09
「・・・・・」
何から聞いて良いのか、悩む。本格的な話は村に着いてからとしても、道中で少しでも情報を取り入れたい。
「あの怪物・・・あれは何?」
ケンジのファンタジー知識ではオーガーだが、本当にオーガーでいいのか。
「おお。あれか。あれはのぅ、ここ最近から騒ぎ出しての。ほんの4,5年前はこんなこと無かったのに。こんなところにまで出るとは。 いやはや、最近はさらに物騒になって・・・」
質問に答えているようで、あの怪物が何かという根本的な答えにはなっていない。
「・・・で、怪物の正体は結局何なの?」
「あれはのぅ、化け物じゃ」
そのままだ。答えになっていない。
「では、ここはどこですか?」
今度は雄司が尋ねる。
「ここか。ここはのぅ、レギオーン国じゃ。そしてワシらが向かっているのはペギンという村じゃ」
レギオーン? ペギン?
さっぱり聞いたことがない。
「失礼ですが、それはどこら辺の国ですか。近くの大きな国や大陸名は?」
「フォッフォッフォッフォ。インゼル大陸の南西に位置している小さな国じゃて」
インゼル大陸?
更に分からなくなる。
「ケンジ、分かるか?」
そっと、息子に耳打ちする。
「・・・さぁ?」
頭の中で世界地図を描くが、やはりそんなところは聞いたことはない。
「う~~ん」
あの怪物といい、この聞いたことも見たこともない国の名前といい・・・
一つの考えがケンジの頭に浮かぶ。
「もしかして・・・」
「ここは異世界なんじゃないか?」
後ろから声がした。タケシだ。
「天野君。もう身体の方は大丈夫なのか?」
「ええ、すいません。降ろしてください」
担いでいた人に声を掛けると、ストンっと降りた。
「タケシ、どうして倒れたんだ?」
「いやぁ~、いきなりグロテスクなもん見せられちゃって。ほら、おれって根が繊細だから・・・」
つまりは、あのオーガーの惨殺死体を見て貧血を起こして倒れた・・・と?
「てめぇ~、びっくりさせやがって。ものすごく心配したオレが馬鹿みたいじゃないか」
心配が大きかった分、ムカつきもデカい。
「まぁ、天野君が何ともなくて、何よりだ」
「ホットッホッ。その通り。無事が何よりじゃ」
「いつ気が付いたんだ?」
苛立った口調でケンジが尋ねた。
「インゼルが如何のこうのって辺りだよ」
「じゃあ、なんですぐ言わなかったんだよ」
「いや~。声を掛けるタイミングを逸しちゃって」
「それより、ここが異世界って話だけど・・・」
アルタァに向かい、尋ねる。
「・・・歩きながら喋ることではありませんな。村に着いてから、じっくりお話いたしましょう」




