第91話(計)
一切詮索する素振りもないし、本当に不思議な反応だ。
やけにあっさり僕のことを理解してくれたシオンさん、でも気になることがあるみたいで、作業の合間合間に横目で見てきたり。
「シオンさん、どうかしたの?」
「あ、いえ……その…ですね…」
やっぱり気になるのかなあ、と聞いてみれば、数秒、口を開け閉めして。
「…私の裁縫道具から、何を聞いていたのでしょうか?」
ふうむ。どうも僕の体質っぽい何かよりも、針達が話してくれた中身が気になるご様子。
疑問を口に出したシオンさんは視線を僕に、睨み付けるように固定して、回答を待ってる。
「色々聞いたよ。シオンさんは自分たちを大切に扱ってくれる、いいご主人様だって」
「それから?」
「それから、アザレアさんが、もっと自分の服を仕立てて欲しいみたいで、時々愚痴ってるんだって」
「………」
針達から聞いた話じゃ、シオンさんはアザレアさんのために沢山服を作ってたらしいけど、最近はご無沙汰してる、と。
で、期待してるアザレアさんは、どっかに作りかけの服があるんじゃないかって、時々こっそり裁縫箱を開いては、落ち込むのを繰り返してる、とのこと。
「あとさ、シオンさんに……シオンさん?」
「………」
他にも色々教えてあげようとシオンさんに目を向けたら、すんごい険しい顔をしてた。
まさか怒ったのかと、まじまじ見てみると……悩んでる?
「シオンさん、どうかした? 僕、何か酷いこと言ってたり?」
「い、いえ…」
作業してる手が止まってるなあ、って思ったら、シオンさんの顔が徐々に赤くなっていく。
でもって、目を布に落として、持ち上げて僕を見て、目を落として、持ち上げて僕を見て…と。
「シオンさん? 突然、どうしたの?」
「……最近、アザレアが何も言わないので……その…私の服、飽きてしまったのではないかと…」
聞こえるか聞こえないかの、か細い声でシオンさんが呟く。と、すぐさま彼らの声が飛んでくる。
ふむふむ、と話を聞いて、すぐさま振り返ってシオンさんに伝えてあげる。
「正直に嬉しいって言うのが恥ずかしかったんだってさ! 全然飽きてないって!」
「それは今…ええ、本当に良かった」
「それどころか、今まで作ってくれた服、全部大事にしてるみたいだよ! 鎧以上に気合入れて、お手入れしてるって」
アザレアさんが鎧を持ってたことに驚いたけど、とにかく、シオンさんが作った洋服は、ほぼ新品の状態を保ってる、とのことで…羨ましい。
僕の作った武器、これはと思った人達に渡してきた武器も、それぐらい愛用してくれてると嬉しいんだけどなあ、だなんて。
「あ、でもフリギアは武器、ちゃんと手入れしてるんだよなあ。でも、なんかそれは嬉しくない…」
「シアムさん、有難うございます」
「僕に対しては酷い扱いなのに……へっ? シオンさん、今何か言った?」
じっと手元に目を向けるシオンさん…って、僕、今、もしかして、感謝されてたり?
「有難う、とか聞こえたような? 気のせい?」
「ええ、言いましたよ。アザレアの本音が聞けて、本当に感謝しています」
「え、と…どういたしまして?」
「ふふ。後、こちらの作業は終わりましたので。楽にしていただいて構いませんよ」
「あ、うん」
なんだかシオンさんは普通の人と反応が違う。僕を不気味だとか、詐欺師だとか、近寄ったら危険だとか言わないし…
「あのさ、シオンさんは僕が気持ち悪いとか思ってない? あ、いや、別にそう思って欲しいってわけじゃけど」
気になる。気になりすぎて聞きたくなる。
何と答えてくれるんだろ? と待てば、シオンさんは微笑を浮かべて首を振る。
「そのようなこと、全く思っていません」
「全く? 本当に?」
「ええ。なにせ、アザレアが私を叩き起こしてまで、引っ張りだすぐらいですから。それに、私から見ても、シアムさんは良い人だと思いますよ」
「ほ、本当に?」
「はい」
「そっか! なんか凄い嬉しい! えへへへへ」
最近、誰とは言わないけど、僕のことボロクソに言うから、シオンさんの一言が心に染みる。感動のあまり、涙も零れそうになったり。
だから、アザレアさんが、シオンさんに内緒で裁縫の練習してること、ちょくちょく力加減を誤って針を折って、こっそり補填してるってこと、黙ってよっと。
いつかシオンさんに服を作ってあげるんだ、って意気込んでるみたいだから、驚かせてあげよっと。
そんなこんなで、シオンさんは僕の服を作り続け、僕はシオンさんの針を直し続けてウン時間。
「……ん? んん?」
なんだか、顔の右側がちょっぴりあったかい。はて、と目を向ければ、光が飛び込んできて、思わず顔を背ける。
「あれ? もう朝だ」
「そうですね。集中していて、気付きませんでしたよ」
「うん! 僕も!」
光に慣れてきて窓を見やれば、外の帳が引き上げられる途中。陽の眩しさに再度目を細め…ふと気付く。
「五日目だっけ? やっぱ平気じゃん。フリギア、大げさだよなあ」
「五日、ですか? 何の話でしょうか?」
布を手で伸ばしていたシオンさんが聞いてくるので、教えてあげる。
「五日間寝てないって話」
「五日……? どなたが?」
「僕が」
動きを止め、布を床に落とすシオンさん。
次の瞬間、僕の肩に手を置いて叫ぶ。
「そっ、それはまずいですよ!」
「え? でも、僕、平気だけど」
「だから顔色が! シアムさん、休みましょう! 休んで下さい!」
「大丈夫大丈夫。まだやることあるし、僕元気だし」
折れた針達も直しきってないし。
続き続き…と、針に手を伸ばしかけたところで、横から伸びてきたシオンさんの腕に止められた。
僕の手をがっちり握りこんできて、離さない。
「ほら、早く部屋に戻って下さい!」
「でも、まだ直しきってないし」
「直し…? え、折れ針の数が…い、いえ! そうではなくて!」
決意の表情を浮かべたシオンさん、布とか全部床に広げたまま、僕を扉方向へ引きずり始める。
「ちょ、ちょっと?」
「服の方は仕上げるために、一旦店に戻る必要があるので、今日はここまでです。シアムさんは十二分に体を休めて下さい」
「ええ? でもさ…」
「サフォーさん、いらっしゃいますか。シアムさんがお休みになるようです」
「はい、ただいま」
シオンさんが声を掛ければ、すぐさま扉が開く。
そこから、全く疲れた様子を見せないサフォーさんが現れる…ってまさか一晩中扉の外にいたり? いや、まさか…
「って、ちょちょちょちょっとっ?」
「シアム様、お任せくださいませ。私の子守唄で、快眠をお約束致します」
「必要ないし! それに、僕まだやることが…」
「サフォーさん、遠慮は必要ありませんので、シアムさんを」
「お任せを。ではシアム様、行きましょう」
「うわあ! いやだあ! だれか、たあすけてえ!」
僕を軽々抱きかかえて、サフォーさんはすたすた歩いていく。顔を持ち上げると、シオンさんが笑顔で手を振ってるのが見えたり。
まだ針を直しきってないのに、と一生懸命抵抗してみても、サフォーさんは堪えた様子もなく、すぐさま二階の部屋に到着。
「大丈夫なのに…平気なのに…元気なのに…」
「こほん。では、我が家に伝わる子守唄を一曲」
「戻る! 戻らせてええ!」
扉が開いて、ベッドに乗せられて、サフォーさんは僕の首を引っつかむ。
硬い指の感触に、背筋があわ立つ。なんかどこかで…思い出せない、思い出せないけど。
「何か嫌な予感がするんだけど!」
「では、良い夢を」
穏やかに言いつつ、サフォーさんの指が僕の首に圧力をかける。
「待っ………て」
ガクン、と身体の力が抜けて……ってこれ、失神っていうんじゃ……




