表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/35

第87話(計)

「何日、か。相変わらずの、予想の斜め上をいく答えだな」

「えっへへ」


 呆れた顔はしてるけど、お前は大物だな、と褒めてくれるフリギア。

 滅多に褒めてくれないから、なんか面映い。


「この『披露会』が…」

「でへへへへへ」 

「…この『披露会』が行われるのは三日後。場所は城の闘技場」


 頬を掻いてると、フリギアは頭を振りつつ、教えてくれる。


「三日後かあ」


 三日。あと三日。三日待てば、ミノアと、僕の娘の、呪力の結晶たる杖の力を、目の前で見ることが出来る。

 そうだ。辺り一面を灰燼にしそうなミノアの魔法を、今まで僕にばっか向けられてた魔法を、しっかり安全な所から見ることが出来るってことだ。

 お、おおお…こ、これ実は凄いことじゃ?


「うん! 楽しみだね、フリギア!」

「………」


 披露会が待ち遠しくて仕方ない僕の前で、フリギアは、テーブルに置いてた真っ白い紙を拾い上げて懐に入れる。


「先程まで、散々嫌がっていたのはどこのどいつだ…」

「あ、そういや、お城って闘技場があるんだね。僕、初めて知ったや」

「…城から少し離れた場所にな。普段は兵の訓練に使われているが、定期的に開かれる闘技大会などでも使用されている」

「そっかあ。なら、ちょっと派手にやっても大丈夫だね!」


 お城から離れた場所にあるなら、ミノアが最大火力で魔法を展開しても安心だ。


「大丈夫ではない。全く、お前は…」

「ほっほっほ。坊ちゃま、まあ良いではないですか。シアム様、楽しみですなあ」

「うん!」


 楽しみで仕方ない僕に、呆れるフリギア。サフォーさんはにこやかに相槌を打って。


「ちょっと待って下さい!」


 アザレアさんは勢い良く立ち上がる。僕らの視線を受けたアザレアさん、眉と目を吊り上げ……怒ってる?

 どうしてか怒りの表情を浮かべたアザレアさんは、テーブルに両手を叩きつけて、音が出そうな勢いで腕を振る。


「どうした、アザレ…」

「三日後だなんて聞いてません!」

「そうだな。俺も昨日知ったばかりで…」


 フリギアに最後まで言わさず、アザレアさんは険しい表情で、僕を指差す。


「シアム君の服! 靴! 装飾品! 全部間に合わないじゃないですか!」

「へっ? ふ、服? 別にこれでい…」

「駄目ですっ!」

「ああ、その問題もあるか」


 アザレアさん必死の叫びに、フリギアも何かに気づいた様子で、同意を示すように頷く。

 僕は一切気にしてないっていうのに、二人して、服をじっと見つめ…睨み付けてきたり。


「これで駄目なの?」

「駄目駄目ですっ!」

「そう、かなあ」


 そもそも、今、僕が着てる服ってミノアが用意してくれた物なわけで。

 お貴族様っぽい、というか、お貴族様に違いないミノアが選んだ服だから、そんなに外れてるとは思わない…んだけどなあ。


「そもそも大きさが合ってないじゃないですか!」

「ううん……そう、なのかなあ」


 アザレアさんの指摘を受けたから、じゃあないけど、自分自身を見下ろして確認しても、僕には何が不都合なのか分からない。

 けど、僕と同じように眺めていたフリギアは違うみたいで、もう一度頷くと、口元を吊り上げる。


「没落貴族は流石に不味いな」

「悪かったね! 大体、今まで僕が着てた服を…」

「サフォー、家に予備はあるか?」


 僕の抗議を、相変わらず無視するフリギアからの問いかけを受けて、考え込むサフォーさん。

 何かを探るように、悩むように眉を寄せて、僕に目を向けた後、ようやく口を開く。


「あるにはあるのですが、シアム様は坊ちゃまたちとは違い、小柄なので手直しが…」

「ちょっと!」


 言い辛そうなサフォーさんの語尾に被せるように、目を吊り上げたアザレアさんが、テーブルを凹ませる勢いで叩いて叫ぶ。

 それにしても、サフォーさんに向けられた目が、怖すぎる。殺意っぽいものが、漂ってる気がするような、しないような。

 そんな鋭い視線を受けたサフォーさん、流石に驚いたみたいで、ちょっと仰け反ってたり。


「どうしましたか、アザレア」

「どうしましたか、じゃないわよ! なにシアム君にお古、着せようとしてるのよ! ちゃんと一から作らないと駄目でしょ!」

「確かにそうですが、時間がありませんよ」

「あのねえ、時間が無い、だなんて…」

「待て、アザレア。サフォーの言う通りだ。加えて、服を着るのはお前ではなくコイツだ。流れの鍛治に、そこまで要求する人間など…」

「シアム君に失礼です! 折角お城に行くんだから、きっちりしていかないと駄目です!」

「だからだな…」

「だからもなにもないです!」


 魔物も逃げ出しそうな勢いに、フリギアも若干押されてるような気がする。

 だけど、サフォーさんやフリギアが言ってることは、それなりに理解できる。

 王族の前だからって、ただの鍛治が注目を浴びる、だなんてことないだろうし、僕は自分の評価が下がろうが上がろうが、気にしないし。

 僕はただ、武器を作って、その武器を思う存分使ってくれる人がいればいいだけで。


「え、と、ア、アザレアさ…」

「なんですかっ!」

「ひいいっ?」


 というわけで色々覚悟を決めたけど、やっぱり怖い! 

 ただ声をかけただけなのに、心臓鷲掴みにされた気分にナリマシタ。このまま、謎の力で握り潰されても不思議じゃない。


「そ、そのさ! フリギアの言い方は棘塗れでアレだけど! 僕、気にしないし!」


 アザレアさんの顔がそれはもう怖すぎて、直視できないからと、床を見ながら叫ぶ僕。


「だから、服なんて何でも…」

「良くありません!」

「ひいいいいっ?」


 途端、全身に何か色々篭った凄まじい眼光を浴びて。気付いたら、椅子から立ち上がって逃げようとしてた僕。

 けど、無意識に動いてた僕の腕を、いつの間にかがっちり掴むアザレアさん。

 

 顔が、ち、近い! 目! その目! 怖…ひいっ!


「シアム君!」

「はいいいっ!」

「こうなったら作るわよ! そうよ! 丁度いいのがいるじゃない!」

「は、はいい?」

「待ちなさい。アザレア、まさか彼を呼ぶつもりですか」


 このような時間に、というサフォーさんの言葉に被せる勢いで、当然です! と切り返すアザレアさん。

 テーブルに両手を叩きつけて僕らを睥睨し、誰にも逆らえない、逆らわせようとさせない、圧力を醸し出す。

 その目が、僕、サフォーさんときて、フリギアに…って、なんでフリギア、剣の柄、握ってるのさ。


「坊ちゃん! 今から外出します! すぐ戻ります!」

「あ、ああ、分かった。そのだな、何か用意すべき…」

「一切! 必要ありません!」

「そう、か」


 人懐こい笑顔が嘘のように、血に飢えた獣っぽい何かに豹変したアザレアさん。

 あの、人でなしで悪魔の化身みたいなフリギアが気圧され、素直に首を縦に振る…うん、分かる、分かるよその気持ち。


 今のアザレアさん、本当に怖いし。


「全部外で調達します! では失礼!」


 片付けはお爺ちゃんがして! と鬼の形相で屋敷を飛び出していくアザレアさん。続いて、扉が閉まる音がしたと思ったら、その勢いで屋敷全体が揺れる。

 僕らがいる食堂でも、衝撃を受けてテーブルに置かれたお皿や何やらが、一斉に音を立てたりして。


「………」

「………」

「………」


 アザレアさんがいなくなって、奇妙なほど静かになった食堂。

 残された僕らは、誰となく顔を見合わせる。フリギアとサフォーさん、二人ともどこか似たような顔をしてる。


「……どゆこと?」

「実はですね、アザレアのご主人が服飾の店を開いていまして。恐らく、披露会に間に合わせようと、彼を呼びに行ったのでしょう」


 食堂の入り口に目を向けつつ答えてくれる、困惑ぎみのサフォーさん。なるほど、アザレアさんが何をしたいのかは、分かった。

 多分、普通のお店で一から服を作るのは、時間が掛かるだろうから…って。


「あのさ、それ迷惑だったりしない? だってもう夜だし、お店も閉まってるんじゃ?」

「ええ、そうですな…」


 食堂に入った時にちらっと外を見たけど、完全に暗くなってたし。

 素朴な疑問をぶつけると、サフォーさんもフリギアも、目を逸らす。


「この時間だ、恐らく寝ているだろう。だがあのアザレアのことだ、それを叩き起こすのだろう」

「うわあ」


 アザレアさんには悪いけど、物凄く想像できる。

 鬼の形相で、旦那さんを叩き起こすアザレアさんの姿が。


「そして、材料を集めるために寝起きのご主人と共に店を回るのでしょう」

「どの店も、遅くまで開いているからな…」

「うわあ…ってでもさ、フリギア、お古あるんでしょ? なら、それ着ればいいような?」

「ああ、そうだな」

「それに古着といいましても、ほとんど袖を通していないものばかりで」


 思わず零れた感想に、サフォーさんは頷いてから、首を振る。


「しかし、女性は色々と拘りますからな。特にアザレアは、ご主人のこともあるから尚更なのでしょう」

「それでも、だ。主目的は杖の鑑賞だぞ。コイツに目をくれる者などおらん」

「じゃあ僕いらなくない?」

「ははは、冗談を言うな」


 なんとなく聞いてみれば、棒読みなフリギアの声が返ってきたり。

 それが途切れた後は、僕もサフォーさんも、フリギアも無言になって。


「……」

「……」

「……」


 また静かになった食堂で、誰ともなく顔を見合わせると、僕らは揃って溜息を吐いたのであったとさ。


















 またまた遅くなり、申し訳ないです。

 もう何度目か分からない「申し訳ない」ですが、続きを期待している奇特なお方々お待たせいたしました。そして、またお待たせすることになるでしょう。

 以上。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ