第108話(計)
「おたすけえええっ!」
どこからともなく飛んでくるのは、炎の弾。人間大のそれが、四方から僕らに向けてやってくる。
「うぎゃああああっ!」
それが直撃すると思った瞬間、何か見えない壁のようなものに衝突して、四方に散っていく。
「いいいい一体なにっ? 何が起きて…」
(人間が好む…襲撃というものだ…)
「いや、そうだけどさ! どうみても襲撃だけど! それ分かるけど! でもここお城で!」
「邪魔」
「はいっ! ごめんなさいっ!」
上空から、すんごく冷静に教えてくるドラゴン。そうなんだけど、そうだけどと叫び返してる途中で、ミノアが杖で僕の身体を押しのけて、魔法を展開。地面から競りあがる土壁が、炎の弾を全て防ぐ。
続いて、勢い良く下りてきたドラゴンが、吼えながら尾を叩きつければ、そこを中心にして、たちまち地面が凍りついていく。
(全て…殺すか……)
「凍死、好き」
ちょっとちょっと! ドラゴンもミノアもなんか物騒なこと言ってるんですけど!
しかも、初対面だろうに、息が合ってる二人が、そこはかとなく怖い……じゃなくて!
「もしかしなくても、僕らが標的?」
僕の素朴な疑問に、物凄い勢いで飛んできた巨大な岩を、雷撃で破壊していたドラゴンが呆れたような声を響かせる。
(今頃……気付いたのか)
「シアムは鈍いの」
「ミノア! そういうこと言わないの!」
「シアムは弱いの」
「うううう……ひどい…ひどい…本当だけど…」
ミノアの毒舌で、僕の心が傷つきマシタ。杖あげた時は、あんなに嬉しそうだったのに…やっぱり僕、嫌われてたり?
傷心な僕なんて知ったこっちゃないミノアは、謎の襲撃者たちの魔法に対して、お返しとばかり、氷の塊を展開。
続いて、低く吼えるドラゴン。周囲の空間全部埋めつくほどの氷の槍が出現…って。
「うわ…」
人間じゃあまず実現不可能な、圧倒的な物量に。全ての音が消えて、一瞬の静寂が訪れて。
そして、凍てつく槍、その全てが一斉に放たれる…って、ミノアの魔法もそうだけど、観客席にもいくつか直撃してるっぽいんだけど!
「あのさ! 誰がさ、僕ら殺そうとしてるの!」
(……さてな…)
「知らない人」
「ミノア……そうだね、確かにそうだね!」
そうだった! ミノアにとって、ほとんどの人が『知らない人』だった!
ドラゴンも人間の区別、つかないだろうし。
再度ドラゴンが吼えると、氷の槍はまるで生きているかのように方向転換して、敵を、自分たちを害する人間を正確に追尾して貫く。
ミノアはドラゴンを真似してか、十数の氷の槍を展開して放つ。
(ほう……やるな)
「真似」
(……上出来だ)
「上出来」
ドラゴンに褒められて、心なしか、嬉しそうにミノアは杖を振るっております。ドラゴンは、そんなミノアを見下ろして、楽しそうに尾を揺らしております。
…どうやらお二方、仲良くなったようです。とても素晴らしい適応力だと思います。
そんな和やかな雰囲気の中、襲撃者側では、氷の槍を防ぐためにか、所々で透き通った魔法盾が展開されている。けど、氷の槍はそれをやすやす貫通して、術者を地面に縫いとめていく。
着々と、襲撃者たちが数を減らしてるのはいいんだけど!
「あのさ、皆無事なのっ? いくつか観客席っぽいところに飛んでってるけど!」
王妃様は? フリギアは? レガートさんたちはっ?
ミノアもドラゴンも、自分たち以外のことを考えてなさそうに、魔法放ってるけど、色々大丈夫なのっ?
「兄様は無事」
「そ、そう」
「無事」
「なら、いいけど…」
ミノアが、お兄さん、レガートさんは無事だって断言してるから…そっちは大丈夫なんだろう、うん。
それに、今思ったけど、フリギアならこの氷の槍とか、平然と切り落とすだろうし…こっちは心配して、損したかもしれない。
(……しかし的が小さい……乗れ…)
不安がなくなれば、心に余裕が出来てくるわけで。炎や雷、岩や蔦が飛び交う闘技場、凄い有様になってるなあ、だなんて観察してると、突然ドラゴンが頭を下げてくる。はて?
すると、ミノアが杖を抱えて、ドラゴンに駆け寄ったと思えば、側頭部に足をかけて、ひょいと乗っかって、振り返って、僕を見て…
「え? 乗れ?」
(……早くしろ)
「なんで? 早く?」
(………)
なんか苦笑ぎみなドラゴンは、面倒とばかり頭を近づけると、その巨大な口を開けて僕の頭を飲み込もうと……
…………え?




