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第107話(計)

 ドラゴンを無理やり支配下においてた原因、宝珠に突き刺さった杖。

 杖の石突きから黒々とした瘴気が、僕目掛けて一直線に襲い掛かってくる。


「………ふ」


 これほど濃い瘴気、浴びちゃうと頭痛吐き気眩暈どころじゃなくて、普通に生死の境を漂うほどの、濃度と量。

 そんなのが、ドラゴン、ミノア、僕、の中で、一番弱い僕に突撃してくる。


 だけど、甘い甘い!


「ふ、ふははははっ! どうだ見たか! 僕の娘の力!」


 僕に襲い掛かってきた瘴気は、手にした娘に、ミノアにあげた杖に、勢いよく吸い込まれていく。


(ほう……)

「これこそ、娘の力! 呪術を超えた呪い! どうだどうだ!」


 ちょっぴり、一瞬、やっぱり駄目かも、とか思っちゃいない。あ、これ無理かも、だなんて冷や汗が流れたりも、してない。

 完璧な計算通り、ドラゴンの宝珠から漏れ出た瘴気を杖は全部吸い込んで、自分の力に変換していく。

 しかも、中々活きがいい瘴気だったみたいで、より一層光沢溢れる素敵な姿を見せてくれて、僕満足。


「よし、っと」


 でもって、杖を宝珠から、ドラゴンから離せば、瘴気を放出するだけした宝珠が、地面へ落ちていく。

 ドラゴンから離れた宝珠は、そのまま乾いた音を立てて割れると、一瞬にして黒く濁って、どろどろに溶けて消えていって。

 あとには、何もない地面が広がるだけ。宝珠のほの字もない。


「……はい、ミノア。杖貸してくれて、有難う」

「うん」


 というわけで、解呪完了! これで、ドラゴンは自由の身!


「よしよし。宝珠はもうないから、呪いとかそういうのは、大丈夫だけどさ、君、なんともない? 頭痛がするとか、お腹が痛いとか…」

(……お前は……人…なのか?)

「へっ……?」


 突然、何を言い出すのやら。


(外見は…人であるようだが……)

「えっと…僕、外も中も人間だけど……」

(こうも易々……解呪をする人間……存在するとは……)


 なんでか、ドラゴンは本気で僕が人間かどうか疑ってるっぽい。なんで?

 人間じゃないのは、人の姿して鬼っぽいことする魔王なフリギアだけなのに。


「いやいや! 僕、ただの鍛治だから! ちょっと囮とか拉致とか経験してるけど、ただの小市民だから!」

(…であるならば……しかし……)

「姉様の服」

「どうみても僕、人間じゃん! ほら、ほら!」

(……ううむ…)

「姉様の服」

「ミノア、分かってるからね。しっかりきっちり聞こえてるから、繰り返さないで、ほじくり返さないで、思い出させないで…」


 ミノアは杖を抱き、僕を見上げて…心なしか期待がこもった視線に、耐えられませんデス。

 そっと、そこから目を逸らせば、今度はドラゴンの、大きい赤い目が飛び込んでくる。


(…術者以上の力を持たねば……破壊は不可能であるはず………)

「力があるのは、僕の娘、ミノアの杖だからね。呪鉱石を圧縮して杖にしてるからさ、呪いとかそういう系統は、ほとんど無効化できるんだ。君の宝珠も、呪いの一種っぽかったから、上手くいったわけ!」

(…………理解した…)

「うん!」


 どうやらドラゴン、納得してくれたみたいで、大きく頷くと、伏せてた巨躯を持ち上げる。緑色の綺麗な腹部が僕の目の前に広がる。

 そのまま、畳まれてた翼を広げて、二度、三度と羽ばたかせれば、強風で土やらなにやら飛んできて……おおっ、なんという迫力!


(礼を言う……お前の言…疑ったことを詫びよう…)

「いいっていいって。だって、僕らが悪いんだし」


 元はといえば、ドラゴンを勝手に拘束して、使役しようとする誰かさんたちが悪いわけで。


「これやったの、道具用意してたミノアの家族だと思うし、だから、あの人たちに文句でも……ってあれっ?」


 客席、特にこの召喚陣を敷いていた二人のフォなんとか家の人たちの姿を探すけど……いない。

 はて? さっきまで、ここら辺にいた筈なのに…どこいったんだろ?


「おっかしいなあ……ねえミノア…」


 あの二人、どこ行ったか知らない? と、一応家族らしいミノアに、行方を問いかけようとして。


「………」

「ミノア?」


 突然すい、とミノアが僕の前に出てくる。なんだろ? 杖まで構えちゃって。


(下らぬことを…!)

「え? えっ?」


 続いて、ドラゴンが全てを威嚇するように、高らかに吼える。

 格好いいけど、なんか怒ってるっぽいし。一体なんだっていうのさ。


「どうしたの? やっぱり具合が悪くなって…」

「死ぬの?」

(愚かな人間……実に愚か…)

「なにがわわわわわわわわっ!」


 良く分からないや、とドラゴンとミノアから目を離したら、そこには赤い壁が広がってまして……って、これ熱い! 火! 炎の波だよこれ!

 ちょ、ちょっと待った! 僕ミノアに丸焼きにされるようなことまだしてないはずなのにっ!


「おおおお助けっ! お助けをっ!」

(下らぬ…)

「ぎゃああああああっ!」


 ドラゴンが再度吼えると、魔力が凝集して、膨大な冷気が、身も凍りつくような冷気が、僕らに襲い掛かってくる炎の波に衝突。炎の波が一瞬で凍り付いて、音を立てて崩れていく。

 続いて、ミノアが小さな声とともに杖を突き出せば、そこから立ってられないほどの暴風が観客席の方へ向けて放たれる。凍り付いて砕けた炎だったものが、空に舞い上がって消えていく。


 って!


「な、なにっ? 今のなにっ? ミノアじゃないのっ? 違うのっ?」

「死ぬ?」

「ごめんなさいごめんなさいっ!」

(……次がくるぞ…)

「うん」


 ドラゴンが謎なこと言いながら、力強く翼を動かせば、巨体が持ち上がって空中へ。

 ミノアが地面へ杖を突き立てると、ほぼ同時に、何かが弾ける音が聞こえてくる。よくよく地面を見れば、無数の茨の蔦が切断されて転がってるんだけど…これ、何?


「つ、蔦っ? なんで蔦っ?」


 とにかく、まったくこれっぽっちも色々理解できてない僕は、ただただミノアに引っ付いて見てるしかない。何か分かってるっぽいミノアとドラゴンは、完全に戦闘体制。


「うわわわわっ! な、なにさ、これ!」

(…共に始末する……か)


 空高く舞い上がったドラゴンの口蓋が開いて、並んだ凶悪な牙の奥、そこから白い息が、吹雪が放たれて。

 猛烈な勢いが乗った冷気が僕らの前に吹き付けて、地面を舐めていく。

 ミノアが切断したっぽい蔦とは別に、どこからともなく現れた蔦が、吹雪の息を受けて凍りついて、一瞬で砕け散る。

 さらに、地面が振動すれば、ミノアが展開した落雷による閃光が視界一杯に広がって、そりゃあもう凄い迫力で。


「どどどどういうことっ?」


 吹きすさぶ風やら蔦の破片やら砂やらなにやらを腕で避けて、僕はミノアに引っ付いて叫ぶしかないんだけど…ていうか、本当に何が起きてるさっ?


 お願い誰か説明してえ!

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