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第94話(計)

 お互いしばらく黙り込んだ後、クラヴィアさんは僕から視線を外して、ぽつり呟く。


「なぜ、私がこの男に説教しなければならないのかしら」


 クラヴィアさんは、ただ囁やいただけ。

 ただの独り言なのに、僕を見てもないのに、ごめんなさいと、謝らないと、という気持ちで一杯に…ってあれ? 僕、何か悪いことしてたっけ?


「貴方」

「はい! なんでございましょうか!」


 あとちょっとで何か思い出しそうだったけど、突然の呼びかけに、全部忘れたり。

 全身でびくりと反応した僕へ、苛立ち混じりの顔が向いてくる。


「フリギア様の顔に泥を塗るような真似、しないで頂戴ね」

「それは大丈夫! 杖、完璧に調整したし! ミノアもばっちり使いこなすから安心して!」

「全く信用できないわ」

「し、信じて! 僕信じて!」

「………」

「本当だって! 自信作だから!」


 あ、なんか分かってきた、かもしれないぞ…クラヴィアさんが僕にきつく当たってる理由。


「大丈夫、平気、だと、ただの言葉を連ねるだけで、私が信用すると思って?」

「説明! 説明するから! 説明させていただきますから!」

「そう」


 振り返ってみれば、材料から何から、杖に関しては色々…ほとんどフリギアに協力してもらってるわけで。

 普通に考えたら、フリギアが僕に、鍛治に杖の依頼をしてるって思うよね。まさか、僕がお礼に杖作ってるだなんて、思わないよね。

 つまり、このお披露目会が失敗したら、フリギアが僕に作らせた杖が欠陥品だったら、お貴族様社会でのフリギアの地位とか諸々に影響する、と。ナルホドナルホド。


 そりゃあ、許婚のクラヴィアさんが心配しないはずがない、うん。


「うおっほん! 今回ミノアのために作った杖なんだけど、威力重視にして。魔法の威力を増強させるために、魔法師自身だけじゃなく周囲の魔力も魔法に変換できるようにしたんだ。で、その速度もかなり調整したから、呪文を唱えてから魔法が展開するまでに発生する、僅かな空白時間もほとんどないよ。展開された魔法の制御についても、ミノアのお兄さん、レガートさんから貰った宝玉が遠隔で細かく調整してくれるから暴走の心配もないし。性能としては、店で売ってる杖の、数倍の速度で魔法を展開することが出来るかな。あの子を使ったミノアなら、もっと早く正確に展開出来るから、攻撃力と制御力だけなら、ほとんどの魔法師を超えそうだけどね」

「そ、そう」


 よしよし。そうとなったら、性能をしっかり説明して安心してもらおう!


「フリギアが、お金のこと気にするなって言ったから、精霊石も鉱石もいいのが揃えられたんだ。この国、質がいい物が安くで揃ってて驚いたや。ええと話がそれたけど、魔法に使用する属性も宝玉のお陰で遅延なく切り替えすることができるし、混成属性の魔法も使おうと思えば使えるようにしておいたよ。結構難しいみたいだけど、ミノアなら出来ると思うんだよなあ…どうだろ?」

「できるでしょうね、彼女なら。それにしても…」


 折角、複数の属性を混ぜ合わせた、混成魔法を使えるようにしても、ミノアは焼きたがるからなあ。

 まあいっか、といつの間に傾いてた首を戻して続ける。


「それから、あの子は完全にミノア用だから、他の人が使おうとしても反応しないから安心! 杖自体も振り回しやすい形にしてあるから、ミノアは使わないだろうけど、自分の身を守るための、防御用の武器として使うこともできるよ!」

「そう…」


 うう、早くミノアが杖使ったところ、見たいなあ。僕以外の誰かに使ってくれると、なおいいんだけど。

 ミノアが魔法を展開させて、辺り一面焦土にしてるところを想像してると、どんどん楽しくなってくる。


「えっへっへへ…」

「杖のことは分かったわ。私は専門外だけれども、相当規格外な物を作り上げたようね」

「規格外、かな。材料があれば誰でも作れると思う…あ、でも宝玉に精霊石を入れる時には属性の比率を…」

「私が不信だと指摘しているのは、貴方の、その態度」

「……へ?」


 僕の言葉を遮って、軽く頷くクラヴィアさん。

 流れる髪を直しながら、クラヴィアさんは僕を見…睨みつけてくる。


「僕? 僕はただの鍛冶だから、誰も気にしないでしょ? 皆が色々気にしてるのは、杖の性能でしょ?」


 僕自身を指差せば、ひくりと引きつる頬。あ、これちょっと…


「気にしない、ですって? 貴方の態度一つで、フリギア様にどれほど迷惑がかかるのか、自覚なさい!」

「え、でも…」

「でも?」

「いえとんでもございませぬ!」

「もういいわ。貴方、口を閉じてなさい。それが一番いいわ」

「そういたしますです」


 ここまで言われちゃうと、僕もなんとなく自信がなくなってきたり。大体、お貴族様との付き合い方とか、知らないし。

 うん、黙ってよう。何聞かれても黙ってよう…決心すると、盛り上がってきた気分が、ちょっと凹んだり。


「そうなのよね…」


 色々と自信がなくなってきた僕。

 なのに、更なる追い討ちをしたいのか、クラヴィアさんは僕を値踏みし始める。


「口を黙らせても、態度が駄目ね。服はシオン様とアザレアに任せておけばよいけれど、この男、いるだけで周囲を不快にさせてしまうわ」

「態度がって…不快って…」

「五月蝿いわ。黙りなさい」

「ハイ」


 ご要望どおり黙って待ってると、クラヴィアさんの、苛立ちが前面に出てた顔が、徐々に困惑の色へと染まっていく。

 でもって最後には、心底困り果てたといった感じの表情に。


「いえ、服でどうにかできる所を過ぎてるわ…このままでは、何の取柄もない没落貴族と、いえ、それで済めば……」

「皆して、どうして僕のこと没落貴族とか言うんだろ…ぐすん」


 しかもクラヴィアさんは、『何の取柄もない』っていう辛辣な言葉まで付けてくれたし。

 納得いかないけど、真剣に悩んでるらしいクラヴィアさんを前にして頬を掻いてると、一瞬、凍てつく視線とかち合う。


「私がどうにかできればよいのだけれども…そうなのよね、服が完成したとしても、顔に締まりがないから救いようがないのよ…」

「ええ、と…」


 酷い! どうしようもないじゃん! 顔とかどうしようもないじゃん!


「そもそも、素性が知れない不審者を、腕の立つ鍛治と偽って城内に入れるなんて。フリギア様、本当に大丈夫かしら」


 …僕が鍛治だっていうのは本当のことなのに。クラヴィアさん、信じてくれないっぽい。酷い。


「できることなら、私が付き添って…」


 僕の心臓が持たないので、それは止めて欲しいのデスガ。


「何か?」

「いえなんでもありません!」


 もう無理! 無理デス!


 これ以上この重苦しい空気に耐えられない誰か助けてお願いいたします! と強く願った瞬間。


「あ、シアム君発見!」


 ひょっこりと、誰かさんが顔を出して…おお! あれは救世主アザレアさん!

 全身から神々しい光を放っているアザレアさん、僕を探してたみたいで、笑顔を浮かべて何度も手招きしたり。


「どこにもいないと思ったら、食堂にいたんですね! ちょっと来てくれます?」

「あ、うん! う、ん…」


 よし! この場を離れられる! と意気揚々と立ち上がりかけ…ちら、とクラヴィアさんを確認すれば。


「もう貴方に用はないわ、好きになさい」

「はい…行って来ます」


 一顧だにせず、虫でも追い払うような態度で、少し凹む。

 なのに、それを見てアザレアさんは、嬉しそうにニンマリと笑う…次には、吊りあがった口元を隠すように手を当てて。


「クラヴィア様、シアム君と仲良くなって、アザレア嬉しゅうございます…うふふふ」

「へっ? 僕と、クラヴィアさんが?」

「どこをどう見たらそう解釈できるのかしら」


 驚く僕に、冷たい一瞥をくれた後、クラヴィアさんはアザレアさんにも同じ視線を向けるけど。

 アザレアさんは、胃と頭と心臓が痛くなるような視線を受けても、平然として、それどころか嬉しそうだったりする。


「アザレアはクラヴィア様にご友人ができて、それはもう涙涙でございますです! というわけでクラヴィア様、シアム君、お借りします!」

「返却しなくていいわよ」

「はいっ! では一時お借りしますね!」

「その…」


 僕、物扱いされてない?


「さあ、行きましょうシアム君! 出来たてほやほやのお洋服が待ってますよ!」

「あ、うん…」


 どこか納得できない二人の会話に、口を挟めるわけもなく。

 僕は笑顔を浮かべたアザレアさんの後をついていくのであったとさ。













 大変おまたせ(以下省略)

 毎度毎度(以下略)

 それでも(以下)

 以上

 で、良いのではないかと思う今日この頃です。


 大変お待たせいたしました。毎度毎度、同じことを繰り返していますが、また遅くなりまして申し訳ないです。それでも、更新を粘り強く待っていた奇特な方々、有難うございます。

 大分更新が滞っていたにも関わらず、絶讃~(仮)から全て目を通している方もいるようで、毎度毎度、どうやってこの「小説のような何か」を検索して発見しているのか不思議でたまりません。数十分で数十~数百新しく更新されていくというのに…一読、本当に有難うございます。

 以上

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