08
「ふ~、何だか分からんが、とにかく助かったようだな」
男たちが何者か知らないがオーガーの脅威が去っただけでもありがたい。
彼らはヨットに近づくと、老人が一人歩み寄ってきた。
「お前さん方、どこから来なすった?」
日本語だ。
ほっとすると、雄司はヨットから降りて頭を下げ、礼を言う。
「危ないところを助けていただき、ありがとうございます。わたしたちはT県から流されて来ました。海釣りをしていたんですが、陸を見失いまして。・・・ところで、ここはどこら辺になりますか?」
「T県?」
老人はいぶかしげに首をひねる。
「何処ですかのぅ? 聞いたことは無いが・・・。やはりお前さん方、異国からやってきたのか?」
「外国?」
その割には、この老人は日本語を使っている。ちょっと彫が深て濃い顔だが、東洋人に収まる顔だ。
もしかしたら、戦前日本教育を受けさせられた東南アジアのどこかだろうか。
詮索は後だ。それより怪我の治療が優先だ。
「それより、子供が足に怪我をしているんですけど、医者に診てもらえませんか」
リョウの足の包帯は血がにじんで赤く染まっている。
「大丈夫ですよ」
リョウは何でもないように言うが、見ている方も痛々しい。
「分かりました」
心得たとばかりに老人との会話中、後ろに控えていた男たちが駆け寄る。
「大げさに血が出ていますけれど、本当に大丈夫ですよ」
「無理は禁物ですじゃ」
遠慮するリョウを二人の男が抱え上げようとする。再三リョウは辞退して、結局肩だけ貸してもらった。
「こっちも頼めないか」
おそるおそるケンジが尋ねる。
「どうした、ケンジ?」
「いや、何か知らないけれどタケシが倒れちゃって」
何もしていないはずのタケシはケンジの後ろで気絶していた。
「・・・そうか。すみません。もう一人も運んでもらって良いですか」
「うむ」
老人の指示でタケシをヨットから担ぎ出す。
「申し遅れましたな。ワシの名はアルタァ。とりあえずワシらの村に来なされ」
アルタァを先頭に男たちも歩き出す。
リョウは肩を貸してくれた人に「すいません」と、ことさら恐縮していた。
ケンジはタケシを心配そうに見守る。
あの化け物がいた林をぐるっと迂回して細い獣道を進む。
おとなしく付いて行くが、雄司たちにはアルタァたちに聞きたいことが山ほどあった。




