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運命を操るのは  作者: 安藤真司
番外編 誰かの文化祭
36/41

菊池蘭菊の文化祭

本パートは幸魂高校一年一組村人A役兼シンデレラ役、菊池蘭菊の一人称で進みます。

「ところで一つ皆に相談したいお話があるんですけれど」

「恋、したこと……ある?」

 うわわ。

 けっこうクリティカルなことを聞いてくるなぁみもりちゃんは。

「いやー残念なことに私はそういうのは全然」

 私はこう言うしかないよね。

 事実だしね。



 うん。

 そうなのさ。

 いたこと、ないのよね。

 そりゃあね、幼稚園の頃仲が良かった新宮(しんぐう)くんを含めていいのなら含めるけど、たぶんみもりちゃんが聞きたいのはそういうことじゃあないよね。

 恋愛って、むー、なんだかよくわっかんない。

 大体小学校も高学年くらいになってくるとそんな話も女子の間で出てくるけど、皆の話す好きって感情は一体どうしてそうも明瞭なのかしら。

 それともあれかな、最近知ったけれど、みもりちゃんは少女漫画が割に好きらしいけど私ほとんど読まないからわからないのかしら。みもりちゃんが少女漫画好きって意外だよね。意外で、うん、かわいい。

 少女漫画が人生のバイブルだとか大それたことを話すみもりちゃんはでも、好きな人のことで大変に大変らしいからあんまり漫画は関係ないかもね。

 恋愛ねー。

 うー。

 あー。

 むー。

 嫌なわけじゃあ、ないのよ?

 そんなね、男子ってまだまだお子ちゃまだから、とか。

 王子様を待っているんだとか、興味がないとか、実はすごい性癖でとか、全然そんなことはなくて。

 強いて言えば王子様を待ってるんだ、は近いのかな? 別に待ってないけど。

 なんかね、単純に、出会いがない。あと意欲がない。

 出会いったって、そりゃ毎日高校に通ってるわけで、出会いがないわけないんだけど、別に心がどきどきしちゃうような場面とか遭遇したことがない。

 それなりに仲が良い男子はいないでもないけど、別に告白されたこともないし、もちろん告白したことはないんだけど、あとはプライベートで遊んだこともないかな。中学の頃も含めて、体育祭とか文化祭とか合唱コンクールの打ち上げでクラスの参加できる人でどっかごはん食べに行ったり、吹奏楽部でやっぱりご飯だとか部の合宿だとかはあったけど。

 けど、ねー。

 ふとした拍子にどっきりしたことないんだよねー。

 まーそういうことがあればそりゃあ、うん、楽しそうだなとは思うんだけど、自分からそのトキメキを探そうとまでは思わない。

 ソファみたい。

 友達の家にあるのを見ると、いいなぁと思うけれど、座ってみちゃうけれど、欲しいなぁとは思うんだけど、でも買いたいとは思わないし、お金も貯めないし、親に欲しいよーなんて言ったりもしない。

 だから、そんな感じ。

 でも、皆欲しいって言うんだよね。

 それで、結構、買っちゃうの。

 私はこのまま買わないままでいいのかなー、一回ちょっと試してみてもいいのかなー、でも試すってなんだろなー、なんて考えちゃう自分が最近いてしまって。

 なんだか私だけ遅れてるんじゃないか、幼いままなんじゃないかって不安も、あるような、ないような、微妙で、微妙なんだよねぇと思ってる自分がいることがむしろちょっぴり嫌、かも?


 その点、音楽っていいよね。

 聴くのも、奏でるのも。

 私は小さな頃に聞いた、童謡でクラリネットって存在を知って。あれ? あれって童謡だっけ? 童謡の定義ってなんだっけ?

 混乱しちゃった。

 お話を戻す。

 その存在を知って、お母さん、いやここはママと呼称しておくけれど、聞いたものさ。

 どんなものなのって。

 そしたらまぁ、本物、とはいかずにね。

 パソコンの画面を見せてくれたのさ。

 さすが情報化社会!

 欲しい情報はなんでも簡単にネットで検索が出来るね! いい時代だ。

 いい時代なのかな。なんでも簡単にネットで検索できるとかっていうけど、その実私はあんまりネットってものを信じてない。

 信じてないっていうか、あ、また脱線した。

 お話を戻す。

 クラリネット奏者の動画をママに見せてもらって、それで胸がきゅーんとね。やられちったわけです。

 なんって綺麗な音色。

 学校の授業でやってるリコーダーの音はここまで私を動かさなかったのに、どうして似たような形のこれには惹かれたんだろうって、今でも少し不思議だけど。いや音色がまず全然違うし、実は形もそんな似てないけどさ。

 私はクラリネットの音に導かれて、それで我が儘言ってようやく中学に入ると同時に買ってもらったの。

 ソファーは要らないけどクラリネットはなきゃ死んじゃうって。

 ちなみにそれまではネットでクラリネットの音を聴いてます。ネットは信じてないけどクラリネットの耳触りの良いぽえーんって感じは聴けるのです。

 うん、クラリネットの音のことぽえーんとか表現されたらぶちぎれるわ。

 自分のことは棚に上げるけどね。

 お話を戻す。

 えっとえっと、恋愛のお話はなんだか難しいけれど、音楽はいいよねって話だっけか。

 そうそう、音楽いいよね。

 譜面通りに音を出せば誰でも同じ曲を奏でることができるの。

 なのに、同じ音を出してるはずなのに、人によって全然変わるのが不思議。

 心が穏やかになるのも不思議。

 不思議不思議。

 不思議だから好き。

 だけど、小競り合いとかはやっぱり、あんまり好きじゃない。

 いいじゃん。

 皆違って皆いい。

 皆そう言うんだよ。

 そう言うの。

 だって自分達が世界で一番技術があるだなんて思ってないから。

 思ってないのに、なんでコンテスト前になると、こう、ぎすぎすしだすんだろね。

 先生が本気で怒る。

 生徒も本気で練習する。

 そういうのは、別にいいと思うの。いいと思うんだ。

 でもさ、でもでも、もっと大事なことがあるじゃんって、思っちゃうよ。

 コンテストで何番とか、どうでもいいじゃない。

 やる気がないなら帰りなさいとかさ。必要なのはやる気なの?

 せっかくの音楽だよ。

 どうして楽しもうとしないの?

 おかしいよね。

 コンテスト終わった後さ、私は皆で笑いあいたいよ。楽しかったね、他の演奏も綺麗だったねって。

 なのに、毎回毎回驚いちゃう。

 去年より順位が良かった去年より順位が悪かった。演奏が良かった悪かった。

 喜ぶのは音楽が楽しかったからじゃなくて、順位。

 悲しむのはミスしちゃったからじゃなくて、ミスしたことを責められたこと。もしくは、これから責められるだろうってこと。

 競争心が人を育てるっていうのは確かだと思うし、向上心や目的意識を持って何かに打ちこむ人は、ぼんやりとただ自分が楽しければいいって練習する人よりもきっとたくさんのことができるようになるんだと思う。むしろ、そうであって欲しい。

 でも私は、それを集団で強制されたくない。

 ううん、強制されたくない人ばっかりなのに強制されている空間が嫌。

 皆本当は、楽しくできればそれでいいんじゃないかな。

 でもどうなんだろ。

 意外とそうでもないのかな。


 あーあ。

 また話が変わっちゃってた。それもなんだか悪い方向に。

 やだもー私ってば普段は茶目っ気キャラ気取ってるんだから暗い話はナシナシ!

 今日はせっかくの文化祭なんだから楽しまなくちゃ!

 それにみもりちゃん繋がりで生徒会役員をやってる詩織ちゃんに弥々ちゃん、二人と仲良くなったところじゃない! いいことだ!

 って思ったんだけど、そもそもこの思考の原因はみもりちゃんだった!

 そーなんだよー、みもりちゃんてばほんっと大変だったんだから。うーん、いや今も大丈夫なのかどうか、ちょっと判断は保留したいところなんだけど。

 文化祭が始まる一週間前くらいから、かな。みもりちゃんなんだかとっても変で、体調も悪そうで、疲れてて。ひっどい顔しててさ。

 原因が、大切な人がどこか遠くに行っちゃったから、で。どうにか見つけて文句を言ってやる算段がついたから、元気になった、みたいなんだけどいやーよくわかんないよね。

 本当なのかなぁ。なんか嘘っぽい。

 嘘っぽいってか、全部を話して、なさそう。

 とはいえ、全部を話されたところで私とか千夏ちゃんとか満智ちゃんにどうこうできる問題なのかどうか、問題だったのかどうかは疑問だけどね。

 みもりちゃんもそうだけど、千夏ちゃんとか満智ちゃんはちょっとこう、なんていうのかな、少し特殊、というか、普通の高校生にしてはなにかとスペックの高いところがあるけれど私は至って普通、普通で普通の高校一年生で。

 特殊な悩みも、異常な事態に出くわしたことも全然ないのよ。

 なんにもない。

 だからみもりちゃんのお悩み相談が不肖、私に務まったかはわからない。

 みもりちゃんは元気そうに会話を楽しんでるように、うん、見えるかな。

 あぁ、そういえば今こうして話しているのは先輩のクラスで、弥々ちゃんの彼氏さんのクラスだそうね。和風喫茶ということで和服に身を包んだ先輩方が接客してくれて、実際彼氏さんが話もしてくれたんだけど。

 いやー、なんかすごいね。

 千夏ちゃんも先輩と付き合ってたはずだけど、弥々ちゃんも一個年上の先輩とちゃんとお付き合いできてて、すごいなーって。

 軽くそんなことを思ってたんだけど。

 けど……うん。

 そう簡単なものじゃあ、ないよね。

 弥々ちゃんは弥々ちゃんで色々、考えることがあったみたいだ。

 私なんかより、ずっと大変そうな何かを乗り越えて、幸せそうな今を掴んだ、みたいな。

 そんな印象を受けた。

 あっははー、だから、そもそも私は全然全くこれっぽっちも苦い経験ってもんをしたことがないんだってば。

 自覚はしてたって。痛感したってだけで。

 うんうん。

 ちょいと空気に耐えられなかったこともあって、あとは、弥々ちゃんからそういう態度を求められたこともあって私は思わずふざけてしまった、の、だけど。

 こんな私で良かったかな。

 ちゃんと、みもりちゃんの友達、してるかな今の私。

「って、またネガティブってるーあーちょい待ち、ちょい待ち。今ポジ菊ちゃんインストール中だから」

「馬鹿言ってないで外出るわよ蘭菊」

 あ、突っ込んでくれるいつものみもりちゃん……安心。



 散々ネガティブな私が登場したところで。

 さてさて、交代のお時間。

 みもりちゃんにシンデレラ役を押し付けて私はこの文化祭、シンデレラの劇では村人Aという、物語において重要なところが一切ないむしろ必要あるのかないのかなんなら村人Bが存在するのかしないのか注意してみないとわからないレベルな役を頂戴しました。

 けれど悪いことをした報いなんて言うつもりは全くないけど、みもりちゃんがちょっと劇をやれる状態なのか直前までわかんなかったこともあって、一応私が代役の代役で返り咲きまして、シンデレラ役はみもりちゃんと千夏ちゃんの三人で回すことになってるのです。

 実際このおかげで皆遊ぶ時間がちょいちょい取れるようになったわけだから結果オーライなとこはあるよね。

 私もどうにか頑張って灰をかぶるよ。

 千夏ちゃんにみもりちゃんと比べると華がなくて、本当に灰を被ってる状態の方がよく似合う私だけどね。

 いや、これは自虐じゃない。

 自虐じゃなくて、あの二人が可愛すぎるの。綺麗過ぎるの。華やかすぎるの。

 いやいやいやあんなん並べられたら比べられたらたまったもんじゃないって。

 だってねー。

 モッテモテよあの二人。モッテモテってもう死語っぽいね。

「これはネガ菊じゃなくて事実確認だからセーフってことで」

「いいから早く着替えて菊池ちゃん」

 あ、突っ込んでくれるいつもの満智ちゃん……安心。

 これ天丼ネタね。

 自分で言っちゃうのはアウトかしら。

 と、とりあえず着替えて。

 次の公演が私は最後になるので。

 ちょいと頑張ってみようかしらね。


 頑張った。

 終わった。


 なんのドラマもなく、なんの輝きを得ることもなく。


 ん、ま、劇だしね。

 そりゃあ、劇だからね。クラスの。

 シンデレラだからどうこうあるはずもなくって、私は無難にやり遂げることができた。

 あぁ良かった。台詞が飛んだりしなくて。

 そうそう、結局王子もシンデレラも三人になったからペアを組みまして、私の王子様は朝道道也(あさみちみちや)くんだったのだけど、彼は割とがっつり王子という役に入り込んでいたのでそういう意味ではやりやすかったのかもしれない。

 相手が恥ずかしそうにしてると、こっちまで全力でやるのを躊躇っちゃうからね。


 で、無事に終わりまして。

 打ち上げです打ち上げ。

 高校生らしく、近くの駅で食べ放題のお店に入りました。高校生らしいね。

 二時間で、和洋中なんでもござれ、お一人様三千円ちょい。やー、高い。

 高校生の三千円はやばいものがあるのです。

 高校生になって早くもバイトを始めている人とか中学の友達にいるけれど、幸魂高校は進学校ってこともあって、その辺りは比較的厳しいみたい。

 先輩なんかはちょいと目を盗んでやっている人もいるみたいだけどね。少なくともまだ私は同級生でバイトしている人を知らない。

 三千円の元を取るぞー、とか張り切ってる方がいますけれど、まったく、普通の高校生がちょいと食い意地を張ったくらいで元が取れちゃう食べ放題のお店はすぐに潰れちゃうと思うんだ。

「千晶、お刺身好きなんですの?」

「あー? まぁ……嫌いじゃねぇな」

「へ、へー、そうなんですねー……お刺身、かぁ……」

 なんだなんだイチャイチャしちゃってさ。

 頑張れみもりちゃん。

 ついでに秋山くんはなんか罰が下れい。

「えーどうして神山先輩のこと振っちゃったの?」

「や、なんか違うかなって思っちゃって……あ! それよりさっき秋山くんお刺身好きって言ってたよね、なになに、お魚が好きなの?」

「肉よりはな」

「そうなんだー他には他には?」

 おいおいおいおい。

 千夏ちゃん露骨すぎるって。

 何が理由かわかりすぎるくらいわかりやすいんだけど、千夏ちゃんは先輩のことを文化祭中に振ったみたい。

 で、文化祭終わってからずっと、もーこんな感じでね。

 秋山くんとみもりの会話に加わりたがるんだよね。

 あーもーほら、みもりちゃんがほっぺた膨らませてるっ!

 哀れみもりちゃん……私は助けてやれないよ。大丈夫かなー。経験値低そうだからなーみもりちゃん。私は人のこと何も言えないけど。

「浮かない顔してる」

 と、ぼんやりみんなの様子を見てたら話しかけられた。

 なんとまぁ私の王子様、ってのは冗談だけど、朝道くんだ。

「浮かない顔してた?」

「僕にはそう見えた」

 おおう。

 見られてたのか、恥ずかしいな。

 あれ、っていうかなんで見てたんだろ。

「うーん。そうかも。なんか、青春してるなって」

 朝道くんは、私が聞いて欲しそうな感じの返事をしたからか、隣に座った。食べ始めは大体男女で分かれて座っていたけれど、途中から各々適当に移動し始めたことと、壁側一列分はソファーだったおかげで自分の場所ってスペースが曖昧だったことから別に朝道くんが隣に座ったところで問題はなかった。

 今は千夏ちゃんが先輩と別れた話と、千夏ちゃんがそんなことよりと秋山くんにアタックを仕掛けていること、同じくみみっちくアタックらしき何かを仕掛けているみもりちゃん、などなどクラスのメインが面白そうな修羅場を形成しているのでそちらにほとんど人が固まってるしね。

「青春?」

「みもりちゃんと、千夏ちゃんはさ。可愛いよねって話。二人が主役で良かった、おかげで大成功だったなって」

 朝道くんは首を傾げる。

 あー、うん。私は何を話してるんだ。

 やめやめ。

「ごめん、なんでもないさ」

「僕は、自分が王子役で良かったと思ってるよ」

 ん。

 やめようと思ったけれど、存外朝道くんは話を続けた。

 ちょっと油断していたかもしれないなぁ。自分の心を話してしまうのはよろしくない気がする。気がするっていうか、うーん、なんだろ、なんだろな。

 私は楽しそうに話をしている二人のシンデレラを見る。

「あぁ、僕はさ、自分のことが結構好きなんだ」

「そうなんだ」

 そうなのか。

 確かになんかそんな話をクラスの女の子とした覚えがある。

 微妙にナルシストだよねって。

 微妙に、と付くのは、例えば今回の劇で役を決めるときに最初から王子役に立候補をしたりはしなかったけれど、一度推薦を受けたら満更でもない感じでやる気をだしていたりするくらいの微妙さからだ。

 しかし、自分でそう話すとは中々の精神力だ。

「自分は自分にとって一番の友人だからね。好きにもなるさ。それを恥だなんて僕は思わない。だが」

「だが?」

 私は、やめやめだなんて思っていた自分の思考を既にどこかへやってしまっていた。

 ほんの僅かな言葉に、引き込まれていた。

「自分が好きな僕ですら素敵だと思う人と一緒にいれたら、僕はそれを青春だと自信を持てる」

「え……と」

 どういう、ことだろ。

 ちょっとすぐには理解ができない。


「菊池のシンデレラは、とっても素敵だった。僕はあの時間を、今を、青春って呼ぶさ」


 素敵だった、と言われて。

 私の心は、ドキ、と。


 不思議と、ドキッ、なんて、チープな効果音を奏でてしまった。

 なんだこれ。なんだこれなんだこれ。


「もしかして、私の事好きだって言ってる?」

「そう聞こえるかい?」


 なんだ、それ。

 胸が……心臓がどんどん、速く速く、鳴っていく。


「き、聞こえる……」

「菊池がそう言うんなら、そうかもしれないね」


 かも、しれないってなんだ。

 朝道くんは、何が言いたいんだ。

 え、これ、私いま、告白されてるの? されてないの?

 どっち?


「菊池は、ちゃんと自分に自信を持っていいと思うよ。少なくとも僕にとって、君のシンデレラは青春の一ページだった」

「あ、はい……そう、ですか……」

「うん。菊池にとっても、僕が青春だと、嬉しいけどな」

「え? えっと、あー、考え、ときます」

「お願いするよ」


 前言撤回。

 ふとした拍子にどっきりしてしまいました。

 あとは、そうだなぁ。

 私は意外とロマンチストらしくって、そういうのに弱いらしい。

 こ、これが噂のちょろいんか……。

 まさか自分がちょろいんになるとは思いもしなかった。朝道くん恐るべし。


 みもりちゃん。千夏ちゃん。

 私さ。

 私も、シンデレラに、なりなかったんだよ、本当は。

 でも、自分が劣ってるって思ってたの。

 みもりちゃんと比べて。千夏ちゃんと比べて。

 でもそれ、私が嫌ってたものだ。

 音楽はどれも個性があるって、人と比べたりする必要なんてないって。そう言っておきながら私は自分を卑下していた。

 比べる必要なんてない。

 私がクラリネットの音をなんだか不思議と好きなように、私は誰かをなんだか不思議と好きになればいいんだろうし、その誰かがなんだか不思議と私のことを好きになってくれるなら、それでいいじゃないか。

 なんだか不思議と私のことを好きだと言う人がいるとして、それを恐れる必要なんてなかった、ないんだ。


「あーあ。そっかぁ、青春してたかー私も」

「そうかい? なら良かった」


 さてと。

 今度のガールズトークは、ちょいとばかし、長くなりそうだよ。

 みもりちゃん千夏ちゃん満智ちゃん、覚悟しといてよ。

 ってか、そのときはみもりちゃんと千夏ちゃんの話聞かないといけないのか。

 むむ……。

 ちょ、ちょっとだけガールズトークはお預けでもいいかもしれない……。


 なんて、ね。

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