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ティル・ナ・ノーグの最強騎士〜「生ける理不尽」と呼ばれる少年が挑む理不尽なミッション  作者: 風庭悠
第5部:「眼鏡っ娘お嬢様(ロリ)を守るぜっ」―対テロ組織編―
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第51話:手強すぎる、獲物。

最近週末の雨が多い気がします。今日のお話は奉納試合。物語後半のコンクラーベ編に登場予定の濃ゆい連中がお相手。


[星暦1552年3月31日、王都キャメロット]


そろそろこの時期になると、次世代のホープ、と言われる選手たちが出揃い始める。特に、人位や準天位に上がった選手たちに世間からの注目が集まる。2年後の選挙大戦(コンクラーベ)の頃、彼らが準天位や天位になり、まさにチームの中心選手となる、と考えられているからだ。


さらに興味深いことに聖槍騎士団にも変化が見られ始めた。凜やマーリンの活躍で、また人気のある「闘う王女ワルキューレ」、メグの転籍によって、男女を問わず「修道騎士」を目指す者の中にその門を叩く志願者たちが現れ始めたことである。


ただ、外交日程で忙しい凜の手を煩わせることもできず、団長の透は新たに教導旅団を立てて、訓練を施すよう取り計らった。もちろん、時間のある限りは凜も指導を怠ってはいない。いずれ、この中からも凜の「第13旅団」に配属される者たちも増えていくことだろう。


「凜、そろそろ、みんなにも団体戦(トゥルネイ)の試合も経験しもらった方がいいと思いますよ。」

マーリンが提案した。


これまで、選挙大戦(コンクラーベ)出場資格である人位を取ることに重きを置いていたが、リックが人位を取ったことで、出場に必要不可欠な最低人数である5人は確保できる見通しが立ったからでもある。


「それじゃあ、祭りの2日目は団体戦(トゥルネイ)の奉納試合にエントリーしよう。」

春の祭りの時期のキャメロットはベストシーズンとも言える気候である。亜熱帯の北回帰線上にありながら、高い標高にあるため、過ごしやすいのだ。


今回、参加(エントリー)するのは首都防衛騎士団「近衛府」が主催する大会、「親衛隊杯(プラエトール・カップ)」の団体戦(トゥルネイ)であった。そのミドルクラスの大会にエントリーしたのである。

団体戦(トゥルネイ)とは、拠点制圧型のゲームで、互いの陣地に立った旗を奪いあうのである。それゆえ、「旗取り合戦(レイズ・ザ・フラッグ)」とも呼ばれる。

闘技場には、炭素系ナノマシンによってランダムに作られた建造物が舞台(ステージ)になる。

 選挙大戦コンクラーベや夜に行われる天位クラスの騎士が参加する「エキスパートクラス」の試合は8人編成であるが、下位、中位の騎士が参加する試合は通常は5人編成である。 そして今回、第十三旅団は4人であった。というのもトムは現在戦死判定を受けているため、まだ公式戦の出場は出来ないからだ。


[星暦1552年4月3日、王都キャメロット]


順調に勝ち進んだ「第十三旅団」が決勝戦で当たったのが、北方防衛統括騎士団「鎮守府」に所属する「ウルフハウンド猟団」であった。

「ハウンドドッグ」の異名をとる「鎮守府」は主に北方に展開し、麾下の7つの騎士団を束ねて魔獣の南下を阻止して来た。そのため、彼らの「旅団」は「猟団」と表記されているのだ。


彼らが立てて来たのは「猟団長」マキシム・ウルフハウンド・フォーク準天位を筆頭に、

ポール・サルーキ・ミシチェンコ

ラウール・バセット・ポチョムキン

ジャン・ノーリッチ・コルチャーク

クロード・ビーグル・ネッセルローデ

の4人の地位騎士である。今が伸び盛りの新星(ホープ)たちで、彼らが2年後の選挙大戦(コンクラーベ)団体戦(トゥルネイ)のスペシャルチームになるだろう、と目されていた。


凜は作戦を説明する。

「今回、相手はかなり強力だ。おそらく、こちらと力は五分五分だろう。それで、不満かもしれないが、今回リックは憑依(ポゼッセオ)モードで頼む。」

思わぬ強敵の出現に、リックも黙って頷いた。


 キーパーとして旗を守るのはマーリンである。普通はディフェンス2人、オフェンス3人でプレイすることが多いので、マーリン1人を置いて3人で攻めることになる。


ところが、試合が始まっても、対戦相手は出てこようとしなかった。

「どうやら縦深陣を引いたようです。」

ゼルの解析に凜は頷いた。

全員で守り、オフェンスを潰してから攻める、という作戦である。

「いかにも『猟師(ハンター)』らしい選択ですね。」

マーリンが通信で感想を述べた。


「でも、あちらさんは準決までは普通に攻めていたよね?」

リックが疑問を呈する。

「それはまず、こちらの力量を量るつもりなのでしょう。」

マーリンが推し量る。


「やはり、俺に怖れを成したかハンターどもめ。ふはははは。」

高笑いするリックにメグがツッコミを入れた。

「残念だがそれは違う。凜は一昨年、単身で魔獣を倒している。しかも獰猛な子持ちの『肉屋羆(ブッチャー・グリズリー)』のつがいをだ。恐らく、彼らもそれを知っているのだろう。」

メグは「素手」で魔獣を倒した凜の戦いっぷりを思い起こしていた。

「メグ、リックは場を和ませるために言ってみただけですよ。」

いじけるリックを見かねてマーリンがフォローらしきものを入れた。


 魔獣の恐ろしさを熟知する彼らだからこそ、それを倒した凜に対してもそれ相応の敬意があるのだろう。

「トリスタンは我々と同じ『猟師』だ。敬意を込めて最高のおもてなしを用意しようじゃないか。」

猟団長のフォークはほくそ笑んだ。


 鎮守府の副武器(サブウエポン)はライフル銃である。

むろん、弾丸が重力子コーティングされている、れっきとした魔獣狩りに使用する火器である。ただ、重力子甲冑を纏った相手には、よほど当たりどころが良くなければ、ダメージの判定は低い。ただ、狙撃の目的は、相手を倒すことよりも、警戒させて状況を作り出すことにある。逆に、「当たり所」さえよければ、即死の判定を受けることさえあるからだ。


炭素系ナノマシンが作り出した建物を凜はゼルが操るリック、そしてメグと共に進む。部屋は薄暗い。

「凜、この建物、なんだか嫌な予感がします。」

ゼルがリックの口を借りて言う。

「ああ、どうやらあちらさんのリクエスト通りのようだな。」

凜の答えにメグが訝しそうに尋ねる。

「いったい、それはどういう意味だ?」


「メグ、僕らを勝たせたくないという勢力がこの国には存在する。執政官(コンスル)になるためには天位まで位階を上げなければならない。しかし、そうなって欲しくない人がいる、ということさ。だから、今回の作られたこのステージは不作為(ランダム)によるものではなく、綿密な計算によるものだろう、それも相手によるね。」

ゼルが尋ねる。

「凜、作戦はどうしますか? 変更しますか?」

凜は首を横に振る。

「恐らく⋯⋯いや、間違いなく奴らの狙いは僕一人だ。簡単なことだ。僕が囮になる。その間に旗をとれ。」

珍しく凜の指示はシンプルだった。


「どうやって?」

メグが不安そうに声をあげる。

一方、リック(ゼル)は落ち着いた様子で答える。

「了解しました。」


「リ⋯⋯ゼル?」

リック(ゼル)はメグの肩に手を置いた。

「やってみましょう。そうすれば分かります。」


「C3稼働。」

凜の脳に宿る超高速演算システムが稼働する。凜は「空前絶後(フェイルノート)」を手にそのまま敵が待ち受ける部屋へと進んだ。そこは間違いなく狙撃用ライフルによるクロスファイヤーポイントとなるところである。


サイレンサーで音が抑えられたライフルから銃弾が発射される。凜の頭をめがけた銃弾はその前で忽然と消えた。

「空間断裂です。空間をねじって接合しています。重力子コーティング程度では貫通できないでしょう。もっとも、完全に重力子金属で作ってしまうと、物質に干渉できませんからノーダメージで通過してしまいますけどね。」


凜が構えた「空前絶後(フェイルノート)」から矢が二度、三度と放たれる。その矢は銃弾が撃たれた場所へと飛ぶが、すでにそこには射撃手(スナイパー)の姿はなかった。

(さすが、移動が早いな。)

すると、今度は凜の左足のくるぶしに重力枷が撃ち込まれた。枷は凜の足に取り付くと、重力を発生し、加重して数十キロの重さになる。

(先ほどの銃弾は陽動か。)

 重力制御ブーツとグローブのおかげで全く動けないということはないが、凜の動きは著しく制限される。すると、今度は凜の顔にサーチライトが当てられる。不意を突かれ、光を遮った彼の右手に、さらに重力枷が撃ち込まれた。

そして、そこに光学迷彩を解いた騎士たちが現れる。彼らの手には枷からのびた重力鎖が握られていた。

「なるほど、魔獣の狩り方の応用ですね?」

凜は感心したようにつぶやいた。


「ゼル、助けに行かなくてもよいのか?」

メグがリックの体を揺さぶった。

「慌てないでください。どちらが『猟師』でどちらが『獲物』か、まだ決まったわけではありません。」

凜は天衣無縫ドレッドノートを抜こうとしたが、鎖を引っ張られると体のバランスを崩され、それはかなわなかった。左足と右手に枷をかけたので、鎖で引っ張ることによって凜の動きを完全に封じたのだ。


「よし、『魔獣』確保!」

いつもの癖でそうコールしたのだろうが。凜は少し傷ついた。

「⋯⋯それはあんまりです。さすが、魔獣の扱いに長けているだけのことはありますね。」

凜は悔しがりもせず賛辞を贈る。逆に彼らはその態度に警戒を示した。


「気をつけろ、こいつの目はまだあきらめてはいない。」

凜をしとめるためにポチョムキンが剣を抜いた。その時だった。

枷と鎖で縛られているはずの凜の体が宙を舞ったのだ。

「ばかな。」


「いまです、突破します。」

その瞬間を待ちわびていたかのようにゼルはリックの体を走らせた。メグもそれに続く。

凜を束縛していた鎖は断ち切られ、枷が地面に転がっている。転送(ジャンプ)を使い、腕と足にかけられた枷は空間ごと凜に置いて行かれたのだ。


「次!」

まだ破壊されていない枷を持つポチョムキンとコルチャークが凜に投げつける。しかし、信じられないことにその枷は自らの方へ戻ってきた、いや、向かってきたのである。その枷には矢が刺さっていた。


凜が射撃手に向けてすでに放っていたものが呼び戻されてきたのだ。

「凜は無駄に射ったわけではありません。待機させておいたのです。」

ゼルは得意げに言う。こういう芸当ができるところが、凜が弓にこだわる理由の一つであろう。


「なんだと。」

枷に刺さった矢はそれにつながる重力の鎖を引いて二人の周りを飛ぶ。そして、ポチョムキンとコルチャークは自らが握るその見えない重力の鎖にからめとられる結果になった。

「なんてこった。」


「まずい。旗を守れ!。」

いきなり、戦力が半減したことに慌てたミシチェンコとネッセルローデは、急いでキーパーを務めるフォークのもとまでもどる。

 そして、戻ってみれば、すでに突破に成功したメグが旗を背にしたフォークと斬り結んでいた。

「御二方の相手は私です。」

ゼルが憑依したリックが加勢に戻った二人を迎え撃つ。


さらにその二人を追って後ろから凜が現れた。その手には「空前絶後(フェイルノート)」が握られていた。

凜が光の矢の束を放つ。一度に放たれた矢は12本。それは別々の軌跡を描き、敵の3人を一度に襲った。


その攻撃が二度、三度と繰り返されるうちに彼らはじりじりと後退させられ、最終防衛線に縫い付けられる結果になってしまったのだ。


「なんとか突破しなければならない。」

フォークは突破を目指すために、相手の弱点に集中攻撃をかけるよう命じた。


 この時、弱点なのはメグであった。

メグはやや押され、ついに包囲網を綻びさせる。


喜び勇んだ彼らが攻撃に転じようとした時、一瞬の行動線の伸びに付け込んだのが凜であった。凜はキーパーのフォークの前に飛び込むと、フォークを剣技で圧倒する。


(そうか、メグの後退は『擬態(みせかけ)』だったのか⋯⋯。)

リックが呟く。

(そうです、よく気付きましたね、リック。このチャンスは偶然の産物ではありません。これは私たち3人の連携が生んだチャンスなのです。リック、これが頭を使った戦い方です。勇気だけでは勝てません。正義だけでも勝てません。相手の知略の幅と深さを超えなければならないのです。)

ゼルはそれに気づいたリックの成長を褒めた。


 二人はフォークの支援のために後退を図ったが、今度は反転攻勢に出たメグとゼルが許さなかった。

 凜はフォークを切り伏せると、旗を掴んだ。第十三旅団が優勝を決めた瞬間であった。


凜に引き起こされながらフォークは笑う。

「いやはや、してやられました。どうやらこちらが狩人のつもりでしたが、却って獲物になってしまいました。⋯⋯次は負けません。」


「お疲れさん。優勝、おめでとう。」

戻って来たチームメイトをアトゥムとビアンカが迎えた。

「やっぱり四人はきついです。トムもそのうち出られるといいですね。」

ほとんど働いていないマーリンが愚痴をこぼした。

「きつい、ってマーリン、あんたそんなに動いてないじゃないか。まあ、俺の戦死期間は来年の末までだからな、本番ギリギリだよ。」


「しかし、今日は『魔獣』扱いされて散々だったよ。」

凜がぼやく。

「凜が魔獣ならわたし、食べられてもいいかも。」

ビアンカがうっとりとつぶやく。

「まあ確かにアンは、最近少し美味しそうになってきたもんな。」

リックがからかった。

「そ、そんなことないもん。」

ビアンカが抗議する。

「どれどれ?」

メグがビアンカの下腹をつまんだ。ビアンカの顔がひきつる。

「……女の子らしくて私は良いと思うぞ。大体、殿方のほとんどは適度に母性を感じられるくらいの程よい肉付きを好むというし。」

メグがフォローしたつもりでとどめをさす。ビアンカもさすがに答えたようで、

「か……帰ったらパパの鍛冶場を手伝うもん。あ、汗をかけば痩せるよきっと。」

(鍛冶場はサウナじゃないんですが。)

みな心の中でツッコミをいれた。


ビアンカは話をそらしたいのか、ドリンクを凜に渡しながら尋ねる。

「凜。また、(ガイア)にいくんでしょう?」

「うん。今回は二週間の予定かな。みんな、修練を怠らないようにね。」

次回、「第52話:育ちすぎる、お年頃。」再び惑星ガイアを訪れた凜。1年半ぶりにあったリーナの姿があ⋯⋯。お楽しみに。

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