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●第113話(計)

「うわっととと…」


 歪んでいく視界も、瞬き一つであら不思議!

 目の前の光景がいきなり切り替わって、見たことも無いほど綺麗な、白い壁の部屋が…って!


「どこここっ?」

「部屋」

「そうだね部屋だよ僕見たこと無い部屋だけど!」

(…転移魔法か)

「転移、魔法? いやいや、歩いていけそうな場所にさ、転移魔法とか超高位魔法、気軽に展開するわけ」

「転移魔法」

「……やっぱり、そうなの? これ、噂の転移魔法?」

「うん」


 ドラゴンもミノアも転移転移とか、大したことなさそうに言うけど…転移魔法って、その、物質の存在を一旦アレして、それを転移先の空間と時間軸とのアレやコレやを計算して現世に影響出ないよう云々…とか言う、ちょっと僕みたいな小市民じゃあ理解も出来ないような原理の魔法なんだけど。

 間違っても、杖の一振りで展開できるものじゃあないと思うんだけど。難易度的に使える人、ほとんどいないって聞いたことあるんだけど。


「ようこそ、私の部屋へ」


 でもって、そんな超高位魔法を気軽に使っちゃったカトレア様は、杖をベルトに戻してから、お辞儀して…っと、その…


「あれれ…?」


 …僕の記憶が正しければ、先程までカトレア様、ドレスをお召しになさってらしたはずなのでございますが。

 だけど、今、目の前にいるカトレア様は、どこにでもいそうなオバちゃ…お姉さんみたいな服着ているのはどのような魔法なのでございましょうか?


「れれれ……」


 あ、なんだろ、なんか冷や汗出てきた。そんな視線を受けて、カトレア様は僕の疑問に気付いたみたいで、朗らかに笑って。


「この服、似合わないかしら? あのドレスは威厳を見せ付けるには良いのだけれど、堅苦しくて嫌いなの。でも、シアムさんが似合わないとおっしゃるのなら…」

「い、いえっ! 大変お似合いでございますっ!」

「まあ、有難う」

「めっそうもございません!」


 いやいやいや! いつ着替えたのさ! 一瞬前までドレスだったじゃん!

 杖の一振り二振りで、転移と着替えまでしちゃうって、カトレア様、一体どれだけの腕持ってるのさ!

 こんな規格外な人、そうそういる、わ、け……


「あのさミノア。聞きたいんだけど、君さ、カトレア様と同じこと出来たりする?」

「お菓子」

「あちょっと!」


 明らかに規格外、異常な魔法を体験したっていうのに、さすがミノア。

 不思議がることもなく、一人勝手に部屋の奥まで行って…しばらくして、戻ってきたり。よくよく見ると、土いじりしてた小さな手が綺麗になってて、どうやら、手を洗ってきたみたいだ。


 違う意味で戦闘体勢に入ったミノアの周囲を、漆黒の杖が旋回してるのは、見なかったことにしたい。

 …だって僕、そんな機能、付けた覚えないし知らないし。


「で、ミノアさ…」

「お菓子」

「あうんそうだね…うん、お菓子ね、とても大事だよね」

「お菓子」


 …うん、駄目そうだ。もうこうなったら、僕には止められない。止めたくない。

 心なしか小走りのミノアは、お上品な艶を出す円卓…に、こんもり置かれたお菓子の山へ突撃。お行儀悪く、二、三個口にしてから、椅子に腰掛ける。

 鳥っぽい何かになったドラゴンは、お菓子以外眼中にないミノアの近くにひとっ飛びして、これまた、つやっつやな床に鎮座。


(…何者の気配も…ない)


 ぞろり、と少し長い首を持ち上げて、意味が分からないこと呟く。


「気配? 一体なんの…」

「シアムさん、洗面所はあちらにあるので、手を洗ってどうぞ席について。お茶は今用意するけれど、苦手な匂いはあるかしら?」

「なにもないですどんとこいです!」


 ああもう…もう、どうにでもなれ!

 折角のお誘いだし、覚悟決めてカトレア様とミノアとドラゴンと、四人で一緒にお菓子楽しもうそうしよう!

 だってそもそも帰り方分からないし!


「それなら、今日は…」

「それじゃあ、遠慮なく、と」


 ところでカトレア様、向こうで何やら、ごそごそしてるけど、まさか自分でお茶とか…淹れてたり?

 僕はお貴族様とか、王族様とかのアレソレ分からないけどさ、フリギアのお屋敷にいた、アザレアさんみたいに、女中さん、いないのかな?

 ……いるはず、だよね?


「洗って」

「うん、手、洗ってくるね」


 急かされて、ミノアが最初に突撃した部屋、無駄…ええと、とてもお広い洗面所で手を洗って、と。

 戻って、円卓の周りに配置された三脚の椅子、その一つに腰おろして、ふと思う。


「椅子が三脚、お菓子は沢山。ううむ…まさか…」


 まさかまさか、カトレア様、そこまで予想してた? いやいやまさか…ね。

 答えを探して、という訳じゃあないけど、なんとなしにお菓子を食べ続けるミノアを見つめてると、目が合う。

 そして、自分が掴んでたお菓子を差し出してきたり。


「食べる?」

「うん。有難う」

「どういたしまして」

「いえいえこちらこそ…ってミノア今なんてっ?」

「食べる?」

「いやいやそうじゃなくて、その次! 次だよ!」

「美味しい」

「本当に、美味しそうに食べるね、ミノア…」


 初めて普通に会話っぽい会話したミノアから、まだ温かいお菓子をもらって、まじまじ見つめる。

 …今まで見たこともないほどの高貴な女性、それも王妃様の部屋に招かれてお菓子食べれるほど神経太くない…はずなんだけど、僕の手は勝手に動いて口の中に焼き菓子を放り入れて食べててお菓子美味しくて。


「おお! 凄い! なんか凄く美味しいお菓子だ! これいくつでも食べられ…もちろんミノアの分はちゃんと残すし僕の分もあげるからそこで魔法展開しないでお願いだからっ!」

「どうしたのかしら、そんなに慌てて…シアムさんのお口には合わなかったのかしら?」

「別件で慌ててるだけだから…ってあ! えっと、慌ててるでございますから…?」


 普通に会話してたことに気付いて口調直そうとすれば、カトレア様は怒ることなく、微笑ながら、銀の盆に乗せた茶器を僕らの前に置いていく。

 ドラゴンの前にも置いてから、空いた席について、早速、カップを口に運ぶカトレア様。


「フリギアから聞いているわ。わざわざ今日のために特訓したのでしょう? 色々大変だったでしょうに」

「いやまあ、そうでございまして…」

「ふふふ。いいのよ、ここには私たちの他には誰もいないのだから。普通にして頂戴」

「いやでもなあ…あ、でも、でござって…ってあれ?」


 地獄の特訓受けたのに、もう色々忘れかけてる。正しい礼儀作法を思い出そうとすれば、カトレア様が見越して提案してくれる。ありがたや。

 というわけで。


「それじゃあ、普通、普通…っと…」


 いいね? フリギア。

 カトレア様が許可したんだから、僕は……多分きっと悪くないんだからね?


「いる?」

「有難うミノア。それで…カトレア様は、ミノアの杖について知りたいんだっけ?」

「いいえ。それはいいの」

「…………はい?」


 カトレア様、今、何て?

 思わずミノアが渡してきたお菓子砕きそうになったけど、カトレア様は上品な仕草でカップを戻して、続ける。


「杖の性能は、先程の披露会で存分に見ることができて満足してます。とても良い仕上がりで感心したわ」

「うんうん! なにせ、フリギアが、金に糸目はつけないし、好きなものを好きなだけ買ってこいって言ってくれたから、僕も遠慮せずに色々出来て…」

「普通の鍛治には到底真似出来ないような技術も、使われているようで」

「ぎくっ!」


 恐るべしナントカ国の王妃、カトレア様!

 実際手にとって隅々まで確認したわけじゃないのに、それに気付くとはっ!


「一体どこでそのような技術を学んできたのかしら?」

「一子相伝の秘伝の技です!」

「まあ、そうだったの。それなら詳しくは聞けないわね」

「ご、ごめんなさい」

「いいのよ。では、杖についてはこれまでにしましょう」


 あっさり引き下がったカトレア様。じゃあこうして、僕にまで転移魔法使った理由はなんだろう?

 って聞こうとしたら、カトレア様がまた察してくれて、カップを持ち上げる。


「こうして、ゆっくり四人でお茶をしたかったの」

「四人…君もお茶飲めるの?」

(……問題はない…)

「そう…」


 ドラゴンに訊けば、そんな答えが返ってきたり。

 確かにカップの中身減ってるけど、すんごく飲みづらそう…問題ないって言うなら、いいけどさ。


 それにしても…分からない。

 カトレア様の考えることが、一切分からない。笑顔のままだから、何を考えてるのかさっぱり読めないし。


「ううむ……うむ…うむ…」


 唸りつつ、背凭れに身体を預けて。考えてみることにしよう…僕をここに呼んだ理由。


「…杖のこと聞かないなら、僕と一緒にいても、カトレア様は楽しくないと思うけどなあ」

「私はとても楽しいわ」

「ううむ…」


 さいですか。さようでございますか。

 悩む僕の横で、ミノアはカトレア様の前に置かれた皿へ、綺麗にお菓子並べてたり。割と真剣な目をしてるけど、どうやらカトレア様の分、として置いてるみたいだ。

 カトレア様は嬉しそうにその様子を眺めつつ、有難うね、と軽い感じでお礼言って会話してたり。


「ミノアちゃんは、本当に優しくていい子ね」

「美味しい」

「まあ嬉しい。昨日から頑張って作った甲斐があるわ」

「食べる?」

「ええ、有難う」


 そっか、このお菓子たち、カトレア様手作りかあ。そっかあ。

 それじゃあ、ますます食べないと悪いなあ…と、お菓子を口に含んだ瞬間。


「では折角ですし、今回発生した『事故』の裏側でもお話しましょうか」

「ごぶおっ?」


 何の前触れもなく、そういうこと言うの止めて下さいませ!

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