第100話(計)
「今まで滅多に人を褒めたことがないフリギアが、わざわざ私に報告してきたの。それはもう、とても嬉しそうに」
「フ! リ、ギ……」
叫びたい、今ここでとてつもなく叫びたい! フリギアの人でなし! って叫びたいのに!
だけども人生最大の自制心で、歯を食いしばって、それを押さ…押さえ…押さえたよっ!
代わりに、僕までほっこりするような笑顔を浮かべたカトレア様、その隣に控えてる誰かさんへ、抗議の視線を送れば。
「私が嬉しそう、ですか」
「ええ。我がことのように話をしていたわ」
「それは気付きませんでした」
良かったな、と言わんばかりの、押し付けがましい悪魔の笑みが返って来るわけで!
確信犯だよ! このフリギア、確信犯だよ! 最初からこうなるって分かって鉱山を餌に僕を……くそうっ!
「見て分かる通り、色々と常識がない男ですが、有能ではあります。カトレア様のご期待に添えるかと」
「そ、れはっ! ど、う、もっ!」
全身震えてる僕を前に、傍目には恐縮したような面持ちに見えちゃう感じで、大層畏まったご様子のフリギアは頭を下げる。
当然のように、頭を下げた相手は僕じゃあない……僕じゃない……僕じゃ…
「お待たせしてごめんなさい、シアムさん。今、召喚陣を展開するための魔法道具を設置している途中で…もう少し時間がかかると思うわ」
「は? は、はいっ!」
澄ました顔したフリギアにばっか気をとられてたけど…言われてみれば、ローブ着た人たちが、ぶつぶつ言いながら闘技場の中央からやや左寄りに点々と何かを置いてたり。
はて…なんか手の平ほどある巨大な円盤、持ってる、かな? 遠目だと硬貨に見えるけども…
僕らが見てる前で、ローブの人たちは謎の魔法道具を真剣な面持ちで、手に持った紙と睨めっこしながら、地面へ丁寧に置いては頷きあっている。
「何してるんだろ…呪文で魔力込めてる? あ、でもあの魔法道具には魔力入ってるっぽいなあ…」
「魔法道具同士を共鳴させて魔力を放出させて、召喚陣を形成するのよ。彼らがしているのは、その位置取りね」
「なるほど…じゃあ、あの魔法道具には同一量の魔力が込められてるってことなのかな…でも等間隔には置いてない?」
「道具同士の距離で、込める魔力の割合が変わるのよ。ですから、ああして設置場所を間違えないよう気をつけているのね」
「そっかあ…ってあれ…」
「他に何か質問はあるかしら」
「いえなんでもございませんっ!」
僕、今、誰と会話して…と、ソレに気付いて、全力で顔を背ければ、一際上質な椅子が置かれた一角が目に留まったり。
そこには沢山の人が、特に偉そうなお貴族様っぽい人たちがいて、各々談笑しつつも視線をちらちら僕らやローブの集団やらへ向けている。
「………」
「今日は滅多に顔を見ない方もいるみたい、ねえフリギア」
うん、本当に『お披露目会』だ。突き刺さるような視線をいくつも受けて、僕の繊細なお肌と心が痛い。
「………」
「はい。ファレイ殿が大々的に宣伝した結果と思われます」
うう、益々、緊張してきた。慣れればなんとかなるや、とか思ってたけど、これ絶対慣れない。
でも、ミノアの全力と僕の愛娘が組み合わさった魔法とか、楽しみだし、この目で見てみたい。
「……ミノア、楽しい?」
「うん」
なんとなくミノアを見れば、僕の手を握って摘んで遊んでて、どこも緊張した様子はない。
他はと言えば、僕がカチンコチンに緊張してるのを知って小馬鹿にしてくれるフリギアと、未だに僕の性別間違えてくれてるカーライルしかいない。
そして、微笑を絶やさない王妃様。
…この面子で緊張するな、というのが無理だと思いマス。
「………」
「そんなに緊張しないでいいのよ。私が無理に呼んたのだから」
「あ、いやその…」
「そうね…今日召喚するのはドラゴンですって。それほど巨大な魔獣を召喚魔獣として使役する、フォルツァンド家の魔法技術は変わらず素晴らしいわ」
「ドラ、ゴン、で、ございますですか?」
「ええ、ドラゴンよ。とてもとても強いのでしょうね…うふふ」
薄く笑う王妃様、目を輝かせて作業を眺めてたり。
それはもう、すんごくすんごく嬉しそうで…まるで、自分が戦いに望むかのような、だなんて。
「いやいやまさか…」
それにしても…ドラゴンって、あのドラゴン?
いつぞや、フリギアが八つ当たりした、ドラゴンゾンビの親戚? 本当にあのドラゴン?
「ねえミノア、ドラゴンだってさ。ミノアなら丸焼きに出来るかな?」
「……」
「あれ? ミノア? どうしたのさ?」
答えが返ってこないからミノアを見やれば、僕の手をいじくりながら、設置されていく硬貨のような魔法道具を目で追っかけてたり。
やたら熱心に見てるけど、ローブの人たちが魔法道具を置いてるだけで、特段不審な動きをしてるわけでも…ただ興味を引いただけかな?
「フォルツァンドも大きくでたな」
「召喚魔獣でなければ、引き止めるところですよ」
フリギアたちは事前に知らされてたみたいで、驚くような素振りは見えない。ドラゴンだって言われても、なんだそれ、みたいな反応。
召喚魔獣とやらは召喚者に絶対服従らしいから、安全なんだろうけどさ…けど、ドラゴンだよ、ドラゴン!
強靭な鱗に覆われた巨大な姿! 鋭く尖った角があったりなかったり! 大きな翼で空飛んで、業火を吐いてみたり!
「ドラゴン、ドラゴン!」
「…やたらと興奮している奴がいるな」
「成程。つまり、シアムさんの気を引くためには強さが必要だということですね」
「おい。カーライルよ、アレは男だと何度言えば…」
巨体に似合わぬ素早い動きで、敵を蹴散らしていって、ドラゴンにしか使えない魔法とか展開して、辺りが灼熱地獄に…
だなんて色々想像してると、ローブの集団から二人が外れて、僕らの方にやってくるのが見えたり…どうやら男の人と女の人、みたいだけど?
体を滑らせるようにやってくる二人を認めた王妃様、穏やかな顔を僕へ、ミノアへと移す。
「シアムさん、今回の模擬戦に協力しているフォルツァンドの長兄であるリヴィトゥムと、隣は長女のクラーレよ」
「……えっ?」
立ち止まった二人は、まずは揃って王妃様へと礼をする。王妃様は軽く顎を引いてそれを受ける。
続いて二人は僕へと体を向けて。
「私がリヴィトゥム=フォルツァンド、これが…」
「妹のクラーレよ…始めまして」
「え、あ、はい…」
リヴィトゥム様とやらは魔法師らしく、表も裏も探ることが出来ないような無表情で自己紹介。クラーレ様とやらは嫣然と微笑む。
突然の事態についていけない僕を前に、フォルなんとか家の代表としてか、リヴィトゥム様が口を開く。クラーレ様は黙ったまま意味深長な笑みを浮かべる。
「このたび、妹の杖を作製していただき、礼を申し上げる」
「……は、あ」
ううむ…なんだか素直にお礼を受れない。言ってることは、ただのお礼なんだけど…こう、なんか、違って…
リヴィトゥム様は僕のぎこちない返答なんて気にせず、どこまでも感情を読み取らせない、抑揚を抑えた低い声で続ける。
「今回、我が家の専属鍛冶との違いを見せて欲しいと、場を設けることを進言した。そちらには迷惑だろうが、協力していただきたい」
「はあ…でも杖、完成したから、僕、もうすることな…」
「では失礼」
「え…あ…」
話は終わったとばかり、言いたいこと言ったらしく、僕の呟きを聞くことなくリヴィトゥム様は王妃様へ一礼して身を翻す。
入れ替わるように、クラーレ様が長い髪を掻き揚げて横目で僕を見てくる。
「始めまして、変わった鍛治様。魔法師家系は皆、貴方のことを気にしているのよ。特に…ほら、あそこのファーレイ様なんて…ふふ」
「はあ…」
嘲笑の響きを持って、眼が観客席へ向けられるけど…うん、クラーレ様とやらが示した人が誰なのか、僕には全く分からない。
第一、このナントカ国にいるお貴族様の名前なんて、僕が知ってるわけもないし…どう反応すればいいんだろ?
だなんて悩む僕を気にすることなく、クラーレ様の目が横へと動いていく。
「それに弟のレガートもいるわ。心配性だこと」
「あ」
そっちはすぐに分かったり。
僕と眼があった瞬間、穏やかな表情で頷いたレガートさん。小さく手を振ると、向こうも笑顔で返してくれた。ちょっと嬉しい。
僕を見上げてたミノアも、レガートさんに気付いたようで、視線だけ向ける。その指は、僕の腕を引っ張ったり抓ったり引っかいたり…って痛い!
「ミノア! 引っかくのは駄目…って的確にっ! 痛っ! 抉らない!」
「……死ぬ?」
「痛っ! 容赦ないって! あでで!」
あんまりにも痛くてミノアに目を向けると、クラーレ様がミノアを見ていて…ぞっとするほど冷たい笑みを浮かべていた。
「妹も懐いているようで、結構ですこと。うふふ…失礼」
「え? あ、はあ…どうも……あいてっ?」
リヴィトゥム様と同じように、言いたいことを言って、クラーレ様も、王妃様へ優雅に礼をして去って行く。
とうとう、この「小説のような何か」が三桁に乗りました、100話目となります。
序章(仮)開始から一年以上経っているにも関わらず、ここまで全て目を通している奇特すぎる方々、本当に有難うございます。
ここまでで、一年と六か月ぐらい、になりますか。初回から、毎回投稿直後に目を通している方々…まだいますかね? もしいらしたら、色々な意味で、鋼鉄の精神を有していると思います。誇ってもよいかと。
本当に嬉しく思います。感極まって涙を流してみたり、みなかったりするほど。
話を戻しますが、三桁に乗りましたが、まだ完結は遠いです。
色々と期待を裏切っているでしょう、この「小説のような何か」ですが、「それでも構わない」という方々、引き続きよろしくお願いいたします。
以上。




