第98話(計)
「それって…」
「はい。ミノアちゃんの兄上と姉上、ということです」
「なるほどなるほど…ってミノア、今さっき…いや、なんでもないや」
ミノア、家族なのに『知らない人』って即答してたよね? 今も、首傾げてるし。さすがミノア、というかなんというか。
「…ってあれ?」
普通、偉い人の長男とか長女って、なんかこう、もうちょっと違う言い回しあったような?
「……んん?」
何か、何かが引っかかるぞ。けど、何が引っかかるかが分からない…ううむ。
悩み悩み唸る僕を見て、カーライルが嬉しそうに顔を向けてくる。
「おや? シアムさん…」
「いや、別に、何でもないから」
「そうですか? 何かお困りの様子に見えたのですが…ああ!」
「な、なに?」
一体誰に向けてるのか、とてつもなく気色悪い笑顔が下がって行く。
そんな、背筋が粟立つような笑顔が、僕の手にした箱に向かうと、さらに気色悪くなって…
「その荷物ですか。気付かず、申し訳ありません。私が持ちますよ」
「お構いなく!」
「いえいえ。女性に重たいものを持たせるだなんて、男として…」
「誰もそんなこと…」
誰もそんなこと聞いてないし、僕、遠慮するって言ってるじゃん! と口を開けば、ミノアが割り込んで箱を抱きしめる。
「杖」
「杖? ということは、ミノアちゃんの杖、ですか。なるほど、この中に」
「そう。後で披露するから、とっとと案内してよ」
こういう口の聴き方は駄目だっていうのは、分かっている。フリギアにも、クラヴィアさんにも、散々、延々、言われたし。
けど…だけどさ…
「私としたことが、気が付けばつい、貴方の美しさに目が向かい…申し訳ありません」
この騎士っぽい人、大層気持ち悪いからよし! うん、そうだ。僕は何も悪くない。
第一、本人もさして気にしてないみたいだしね! 嬉しそうだしね!
「うん、美しいとかどうでもいいからさ。早く行って」
「はい、どうぞこちらへ。ミノアちゃんもどうぞ」
「うん」
「はあ…」
ようやく、部屋の外に出れた。やっと、やっと外だ!
お披露目会とやらに、どれほどの人が来るのか聞いてないけど、前回城に入ったときより、人が少ないような。
「憂鬱そうですね。何かお悩みなら、私にご相談下さい」
「はあ…」
「自慢ではありませんが、ご婦人方のお悩み相談を、良く受けているのですよ。評判も中々のものと自負しています」
「中々」
「ええ。ミノアちゃんも私に相談してはどうでしょう」
皆、まさか見学しに…? とか、色々聞きたいことはあるけど、相手がカーライルじゃあ、会話するのも嫌だし…
「はあ………」
「成程、緊張するのも無理はないでしょう。ですが、私が傍にいますのでご安心下さい」
「はああ………」
フリギア、助けて! 今、初めてフリギアがマトモだって分かったよ!
この人、頭おかしい! 絶対おかしいって!
「…どこいくの?」
「闘技場ですよ。そこでミノアちゃんの杖を皆さんにお披露目した後、召喚魔獣を倒す…という流れになる予定ですよ」
「杖」
「残念ですが、杖は、もう少し我慢する必要がありますよ、ミノアちゃん」
「しょ? しょうかん…?」
気になる言葉が聞こえたし、つい聞き返したことに気付いて、慌てて口を閉じる。
「召喚魔獣、ですよ、シアムさん。さすが鍛冶ともなれば、装飾の話ではなく、戦闘方面に興味があるようですね。益々、貴方に興味が湧いてきましたよ」
「いやだから………もういいや、そういうことでいいから、説明して…」
「はい」
嫌なところに目敏いカーライルは、すぐさま食いつき、嬉々として説明を始める。
「召喚魔獣とは、魔法道具を使用して召喚陣を展開し、召喚された魔獣の総称です。召喚者の命令に忠実な、何度でも生き返る、言わば擬似生物、とでもいいますか」
「何度も復活するって…へえ、面白い」
「その特性があるので、我らの訓練にも用いられていますよ」
「訓練か。なるほどなるほど、確かに絶好の訓練台だね」
「ええ」
どんなものか、すんごく興味が沸いてきた。
「その魔獣って、僕らが知ってる魔獣と同じものが召喚されるの?」
「はい。魔法陣の素となる魔法道具へ、召喚したい魔獣の血を使用するので。その血に合わせた魔獣が召喚されますね」
「ふうん。召喚できる魔獣の大きさに限度とか、あるの?」
前を歩きつつ質問すれば、カーライルは顎に手を当てて考え込む。
「そうですね……私が目にしたものは、小さいもので手の平大、大きいものでゴーレム大ぐらいでしょうか」
「もっと大きい魔獣も召喚できるのかな?」
「理論的には、大きさに限度はないはずです。が、いかんせん、その血を採ってくるのが難しくなりますので」
だから、誰も試したことがない、らしい。
ううむ…確かに、岩の塊っぽいゴーレム以上の大きさした魔獣って、ドラゴンとか、ドラゴンとか、ドラゴンだからなあ。
確かに血だけ採ってくるのって、難しいかも。倒すのは、もっと難しいだろうけど。
「って、ゴーレムに血はないんじゃ?」
「彼らの場合、表面を削ったもので良いそうですよ」
「ふうん」
頷けば、カーライルは嬉しそうに僕を見下ろしてきたり。
「シアムさんは戦闘に興味がおありのようですので、その方面のお話でもしましょうか」
「うん! 色々教えてよ!」
「はい、お任せを」
自信満々に請け負ったカーライル。
性格とか、物の見え方とかにどこかオカシイ所あるけど、緊張やら退屈やらすることなく、僕らは会場に到着したのであったとさ。




