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第99話(計)

「武具は支給されていますが、保険として数振り所持している者がほとんどですよ」

「やっぱりそうなんだ。じゃあ、騎士様専属の鍛治とかいるんだね」

「一部にはいますよ。ただそれは専属というよりも、個々人が抱えている鍛治、ですが」

「へえ!」

「騎士団の中で纏めて注文を取り、工房へ発注していますね。その方が色々とやりやすいので」

「そっか! なら後でさ、そのお店教えてよ! 僕、行ってみたいんだけど」

「はい、勿論。後ほどご案内しますよ」

「あ、それはいいや。フリギアも、専属の鍛治がどうとか…なに?」


 色々カーライルから聞いてると、徐々に周辺が騒がしくなってくる。

 気付いて周りを見てみても、人はまばらだ。どうもこの音、前方から聞こえくるような?


「どうかしましたか?」

「なんかさ、凄い賑やかな気がするんだけど…この先」

「賑やか、その通りですよ。なにせ、この先にあるのが、目的地の闘技場ですからね」

「えっ」


 なんと! 結構歩いたと思ったけど、ここが闘技場! お披露目会場! 

 そう思ってよくよく耳を澄ませば、沢山の人の声が聞こえてくる。これは…相当な規模だ。

 今気付いたけど、どれだけ人が集められてるのかとか、聞き忘れてたような。フリギアの言い方から、そこまでじゃあないと思ってたけど…


「平時は我らの訓練で使用していますが、年に二度行われる闘技大会でも使用されている、由緒正しい場所ですよ」

「闘技大会って…あ、フリギア、ここにいるってことかな?」


 闘技大会! すんごく中身が気になるけど、ここは押さえて押さえて…おお、なんか楽しくなってきた!


「ええ。王妃へ今回の件について、色々と説明をしていることでしょう」


 朗らかな笑顔を浮かべたまま、大きく頷くカーライル。

 カーライルはそのまま足を進め、一旦立ち止まると、また歩きだす。同じように僕も、今まで無言だったミノアも同じように立ち止まって、進む。


 廊下の先、光溢れてる方へ…


「カトレア様、ただいまお二方を連れて参りました」


 通路を抜けた先、少し歩いたカーライルは深く一礼する。でもって振り返ると、満面の笑顔で手を向けて、僕に先へ行くよう促す。


「シアムさん、どうぞ先へ」

「う、うん…」


 さすがに緊張する。そんな僕を見て何か思ったみたいで、ミノアが手を伸ばして僕の袖を握ってくれたり。

 ミノア優しいなあ、誰かさんとは大違いだなあ。よし! 気合入れて行こうじゃないか!


 とか思って、なんとなく、なんとなくミノアの手を見たらば、うっすら危険な香りが漂ってきて……いやまさかこんなところで僕に魔法をまさかきっと考えすぎでそんなことはあはは…


「死にたい?」

「お願い僕焼かないでっ?」


 恐ろしい、恐ろしいぞミノア。隙あらば僕の命を狙ってくるミノアが、大層おっそろしい。慌てて腕を振りほどこうとしたけど、無理でした。

 生命の危機を感じて、慌てて廊下から開かれた場所へ突撃していく。一瞬眼が眩むけど、すぐに目が慣れて、眼前に広がる光景を写し出す。


「うわあ……凄いや…」


 そう言うしかない。視界一杯に飛び込んできたのは、視界の隅から隅まで広がった、座席の数々。遠目からは数え切れないほどの座席が扇状に並んでて、それだけで圧力を伴ってくる。

 その一部分に、人が密集してたり。なるほど、これが『お披露目会』に招待された人たち…それにしても、広いし、多い。

 会場は、あるところにはある円形闘技場だ。地面は土で、天井もなくて、青空が見えるし、涼しい風も吹いてくる。

 けど、その大きさが半端じゃない。一体、このナントカ国の人たちはどんな訓練して、どんな闘技大会してるんだろ…


「はあ……これは……むう…」

「おいシアム」


 想像とあんまりにも掛け離れた光景に呆然としてたら、見知った顔が目に入ってきた。

 青い髪を揺らしてやってきたのは、もちろん、フリギアだ。


「シアム、お前、それはなんだ」

「それ?」

「頭だ、頭」

「あ、えと! これは! その、色々あって、ほら……その…」

「駄目」


 呆れたように指摘してくるフリギア。反射的に手を持ち上げようとすれば、飛び出したミノアに腕を引っ張られる。


「ミノア、きっとカーライルの隣にいるのが王妃様だろうし、ここは一つ、この髪留めをね…」

「駄目」

「…駄目なんだね?」

「駄目」


 こんな時でも、髪留めを死守しようとするミノア。やっぱり頑固でした。

 でもって、この会話で僕がこんな頭してる原因を察したフリギアは、ミノアへ目を向ける。


「お前、好かれているな」

「そうかもしれないけど、でもこれって、どちらかって言うと嫌がらせじゃ?」

「そうか? まあミノアなれば仕方あるまい」

「えっ」

「似合っているではないか、シアム」


 今にも笑い出しそうに、口元を吊り上げたフリギア。絶対に褒めてない、楽しんでる。

 それに、褒められても嬉しくないし。誰かさんの誤解も招くし。


「あのさフリギア、僕に嫌がらせするのはもう諦めたけど、ここ、正式な場所じゃん」

「ああ、そうだったか」

「……」


 でもってこの返答。とぼけてみせるフリギアに詰め寄ろうとして…


「フリギア、そろそろ紹介して欲しいわ」

「は」


 女性の声が僕らを止める。恐る恐る視線をずらしていくと、豪華な白のドレスに身を包んだ、銀髪の女性が目に入る。


「こ、こんにちは…」

「ええ、こんにちは」


 なるべく見ないようにしていたけど、いい加減諦めて、フリギアたちから教わった礼をぎこちなく実践。

 フリギアが小さく笑っている横で、ミノアも僕から手を離して、こちらは慣れた様子で上品に淑女の礼をする。さっきまで僕を丸焼きにしようとしてたとは思えないぐらい、完璧な動作。


「カトレア様。これが、素性も知れぬ流れの鍛冶で、今回ミノア嬢の杖を作製した、見た目はただの小市民である、シアムです」

「あの…素性……見た目…あのさ…」


 すんごく偉い人の頂点っぽい王妃様の目の前だっていうのに、絶好調な毒舌。ていうか、いつもより滑らかな気がする。

 いつものように抗議しようにも、眼前に立つ王妃様の存在感がそれをさせない。


「フリギアが言う通り、随分若い方なのね。顔を上げて頂戴」

「は、はい!」


 強張る顔を上げれば、王妃様の整った顔と灰色の眼が笑みの形を取っていたり。

 王妃様の両側にはカーライルと、いつの間にかフリギアが立ってて、脇を固めている。


「………」


 こうやって見てみると、フリギアとカーライルは見事に対になってて、王妃様を中心に左右を固める様は中々壮観。

 出来れば遠くから眺めていたかった。近くにいたら、性格の悪さと視力の悪さとを知っちゃうし。


「…………」

「そう緊張しなくていいのよ。私はカトレア、皆さん私のことを王妃様というけれど、ただのお話好きのおばさんよ」

「そ、それは……あうあう…」

「まあまあ」


 無理無理無理! ご冗談にも反応できませんって! あ、フリギア、鼻で笑わないでよ!

 当然じゃないか! 王妃様の御前だよ! 僕、ただの小市民だよ! 緊張し過ぎて会話なんて出来るわけないじゃないか!


「ミノアちゃんも、久しぶりねえ。元気そうで嬉しいわ」

「うん」


 他方、こくこく、と頷いてるのはミノア。相変わらず不動の心を持っているようで、王妃様に褒められても鉄壁の無表情は変わらない。

 けども王妃様は嬉しそうに頷いて、再び僕へ視線を向ける。人が良さそうな笑顔を向ける。


「今日は私の我侭で、ごめんなさい。でも、どうしても見てみたくて」


 区切って、隣に控えてるフリギアを仰ぐ。


「フリギアがあんなに褒めちぎる鍛冶ですもの、一目見ておきたいと思って」


 フリギア! やっぱり君のせいなのか! 色んな人に、あることないこと吹聴したのはやっぱり君か!


 こっそり睨み付ければ、嬉しいだろう? って言う目が…絶対楽しんでる! 絶対に楽しんでる!

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