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運命を操るのは  作者: 安藤真司
番外編 誰かの文化祭
38/41

祭林茉莉の文化祭

本パートは幸魂高校二年、文化祭実行委員長の祭林茉莉の一人称で進みます。

「茉莉さんのこと、結構好きなのよ。だからいつか、茉莉さんのことも、聞かせてね」


 そんなことを言われてしまった。

 初めてだ。

 いんやー、びっくりびっくり。

 さすがかのっちゃん、生徒会長なだけあるぅ。勘がすーるどいにゃー。


 文化祭、ね。

 まぁ、ぶっちゃけ私は成功しようがなんだろうがいいとか思ってるんだけど。

 だって所詮は思い出作りでしょ。

 別に何か失敗したとしても、それはきっと悪い思い出にはならないんじゃないかな。

 高校生って結構残酷でしょ。

 自分のいいように世界を捻じ曲げてしまえるんだからさ。

「本当に楽しかったです、ありがとうございました!」

「私、来年も文実、やります!」

 うんうん。

 後輩が育つことはいいことだ。

 でもねー、私に報告されても困ると言うかなんというか。

 どんな文化祭でも同じことを言うんでしょ君らは。

 って、そんなこと文化祭実行委員長の私が言っていいことなのかしら。

 駄目よね。

 ごめんちっちに申し訳。

 良い文化祭を作りたく、このたび実行委員長に立候補させていただいたあの日の言葉に申し訳。

 ごめんね、嘘ついちゃった。

 でもいいでしょ。

 皆嘘くらいついてるし。

 皆真逆な自分を内側に飼ってるし。

 元気な自分と無気力な自分。

 積極的な自分と消極的な自分。

 あって当たり前ってね。

 表裏がない人ってどうかなって思うよ。

 ロマンティシズムとリアリズムを兼ね備えていかないとね。

 これからはグローバルな人材となるべく共時的で通時的にあらゆる問題に精通しないとね。

 閑話休題。

 かのっちゃんの話だ。

 生徒会長さんをやってるかのっちゃんこと狩野奏音ちゃんは、なかなか人格者、というか、同級生には見えないほど落ち着いてる不思議ちゃん。不思議ちゃんなのかな。不思議じゃないか。私の方が不思議ってよく言われる。

 うん。

 私は不思議だよね。

 けろりんって挨拶をする人は不思議だと思います。不思議を通り越して変だと思います。

 初対面でそういうことする人、私はあんまり近づきたくないなぁ。

 ちょっと怖いよね。

 私のことだった。

 でもこんな怖い私に対してあれだけちゃんと無視するところは無視して、話すべきところは話して、それでいて内面を見抜いてくるんだから恐るべしだよ。

 生徒会長になりたがる人って全国的に見ても、比率で出せばそう多くないんじゃないかなって私は適当な統計データを脳内に描いてみるけど、かのっちゃんはそれにしたってどういう人生を歩んできたのかしらね。

 人を思いやることができる人格者って怖いものがあるよね。

 それとも人を思いやることができる人を人格者って呼ぶのかもだ。

 それあるー。

 に、しても、生徒会役員はなーんか個性豊かだよね。豊かすぎて個性だけで呼称できちゃうくらい。

 かのっちゃんは令嬢感漂う美少女だよね。

 それでゆりっちゃんは元気元気、な振りをした根暗っ子。あれはね、私と同じ匂いを感じるよ。私よりも闇が深いかもしれぬよ。

 ゆめっちゃんは、さらに凶悪な印象さ。おどおどしてるけどたぶん逆に自分ってものをどこまでも確立していて、その上であのキャラを演じてる。ゆりっちゃんよりも闇が深いかもしれぬよ。

 闇深いな生徒会。

 いやいや、でもあれだ、くしっくんは闇深くないかもしれない。ややっちゃんと付き合ってる時点で闇が深いからねやっぱり深いな闇。

 後輩ちゃん三人組は可愛いよね。ややっちゃんとみもっちゃんとしおっちゃん。本当に可愛くて思わず抱きしめたくなっちゃうくらい。

 話によればみもっちゃんがちょいと大変な状態にあるみたい、なんだけど。

 うーん、無事、解決するといいけどねぇ。解決しなくてもいいけどみもっちゃんが元気にけろりんってできるようになるといいねしてくれたことないから無理かな。

 あきっくんがいるから大丈夫か。

 あきっくんまぢいけめんだからね。

 行動がいけめんだからね。

 みもっちゃんのことは頼んだよー。頼んじゃったよー。人任せ最高。

 はてさて、私と同い年の三人といい、後輩といい、そして先代生徒会長の綾文会長といい、生徒会役員は可愛い人じゃないと駄目とかって選考基準があるのかもしれない。

 私は入れないね。

 入りたいって思ったことがなくて良かった。

 書類審査で落とされるところだった。履歴書に写真をつけるのはやめたほうがいいと思います。


 可愛くて闇が深い生徒会だからか、それとも場数踏んでるかのっちゃんだからか、私が露骨にキャラ崩壊をしちゃったからか、まったくどうして、かのっちゃんは優しく私のことを知りたいと言ってくれた。

 嬉しいなあ。

 でもごめんね。

 私のこと知りたいって言われても、私も私のことよくわからないんじゃよ。

 何言っちゃったんだっけ私。なーにを口走ったんだっけ。

 あ思い出した。

 忘れてないけどねん。


 辛いことだって、あるよ。


 そうそう、思わず口にしちゃったよ。

 私らしくもない。

 いっそ私らしくもある。

 辛いこと?

 あるよ。

 世界は大体辛いことだらけだ。

 知ってる知ってる。

 幼い頃は無垢でいられたっていうのに、年を重ねるごとに醜い世界の実情を知ってしまうことがなにより辛い。

 例えば生まれてきた生命が必ず死ぬことは、私は別に辛いことだとは思わないんだけど。そう悲観的になるようなことでもないと思うんだけど。

 でも人は意外と他人を殺すのだ。

 でも人は意外と自分を殺すのだ。

 あぁ辛い。

 辛くて、辛くて、本当に辛い世界だ。

 なんでそんなことをしちゃうんだろうね。

 人ってだから、いつかは死ぬんだけれど、その死に時を自分で選べないんだよ。

 だから自分で自分を殺すって?

 馬鹿言っちゃいけないよ。

 そんな精神状態に追い詰められた人間が、本当の意味でその選択を自ら選んでるとでも思ってるのかい。

 私はそうは思わない。

 あとさ。

 辛いのって、だから、人間ばかりじゃなくて。

 この世界はもうなんか生命に厳しいよね。

 色んな生命がこの地球に生まれて、その度に絶滅して、それを何千年、何万年、何億年と繰り返して今があるらしい、って、どこぞやの科学者が言っているらしいよ。や、私が直接聞いたわけじゃないけどね。私はほら、あのー、そういうなんとやらがたくさん見れる博物館的なところで見たことがあるくらいなので細かい突っ込みは受け付けないさ。

 あ、教科書でも読んだことあるかも。

 でも私あんまり授業真面目に受けてなかったからにゃー。特に物理化学生物地学は滅びればいいってね。

 そうそう、恐竜よろしく絶滅したらいいさ。

 人類より先に滅びることを期待してるよ。

 そしてお偉いさんごめんなさい。

 私は小心者なので、権威にはへりくだっていきたい。

 私に頭を下げさせたらそれはもう超一流のぺこりんっが見れるのさ。私の土下座を見れば誰も彼もが私のことを許してくれるどころか私に許しを請うてくるね嘘ぴょん。

 そうそうそれで、植物も枯れるし動物は死ぬし、なんなら地球もいつかは滅びるし、この調子でたぶんいつかは太陽系も銀河系も宇宙そのものもなくなるんじゃないですかね。

 ここで疑問に思うわけだよ。

 こう思わない人ってごく一部だと思う。


 実は私の悩み、ちっぽけじゃないかしらん?


 ってね。

 思う思う。

 私が辛いって思ってることって宇宙全体で見たらスケールが小さすぎてゼプトどころかヨクトの世界に突入しちゃってもまだ足りないくらい。ちなみにゼプトもヨクトもあれね、マイクロとかナノとかのもっと強いやつね。知らない子はお勉強頑張らなきゃだめっちゃんなんだぞ!

 ……いや、私はこう無駄なことを覚えるのに情熱を注ぐことくらいしかやることがなかったんだよ数学の授業中。

 うん。

 理科は滅びればいいと言ったね。

 数学はむしろ私が滅ぼす。

 むー。別にさ、そうそうサキ高ってけっこう偏差値高いし、ここの受験を乗り切れるくらいには私も数理系できるんだよ。できるんです。嫌い嫌い言いつつ、だから私はまったくできないってぇ、わけじゃないですたい。

 嫌味に聞こえそう。嫌味ったらしく言ってるから無理もない。

 でも得意科目じゃないのは事実で、嫌いだってのも事実。

 数学の授業中にどうでもいい教科書のコラムばっかり読んで雑学の知見を深めたのも事実。

 というか、教科書が意外とトリビアの宝庫だってことにいつ気がつくかが中学生のその後を決めると言っても過言じゃないね。

 そして意外と教科書の謎コラムから問題が出題されていることがあるセンター試験に驚くのが高二か高三かが受験の分かれ目だね。

 びっくりしたよ。センター試験ってよく教科書レベルの問題をいかに素早く正確に解けるかが勝負だよって聞いてたからなるほど百ます計算みたいな感じかって思ってたんだけど全然違うんだものね。

 教科書レベルというのは否定しないけれど教科書の隅っこに載ってるレベルは教科書レベルって言わないと思います。

 あと教科書で発展問題みたいに、各章一問くらいしか載ってないレベルもさー、教科書レベルを逸脱してるから一問しか載ってないんじゃないの? 違うの? 難しい問題普通に混じってるよ?

 ふふふ、私はあんまり家族に負担をかけたくないので今から国立大学を狙っているので日々お勉強には余念がないのです。

 嫌い嫌い言いつつちゃんと数学もやってるのさ。嫌よ嫌よも好きのうちと、私は自分の好みすら凌駕しているのだよ参ったか。

 なーんてさ、おどけてみせないとまともに話すことすら難しいくらいに、私の抱える問題っていうのはたぶんしょうもないんだよ。

 悩んでるつもりでも、悩んでるポーズを誰かに気付いて欲しいだけだったりしちゃうのかもしれない。

 辛いな。

 辛いなぁ。



 文化祭当日になると、想像以上に暇になってしまうのでした。

 あっれー?

 楽しいはずの文化祭で私暇してるよー?

 こんな姿蝶ネクタイつけた眼鏡の少年に見られたら怪しまれちゃうねっ。ごまかせ。けろりんっ。

 これもまた文化祭実行委員長のさだめかしらねん。

 運営ばっかり大変で充実していて、当の当日はとうとうやることが何もないって。

 うーん。

 さすがに実行委員の仕事ばっかりやっていたこともあってクラスの方は全然手伝えてなくって、私の立ち入る隙はないのよね。お互いびんみょーに気を遣っちゃうし。

 今年も文化祭は盛況でして、うん、保護者の方々そして来年再来年に受験を控えた後輩たちも楽しんでくれているのではなかろうか。

 別に私のおかげじゃないのでそれについて嬉しいとか良かったとか、なんとも思わないけどね。

 することもないけれど、することなくて暇そうにしていたよって後で言われたら恥ずかしいから、どことなく荘厳な面持ちで、あたかも仕事中なのさって雰囲気を漂わせてぼんやり何も考えずに廊下を歩いていたら、全く同じことをしていたかのっちゃんを見かけた。

 全く同じことをしているのは、なんか、こう、すぐにわかった。通じるものがあったんだよ。かのっちゃんも私のことに気付いたみたいだ。困っちゃうね。生徒会長だもんね。意外とやることないよね。

 とまぁ私は脳内と表情のギアを入れ替えて。

 いつもの私を駆動させちゃう。

「やっほーけろりんっかのっちゃん! 元気してるぴょろ?」

「いつにも増して挨拶がひどいんですけれど……」

 あれれ。

 そうだったかな。

 いっつもひどいからよくわかないけろりん。

 でもかのっちゃんもなんだか手持ち無沙汰みたいだし、せっかくだから並んで文化祭の様子を見て回ることにしたいね。

「一緒に回ろうくるりんっ」

「その謎の語尾どうにかしてくれるなら考えます」

「あ、それでは私祭林茉莉は幸魂高校文化祭実行委員であるが故にクラス企画のシフトが存在せず、受付等々、運営側の事務作業がない現在ろくに知らぬクラスに足を運ぶのも迷惑になり、後輩の企画も興味はあっても一人では入るのが難しくかといって一人ぼっちでいると周囲に思われるのも遺憾なので何か仕事している風でこの辺り彷徨っていたところなのでありますが是非とも私と文化祭ご一緒していただけないでしょうか」

「うざいから却下」

 ひどっ!?

 気持ちはわかるけどひどいな!?

 およそ生徒会長の発言とは思えないよ!?

 はい、ふざけるのはこのくらいにしておこう。

「一緒に文化祭回ろ? かのっちゃん」

「ええ、実は私も……可愛い後輩のクラス、入ってみたかったんだけれど、一人だとちょっと、ね」

「あ、じゃあ私もみもっちゃんの様子は見ておきたいにゃー」

「一年一組ね。行きましょうか」

 そうと決まればいざ行かん。

 ところで、生徒会長と文化祭実行委員長ってことでこの文化祭までの間、結構かのっちゃんと話す機会って多かったんだけど別に去年も今年も同じクラスじゃなかったし、意外とお仕事以外の話ってあんまり……うん、してた気がすごくしてきたけど、こうして雑談しながら文化祭を楽しむとは思ってもみなかったなぁ。

 人間の繋がりって不思議ね。

 のほほんと歩いてみもっちゃんのクラスに着くと、ベニヤ板にペイントされた公演時間をまず確認する。

 もうすぐに次の公演が始まるみたいだ。

 あーでもみもっちゃんの回なのかな。

 同じことを思ったのかな、かのっちゃんが受付の男の子に話しかけた。

「次の回ってみもりちゃん、森崎さん出てるかしら?」

 生徒会長に話しかけられたからか、それとも可愛くて綺麗なかのっちゃんに話しかけられたからか、少しどぎまぎしながら男の子が話すには、次の回は残念ながらみもっちゃんじゃあないみたい。

 もう一つ後の回がみもっちゃんとあきっくんの回だそうなので、時間を確認して一旦はその場を離れることにする。

 とはいえ、次の回まで微妙に微妙な時間が空いてしまった。

「せっかくだから、私の後輩の様子見たいのだけれど、いい?」

 悪い訳がない。

 しおっちゃんとややっちゃんのことが気になるのだろう。

 わかるわかる。

 私も文実の後輩より生徒会の後輩ちゃんの方が気になる。

 っていうか文実の後輩は顔と名前を全然覚えてない。

 覚える気がないからね。

 どうでもいいことは。

「茉莉さん、茉莉さんってば」

「へっ? えっ? ごめん聞いてなかったけろ。嘘聞いてた聞いてたいいよ行こうしおっちゃんとことややっちゃんとこだよね」

 ぼーっとしてしまっていた。

 よくないね。

「茉莉さんはそういうところがあるわよね。たまに怖いわ」

「こ、怖い……?」

 あうう。

 ちょっぴりショック。

「人の話聞いてないといいますか。心ここにあらずといいますか。怖い顔してる」

「あっはは。もうかのっちゃんは鋭いなぁ」

 鋭すぎだね。

 鋭利だね。

 話しながら、私とかのっちゃんはちょいと同じ階にあるややっちゃんのクラスに足を運んだ。

 お化け屋敷だ。

 確かややっちゃんは可愛い、なんだっけ。悪魔だか吸血鬼だか、なんかそんな感じのコスチュームプレイ……って言ったら怒られそうだけど、そんなんしてるのよね。

 暗い中でわかるかしらねん。

「それで、何、考えてたの?」

 受付で少しだけ順番待ち。

 前の組がある程度進んでからじゃないと出発できないのはお化け屋敷として当たり前だろう。

「えーっ、んー、そうだにゃー」

 ちょっとだけ考えて。

 本音を言ってしまう。

「や、文実の後輩の様子は気にならないなあって。あと、顔も名前もわからない子ばっかだなって」

「……随分といきなりぶっちゃけるわね」

「ぶっちゃけて欲しいって、いつか教えて欲しいって言ったのはかのっちゃんでしょ」

「ええ、そうだったわね」

 かのっちゃんは嬉しそうに笑った。

 可愛いな。

 でも何がそんなに嬉しいのかよくわからない。

 私、結構嫌なことを言ったと思うけど。

「文化祭が楽しかったですとか、成功してよかったとか、そういうのよくわかんない。全部私、関係ないし」

「あぁ、そういうね」

 かのっちゃんは引いたり馬鹿にしたりしなかった。

 ただ、なるほどって、頷いた。

 わかるんだろうか。

 かのっちゃんにも。

 案内されて、教室に入る。

 ここではこの世とあの世との境目が曖昧になってしまって、生きているものを死の世界へと引きずり込もうと化け物が寄って集ってくるらしい。なんて恐ろしい設定なのかしら。

「私なんていなくても文化祭は楽しいものだと思うよ。私なんか関係なく、皆文化祭を楽しんでると思うよ。なのに一々私に報告しないで欲しい」

「そう、それだけ?」

 それでは懐中電灯を持って、ゆっくり走らずお進みくださいと、お化け屋敷が始まる。

 いつしか私とかのっちゃんは手を繋いで、というか懐中電灯が一個しかないのでどうしてもそんな感じで恐る恐る進むしかないんだけどね、それで前にかのっちゃんが、それに続く形で私が歩いていく。

「それだけって? それだけだよ。文化祭を見てて、ずっと考えてたの」

「どうしてそんなことを考えてるのか、の方は話してくれないのかしら?」

 どうして、って言われた。

 どうして考えてるのか、って、ねぇ。思考は割と勝手に働くものじゃない。

「辛いことだってある、ね……茉莉さん」

「なにかな?」

「私も知ってる。辛いことばっかりよ、世界は。例えば、大切な人と結ばれなかったり。大切な人と結ばれたことがなかったことにされたり。大切な人と大切な人とが幸せになれなかったり。大切な人の幸せを自分が奪ってしまったり。大切な人のために何かをしようとしていたのに、いつの間にか大切な人を傷付けたり」

 かのっちゃんの話は、少し難しかった。

 大切な人って表現がゲシュタルト崩壊気味だ。

 ミイラ男と幽霊とゾンビが私たちの手を掴んだり、鋸の音が響いたり、精一杯私たちを怖がらせようとしてくる。

 怖いな。


「お母さんが死んじゃったりね」


 私は、ぽつりと。

 呟いた。

「辛いことだってある。だって、人は生きてれば、死ぬんだから」

 かのっちゃんは何も言わない。

 言わないから、私は続ける。

 独りよがりに。

「見にきてくれるって、言ってたんだけどね。体育祭も、文化祭も」

 言っていたけれど。

 来れなかった。

 辛い。

 辛い。辛い。辛い。辛い。辛い。

「辛くて、死にそう」

 正確には、死にたくなっちゃう。

 もっともっと正確には、お母さんに会いたい。

「お母さんはさ。でも笑うと思うの。私が元気に生きていてくれるなら、それでいいって。でも同じだよね。私にはそりゃ、子どもがいる親の気持ちなんてわからないけど、でも、私だって子どもなりにお母さんには生きていて欲しかったよ。生きていてくれるなら、それでいいって」

 別に、お母さんのために文化祭をやってきたわけじゃないけど。

 お母さんのことがあったから、暗い気持ちで文化祭に臨んでいるってわけでも、あんまりないんだけど。

 それでも、世界に辛いことがあるんだってことは、嫌でも感じてしまう。

「茉莉さんは、強いのね」

「そうかな? こうやってかのっちゃんに話しちゃうくらいだから、まだまだ弱いと思うな」

「ごめんなさい。軽々しく聞いたりして」

「いいよ。かのっちゃんが興味本位であっても軽々しく聞いたわけじゃないことくらいは私もわかるさ」

 あ、そこにいるのややっちゃんだ。

 動かないようにじっとしてるけど、たぶん近づいたら驚かしてくるんだろうな。

 挨拶したくなっちゃう気持ちをちょっと抑えて、近づく。

「がおーっ」

 あ、可愛いややっちゃん。

 全然怖くない。

「可愛いなあややっちゃん」

 パシャリ。

「ええ、綾文先輩が妹好きになるのもよくわかります」

 パシャリ。

「ちょッ、先輩方写真は遠慮してくださいですッ……」

「あ、ごめんよややっちゃん」

「ごめんなさい。詩織ちゃんが、弥々ちゃんに対してはこうするのが礼儀だって言っていたのを思い出して」

「同じくだよ」

 恥ずかしそうにしてるややっちゃんが可愛い。

 そして生徒会役員一年生は仲が良すぎよね。

 いいことだ。

「あーもー……ついでにお化け屋敷入って重たい話するのやめてくださいですー」

「「善処します」」

「仲良いですね。はい先進んでください」

 ややっちゃんが呆れてる。

 なーんかややっちゃん私に対して冷たいんだよねー。

 私もっと仲良くしたいのに。

 仕方ないので奥へ進む。

「あー、祭林先輩」

「ん、なにかね?」

「辛いことだってあります。でも、辛くないことだって、ありますよ」

 その言葉は、うん、ありがたく受け取ろうかな。

 わかってるよ。

 大丈夫。

 良いこともあるよね、この世界は。



「楽しかったね! そしてややっちゃんは相変わらず可愛いね!」

「ええ勿論、自慢の後輩ですから」

 ややっちゃんのクラスを抜けて、大きく伸びをする。

 話したら少しだけ、肩の荷が降りた気がする。

「茉莉さん、私、やっぱりあなたともっと仲良くなりたい。それで、もっと話をしたい。あなたのことを知りたいし、私のことを知ってもらいたい」

「なにそれ告白?」

「そ。愛のね」

「愛かぁ」

 困っちゃうなあ。

 私確かに恋人はいないけれど。

 こんなところで告白だなんて。


「次は詩織ちゃんのクラス。それで、みもりちゃんの劇を見て……その後はどうしましょうか」

「せっかくだから聞いてよ。私のお母さんの話」

「じゃあそうします」


 お母さん。

 お母さんは今の私を見て、なんて話すかな。

 嬉しい?

 それとも寂しい?

 私は、うん、たまに黒い自分が出てくるけれど、どうにかやっていけそうだよ。

 私は大丈夫。

 大丈夫だけど、ちゃんと見守っていてね。

 いつかもう一度会えるときまでちゃんと見ていてくれないと恨むから。

 で、そのいつかの日、きっと会えたら、こう言おうと思うんだ。


 けろりんっ。


 「なにそれ」って。また笑って欲しいな。

 「挨拶くらいちゃんとしなさい」って。また叱って欲しいな。


 隣のかのっちゃんが笑う。

 なんだかとっても落ち着く。

 ふむふむ意外と、悪くないかもしれない。

 かのっちゃんとのレズレズ生活。


「付き合っちゃおうか、かのっちゃん」

「え、え? 本気?」

「私はいつだって本気だよかのっちゃん! 好きだ! 付き合ってくれーっ!」


 私は抱きついて。

 かのっちゃんが叫ぶ。


 私はいつでも本気で冗談を言うのさ。

 よし。

 ちょいと辛いこととやらをぶっ飛ばしに行こう。

 それに付き合ってちょうだいね。

 頼んだよかのっちゃん。


 けろりん。

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