第105話:魔女っ娘すぎる、ロボ戦。
太宰府戦、決着!深まる凜の奥義「零式」の謎。そして凸凹コンビも再登場の巻。
[星暦1554年10月12日。聖都アヴァロン。選挙大戦決勝トーナメント第1戦。聖槍騎士団対「大宰府」。]
トムの活躍がよほど効いたのか、第三戦の「団体戦」はルークが欠場し、聖槍が取り返すことに成功した。そして、第4戦の「殲滅戦」である。
「凜、今回俺を「盾手」にしてくれないか?」
「おや、なにか企んでるの?」
突然のトムの申し出に凜は思わず聞いてしまった。
「まあ、な。」
「盾手」はバリアの展開や機体の強度、盾を担当するポジションである。トムの持つ枷技はリーナの操縦と相性がいいかもしれない、そう判断した凜は申し出を受け入れた。そしてトムはもう一つ提案する。
「あと、マーリンを「打撃手」にしてくれないか?」
「え?嫌です。」
凜が驚きの声を上げるより早く、めんどくさがりのマーリンが即答で断った。
しかし、凜は少し考えてからマーリンに言った。
「マーリン、たまには仕事しなよ。きっとトムになにかいいアイデアがあるんじゃないの?」
そう一蹴され、マーリンの殲滅戦初登場が決定した。
「もう、トム。私を厄介ごとに巻き込まないでくださいね。」
マーリンの不承不承な態度にトムは苦笑した。一方、リーナもマーリンの武器であるカドゥケウスを使ったことがないため、ぶっつけ本番の状態に、やや不安そうな表情を浮かべていた。マーリンは一つだけため息をつくと顔をあげた。
「それで、私へのリクエスト、お聞きしてよろしいですか?」
凜がトムに一任した理由は明らかである。ここでこも殲滅戦を落としてもセットカウントはタイであり次のトーナメントに決着は委ねられる。たとえ勝ってもトーナメントはしなければならず、勝てば勝ち抜け、負けても代表者による一騎打ちである。クイズ番組ではないが、エンターテイメントにはこういう大人の事情がつきものなのいである。
「リーナに新しい戦法を持たせたい。⋯⋯それは『魔女っ子』だ。」
トムの一言に二人は目が点になる。しかし、トムの説明に半信半疑までその表情が戻る。
「つまり、それで、あなたが『盾手』なわけですね。
一方、太宰府は必勝を期し、ルークを操者に据えてきた。
「大陸の覇者 形成。」
ルークが宣言すると馬にまたがる槍を持った武将が形成される。
「トム、一つ言っておくけど、ルーク、いや呂布奉先は弓の名手でもある。それは分かっていての作戦だろうね? しかも、彼は僕と同等まではいかなくてもかなりの能力を持っているはずだ。」
凜はトムの後ろ姿に念を押す。
「ああ。ただそのC3の持ち主はこちら側にも三人いるんだ。」
「ただC3も万能じゃない。それぞれに特化された能力の方向性も違うことも忘れないでね。」
「鍵の乙女 アヴィ・レイドハード形成!」
リーナの宣告にどよめきが起こる。ネタは「幻月」で一緒だが、いつもの「リンドブルム」ではなくヒロインの「アヴィ(アヴリル)」を持ってきたのだ。
「アヴィ」は手にカドゥケウスを持ち、背に天使の翼を持つ、まさに「魔女っ子」であった。
「『意表をつく』ことには成功しましたね。」
皮肉とも褒め言葉とも付かぬマーリンの論評に
「『度肝』までは抜けなかったけどね。」
凜のリアクションもやや冷淡であった。
ルークの操る「覇者」が馬と共に突進する。「アヴィ」はひらりと舞い上がってそれを躱すと逆に背後に杖から発する重力弾を叩き込む。アヴィはさらに上昇するとカドゥケウスを振るう。
一方、「覇者」は弓に持ち替えると矢を放つ、それは次次に放たれると「アヴィ」を追い始めた。7本の矢が軌道もスピードもバラバラに襲いかかる。凜が警告していたのはこれだ。
「リーナ、心配は要らない。この競技だけは俺たちが上だ。」
トムの励ましにリーナが頷く。
「出でよ、月の雫たち、エトワール!」
「アヴィ」が杖をふるとキラキラとした光が溢れ出て、矢を次次に落とす。
(クソ、確かトムが盾手だったか。)
ルークは意味を悟る。カドゥケウスは重力を細かく制御できるのだ。
つまり、重力の密度を変えてムラを作り、それによって重力の「風」を作ったのである。物理的な「風」に全く影響を受けないはずの追跡矢だが、「重力」の風に煽られ失速したのである。
しかし、手が届かぬ以上、矢の数を増やすしか無い。再び矢を弓に番えた時、「覇者」の体に衝撃が走り、馬から投げ出される。
「しまった、これこそがトムの狙いであったか。」
ルークが矢に注意を集中させた瞬間、ロープのように張ってあった重力バリアにひっかけられたのだ。落馬の衝撃で「覇者」の身体がフリーズした瞬間、「アヴィ」がカドゥケウスから放った重力拘束で縛り上げられた。
「勝負あったな。」
これで最後のトーナメントにベスト8をかけられることになった。そして、最後の対戦はルーク対凜である。
「泰山青龍。出でよ、饕餮。」
ルークの甲冑が青く光る。彼の横に現れたのは人の顔を持ち、羊のような身体をした凶獣「饕餮」である。
「饕餮のデータはありません。初出です。」
ゼルの言葉に凜はただ頷いた。ルークは舞台技は使わない。敢えて使わないのではなく、平原の戦場で戦うことが主だったからであろう。
「だとすれば、あの四凶は彼の心の闇の現れだろうか。」
これまでの戦いぶりから、ただの召喚技でないことは明らかである。
「一式・隼。」
凜は構えた天衣無縫を振るい「月光」で遠隔攻撃をかける。フルパワーでは無いとはいえ「量子共振」による超光速攻撃は厄介なのであり、絶技でも無く使えるのは「ガブリエル」がかなり性能抑制をしていても最強の天使「熾天使」である証でもある。
「厄介なことだ。饕餮!」
ルークに命じられた饕餮が咆哮すると「月光」がそれる。
(重力を操るタイプか。さきほどのトムのやり方を即取り入れている。彼らは自分のスタイルにこだわっても固執はしない。だから英雄たり得たのだろうな。)
凜は封じられた遠距離攻撃にこだわるべきか、間合いを詰めるべきか一瞬躊躇した。
「では今度はこちらも参ろう。青龍の牙!」
ルークの持つ方天画戟から電撃が走る。当たってもダメージはないが、ダメージを受けたと審判のAIに「判定」されてしまうためこれは避けねばならない。
「三式・飛燕。」
凜はスピードタイプにフォームを替えると
「紫電改!」
超光速の斬撃を試みる。ガキン、という鈍い金属音が響くとすでに凜とルークの立ち位置が代わっていた。
(動きは見えるが疾い)
ルークは舌を巻く。C3の働きで凜の動きは十分予測出来るが対処するだけで精一杯である。
「強いな、貴様。一つ問おう。貴様の目指す先には何があるのだ?自分の王朝でも開闢する気か?」
突然のルークの問いに、凜は手を止める。
「それは無いですね。僕はアーサー王の最側近なんです。陛下と僕はいわば同体なんですよ。」
ルークはさらにたたみかける。
「では、自らのためではないというなら、なぜこれほどまでに必死になるのだ?貴様の望みとはなんだ?」
凜はニヤリとした。ルークは測っている。それはハワードの野望が潰えた時の自分の「居場所」だ。アーサーに取り付く島があるのか、あるいは独り立ちすべきなのか。さすがは乱世の雄である。常に流動的な情勢を俯瞰する癖があるのだろう。ただ、反対にそれがうまくいかなかった時は「前世」の二の舞になるだけなのだが。
凜は答えた。
「僕が求めるのは人類の『正常な進歩』だ。急かしすぎず、遅すぎずのね。今、この惑星の人類は無事に『中世』までたどり着いた。だから僕が目指すのは『近世』の世界だ。つまり、封建主義の完成形の世界だ。そして、それこそが『民主主義』の健全な母胎となるからね。」
ルークがキョトンとした顔になる。無理もない。かつて彼が生きた時代からは随分と先の話なのだ。
しかしこれは大事なことなのだ。かつて地球を支配した「先進国」と被支配側の「後進国」、その差は「歴史の順調な消化」であった。後進国は技術や文明をそのまま移植されることに満足してしまい「民度」を育てることに失敗した。それが、結局は超えられない壁となってしまったのである。
きょとんとしてしまったルークに凜は少し笑いそうになる。
「じゃあ、僕の小さな望みを言おうか。アーサー王は民と隔絶しすぎている。だから、民と王の媒介になる『巫女』制度を作りたい。これが僕個人の希望だね。アーサーは実務に没頭し、象徴的な役割を可愛い女の子たちにやってもらうんだ。」
凜は元々はドルヲタなので、基本的に発想がこうなってしまうのも無理はない。ただ、英雄とドルヲタの思考の格差はあまりにひどかった。
「⋯⋯解せぬ。」
ルークがつぶやく。まあ、当然のことだが。
「ゆけ、饕餮。主の力を示すが良い。」
饕餮が遠吠えを始める。それはものすごい重力波である。
「いけません。もはやこれは小型ブラックホールです。指向性があるので範囲は限定的ですが。かなりこちらがやばいです。」
『指向性』って地雷じゃあるまいし。」
やや喋りすぎた感があるだけに凜も文句は言えなかった。おかげでルークに立ち直るばかりか反撃のチャンスまで与えてしまったのだから。
「どうだ?動けまい。ではとどめを刺してやる絶技、『伏犠》。
ルークの下半身が大蛇のようになる。いわゆる変身技をベースにした複合技だろう。ものすごい速さで跳躍すると方天画戟でうちかかる。
「絶技、『零式32南海の告死鳥』」
凜も一気に饕餮の拘束ごと跳躍する。そして方天画戟の餌食となったのはその盾とされた饕餮だった。
「饕餮を外すか?」
ルークは必勝の一撃を外され、苦笑いを浮かべる。
(32は「ターボ仕様」だからな。パワーはあるが持続時間は短い。)
「それじゃ、とどめは確実に。」
貂蝉が顕現すると二人は絡み合うような形態になる。
「伏犠と女媧、『比翼連理』。」
(まさに神話の形態だな。)
二人はまさに一体となり、信じられないようなスピードで凜に襲いかかる。方天画戟が天衣無縫とぶつかり火花を散らす。凜はジリジリと後退する。
「トドメだ!」
勝利を確信したルークが戟を振り下ろそうとした瞬間。違和感が身体を駆け巡る。次の瞬間にはすでに、そこに凜はいないどころか、斬られていたのは自分だったのである。
「何?」
気がつけばライフが0になっていたのは自分の方であった。
「勝者、棗凜太朗=トリスタン。試合終了。勝者、聖槍騎士団。」
ベスト8進出が決まった。
「ルークさん。これからどうするんですか?」
ノーサイドの握手の時、トムは思わず尋ねてしまった。
「トムよ。まだ終わってはいない。⋯⋯この選挙大戦だけで事が収まる、とは限らない、ということだ。また、その時に再び、俺の出番があるだろう。その時に俺がどの陣営に立つのか、まだ決まってはおらぬ。」
そう言って立ち去って行った。
「今回、ずいぶんトムはたくましくなりましたね。おかげで今日わたしは散々な目に遭いました。」
マーリンのぼやきにゼルが
「たまに仕事をしたくらいで偉そうにしないでください。」
そう釘を刺した。
「ルークさん、最後一瞬、なぜ動きを止めたのですか?」
督戦役としてやってきたルイが敗者となって帰って来たルークに尋ねる。ただ、本体のルイは王都キャメロットで試合があるため、シャルが代わりに来ているのだ。
「俺が『止まった』……だと?」
不可解そうに尋ね返したルークにルイも首をかしげる。
「ええ、そう見えたものでしたから。なにか不具合でもあったのかと思いまして。」
「なるほど、そういうことか。なるほどな。」
ルークはひらめいたようだった。
「なにか、気が付かれましたか?あのトリスタンの『零式』の正体に。わたしもまだわからないんですよ。ぜひ、何かわかったなら教えていただ……。」
ルークはルイの問いに答えることもなく、愉快そうに笑うと控えを出て行った。
「ああ、教えてやらんこともないが、ただでは教えてやらん。」
[星暦1554年10月12日。王都キャメロット。]
「なあ?ジーン。俺たち、何のためにここに来たんだっけ?」
惑星ガイアの強国、アポロニア連邦の捜査官、ケビン・スイフトはぼやいた。
「さあ?とりあえず、わたしは戦うイケメンたちの祭典が 生で拝める、という乙女の野望を絶賛果たし中ですのでね。しかも自腹ではなく会社持ちという好機に恵まれていますが、何か問題でも?」
ケビンのとばっちりで母星から遠く離れたスフィアに送り込まれた女性捜査官、ジーン・マクファイアはめんどくさそうに答えた。その視線は上司を一瞥するだになく、モニター画面に注視している。
「いやにご熱心だな。」
ケビンは半分感心したように言う。もう半分は「呆れて」いるのだ。ジーンは鼻の穴を広げて言い放つ。
「ムハー。知らないんですか?先輩。スフィアの選挙大戦コンクラーベは銀河系でも五指に入る人気の娯楽コンテンツなんですよ。美しい男たちやその躍動する筋肉。実はネットマガジンの編集をやっている友達からレビューを頼まれましれね、それがもう、けっこういい副収入なんですよ。えへへ。」
美少女戦士に血道をあげる男達もいれば、イケメン戦士に血道をあげる女子がいるのもまたしかりである。
「何がえへへだよ。公務員が副業とは感心せんな。で、おすすめのイケメンは?」
ケビンは缶ビールを喉を鳴らして飲む。
「そういう先輩こそ、公務中に飲酒とは言語道断ですけどね。⋯⋯できてますよ。」
「シャルル・ルイ・デオン・ド・ボーモン」。それが二人が追ってきた標的ターゲットの名であった。
二人がスフィアに来て3週間。無論、ルイだけを追っているわけではなく、テロ組織「短剣党」を摘発するためのとっかかりとしてのルイである。しかし、なかなか尻尾をつかめそうもなかった。とはいえ、諦めるわけにいかない。
彼は元法務大臣フランクリン・バネットを始め要人暗殺や無差別テロの実行犯として知られていたが、2年前の副大統領子女誘拐事件の後、忽然と姿を消していたのだ。
しかし、今度は選挙大戦に「デオンの騎士」として堂々と参加しているのである。すでに護法騎士団では団長代行ハワード・アレックス・テイラーjr天位、ジョン・ハイアット・ニールセン準天位などと共に「美形」騎士として人気を博していた。
「しかし、選挙大戦はかなり特殊な選挙だ。出場中の騎士や騎士団長には国会議員のような不逮捕特権もある。だからやつにはおいそれととは近づけない。⋯⋯どうする?」
ケビンの問いにジーンはめんどくさそうに答える。
「では、スフィア政府はなんのために私たちを呼んだのでしょうね?」
「さあ、あっちとこっちのデータを付き合わせて、組織の全体像を解明したい⋯⋯というのが主目的だろうな。特に、ルイ君が潜り混んでいる騎士団と短剣党の関係を暴きたいのか⋯⋯。いずれにしても、今日の『取材』にかかっているわけだ。」
「護法騎士団」は決勝トーナメン第一戦、ヴァルキュリア女子修道騎士会を破り、 ベスト8への進出を決めた。その記者会見に突入を図ったのだ。もちろん、アポロニア連邦の取材チームの一員として入国しているため、彼らに混ざっての取材となる。
形式上はあくまでも「選挙」の体裁であるため、こうした会見は必ず行われるのが通例なのだ。
外国人記者クラブが主催する惑星外向けの記者会見で、主にフェニキア人の記者が多い。それにアマレクやガイアからの報道陣が混ざる、というところだ。
しかし、二人にとってお目当てのルイはひな壇に座らず、裏方の一人として袖の方にいたのだ。
ケビンはカメラマンとして、またジーンは記者として後方の席に座る。
(やつだ。)
ケビンは本人と直接対峙したことはないがその姿は何度も動画で見てきた。すぐに本人と確認できたのは、彼の刑事という職に従事してきた彼の積み重ねた経験に裏打ちされた「勘」によるものだ。彼は夢中でシャッターを切る。シャッター越しにルイと目が合った気がした。
(必ずお前のその細い手首に手錠をかけてやるからな)
ケビンは心の中で呟く。
司会者が偶然挙手していたジーンを指す。
「カーライル・ポストのジーン・マクファイアです。デオン・ド・ボーモン選手にお聞きします。かつて、地球のロンドン、パリ、そしてモスクワで暗躍した歴史上の人物がいました。その人物もあなたのように中性的で美しく、そして恐ろしく強かったと言います。
あなたはその人物を意識してその名を名乗っているのでしょうか?」
ルイは腕を組んで聞いていたが、突然、質問が自分に振られたことに苦笑いをうかべた。
「私に関してはお答えできることはありません。性別、年齢、出生地、そして本名に関してもプロフィール通り『非公開』となっています。そして、私がその『デオンの騎士』の生まれ変わりだとしてもそれは一つのロマンスだ思ってください。」
ルイの説明にジーンはメガネをかけた生真面目そうな表情でさらに尋ねた
「ボーモン選手のイントネーションは、ガイア、それもアポロニアのものに似ています。ガイアの出身ではないか、という噂が我が国で話題になったこともあります。……あなたはガイアに滞在されたことはありますか?」
ルイは微笑むと
「いいえ。でもいつか訪れる機会があればいいですね。」
それだけ答えた。
(別段、慌てた様子もないな。)
ケビンは少し揺さぶりをかけ、反応を見たかったのだが、肩透かしを食らってしまったように感じた。
「あちらさんも海千山千ですからね。」
ジーンも淡々としたものだ。
二人が宿にしているホテルに向かう途中、店のショーウインドーが突然破られる。そこには刀を持ったマネキンが現れる。
次回、「夜更けすぎる、襲撃。」更新は4/6予定。




