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●第83話(計)

「まず見て欲しいのが、この色と艶。これさ、呪鉱石のあの禍々しさを一切殺さずに、つまり、呪力をそのまま圧縮したからこそ出来たんだよね。あ、簡単に言ってるけど、これ、加減を少しでも間違えたら鉱石に皹が入って呪力が放出されて使い物にならなくなるから、本当に大変なんだよ。それから、ここの宝玉も見て欲しい所でさ。これも加減を間違えると割れるから、精霊石同士を調和させるためにまずは宝玉の…」

「分かった、分かったから…」

「だけど、それで終わりじゃなくて。当然宝玉に精霊石を組み込む作業があって、これがまたさ…」

「お前の、誤った力の入れ具合は理解した。だから、まずはその手に持った呪いの道具を箱に仕舞え。そして黙れ」

「…てなわけで、呪鉱石と…って今、呪いの道具って聞こえたんだけど?」

「ああ、言ったな」


 丹精込めて作り上げた一品。

 早速フリギアに見せてあげようって待ち構えてたのに、この態度。

 しかも、不吉な物を目にしたかのように手を振って、距離をとってるんだけど。


「シアムよ」

「うん、なにさ?」

「俺は、お前に杖の製作を依頼したはずなのだが」

「………はい?」


 フリギアは、一体何を言ってるのさ…どうみても、僕が手に持ってるのは杖じゃん!

 汗と涙と苦労と努力と感動と後は、後は…ええと! とにかく色々が込められた、杖じゃん!


「ちょっと! 僕の努力になんて感想!」

「言いたくもなる。それのどこが杖なのだ」

「これのどこが杖以外に見えるのさ!」


 あんまりな言い分に怒鳴りたくもなる。

 漆黒の、ミノアに合わせて長さと持ち手の幅は控え目にした杖。頂点に、虹色に輝く宝玉が鎮座している一品だ。


 …一体、これの、どこが、杖に、見えないのか、全く、理解できない。


「……やはり」


 憤慨する僕に、けれど、フリギアは何も言い返すこともなく、心底悩ましげな表情を浮かべて、あらぬ方を見やる。


「やはりコイツに任せたのは間違いだったか……俺もまだ見識ばった人間であったということか。どこかで驕っていたのだろう、反省せんとな…」

「え、あ、ちょっとフリギア? おおい、フリギア?」

「だが結果は結果だ、仕方あるまい。ミノアも、コイツのことを気には入っているようだからな、呪いの道具であっても喜んで受け取るだろう」


 僕を人間以外の何か、みたいな感じで見つめてくるフリギア。流石にその態度はいただけないんだけど。

 しかも、僕の娘を杖じゃないって断言してくるだなんて、人でなしにも程がある。

 でもって、真剣に悩んでるのが、怖いんだけど。


「呪いの道具じゃないって、さっきから言ってるんだけどなあ…」

「材料を買い込んでいた時点で、止めるべきであったか…」

「…あのさ、それどういうこと?」

「ん? ああ悪い。口に出ていたか」

「………」


 僕の問いかけは全部無視して、深く、深く溜息を吐くフリギア。

 …ふうん、そう。

 そこまで自慢の娘を呪いの道具と言うなら、こっちにだって…

 無造作に手を伸ばしたフリギア。


「ささ! ぼっちゃ…フリギア様、こちらをどうぞ」

「助かる」


 よおし! やるなら来い! 散々馬鹿にした杖の威力を見せつけ…ってあれ?


 いつの間にかアザレアさんが布を持ってて、手を伸ばしたフリギアはそれを受け取っただけ。僕には見向きもしない。

 しかも、何の変哲もなさそうな布を受け取ったフリギアは、これまた無造作に鞘から剣を引き抜く。

 よ、よし! 今度こそや、やるなら……こ、こい!


 フリギアが引き抜いたのは、柄まで透き通った剣。僕が作った自慢の、赤い……赤?

 あれ? 透き通ってるはずの青い刀身が、所々赤く、染まってる……? ってことは。


「フリギア、何か切った?」

「ああ。最近、不届き者と、身の程を弁えぬ愚か者が増えてな。お陰で国の治安が悪化する一方だ」

「へえ…」


 フリギアは答えながら刀身を軽く拭って、赤く染まった布をアザレアに返す。

 入れ代わるように差し出された新しい鞘を受け取って、青い刀身をそこに収める。


「ふうん、さっきまで切り合ってたんだ」

「良く分かったな」

「色々教えてくれるから。それにしても、フリギアってさ、色々やってるみたいだし、大変そうだね」

「………ああ」


 鉱石店と精霊石、それに各種武器屋ぐらいしか見てなかったけど、このナントカ国って結構広そうだし、治安の維持も大変そうだ。

 ただ、僕はフリギアがここで何をしてるのか、全然知らないんだけどね…知りたくもないけど。


「連日戦闘してるって相当治安が悪いんだね。刃こぼれなんてしないとは思うけど、何かあったらちゃんと調整するから、遠慮なく言ってよ」

「………ああ」


 でも、大変なのかは分かる。ということで、とりあえず頷いておこう。

 と、フリギアは哀れむような、若干苛立ちを交えたような視線を僕に送ってくる。

 僕、何もしてないんだけど。


「何? 僕、何か変なこと言った?」

「いや……」


 でもって、フリギアには珍しく、あからさまに僕から目を逸らして言葉を濁す。はて、どうしたんだろ?

 内心で首を傾げてると、手を叩く音が。


「はいはい、そこまでそこまで!」

「んん? アザレアさん?」

「はいはい、アザレアさんですよ」


 音がした方を見れば、アザレアさんがにこやかに笑って、食堂へ手を向けてたり。

 む。奥の方から、すんごくいい匂いがしてくるぞ。


「さあさ、フリギア様もシアム君も! 立ち話もなんですし、ご飯食べましょう! 特にシアム君! お腹ぺっこぺこでしょう?」

「お腹……」


 ご飯……お腹……すいた……うん、確かにお腹がすいてる。


「確かにお腹すいたや。二日ぐらい何も食べてないし、沢山食べれそう」

「でしょでしょ! ワタクシが腕によりをかけた料理! ぜひぜひ堪能して下さいまし!」

「うん!」


 頷けば、アザレアさんはとっても嬉しそうな顔を浮かべる。

 よし! 杖のことはとりあえず後にして、まずはアザレアさんが作ってくれたご飯、ご飯。

 おっと、大切な杖を箱に仕舞って、と。


「おいシアム」


 箱と一緒に食堂へ向かう僕にかかるのは、不機嫌な声。

 振り返ると、不機嫌そうに見えるけど、いつもこんな感じの顔してるフリギアが。


「なにさ?」

「二日ぐらい、ではない。四日だ」

「え? 四日? なんの…ああ、杖の製作期間?」

「そうだ」

「なあんだ。別に二日も、四日も、そんな変わらないじゃん」


 細かいところを律儀に訂正してくるのも、いつものフリギアらしい。

 それに、二日程度、本当に大した差じゃないし。


「そうか、そういう奴だったな、お前は」


 顔に手を当てて、嘆くフリギア。

 前からそうなんだけど、フリギアって、時々よく分からない反応をするんだよなあ。

 これって、一体なんなんだろ? 大きい国にいると、こうなるのかな?


 だなんて考えてると、フリギアは部屋へ一旦引っ込む、と必死な様子で笑いを堪えてるっぽいアザレアさんに断って、背を向ける。


「あ! 説明はまた後でね! それから、ちゃんと杖見てよ! ミノアへの贈り物だけど、依頼主はフリギアなんだからさ!」

「ああそうだな期待しているぞ」

「うん!」

「……嫌味も通じんのだったな。忘れていた」


 ドワーフのオッチャンが薦めてくれた呪鉱石が、予想以上にいい味を出してくれた杖。

 レガートさんが提供してくれた宝玉も、国宝には劣るけど、色んな所を調整したり。だから、そこらの宝玉とは比べ物にならないほど性能がいい。

 でもって、この二つが組み合わさった、破壊力に特化した杖。破壊魔なミノアは絶対に気に入ってくれる。


 完璧な杖に、ミノアのちょっと人間超えてるっぽい破壊力が合わされば……それが、僕に向けられなければ…


「実戦で使う所、早く見てみたい……ちょっとした魔法で、辺り一面が火の海とか……うへへへへ」

「シアム君、楽しそうですねえ」

「そりゃもう! 久しぶりにお金気にせず杖作れたし! ほんと、お金って大事だなあ」


 今回みたいに、好きな物を好きなだけ買って武器を作る、だなんて状況、ほとんどない。

 大体が自腹か、もしくは、そこら辺にある木とか石とか錆て使い物にならなくなった武器を加工して売り捌いてたし…あの頃が懐かしい…


「シアム君の言う通り! お金がないと槍も買えません!」

「槍かあ。そういえば、アザレアさんってどんな槍、使ってるの?」

「おんや? 興味あります?」

「とっても!」


 杖を作り上げて十分堪能した後、それでもフリギアが帰ってくるまで時間があったからお屋敷をうろうろしてたら、たまたま俊敏な動きで雑巾がけをしていたアザレアさんと遭遇。

 それで雑談してた時に、サフォーさんが拳法の達人で、アザレアさんは槍をぶん回すのが趣味だってことを知ったけど…


 アザレアさんは嬉しそうに槍を掲げる仕草をする。手馴れた感じと勢いがあって、凄く勇ましい。


「でしたら、後ほどお見せしましょう! 実はワタクシ、ブツを切り落とすのが大、大好きでございまして。槍は槍ですけど、突き刺せるような形はしてないですよ?」

「へえ! じゃあ突きに特化したスピアとか、コルセスカやトライデントみたいな、二股、三股の槍は駄目だったり?」

「ですねえ。あれって結局、突く専用で、切り落とすには少々不便なので」

「確かに。ならハルバートはどう?」


 相手を切って突けて、叩くこともできる、万能型の鉾槍。

 僕の質問に、アザレアさんはそうですねえ、と暫く首を傾げた後、横に振る。


「何回か使ったことありますけど、あれは刀身が重過ぎる気がするし、振り回し辛くて駄目ですねえ。それに、結局突けちゃうのがどうにも嫌で…何度叩き折ったことやら」

「ふんふん。ということは、グレイヴみたいに、剣みたいな刀身をした槍が好きってこと?」

「そうですねえ……ええ、そうですね! 今の槍も丁度そんな感じですし」

「ナルホドナルホド」


 若干湾曲した、幅広の片刃がついた槍がいいってことだね。

 アザレアさんは結構鍛えてるっぽいけど、やっぱり相手を切断するように槍を操るのは大変のような気がしたり。

 となれば、振り回すのに抵抗が少なくて、それでいて抜群の切れ味と耐久力を兼ね備えた形を……あ、どうしよう。作りたくなってきた。


「槍、槍、槍…槍作りたいなあ。お財布、じゃなくてフリギアもいることだし、一本ぐらい作ってもいいような?」

「ささ、シアム君の席はここですよ」


 気づけば食堂で立ち話してたり。

 雑談で周囲が見えてなかった僕とは違って、アザレアさんはちゃんと時機を見計らって席を案内してくれる。


「どうぞどうぞ」

「あ、うん。そういえば、サフォーさんは?」

「戸締りと、諸々の確認をしてますよん」

「戸締りかあ。大変そうだね」


 どっこいしょ、と…今まで床で作業してたから、こうやって椅子に腰を下ろすのも数日振りだ。

 体を、特に腕を伸ばすとバキバキ言うのは、同じ姿勢で何日も作業してたからで、肩をまわすと、これまた結構いい音が。


「いえいえ。毎日のことなので、それほどでも。じゃあシアム君、ご飯用意するから、待っててね」

「うん! 有難う!」

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