第104話(計)
「召喚魔獣? だっけ。ミノア、怪我には気をつけてね」
「頑張る」
「う、うん」
ミノアが手加減一切なしで頑張ると、あの観客席も無事じゃ済まないような気がするけど…大丈夫だよね、うん!
清清しい青空を見て、視線を真正面、硬貨が点々と置かれた地面に戻す。
「本日相対してもらう召喚魔獣はポンディラク。雷と水を操る、攻防に優れたドラゴン」
カトレア様の言葉に続いて、硬貨が淡く輝きだす。
同時に、各硬貨の四方から魔力の線が伸びて、繋がって、巨大な召喚陣を形成していく。
「おおお。すごい…すごいや…」
完全に計算された魔力の動きに、すんごく感動。初めて見る光景から、目を離せない。
観客席のお貴族様たちからも、驚嘆と嫉妬が混ざった呻きが飛んでくる。
そんな神秘的っぽい光景に、だけど、隣のミノアだけは首を傾げて杖を前に差し出している。
…うん、杖を試したくて仕方ないのは分かるよ。けど、なんで首傾げてんだろう…?
内心で首傾げてると、召喚陣が完成。
四方八方に伸びてる魔力の線が輝くと、そこから虚像が、カトレア様が言うドラゴンの虚像が闘技場に実体化……って。
「あれれ?」
カーライルから聞いた話じゃ、召喚魔獣、生きてないっぽいから、意思なんて無いんじゃ、とか勝手に思い込んでたけど……
(…人間どもが……)
「なんで? 声、聞こえる? どうして?」
「聞こえる?」
「あ、いや、なんでもないよ」
黒に近い灰色の鱗に、緑に輝く翼と腹部をもった巨体。
大きな赤い目の下に、これまた大きな口、鋭い牙が並び、四本の足先からは鋭い爪が飛び出していて。
完全に実態化した尾が、どうにもできない不快さを示すように地面へ叩きつけられて、大きな音と砂埃を立てる。
(下らん…がよかろう……矮小な人間の指示とやらに…従おう…)
「指示……? 何のことさ?」
聞こえる『声』も凄く不本意そうで。
ううむ…なんだろ、すんごく、とっても良くない感じが…ていうか、この嫌な感じって、これまさか…
「さあ、ミノア嬢。遠慮なく戦ってくださいね」
「うん」
「万が一、危険だと判断した場合には、召喚を解除するわ。だから、安心して頂戴」
「うん」
なんかおかしい、なにかがおかしい。強烈な違和感と、この、胸からもやもや漂ってくる、嫌な予感。
カトレア様の声に、ミノアは杖を黒と緑のドラゴンへ向け…
「あ、ミノア! とりあえず、ちょっと待って!」
「燃やすの」
「ごめん、燃やすのはさ、ちょっとだけ待って。僕、気になることがあって」
「うん」
僕の制止に、ミノアは火炎球を放つことなく、杖をおろして下がっていく…なんか珍しい光景見ちゃったけど、それどころじゃない。
慌てて、伏せた姿勢から起き上がったドラゴンの前に出る。僕の数倍先の高さにある、敵意全開の顔に目を合わせる。
「ねえ! 指示ってなにさ!」
(…お前……人なりて…我の言葉を…)
尋ねてみれば、赤い眼が細くなって…これ、間違いない…本物だ! 本物のドラゴンだ! 初めて見た!
おお! 本物召喚しちゃうだなんて、さっすがナントカ国! 凄いや! 言葉に出来ない感動と、嫌な予感が胸いっぱいに広がって…
…じゃなくて。
「色々あって…ねえ、君の言う指示って…何?」
大体僕のせいだけど、いつまで経っても模擬戦が始まらないことに、貴族たちが不満の声を上げ始める。
(言葉も分からぬ人間どもに……愚かな我は宝珠を…埋め込まれたまでよ)
「宝珠ってあの宝珠? 埋め込む? 君に?」
(何も知らぬか……やはり…人は愚かよ)
怒りに響く声に、つい、後ずさる僕。
…どうやら僕らの言う、杖とかに埋め込んでる宝珠と、ドラゴンが示してる宝珠は違うものらしい。
その言葉を口にしたくもない、っていう感じがひしひしと伝わってくる。
「ごめん……」
(我の…浅慮の報い……人であるお前には…関係のないこと…否…そうでもないか……)
音が小さくなる。独り言っぽいけど…
「僕にも関係あるの? 僕は、その、ソレのこと、知らないけど?」
(我の声が届く……ならば構うまい)
「なにが……?」
聞くと同時、闘技場全体に振動、轟音、目を開けてられないほどの光が走り抜けた。




