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第111話(計)

(我の気が……変わらぬうちに…『通訳』した方が……良いぞ…)

「そうかもしれないけど僕全然関係ないわけでしいて言えば通りすがりの小市民の命頂戴とか言ってるような感じで理不尽極まりないというかつまり」

「シアムさん?」

「はいっ! なんでございましょうかっ!」

「ドラゴンは、なんと?」

「そそそのでございますねっ! その…その…」

(早く……言うがよい…)


 うろうろと目を彷徨わせる僕を、嘲笑してくれるドラゴン。

 僕のこと急かすくせに、その尻尾は、機嫌を表すようにゆっくり揺れて、実に余裕そうでございまして。

 ミノアが揺れる尻尾に気付いて手を伸ばすと、その上に乗っかって遊び始めて……あ、僕もそれやってみたいなあ、羨ましいなあ、混ぜてくれないかなあ。


(仕方あるまい…言わぬならば………異なる対価を…)

「その! 僕の命が欲しいとおっしゃ…」

「お断りします」

「って……って……へっ?」

(ほう…)


 カトレア様、即答なされたのでございますが。

 僕が言い切らぬうちに、即座に拒否されたのでございますが。 


「………えっと…」

「貴方には申し訳ありませんが、その対価は、拒否させてもらいます」


 しかもでございますね、カトレア様、二度もきっぱり拒否なさってございまして。

 けども僕の記憶が正しければ…そのでございますね、ご自分から何か望むモノは…とかドラゴンにおっしゃられたりしたりしたような…


(……お前が…言い出したことよ……拒否できると………)

「カトレア様から言い出したことでございまして、拒否できるのでございますか? とのことでございますです」


 そりゃまあ、当然ドラゴンはこう言うわけで。僕だってそう思うし…話題の中心は僕の命だけど。


「ええ、そうですね。けれど、貴方は本気でシアムさんの命を望んでいるわけでは、ないでしょう?」

「あれ? そうなの?」

(………)


 僕とドラゴンの視線を受けても、穏やかな笑みはそのままに、カトレア様の慈愛に満ちた眼差しがドラゴンへ注がれる。

 その一方で、ミノアはドラゴンの尻尾に腰を下ろしてゆっくり、時に激しく動く椅子を楽しんでるわ、フリギアはカーライルと殺し合いごっこをしてるわで、中々賑やかなんだけど。


(…なるほど…そういう……なれば…お前の……望みを言おう)

「えっと…カトレア様の望み? それどういうこと? なんで君がそんなこと言うのさ?」

(……面白い人間よ…)


 カトレア様の言葉を聴いた途端、突然良く分からないことを、機嫌良く呟くドラゴン。振り返ってカトレア様を見てみれば、黙って微笑んでるし…はて、どういうこと?

 僕の通訳いらないんじゃないかって思うぐらい、二人共なんか分かり合ってるっぽいけど…ううむ。

 訳が分からないから、とりあえず、ドラゴンの言ったこと、そのまま伝えてみるしかない。


「ドラゴンなのでございますが、カトレア様の望みを言うそうでございます?」

「お願いします」


 僕自身、何言ってるのか分からないのに、カトレア様は分かっているとばかり笑みを深くして、ドラゴンの『言葉』を静かに待つ。


(人間よ…我らが子を…見つけよ……我は…この小さき魔法師に…憑こう…)

「…このドラゴンたちの子供? を見つけよでございます。ミノアに憑く…えっと、一緒にいる? らしいでございます?」

「分かりました。貴方の言う通りに」

「ええっ?」

(……そうか)


 今度はすんなり、了承される『対価』。ドラゴンの子供を見つけろ、だなんて言われて、分かりましたって…はてはて、これ、一体どういうこと?

 なんかカトレア様と通じ合ったっぽいドラゴンにでも、聞いてみよう。


「あのさ、なんでカトレア様の望みが、君たちの子供を見つけることなのさ。そもそも、君たちの子供って? いなくなったの?」

(……この結果を…予測していたと……人間はやはり…警戒すべきモノ……)

「んん?」


 聞いたら、ますますワケが分からない答えが返ってきて…って。

 ちょっと待った!


「予測してた? 何を?」

(……この状況をよ……)

「うん? ということは、カトレア様…まさか、最初からこうなるって分かってたってこと?」

(さて……十数にもない…可能性の一つとして……考えてはいたのだろうが……)

「可能性?」

(いつか…我が召喚され…我でなくとも…今時分の事態となる…そういうことだ…)


 つまりつまり…? あ、マズイ、考えすぎて、頭痛くなってきた。けど、すんごく気になる。


「つまり、君じゃなくても、いつか、他のドラゴンがこの国…ナントカ国にやってくるから、結局こうなるってこと? 僕、よく、分からないけど」

(…その通りよ……我が召喚されねば……遠くない未来に…同胞が…来る……それだけの違いよ…)


 疑問だらけの僕の言葉を肯定してくれたのはいいけど、そこはかとなく嘲笑交じりで、物騒な響きが漂ってるような… 

 と、僕とドラゴンの会話が途切れたところで、王妃様がすい、と前に出て、ドラゴンに優雅なお礼をする。


「貴方に、感謝します。我が国の名にかけて、貴方の大切な子供たちを、必ず助けます」

(………なれば…良い…)


 ドラゴンは巨大な頭を、そこにある赤い目を王妃様へ落とし。それからいきなり顔を持ち上げると、天高く吼える。

 同時に、ちょっと前みたいにドラゴンの周囲に冷気が発生し始めて。


「うわっ、突然どうしたのさ!」


 一番ドラゴンに近いミノアが、ひょいと尻尾から飛び降りて、危機感なんて一切感じてない様子でこっちにやってくる。

 でもって、殺し合いごっこをまだ続けてたフリギアたちは、二人共動きを止めてその発生源に目を向け…って二人共、剣先がお互いの咽元にですね、そのですね、突き刺さりかねないんだけど…

 ともあれ、闘技場にいた全員が、ドラゴンに目を向けて。


 全員の視線を受けた中、ドラゴンの巨体が一瞬で凍り付いて…その体が砕ける。


「えっ? ばらばらっ? ま、また襲撃っ?」

「カトレア様、一応お下がり下さい」

「平気よ、フリギア…まあ綺麗」

「綺麗」

「うわわっ? うわわわっ?」

「シアムさん! 今行きます!」

「うわわわわっ! いいよ! 来ないで!」


 吹きすさぶ冷気を受け、顔を腕で覆い隠すけど……うう、寒いっ! 痛いっ!

 フリギアがすかさずカトレア様の前に出るけど、カトレア様はうっとりとその光景を見つめてたり。

 僕の傍にやってきたカーライルは、ミノアの方に押しのけて。


「カトレア様、冷えます。こちらを」

「有難う、フリギア」

「ミノアちゃんも、どうぞ」

「うん」

「さむ…」

「シアムさんも…」

「くないから! それよりも、何? どうしたのさ? 襲撃じゃあ…ないの?」


 風はすぐ収まったけど、空気が冷たい冷たい。カーライルがミノアを庇いつつ、どこからか取り出した外套を手に、僕へ目を向けてるのは、見なかったことにして。

 全くもって、何が起きたのか、分からない。どうやら襲撃じゃなくて、ドラゴンが何かしたみたいだけど…でも、ドラゴンばらばらに砕け散って…


 と、冷気が収まってきたところで、真紅の外套を纏ったミノアがそれをはためかせながら、冷気の発生元へ一人向かっていく。


「ミノア! その…危なくない?」

「ポンディラク」

「ん? ポン…ああ、ドラゴンね。それが、どうしたのさ」

「……」


 あのドラゴンの、種族としての名前を呟いたミノア。いつもの無表情で、いつの間にか、どっからか現れた緑の物体に、杖を向ける。


「あれ? こんな鳥…いたっけ?」


 そこには、僕が両手を広げたぐらいの大きさをした、緑色の鳥のような、鳥っぽい物体が飛んでたり。

 全身は緑色だけど、所々青くなってて、羽っぽいそれが宝石…というか金属みたいに鈍く輝いてて。長い尾っぽの先端は黄金色になってて、緑色の翼が上下するたびに揺れてて。

 そんな鳥っぽい何かを、ミノアは杖で指した後、手を伸ばす。

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