃アーク」、およびゼルを含む、その知恵を自由に導き出す最高位の4つの有人格アプリ「四つの生き物」を引き渡すことが条件であった。よって、そんな条件が飲めるはずもなく、スフィアは凜によって準備が進められているのである。


 一方、ガイアとしては、もはや凜の提唱する案に乗らざるをえなくなったのである。

「酷い差別ですね。惑星が隣なだけなのに、この扱いの差です。」

ゼルは皮肉を言う。

 「仕方ありません。『持っているものはさらに多くを与えられ、持たざる者はそのわずかな持ち分すら取り上げられる。』これは地球教の聖典の一節です。まさに真理じゃありませんか。」

マーリンの皮肉はさらに上回っていた。


 そのためか「ガイア惑星会議」の反応は先回の訪問よりはるかに熱烈に受け入れられた。無論、これは彼らが窮地に立たされた焦りもあるが、熱狂にはもう一つの理由もあった。演説(スピーチ)のために壇上に立った⋯⋯、というより立たされたのがグレイスだったからである。


 グレイスは前もって凜に渡された原稿を元に、演説することになっていたのである。彼女は騎士団長礼装をしており、その『ヴァルキュリア女子修道騎士会』の団長礼装は白のローブに黄金の頭飾り、飾り鎧をあしらったものであった。さらに、団長は深紅クリムゾンレッドのマントがつけられている。それはまさに、彼女のガイアにおける異名(二つ名)「月の女王アルテミス」のイメージにぴったりであった。


妖艶な彼女がそれを纏ってあらわれると出席者の間には歓声ではなく溜め息がもれた。彼女が緊張の面持ちでマイクの前に立つと、怒涛のような拍手が鳴り響いた。


 「皆さん。これまでこの二つの惑星は別々の道を歩んできました。それは、ガイアとスフィアの歴史の間には100年の歴史の差(タイムラグ)があったからです。その100年の差をもたらしたもの、それが今から1800年前のメテオ・インパクトでした。そのとき、我々スフィアの民は多大の損失を被りました。しかし、わたしたちはその災害に立ち向かうために団結し、それ以後、単一の地球人種による国家としてこれまで存続してきたのです。


しかし、その歩みは決して順風満帆なものではありませんでした。我々は400年の間、異星人の下で奴隷としてのくびきを負い、それはガイアとスフィアの科学・文明力の差を埋めはしましたが、国民性の差は、さらに広がってしまいました。


 そうです。「自ら決められない。自らを守れない。自らで勝ち取れない。」まさに、奴隷根性がすっかり染み付いてしまっていたのです。

そして、それを取り除く道のりは決して容易なことではありませんでした。そのために我々の国王と先人たちは『騎士団』制度を敷いたのです。


それは、常に緊張感を持って生きることを意味しました。国民の一人一人が騎士として立ち上がり、大事な生命と財産と権利を自らの手で守るために戦ってきたのです。それから500年、この騎士道の精神こそが国家のよりどころとなりました。ようやく我々は、共に危機を乗り越えるための皆さんと対等なパートナーとして立つことができるようになったのです。


我々はこの惑星(ほし)で生まれ、育ってきました。この惑星が我々の『地球』であり、アポロン、とよぶ我らが戴くこの恒星こそが、我々の『太陽』なのです。我々は今、しっかりとこの地に踏みとどまり、危機に立ち向かわねばなりません。

そのために我々はずっと研究を続け、それはようやく「新エクスカリバー」として実を結ぶことができたのです。


この危機との戦いは、人間同士、また生命を持つもの同士が行う不毛な戦いではありません。我々、つまり惑星ガイア、そして惑星スフィアに住まう全ての知的生命が手に手を取り合ってこの危機に立ち向かうという、きわめて崇高なものです。そう、ここにおられるすべての皆さんお一人お一人がまさに騎士として戦うべき戦いなのです。


さあ、皆さん立ち上がってください。そして叫ぶのです。『私はあなたを愛している』と。そう言えるのは我々の幸福です。

さあ、皆さん立ち上がってください。あなたが愛するもののために戦い、そして勝つためです。


明日、あなたの愛する者を奪おうとする危機を目の前にして、どうして私たちは背を向けるべきでしょうか?

明日、あなたを愛する者を助ける手段を目の前にして、どうして私たちは顔をそむけるべきでしょうか?


さあ、皆さん、手を伸ばしてください。それはあなたの明日をつかむための手です。

皆さんの腕は、あなたを家で待つ愛する伴侶や子供達を抱きしめるため腕なのです。


そして、どうかその手を私に差し伸べてください。さあ、ともに戦いましょう。そして、その時は今なのです。」


会場を割れんばかりの拍手が再び木霊する。

グレイスの演説は見事なものであった。元元、グレイスはこの惑星で人気があったので、凜が語るよりもずっと効果があるだろうと踏んでいたのだが、これほどまでとは思わなかった。完全に主役の座を食われた凜は、しばらくグレイスのサポートに徹することにしたのである。

「まるで私の方が主役あつかいなのだが」

恐縮、というか思わぬ展開に戸惑うグレイスに凜は苦笑しながら言った。

「その、『まるで』ではなく完全にその通りですよ。まあ僕にとってグレイスさんは『鵜飼の鵜』ですからねえ。うーんと、頑張ってくださいね。」



そのころ、アナスタシアの宇宙港ブルックリンに駐在するスフィア王国の通商代表部を通じてリーナから連絡があったのである。 正式な国交の無いアポロニアにおいて、そこは大使館の役割を兼ねていたのである。


[新地球暦1841年2月10日 惑星ガイア]

[スフィア時間:星暦1552年4月25日]


首を傾げている凜にマーリンが尋ねた。

「どうしました?」

「いや、リーナに呼ばれた場所がちょっとね。」

 そこは首都のカーライルでもなく、ロナルドの地元であるリッチモンドでもなく、惑星ガイアでも有数の学園都市セント・アンドリュースあった。

「『飛び級』で大学にでも入学されたのでは?」

「そうかもしれないね。」


  二人は街の空港から無人タクシーで大学へと向かった。

セント・アンドリュースの街は昔ながらの学生街で、石畳で舗装された道路を若者たちが行き来していた。

「スフィアでは騎士団が大学も兼ねていますからね。こういう方が本来の地球の姿に近いのかもしれませんね。」

マーリンが興味深そうに見まわしていた。

街路にはパトカーならぬパトリオットが治安を見守り、清掃用のマリオネットが作業をしていた。


やがて大きな大学の正門にたどり着く。マーシャル大学、アポロニア連邦でも名門といわれる大学の一つであった。

 門衛を務めるマリオネットにリーナからもらったコードを伝えると、別のマリオネットの案内を受け、校庭へと案内された。そこでは、人間ではなく、人間と同じ二足歩行のマリオネットがスポーツに打ち込んでいた。


「なかなかシュールな光景ですね。これはもはやスポーツと呼べるのかどうか。」

マーリンは皮肉った。

傀儡(マリオネット)スポーツ」。これが近年、ガイアで人気の『スポーツ』であった。スフィアの『天使』も権天使(プリンシパル)能天使(エクスアイ)力天使(デュナミス)、そして主天使(ドミニオン)は人型兵器つまりロボット兵器である。これらはパイロットは乗り込んで操縦するタイプである。


一方、彼らの兵器は外部から操縦するタイプである。それでガイアの人々は『天使』を「指人形(パペット)」、自分たちが使うロボットを「操り人形(マリオネット)』と呼び習わしているのである。


多くの「傀儡(マリオネット)」は全高2m前後の大きさである。形状は人型からそうでないものまで様々である。軍事用から、警察・災害救助に使う民生用、または工事用に至るまで用途も様々である。

人間と同等の大きさの人型の傀儡(マリオネット)は『案山子(スケアクロウ)』、全高15m以上の大型のものは『ウイッカーマン』とよばれていた。


 元々はVR(ヴァーチャル・リアリティ)技術の延長として開発されたものであった。フェニキア人を通して入ってきた技術を加えながら、ガイアの人々によって独自の進化を遂げたものである。


「お兄ちゃん!」

 久しぶりに会ったリーナはまさに見違えるほどの成長を遂げていた。身長は10センチ以上伸び、体つきもすっかり大人の女性らしくなっていた。もともとの175cmの身長で成長が止まってしまった凜とあまり変わらない。

「うう⋯⋯すでにGカップ、いやそれ以上あるかもです。あのアンダーとトップの高低差は裏山すぎます。まあ、肩は凝りそうですけど。」

ゼルが驚嘆する。


「良かった〜、来てくれたんだねえ。」

ハグを交わすとあまりの成長に凜はどきっとしてしまった。

(やっぱり、白人系統の女の子は、一気に成長するなあ。混血が進んだスフィアの12歳とはまるで違うな。)

 スフィアでは単一国家の維持のため、人種が分立しないよう混血政策を進め、言語を統一し、宗教の政治への介入を厳しく排除してきたのだ。スフィアで格差があるのは経済的なものくらいである。

 ただ、相続税は配偶者以外への相続は100パーセントであるため、一代で巨万の富を得ても、子々孫々受け継げるものは少ない。


リーナの方は無邪気にそうしているだけなのだが、これ以上ハグを続けると男の子が反応してしまいそうだったため、凜は体を離す。

「リーナ、ホントに大きくなったね。もう大学に入学したの?」

凛が頭を撫でるとリーナは満面の笑みをうかべた。

「えへへ。そうだよ。工学部で『有人格アプリ』の開発を研究しているの。」


リーナは傀儡(マリオネット)と同じユニホームを着て、頭にはヘッドセットがつけられていた。

「リーナ、何かスポーツを始めたの?」

「ん〜、スポーツっていうのかなあ。」


 凛に気がついて、若者たちが集まってくる。当然のことながら皆、リーナよりも年長であり、それどころか凛の『身体年齢」よりも上であった。大学生であった。

同級生(クラスメイト)?」

凜の質問にリーナはかぶりをふる。

「ん〜ん。同僚(チームメイト)だよ。」


 彼らは「ロボ・フットボール」の大学チームの選手だったのである。ロボ・フットボールは、マリオネット、特にスケアクロウを使ってアメリカン・フットボールに似たスポーツをさせるのである。


  元々は人間同士がしていたが、激しい接触(コンタクト)プレイが多いため、ついには防具を着せたマリオネット同士にやらせることになったのである。普通のマリオネットにはAI(人工知能)が搭載されており、ある程度自律稼働できるのだが、スポーツ用マリオネットはAIの搭載が禁じられており、自分の脳波のみで動かさなければならないのだ。

アポロニアでは「国技」といわれるほどの国民的に人気のスポーツであり、マリオネットの性能向上につながる上に、宣伝にもなる。


 リーナは以前、ワイアット・アープを動かしてからマリオネットの操縦にはまってしまい、このスポーツを始めたのだ。しかも才能があったため、大学でもチームに抜擢されたのである。


「リーナは物凄く機体(ギア)を正確に動かすんですよ。きっとプロでも通用するんじゃないかな?」

コーチが説明を加えた。

「その通りですよ。実に素晴らしい才能です。」

プロチームのスカウトであった。

「でも、親御さんは リーナにはカンタベリー大学への進学を希望なさっているのですよ。リーナは研究者の道を歩ませたいとかで。」

そう残念そうにいった。カンタベリー大学とは、ブリタニカ共和国にある惑星ガイアでは国際的にも優秀な大学である。確かに、リーナの学力であれば入学を認められる可能性は大いにある。


(凜、これも『座標系』のスポーツ、凜なら余裕。)

ゼルがふと思いついたように言った。

「そういえば、そうですね。凜、試しにやってみたらどうですか?」

マーリンもけしかける。

「いや、『試し』でできるようなものでもないんじゃない。」

リーナのチームメイトが疑問をさしはさむ。


「お兄ちゃんならできるよ。」

リーナの言葉には確信がこもっていた。

「リーナ、初心者じゃ二足歩行すら難しい。ガイアの人間は人形遊びで馴染みがあるけど、スフィアの人には無理なんじゃないかな?」

チームメイトが笑う。


「むー、お兄ちゃんはスフィアの「騎士」なんだよ。これくらい余裕で出来る子だからできるの、はい、これでやってみて。」

皆は、珍しくムキになるリーナに驚いていた。

「はいはい。」

凜はリーナからヘッドセットを受け取ると装着する。


 すると、モニターにはスケアクロウからみえる景色しか見えなかった。神経接続(セットアップ)すると自分の体を動かすかのような感覚であった。

「ねえ、リーナ、プレイの補助機能のようなものはついていないの?」

「ないよ。」

リーナは笑顔で首を横に振る。


「そりゃそうだよ凜。一応スポーツなんだから。これはただの防具の延長なんだ。ただし、監督ヘッドコーチからの作戦指示だけは表示されるよ。」

主将のマシュー・オズボーンが説明する。

「なるほど。ねえ、この機体(ギア)はなんていう名前なの?」

凜が尋ねる。


「いや、プロと違って、大学リーグは統一サプライヤーがあってね、そこから同一の躯体を購入することが決まっている。そうじゃないと公平にはならないだろ?だからいちいち機体(ギア)に名前なんかつけないよ。だから背番号が付いているだろう。まあ、プロになったらスポンサーがサプライヤーになるから、大抵名前は付いているし、大学でもトップリーグぐらいじゃないとつかないね。」

マシューが説明を加える。


「そんなことはないよ。その子の名前は『ベル・スター』。私がつけたの。」

リーナが答える。大昔の女性ガンスリンガーの名前だ。

「そりゃ強そうだ。」

皆が笑う。リーナは「妹キャラ」として溶け込み、皆にもかわいがられているような様子に凜も少し安心した。


「じゃあ、行くよ。『ベル・スター』起動スタンダップ

凜の操る「ベル・スター」が立ち上がった。歩けるには歩けるがいまいちぎことない。

「おお、立った!」

(『クララ』じゃあるまいし、立ったくらいでいちいち騒がないで欲しいです。)

ゼルが毒付く。

(ゼル、駆動形式は掴んだ。あと、ルールと主な体捌きなど、情報を収集してくれ。まあ、軍事機密と違って幾らでもあるだろう。)

凜がゼルに頼む。

(凜、ひょっとして憑依(ポゼッセオ)をやるつもりですか?)

(いや、少し違う。体の動きを瞬時に指示するコードを作るんだ。おそらく、これがマリオネットの操縦の真髄だろう。)


 凛の操る「選手」の動きが突然、滑らかになる。

「嘘だろ?」

皆唖然とした表情で見つめていた。

(どうです、いきなり尺八で音を出すようなものですから、びっくりでしょう。)

ゼルは得意そうだ。

(ゼル、そこはフルートでも十分意味が通じるよ?)

(いいんです。『尺八』の方が響きが淫靡でいいのです。)


「ねえ、この『ベル』のポジションは何?」

凜が尋ねる。

「ランニングバックだ。」

ランニングバックとはオフェンスの起点、そして要であるクオーターバックからボールを受け取り、敵陣へと切り込んでいくポジションだ。


 機体は全て同一だが、パラメータが設定されている。左右の腕力。体幹力。脚力。スピード。加速度。俊敏性。それぞれに数値を割り振ることによって機体に個性が生まれるのだという。


機体にはフットボール用の装備と、ヘルメットがつけられていた。

「どうせ顔が見えないのだから、人間でなくてもいいはずだ。」

そういうドライな発想がアポロニア人のアポロニア人らしい気質なのだろう。


ボールを持った「ベル・スター」が華麗なステップを踏みながら前進するのを見て、マシュー・オズボーンも刺激を受けたようだ。

「さすがはスフィアの騎士。簡単にやってくれるものだねえ。どうだい、ミニゲームでもやってみない?」


次回、第53話:ロボすぎる、スポーツ。4/23(日)に投稿予定です。

「ロボフト」のミニゲームを挑まれる凜。

 ほんとはこのロボフトをもっとやりたかったけど、元ネタのアメフト自体、あまり日本でなじみがなく、描写に苦労しております。自業自得ですが。

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