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第102話(計)

「素晴らしいわ。ええ、本当に…全てを破壊できそうな位、素晴らしい杖だこと」


 ……あれ? 今、すんごく物騒な言葉が聞こえた…聞き間違い、かな?

  

「とても素晴らしい杖ね、シアムさん」

「はい! 大変有難うございますです!」

「まあ。お礼を言うのは私の方よ、シアムさん。杖だけでなく、色々面白い物を見ることができて、感謝しているわ」

「はい! こちらこそ感激の極みでございますです!」

「ほら、向こうを見て頂戴。皆一様に、転落しそうなほど身を乗り出したりしてまあ。それに…ふふ、あの欲望に満ちた目がまた見物ね。詰まらない嫉妬で、シアムさんを射殺しそうだわ」

「はい! その通りでございますです!」


 …どうやら僕、緊張し過ぎてか、とうとう幻聴まで聞こえてきたり。

 こんなにも笑顔が素敵な王妃様が、破壊、だとか射殺す、だとか物騒なこと言うわけないしね!

 その、非常に満足そうな、晴れやかな笑顔が僕に向けられる。


「そうだわ、シアムさん。こちらの杖について、説明してくださらない?」

「説明でございますですか!」

「ええ。強制はしないけれど…」

「はいよろこんで!」


 カトレア様の言葉に、反射的に背筋を伸ばして、気をつけをして、全力で叫ぶ僕…フリギアとクラヴィアさんによる『特訓』の成果だ。

 曰く、王妃様、カトレア様からの命令は絶対。逆らった時点で、首を飛ばす。

 …という『忠告』を、事あるごとに、眩しい笑顔と一緒に言われたら、誰だってこうなる。僕だってこうなった。


「それでは早速説明をさせていただきますですっ!」


 緊張で口の中が、からっからな僕を横目に、フリギアは満足そうに、けど今にも笑い出しそうな表情を浮かべて頷いてたり。

 一方、カーライルは何とも不気味な笑みを向けてきたから、それは全力で見なかったことにして、と。


「口からでまかせの、適当な説明でいいのよ。あの人たちはそれでも、満足してくれるでしょうから」

「はいっ! って、え?」

「そうね…私も、シアムさんに杖の製作を頼もうかしら。あの人の私物をいくつか売り払えば、足りるかしら…」

「はい?」

「それではシアムさん、説明を」

「はいお任せ下さいまし!」

「名乗る必要はありませんよ。各々、監視を放って簡単な情報は仕入れているでしょうから」

「はい分かりましたっ!」


 よしお任せ下さい王妃様! 僕が適当な説明を今から! 今から適当な説明を! そう! 適当な説明を!

 大きく息を吸う。吐く。吸って、吐いて。


「それでは! この杖について説明をさせていただきます!」


 よし閃いた!

 最後に大きく息を吸って、吐き出す。


「こちらの杖、それ自体の耐久力は、平均的な上級の杖の倍、硬度は一・五倍程度です。杖自体を武器として使用することも可能で、また硬度もあるので、低級武器程度ならば破壊も可能です」


 僕としては武器に等級をつけて評したくないんだけど、仕方ない。

 一般的に、武器には粗悪、初心者用の、等級のない物から始まって、低級、中級、そして店頭で並ぶ最高級品の等級である上級まである。

 それに加えて、上級の上には、個人が名の知れた鍛冶に頼む一品物や、伝説級の武器である特級が存在する。


 ちなみに、フリギアが最初から持ってた剣は上級でも上位の物で、僕が色々アレしちゃったカトレア様の杖は当然のように特級…だって、国宝っぽいし。


「ただし、この杖はミノア様用に調整してあるため、他の方は使用することは出来ません。無理に使用することも可能ですが、その場合、展開された魔法はその威力が大幅に低下してしまいます」


 僕渾身の『適当な』説明を聞いてるのか、聞いてないのか。お貴族様たちは、こぞって双眼鏡片手に、箱へ戻った杖へ食い入るような視線を向けてくる。

 ううむ…確かに自慢の一品だけど、そこまで欲丸出しで見られるのも、なんか嫌だなあ、だなんて。


「………」

「我慢、我慢よ、ミノアちゃん」

「………」


 ふと見れば、準主役っぽいミノアは、退屈なのかカトレア様の腕を握って、ぶらぶらさせて…えっと、いいの、それ?

 ま、まあ、カトレア様は嬉しそうにミノアと会話してるし…平気なんだろう、きっと。

 よし、説明に戻ろう。


「…宝玉部に関しては、各属性、中級程度の精霊石を組み込んでいます。威力は若干抑えられていますが、代わりに多属性の魔法を使用できるよう、改良してあります」


 顔を観客席に向けると、宝玉くれたレガートさんと眼があったから、軽く頭を下げておく。

 と、レガートさんも僕に気付いてくれたみたいで、気にしないで、と小さく手を振ってくれたり。ちょっと嬉しい。


 ちなみに、どこぞのフリギアは、お前マトモな言葉を話せるのではないか的な、つまり大層失礼な驚きを顔に貼り付けて僕の説明に耳を傾けている。

 カーライルは、感じ入ったように、何度も頷きながら僕の適当な説明を…鵜呑みにしているのでございましょうか?


 ………ごほん。


「特に属性の切り替えに力を入れ、速度だけみれば上級と同程度の水準で変更することが可能です。これにより、術者への負担を最小限に留めることができます。以上で、説明を終わりにしたいと思います!」


 最後に全力で叫んで、一歩…二歩、三歩、四歩下がる。お披露目会場が、しん、と場が静まり返って、一転して不気味な感じになる…ええと、これ、一体どうすれば?

 まだ、説明足りなかったり? でも、これ以上何も話すことないし、黙っておこう、そうしよう。


 と、カトレア様が、僕と入れ替わるように前へ出て。


「質問があるのなら、今のうちよ」


 声を上げて謎の沈黙を打ち破ってくれた。その途端、また、お披露目会場が賑やかになる。


「杖の製作に掛かった時間は」


 その中から、鋭い声が、お貴族様の渋い声が飛んでくる。カトレア様が僕に向けて頷くのを見てから、それに答える。


「一月ほど。フリギア様に拾われてから、少しずつ作製しておりました」

「ふむ…」

「費用は? それと精霊石の等級を詳しく」

「費用については、申し上げることはできません。精霊石の等級は先に述べた通り、中級がほとんどですが、一部上級を使用しています」

「属性の種類は」

「このナントカ…王都で用意できる精霊石は一通り組み込んであります」

「一通りか…つまり…」

「それは相当な…」


 実際の所、この子のために使った金額なんて覚えてない。だって、全部フリギアもちだし。

 それより、思わずナントカ国とか言いかけたけど、誤魔化せて良かった。背中に殺意溢れる視線が刺さってくるぐらいで、後は気にしてないみたいだし! フリギアからの視線が殺意に溢れてて痛いだけだし!


「成程、その程度か…」

「なれば、我が家でも…」

「しかしあの杖は中々の…」

「いやしかし…」


 僕の返答を聞いて、皆々様、うんうんと唸っている。

 多分だけど、各人お抱えの鍛冶と比較しているんだろう。独り言っぽい大きい呟きが、お披露目会場を侵食し始める。


「他に質問がある方は?」


 ミノアの指を摘んでいた王妃様が、場の様子に気付いたみたいで声を上げる。そうやって見ると、ミノアって手小さいし、細いよなあ。王妃様の手はつやっつやで、眩しい感じだ。

 なんとなく二人の触れ合いを見てると、視界の端でカーライルが穏やかな表情のまま剣の柄に手をかけて……えっ?


「一つ、よろしいかしら?」

「クラーレね。遠慮は結構よ」


 ずらりと並んだ観客席の下、いつの間にかお披露目会場、もとい闘技場の地面に、ローブ姿のクラ…クラ…クラなんとか様が立ってたり。

 突然の登場にちょっと驚いたけど、それはいいとして。


「有難うございます、カトレア様。では…」


 暇なのか、退屈なのか。突然、フリギアが足元から小石にしては大きい石を蹴り上げて、カーライルの腕に当てる。謎の器用さを見せたフリギアは、正面を向いたまま、これをやってのける。

 一方、小石が当たったカーライルの腕は、剣の柄から離れて。お返しとばかり、フリギアが蹴り上げた石よりも大きな小石…を蹴り上げる。

 大きな小石は、結構な勢いでフリギアの腰辺りへ飛んでいく…けども、さすがフリギア、何食わぬ顔で身を少し、ほんの少しだけずらして、小石じゃない大きな小石を避けてみせる。

 でもって、二人は何事もなかったかのように、元の姿勢に戻る。


 近くにいた僕だから一連の動きが理解できたけど、多分、遠目から、そう、あの観客席ぐらい離れた所から見れば…じゃなくて。

 二人共、何で突然そんな遊び、始めてるのさ? 真面目ぶって僕の話聞いてたけど、やっぱり退屈だったのかな? 


「シアム様は今、お付き合いしている方など…いらっしゃらないのかしら?」

「ですって、シアムさん」


 ……………………はい?

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