第106話:夜更けすぎる、襲撃。
ケビンたちを襲った刺客の正体とは?次の対戦相手、柳生十兵衛もかっこよく再登場のお話。
[星暦1554年10月12日。王都キャメロット。]
二人が宿にしているホテルに向かう途中、店のショーウインドーが突然破られる。そこには刀を持ったマネキンが現れた。
「しまった。⋯⋯というか、これでルイが『あの』ルイ君であることが確認できたわけだ。⋯⋯ジーン、逃げるぞ。」
ケビンがジーンの腕を取ると走り始める。振り返って銃を撃つが当然効かない。しかも、土地勘のない場所だ。マネキンが刀を振るう。風切り音が恐怖を煽った。
「先輩、どうして反撃しないんですか?」
ジーンの問いに
「おいおい、歴戦の兵士に警官風情が勝てると思うか?」
ケビンがあっさりと答える。
「先輩は意外にリアリストなんですね?」
「ああ。ルイ君みたいなロマンチストとは対極だな。ジーン、さっさと凜に応援を頼んでくれ。」
半分は恐怖で、もう半分は呆れた顔をしたジーンにケビンが急かす。
「もう『応援』ではなく、『救援』と言うべきでしょうね。ところで、あちらさんは私たちの正体に気づいたんでしょうか?」
ケビンはマネキンに近くにあった看板を投げつけた。
「最初から知ってたろう。もし気づかずにこんなやつを送ってきたとしたら俺の『人相』がよほど悪すぎたのかもな。」
ジーンも拳銃を撃つ。
「きっと『目つき』の方ですよ。先輩、いやらしいですもん。」
恐怖におののいているわりに彼女の口は軽い。
しかし二人はついに袋小路に追い詰められてしまう。ケビンの構えた銃がカチカチと音だけを立てる。弾切れである。ポケットをまさぐってももう予備の弾倉はない。
「クソ、凜はまだなのか?俺ん時はさんざん文句を垂れてたくせに!」
自分の遅刻癖を棚にあげて呪詛のように言葉を並べる。
すると石畳の上に転送陣が現れ、ゼルがせり上がってきた。突然増えた攻撃対象に、マネキンは一歩下がる。ゼルは刀を握ったマネキンを見て無表情ながらも、驚いて見せる。
「マネキンが刺客ですか?まるでコ●ン君の『正体不明の犯人』みたいです。」
ゼルがボケるとマネキンがゼルに襲いかかった。ゼルは背に二人を庇いつつ手にバリアを発生させ、剣の形にすると、その斬撃を受けた。
「先回よりも随分と動きが洗練されているようですね?アリィ。」
さらに攻撃の手を止めようとしないマネキンにゼルはバリアでそれを止めると、さらにバリアが触手のように変わり、マネキンを拘束する。
「余計な真似をするな、ケビン・スイフト。我らはいつでもお前を屠ることができる。⋯⋯そしてアザゼルよ。現在の我が名はシャルだ、覚えて⋯⋯おけ。」
するとマネキンは糸の切れた人形のように動かなくなった。
ケビンは危機が去ったことを悟るとへなへなと座り込む。
「ああ、おっかねえ。銃が効かない相手と戦闘なんてよ。俺はスフィアで生まれたら絶対警官にはなりたくねえぜ。」
ジーンは冷静に突っ込む。
「でも、これは傀儡の技術ですから、どちらかといえばガイア寄りの技術ですけどね。」
二人はゼルに連れられて転送陣をくぐり、アヴァロンの凜のもとへ、カフェ・ド・シュバリエの道場に出た。そこはキャメロットからおよそ8時間の時差がある。突然明るくなり、それまで夜のとばりの中にいた二人は目がくらむ。
「ルイ君はどうでしたか?」
凜の問いにケビンは首をすくめた。
「いやいや、出鼻をくじかれたというかなんというか。これからの捜査の方針が全く見えないんだがね。」
凜は黙って頷く。それが、ここ3週間彼らをフリーハンドで自由行動させてきた理由だったからだ。
少し早めに起こされたヘンリーが二人にコーヒーを勧めた。
凜は説明する。今回の選挙大戦は凜たちアーサー王の『眷属』とハワードら『貴族』の決戦の場であるのだ。
そのため、貴族たちは戦闘で有利な脳内にC3領域を持つ戦士たちを作り上げたのだ。
「『七人の英雄』⋯⋯これが彼らのコードネームだ。彼らは人工胎で作られた身体に別の身体で育てられた『有人格アプリ』を封入されている。そして、ただ一人の例外があの「ルイ君」なんだ。」
最初は、リーナを取り返すための彼のスタンドプレーだと思っていたが、ナベリウスの調査結果と突き合わせてみると、それだけでは済まない、という予想になったのだ。
ルイだけが凜たちと同様に、既存の脳に『有人格アプリ』をインストールされているのだ。英雄たちの中で彼が果たす役割とはなんなのか。そして、短剣党と貴族たち、そして「黙示録騎士団」との繋がりとは。
「つまりルイ・リンカーンの逮捕がどうしても必要なわけだ。」
ケビンの出した答えにジーンが問う。凜が何を恐れているのだろうか、と。
「なぜですか?たしかに、テロリストとしては優秀な部類に入るとは思いますが、あなたが彼をそこまで買いかぶる必要はないのではないですか?」
「それはね、『ドM』様の影がどうしてもちらつくんだよ。」
『ドM⋯⋯様』?ですか。」
ジーンとケビンにドMについて説明すると、にわかには信じられないような表情を浮かべた。確かに、1500年以上の間、幾度となく行われてきた戦いが同一人物たちによる戦いである、という説明をまるっと呑み込める人間はそういるものではない。
しかし、彼が貴族どもの中に潜り込んでいるのは確かなのだ。しかも惑星外から「有人格アプリ」の育成を始め、本来地球人種が持っていないはずの技術を導入していることからもその影響は窺える。
「そのドMの目的は何ですか?」
ジーンの問いに凜は苦々しそうに答える。
「それは、惑星スフィアの滅亡⋯⋯だ。メテオ・インパクトを避けられないようにして多くの人々が死に、生き残った者たちが塗炭の苦しみに苛まれる場面をどうしても見たいのだ。そして、今回、ルイがなんらかのキーマンである可能性が高いんだ。」
ケビンは尋ねる。
「では、なぜ無関係な俺たちを襲ってきたんだ?」
凜はコーヒーを一口味わってから答えた。
「それはまず、僕に対する『正式な』宣戦布告だろうね。もしかすると、君たちを呼んだこと自体が、僕からの宣戦布告と受け止められた可能性もあるけど。
もう一つは絶対に捕まらないという自信があるんだろうね。そして、それを唯一の脅かす存在が君たちである、ということ。
これは僕とハワード卿、そしてルイ君とのポーカーゲームなんだ。どちらが人類の統治者となるか、というね。そして、その胴元がドM様っていう塩梅なんだ。」
ジーンが首をかしげる。
「どちらが人類を救うか、ではないんですね?」
凜は苦笑する。
「そう、それが権力とやらの腐っている部分でね。もちろん、表立った理由として人類の救いは関係している。しかし、救った人間として讃えられるのは誰の名か、というのが最大の関心事なんだよ。」
ようやくケビンもコーヒーを飲む余裕ができた。
「兎にも角にも『賽は投げられた』んだってことか。それで、手持ちのカードとしては僕たちに何をリクエストするつもりだい?」
「ルイ君を足がかりに短剣党の幹部たちを炙り出して欲しいんだ。君たちはこのナベリウスと、護衛をつける。とりあえず必要なものはなんでもリクエストして欲しい。だから今回、君たちは『外交官』の待遇で入国してもらっている。」
ケビンは頬杖をついた。
「しかし、足がかりといってもどこから攻めればいいんだよ?」
凜はすまして答えた。
「カフェ・ド・シュバリエ⋯⋯僕たちの本部(仮)から、だよ。」
「ルイ⋯⋯逃しました。」
ゼルにケビンとジーンの暗殺を阻止された「シャル」が淡々と報告した。
「ああ、⋯⋯問題ない。これでやつらの背後にトリスタンがいる事は確認できたしね。」
ルイも然程気にしていないようである。むしろ 想定内の範囲であった。
「まあ、これでやつらを引っ込める連中ではないだろうな。さて、どう出るか。まあ、俺がこのゲームのジョーカーである、ってことはわかってもらえただろうね。」
準々決勝、凜たち聖槍騎士団の対戦相手は鎮守府である。
日夜魔獣との戦いに明け暮れる「鎮守府」。実戦経験、しかも人間相手ではない極めて厳しい戦いを経験している騎士たちが多く、純粋な戦闘力においては惑星最強と言われている。
実は、決勝トーナメント直前に一悶着があったのである。
「『鉄仮面』を入れろ?⋯⋯ですと?」
執政官コンスルであるマッツォ・メンデルスゾーンの名代として派遣されたルイが要件を告げると、団長であるピエール・ロマノフスキは眉を顰めた。
「我が騎士団には歴戦の強者どもが、それこそ掃いて捨てるほどおります。実際に、我が騎士団より鉄仮面として何人も派遣致しています。⋯⋯その我々に『鉄仮面』を送り込まれますか。」
その反応はルイにとってはすでに織り込み済みのものであった。
「ええ。登録枠はどの騎士団にも等しく設けられていますからね。その枠に入れていただきたいのですよ。」
ルイは制度上のことを指摘した。鉄仮面制度は円卓が推し進めたい政策の一つであり、正統十二騎士団の一隅を占める鎮守府がその導入に慎重であることに苦言を呈したのである。
「確かに『枠』だけなら空いてはいますな。ただ、その枠を超えられなければなんの意味はありませんよ。」
ロマノフスキは噛んで含めるようにルイに言った。この若僧は、本当に鎮守府のことを理解した上で述べているとは到底思えなかったからである。
「もちろんです。でも一度、試していただけないでしょうか?まさに『武芸者』、と言える強さですよ。」
ルイは自分がセールスマンにでもなったかのような錯覚に陥る。
鎮守府の本部道場に集められたのはマキシム・ウルフハウンド・フォークの率いる旅団である。
数年前、凜たちと奉納試合で戦ったこともある。あれから、主要メンバーは全員が天位の地位を得ていた。
「悪いが、鉄仮面を取ることになった。お前たちが『軽く』が面接してもらえないか?」
団長の言葉にフォークは頷いた。
「ただお言葉ですが、かつて我々は相手を舐めてかかって手痛い敗北を喫したことがあります。戦場において我々に『軽く』という言葉はありません。」
「それは良い心がけでござるな。」
そこに男が現れる。
(サムライ⋯⋯?)
髪を茶筅髷に結い上げ、日に焼けた精悍な顔つきに、刀の鍔で眼帯をした姿。腰に大小の刀を佩いていた。
「拙者、柳生十兵衛と申す。以後良しなに。」
その表情は飄々としており、「武芸者」と聞き及んでいた騎士たちは戸惑っていた。
(少しも強そうには見えんが⋯⋯)
「彼は剣術師範として『世界樹騎士団』で指導していただきました。」
ルイの説明に皆は驚いたように十兵衛を見つめた。
「世界樹騎士団」は「鎮守府」の補佐騎士団の一つであったが、その序列は低く、本戦への出場は期待されてもいなかった。しかし、今回の選挙大戦で予選を勝ち抜いて一次リーグに進出し、しかもワイルドカード(3位枠)ながら決勝トーナメントに進出を決めていたのだ。
「ほう、指導者としては一流、ということか。」
銃の扱いに長けても剣術は今ひとつと言われた鎮守府の系列にしては、剣の腕が格段に上がったことが彼らの間でも話題になっていたからだ。その立役者が剣術師範をつとめた十兵衛だったのである。
「やはり武士なれば剣にて語るを望まれるや如何に?」
その不敵な笑みは百戦錬磨の騎士たちの心を波立たせるには十分なものだった。
最初に立ち会ったのはコルチャークである。
「旦那、あんた隻眼のようであるが、戦闘に支障はないのかい?」
コルチャークの問いに十兵衛は涼し気に答える。
「それを試すのが貴殿の役目、遠慮せずにかかってこられよ。」
コルチャークは十兵衛の死角に回り込もうとするが、すでに読まれていた。しかも、ほぼ見えていないはずなのに小手をしたたかに打たれ、コルチャークは竹刀を取り落とした。
「な⋯⋯。」
「次は俺が行く。」
あっけにとられたコルチャークを制し、ネッセルローデが竹刀を取る。彼は気合一閃、鋭い掛け声とともに猛烈なスピードで踏み込む。しかし、竹刀で受けられると逆に胴を撫で斬られる。コルチャークは信じられない、といった表情で薙ぎ払われた腹をさすった。
「次は⋯⋯。」
「お待ちなさい。」
次に十兵衛に挑もうとしたミシチェンコをルイが制する。
「鎮守府の猛者たるあなた方が無闇に突っ込んで行くのはどうかと思いますよ。まず、彼が隻眼である、という情報は間違っていませんが、彼の視覚が限定されている、と判断するのは早計ではありませんか? 最初に言ったはずです。武芸者であると。」
「ならば銃と勝負だ。『天使』を使ってな。」
ミシチェンコがベルトのバックルについたデバイスに手をかざす。修練モードで天使を起動した。
「地を這う戦いは俺たちには合わん。」
様々な形態を持つ魔獣と戦うため、ほとんどの補佐騎士団は大型ロボットに当たる「能天使」を使う。
しかし、彼ら鎮守府の騎士たちは真に強力な魔獣とさえ戦うのだ。知性を持つ強力な魔獣の中でも強く、そして狡猾な知能を持つものたちは『魔人』と呼ばれている。その多くは人型、ないしは人とほぼ変わらない大きさなのだ。好例はトムたちが遭遇した「風の一族」の長、ハスターである。そのため、彼らは一番位階の低い「天使」で戦うことが多いのである。
ミシチェンコは拳銃を二丁手にする。彼らにとってこの「二丁拳銃」こそが近接戦の王道のスタイルなのである。
「手加減はせんぞ。」
気合を入れるミシチェンコに
「そう自分を追い込むな。敗れてなお、『手加減してやった』のセリフは残しておいた方が良い。」
十兵衛はなおも余裕をくずさない。
「では拙者も遠慮なく行かせていただこう。おっと、これも余計な口じゃな。拙者が敗れたら『遠慮しておいた』ことにせねばならんのでな。」
そう言って相好をくずした。
十兵衛は刀を抜いた。「三池典太光世」。無論、こちらの名匠に設えさせたものだ。
(何?)
ミシチェンコは竹刀から刀に持ち替えた瞬間に十兵衛の放つ気が一変したことに気づく。
(実刀を持つと豹変するタイプか⋯⋯いや、虚仮威しかもしれん。)
十兵衛がだらりと構えを下げたのをみて、ミシチェンコは銃撃を開始する。
刀から火花が出る。いや、銃弾が刀身に当たったのだ。
(バカな⋯⋯。偶然だろっ!)
しかし、何発放っても弾かれてしまう。
(どういう事だ?銃弾を見切るなぞ、『魔人』レベルでもそうはいないぞ。)
ミシチェンコの顔から余裕さが一気に消え失せた。
ちなみにこの物語の主要都市三都は、王都キャメロット(ロンドン)、主都グラストンベリー(ニューヨーク)、聖都アヴァロン(東京)くらいの位置関係だと思ってください。
次回、第107話:「無双すぎる、活人剣。」は4月13日投稿予定です。




