第114話(計)
「ごぼっ! ぼぶっ! まぶっ?」
「聞きたくないのかしら?」
「ぼげほっ、げほっ!」
衝撃の発言を受けて、むせる僕…なのに、カトレア様は何事もないように聞いてくる。
あの、今、僕、とってもむせてる、んですけど!
「どうかしら?」
「きき…ごぼっ! 聞きた、ぶほっ、ですぼっ!」
咽喉とか鼻とか目とか色々苦しいけど、このままだとただのお茶会になりそうだからと、慌てて答えてみれば。
「それでは、お話しましょう」
平然と返された。僕の醜態なんてないように、にっこり微笑んで。
さ、さすが王妃様…カトレア様。多少のアレやソレじゃあ、全く動じない。
「…オネガイシマス」
なんにせよ、僕だけ置いてきぼり食らった気がするわけで。もし、今回のお披露目会に『裏側』があるなら、是非とも聞いておきたい、うんうん。
あ、でもあんまり深く知っちゃうと色々マズイ…? これ以上深入りすると、ロクでもないことになりそうだけど…でも、なんかモヤモヤするしなあ…むむむ。
悩んでる僕の前で、一つ頷いたカトレア様。ドラゴンも興味はあるみたいで、その頭をカトレア様へ向けて、拝聴の体勢。ミノアは当然お菓子一直線。
「それで、裏側って…」
「その前に、シアムさん。少し聞きたいことがあるのだけれども、いいかしら?」
「へ? あ、どうぞどうぞ」
「そう難しいことではないわ。シアムさんは、今回のお披露目会のことを、フリギアたちからどう聞いていたのか、それを教えて欲しいだけ」
「どう…?」
完全に拝聴体勢に入ってた僕も、カトレア様からの質問に、慌てて記憶を探り探り…ええっと…
「確か、フリギアのお屋敷でミノアの杖作ってたら、王妃様がお貴族様たちの前で杖を披露したいから…とか言われたような気がするような?」
「ええ。それから?」
武器以外のことなんて、あんまり覚えてられない…というわけで、あやふやな記憶を掘り掘りしながら、続けていく。
「杖できたら、お前もお披露目会に出るんだ当然だろうが、とかフリギアに言われて特訓されて連行されて?」
「ええ、ええ」
「お城まで行ったら悪意ばっか向けられて、本当に歓迎されてるのか分からないし、カーライルは僕のこと女性だと勘違いして気味が悪いし、召喚魔獣だって聞かされてたドラゴンが実体でびっくり?」
「まあ、まあ」
「それでドラゴンから話聞いたら、宝珠ってやつで無理矢理支配されてるって言われたから解呪したら、誰か知らない人たちが突然現れて、襲われて、ミノアとドラゴンが蹴散らして、カトレア様が転移魔法使ってお菓子食べてる?」
「そうねえ」
しっかし、本当にあの襲撃、なんだったんだろ? お城に不審者、あんなに入ってきちゃって、大丈夫なのかな?
それとも、このナントカ国って、実は治安がとてつもなく悪くて、年中襲撃受けてる、とか?
…いやいや、フリギアがいて、転移魔法とか気軽に使っちゃう人がいて、治安が悪いとかない…はず。
「実は、フォルツァンドは前々からミノアちゃんを排除しようとしていたの」
「フォル…そういえば、家族仲が悪いとかレガートさんも言ってたっけ」
「ええ。それから、少し前に、ドラゴンの幼生が数体、こっそり国内に運び込まれたという情報がもたらされていて」
お披露目会から話が遠のいたけど、結構アレなこと言ってるカトレア様は、のんびりとお菓子をつまんでたり。言ってることとやってることの差が激しいです。
というか。
「ドラゴンの幼生って…」
(……我らが…子よ………我は子の気配を辿り…半ばで……人間共に『捕獲』…された…)
「なるほどなるほど」
ドラゴンが宝珠を埋め込まれたのは、その時、と。
…………それで?
という僕の疑問を汲んでくれたカトレア様、そこだけ少し顔を曇らせて。
「そこに、今回のお披露目会の話。シグムントだけならまだしも、フォルツァンドにまで来てしまったことで、大変なことになってしまったの」
「大変? なこと?」
「ええ。フォルツァンドにとっては、ミノアちゃんを失っても痛くはない。同じように、召喚魔獣であるドラゴンを失っても痛くはないわ」
ふむふむ。ということは……
「つまり、この機会にドラゴンをぶつけてミノアを始末しちゃえってこと?」
「シアムさんの言う通り。城内で、こんなにも恐ろしいことを考えてる人がいると思うと、悲しいわ」
「……ううむ」
確かに悲しいかもしれないけど…僕はそれに巻き込まれた、ってことだね!
また! 巻き込まれた! ってことだね!
「やっぱりフリギアのせいじゃんか……フリギアめ……フリギアめ…」
フリギアが、お披露目会出るのが当然だ、とか余計なこと言わなければ、こんな目に遭わなくてすんだんじゃないか!
…あ、でも待てよ? そうすると娘の晴れ舞台を見ることもなかったわけで、そう考えるとやっぱりお披露目会出て良かった、のかな?
「むむむ…」
「ところで、召喚魔法に使用した魔法道具についてなのだけれど…」
「魔法道具…あ、あの大きな硬貨みたいなやつ?」
危ない危ない。フリギアを呪ってる場合じゃない。今は、カトレア様のお話に集中集中っと。
で、召喚魔法用の魔法道具といえば…ここにいるドラゴンを召喚した、確かフォルなんとか家が提供したとか言ってたやつだったはずで。
あのごたごたで、結局詳しく見てる時間もなかったんだよなあ…ちょっと興味あったから、じっくり見てみたかったんだけど…
やっぱり横道にそれる僕を前に、カトレア様は優雅にお茶の香りを楽しんで、飲んで。
「その通りよ、シアムさん。あの魔法道具、用意したのはフォルツァンド家なのだけれど、詳しく調べてみると、シグムント家が細工をした痕があるの」
「へえ、細工が…」
「ええ。確か、フォルツァンドが用意していた召喚魔獣ではなく、シグムントが捕獲したこちらのドラゴンが召喚されるような細工で…あら、そういえば、あの魔法道具、ミノアちゃんたちの活躍で全て灰になってしまったわね」
「へえ…って」
「一つでも残っていれば調べようもあるのだけれど、期待は出来そうもないわ。残念ね」
「え、ちょちょ…」
済んでしまったことは仕方ないわ、とか、のほほんと言ってるけど、どうして、消し炭になっちゃった魔法道具が、細工されてるって、それも、細工内容まで具体的に知ってるだなんて…
固まる僕を前に、カトレア様はのんびりと続ける。
「それとは別のお話だけれども、偶然にもフォルツァンドのリヴィトゥムとクラーレの二人は、本家からの緊急招集があって、お披露目会が始まって少しして、家へ帰還してしまったの」
「はあ」
「召喚魔法が展開した時、二人がいてくれたら、その細工に気付いた可能性が高かったでしょうに…」
「ソウデスネ…」
カトレア様、まるでこうなること知ってたような口ぶりで、なんかおっそろしいんだけど。
「そうだわ、それで思い出したわ。ミノアちゃんの杖に細工をしようと頑張っていたのは、シグムント家とその下に集う魔法師一家たちよ。ごめんなさいね」
「それは別に害無かったし、娘も、あ、いや、杖にも全然影響ないし…」
「ミノアちゃんに呪術を展開しようとしていた方もいたみたいで、一体、誰の、何のためのお披露目会だったのかしら」
「ミノアに呪い? それ無理じゃ…」
娘については、呪いを超える呪い、それを更に超えるような呪いでもないと、細工なんてできっこない。つまり、そのシグなんとかって人たちは、全く…届いてないわけで。
一方で、呪術の標的になってたらしいミノアを見てみれば、身を乗り出してドラゴンにお菓子をお裾分け…餌付け?
「シアムさんたちを襲った襲撃者、魔法師たちも、実はシグムント家の差し金らしいわ。本当に、恐ろしいことを考える方が沢山いて、この国の未来がどうなってしまうのか、不安だわ」
「……差し金、らしい? えっと…」
僕は全然不安じゃないデス。
カトレア様、なんてことないように言ってるけどさ、普通、襲撃者の身元が即座に割れちゃうだなんて…ない、よね?
もし、予め分かってたら、つまり、それってさ…泳がせ…いやいやまさかあっはっは。
僕の疑念に満ちた視線なんて意に介せず、カトレア様は一人、陽光輝く窓、その先にある広い庭へ視線を向けて、初めて憂鬱そうに呟く。
「私が考えていたのは、ドラゴンをミノアちゃんが排除して、所属不明の襲撃者たちをも排除する、という流れ」
「本物のドラゴン討伐も、襲撃者の排除も、ミノアに、全部させちゃうつもりだった、んですか?」
僕の質問に、カトレア様は頷いたように見えたけど、違うことを言う。
「ミノアちゃんの実力を信用していたのよ。可愛くて強くてお菓子が好きで応用力もあるとても優秀な魔法師ですもの、必ず勝利する、と」
「確かに、まあそうだけど…」
「ドラゴンともお友達になれるとは、私も思わなかったわ。さすがミノアちゃんね」
「うん、まあ、そうだけど…」
ミノアなら、杖なしでもドラゴンと一対一で勝てそうだし。平然とした顔で、ドラゴン焼却処分しそうだし。
そうならなくて、良かった、のかな?
「私たちは私たちで、今回のような異常が起きた際は、出席者に怪我をさせないよう、迅速な避難をさせる必要があったわ」
「避難? でも、誘導とかしてるようには…」
「ええ。今回は、日頃の訓練不足がたたってしまって、余裕が無くて」
「そうかなあ…」
避難とか、誘導とか、そんな声、聞こえなかったような気がするけど。
でも、ドラゴンやら襲撃者やらと色々大変だったから、なんともなんとも。
首傾げてると、茶目っ気たっぷりな視線を感じて、なんだろ、とカトレア様を見れば。
「それから、ドラゴンと会話をしているシアムさんから、皆さんの目を逸らしてもらう必要もあったかしら」
「ソウデゴザイマスネ」
「ええ」
「………」
なんだろう、なんか目を逸らさないといけないような気がして…あ、芝生が綺麗なお庭にお日様が当たってがとっても綺麗だなあ!
「その…あれ、誤魔化せ……ないですよね?」
「うふふ、意地悪してごめんなさいね。心配しなくていいわ、シアムさん」
ということは?
「それじゃあ…」
「あの場所には偶然、レガート君とレティシアちゃんがいたのよ」
「うん。二人共、僕たちに手を振ってくれたっけ…あ、髪飾り……」
カトレア様が言うように、確かに、ミノアのお兄さんで、宝玉くれたレガートさんと、ミノアのお姉さんで、僕の髪飾り……貸してくれたレティシアさんがいたけど。
けど、それがどうかしたのさ?
頭に手を当てて、髪飾りが無事なことを確かめてると、カトレア様が小さく笑って答えてくれる。
「シアムさんは知らないと思うけれど、レティシアちゃんは音を使った特殊な魔法が使えて、それはとても人の気を逸らすのに有用なの。レガート君は防御魔法や幻覚魔法の研究者で、その優れた使い手よ」
「うっわあ…恐るべし…」
「そうね、これらの魔法は、とても怖い魔法。けれど、二人はそれを悪い方向には使わない、とても良い子たちよ」
「え、いや、その…」
絶対に、最初からこうなるって分かって二人を呼んだに違いない! とか僕でも思っちゃうぐらい露骨な人選なんですけど。
「………」
「まあ、カップが空だわ。気付かなくてごめんなさいね」
「へ?」
僕の手もとを見て、立ち上がったカトレア様、そのまま、追加のお茶を用意するために立ち去っていく。
横を見れば、見事に餌付けされてるドラゴンと、まだまだお菓子が食べ足りない様子のミノアがいる。
「ねえミノア、カトレア様って一体…」
「食べる?」
「あ、うん、そうだね。お菓子美味しいね、うん…」
一から十まで知ってて、その上で対策とってくるって、カトレア様って、何者なんだろ? いや、王妃様には違いないんだろうけどさ。
全部全部、自分の掌の上って感じで……本当に恐ろしいのって、一体誰なんだろ…
その…大変、お待たせ、いたしました。
更新、待っていた大変奇特な方々、有難うございます…本当にそういった方がいるのか、わかりませんが。
そして、また、続きをお待たせすることになると思います。それでも構わないという辛抱強い方、気長にお待ちくださいませ。
以上。




