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第112話(計)

(……しばし頼むぞ)

「うん」

「うわわわわわっ? なんか鳥っぽいような生き物がしゃ、しゃべ…」


 ドラゴンが凍りついて砕けたと思ったら、鳥っぽい何かが出てきて、飛んで、それがまた人の言葉を喋って…………ん? 待てよ?

 なんか、どこかで聞いたような声だったような? それに、この言い方って、もしかして…


「あの、もしかしなくても…君、さっきのドラゴンだったり?」

(…うむ……元の姿は邪魔であろう…)

「邪魔…まあ、ミノアと一緒にいるには邪魔だろうけどさ」


 恐る恐る聞いてみたら、あっさり肯定してくれた鳥っぽいドラゴン。

 綺麗な緑の羽を畳んで、ミノアの横にちょこん…とはいかない存在感を醸し出しつつ鎮座する。

 ミノアは、背伸びして大きすぎる鳥、じゃなくてドラゴンの頭を撫でてみたり。


「……ドラゴンのまま小さくなればいいのに、なんで鳥っぽい姿…」

「まあ綺麗」

「綺麗」

「そりゃあ綺麗だけどさ……って今」


 慌てて後ろを見れば、カトレア様がうっとりとドラゴンを眺めておりました。

 でもって、何かに気付いたようにミノア見て、口元へ手を当てて、まあ、とかおっしゃってござったり。

 あ、なんだろう……いつもの嫌な予感が。


「あら、大変なことに気付いてしまったわ」

「大変」

「ええそう、とても大変なこと」

「その、大変なこととはなんでございましょうか?」

「ミノアちゃんのお屋敷では、ドラゴンを飼うことは出来ないわ。まあ大変」


 ……えっと? あれ、なんかおかしいぞ?


「うん」

「うん、じゃなくてミノアさ、飼うって所に反応しよう、ね?」

「でも、ドラゴンはミノアちゃんと一緒でないと、いけないのでしょう?」

「………えっと?」


 ドラゴンは、ミノアに『憑く』とは言ってたけど、飼われるだなんて一言も…僕も、『飼う』とは通訳してないんだけど。

 だけども、一体、カトレア様は何をどう解釈なさったのか、僕が戸惑ってる間にも、大層お困りのご様子で思案なさってございまして。


「そうね…そうだわ! ミノアちゃん、ドラゴンの子が見つかるまで、王宮にいましょう。そこでなら、ドラゴンも飼うことができるわ」

「うん」


 晴れ晴れとした笑顔を浮かべて、最初からそうしたかったに違いない、と思うほどあっさり重要なこと、決めちゃったカトレア様。


「えっ? え?」

「洋服や部屋の心配はしなくても平気よ。勿論、お菓子の心配も」

「お菓子」

「沢山作ってあげるから、楽しみにしていてね」


 さすがの僕でも、こんな簡単に人を王宮に招くってことは有り得ないって分かる。分かるからって、意見なんでできないし。

 だけど…ドラゴンを保護しなくちゃ、というより、ドラゴンいればミノア付いてくるし、という感じでございますね、カトレア様。


「ではカーライル。先の指示通り、頼みますよ」

「はい」


 すっきりした顔で、どこからどうみても満足そうなカトレア様。

 その傍で控えてたカーライルは、弾んだ声での指示に大きく頷いて、そのまま闘技場から姿を消していく。

 …最後に、僕の顔見て名残惜しそうな雰囲気出さなければ、見直したんだけど、もう会わないだろうからいいや。


「お泊り」

「これで毎日ミノアちゃんと遊べるわ。何をして遊ぼうかしら」


 カトレア様、相当嬉しいようでございまして、ミノアの手を握って上下に揺らしております。とても楽しそうでございます。


「…多分絶対カトレア様の趣味が入ってるんだろうなあ」

「さすがのお前でも、気付いたか」

「あ、フリギア」


 溜息交じりの声に振り返れば、なんかどうしようもないモノでも見たような感じの、フリギア。


「やっぱりそうなの?」

「ああ。カトレア様は子供が好きなのが…」

「好きだけど?」

「だが、それが…」

「フリギアは後始末を」

「はい」


 すんごく気になるところで、カトレア様のご命令。

 フリギアは途端、僕のことなんてなかったかのように、一礼して立ち去って…って!


「子供好きだけど? それがどうしたのさなんなのさ?」

「察しろ」

「いやいや! 無理だし! どうやって何を察すればいいのさ! ってあ! ちょっと!」


 フリギアは僕との会話をあっさり切り捨てると、闘技場に転がったままの、消し炭になった元襲撃者たちへ向かっていく。

 よくよく見れば、沢山いたお貴族様たちの代わりみたいに、騎士っぽい人たちが闘技場とか観覧席とかに待機してたり。

 でもって、フリギアがその騎士っぽい人たちに当然のような顔して指示を飛ばせば、騎士っぽい人たちも当然のような顔して指示受けて動き出して。


「さて、フリギアたちの邪魔になるので、私たちは部屋へ行きましょう」


 後始末を始めた一同をそのままに、カトレア様は嬉しそうに杖を手に持って、その先端の宝玉を撫でて。


「部屋、でございますですか?」

「ええ。シアムさんには大変ご迷惑をおかけしましたし、お菓子でも」

「お菓子…あ、いや、それより、僕そろそろ…」

「お菓子」

(…人界は久しいな…)

「帰りたいんだけど…」


 正直、もう帰りたいでございます!

 これ以上カトレア様と一緒にいると、色々ボロが出て、後々クラヴィアさんが説教大会とか開いて大変なことになりそうなんですけど!

 という切実な気持ちを誠意一杯言葉に込めてみたけど、カトレア様は笑うだけ。


「まあ、シアムさん。お帰りになるのは早いわ」

「そうでございますです?」

「ええ。ミノアちゃんの杖について、しっかりとした説明を聞いていないもの」

「あ、そういえば適当な説明でいいって言って…ございましたね!」


 もう、既に言葉の端々でボロ出てるし、もう帰りたい。フリギアの家、お屋敷が恋しい。

 そもそも、フリギアにもクラヴィアさんにも、お前は黙って突っ立ってろ、何も喋るな呼吸すらするなとか散々言われてたのに…


「それに、この事態のお詫びもしないと」

「それは結構でございます!」


 もうこれ以上、偉い人と関わろうものなら、僕の精神が持たないし! お詫びとかいいですから! 他の人たちにして下さいませ!

 慌てて両手振って全力拒否して、ってカトレア様はそれが見えてないご様子で微笑んで…あ、いや、だからいいのでござりますって!


「そんなに楽しみにしてくれて、嬉しいわ」

「ち、ちが…あうあう」


 いやいや! 誰も楽しみに…あ、ミノアは確かにお菓子を期待してるっぽいけど…じゃなくて!


「では、私の部屋まで行きましょうか」

「その! ちょっと待って、でございますから………!」

「少し散らかっているけれど、気にしないで頂戴ね」


 言って、カトレア様、手にした杖をひょひょいと振るえば、目の前の景色が歪んでいって…

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