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無責任に請け負い、食堂のオヤジに声を掛ける。
「なあ、おっちゃん。あのブサイクオヤジって金持ち?」
尋ねられた親父はタケシの言葉に苦笑いしながらも「そうだ」とうなずいた。
「なあなぁ、化け物退治を頼まれるなんてまさにファンタジーの世界だな」
タケシは足取りも軽やかにボウジィの家に向かう。
「タケシ、本当に化け物なんて退治できるのか」
ケンジは心配になり、再度尋ねた。
タケシは声を潜め、
「そんなこと無理に決まっているだろ」
「何だ? だったら、どうしてあんなに金額のこと言い合っていたんだよ」
当然の疑問だ。
「もちろん。もらう金額は多いほうが良いに決まってるからだ」
「はぁ?」
訳が分からず、ケンジは疑問の声を発した。
「あの依頼は受けないんだろ。なら、金額が多かろうが少なかろうが関係ないんじゃないか」
「分かんない奴だな~、ケンジは」
タケシは目の前で人差し指を揺らし、チッチッチと舌を鳴らす。
「依頼を受けたふりをして、前金だけもらう。そして、そのままとんずら。当然、化け物退治なんかやらない」
「それって、詐欺じゃないのか!」
ケンジの叫びに道を歩いていた人たちが二人に注目する。
「ばかっ、声がでかい」
タケシは周りに愛敬笑いを振りまき「なんでもないんです。気にしないでください」とごまかす。
「ケンジ~、回りのことも考えろ」
「ごめん、ごめん。でも、そんなインチキなんて良いのか」
「な~に、相手は金持ちだ。あんなはした金、あのブサイク中年にゃ何ともない。それに、金持ちは貧乏人に金を還元するべきなんだ」
「その無茶な理論もな~」
煮え切らないケンジをタケシは説得にかかる。
「なら、ケンジにはほかに手早く金を稼ぐ手段でもあるのか? おれたちはほとんど無一文なんだぞ」
ケンジはタケシの言い草に呆れた。が、それを突かれるとケンジも痛い。
「それに、あのブサイク中年の娘を想像してみろよ。どうせ、ものすごいブスだ。そんなブスのために命を賭けたいと思うか?」
確かに、同じ命を賭けるならブスより美人が良いと思うのは男として当然だ。
「その化け物が命を賭けるほど強いのかまだ分からないじゃないか。それに、もしかしたら美人の奥さんと結婚して実は美人かもしれないぞ」
ないだろうな。と思いつつも反論する。当然、タケシはそれを否定する。
「絶対無理! あの顔を見ただろ。あのDNAを受け継いでいるんだぞ。どんな遺伝子操作したって、ひどいブスになるに決まってるさ。それに化け物退治なんてリスクはないほうが良いに決まってる」
詐欺を働くのも結構リスクがあると思うんだけど。
「すぐにばれて指名手配されたりするんじゃないか」
「あのブサイク中年が言ってただろ。『この件はくれぐれも内密に』って。つまり、観光客へのイメージダウンを恐れている。だから、前金だけ持ち逃げしても大っぴらにおれ達を追うことはできない。ケンジさえ黙っていれば、ばれないって。任せとけって。大船に乗ったつもりでいろ」
タケシは楽観的な笑みを浮かべがっちりと肩を組んできた。
ブサイク中年、ボウジィの家は人間の背丈ほどもある城壁のような壁に囲まれた立派な屋敷だった。五十坪以上はある、いかにも成金趣味の派手な門構えである。
「う~ん。あのおっさん、かなりあくどい事をやってるに違いない」
勝手な思い込みでタケシは独り言をつぶやいた。
金持ちに何か恨みでもあるのだろうか……
「こんにちは。いらっしゃい」
二人を迎えてくれたのはボウジィの奥さんで──なぜか美人だった。ボウジィのブサイクさを差し引いてもおつりがくるほどの美しさだ。
タケシは「財産目当てに違いない」と、また勝手な思い込みをする。
外とは違い屋敷の内装は趣味の良いインテリアが配置されていた。
ケンジとタケシは美人の奥さんに案内され、居間に通された。そこにはボウジィが横柄な態度でソファーに座って待っていた。
「おお、よく来たな。まあ、座ってくれ」
「いや~、どうもどうも。それにしても立派な屋敷ですね。それに奥様もボウジィさんにぴったりの美人ですし」
心にもない言葉を並べ、タケシは座った。
ボウジィは見え見えのお世辞に満足し、「ガハハハッ」と笑う。
「ではさっそく前金を」
ボウジィが気分良くしたのを感じると、タケシは手を出して催促した。
いくらなんでもあからさまだろう。
「ちゃんと仕事はしてくれるのだろうな」
疑いながらも、ボウジィはお金が入っているとおぼしき皮袋を出した。
「もちろん」
無責任に請け負い、包みを受け取る。中身を確かめるタケシ横目で見ながらケンジはしみじみと思う。
こいつ、すげ~嘘つき野郎だ……
「そういえば、退治する化け物ってなんですか」
そういえば金のことばかりで肝心の内容を聞いていなかった、ちなみにケンジが喋るとボロが出るということでここまで一言も喋らせてもらえなかった。
「──ヴァンパイアだ……」
苦渋の表情でボウジィは声を絞り出す。ただでさえブサイクな顔がますますブサイクになっている。
「ヴァンパイアっていうと、血を吸うっていうアレですよね」
「うむ。……そうだ。そいつは町外れの廃坑に住み着いている。そして、若い娘を生け贄として要求してくるのだ。なんとかしてくれ」
ボウジィは芝居掛けて、大げさに頭を抱えた。
そこへガチャリとドアが開き、一人の少女が入ってきた。年の頃は十五歳くらいか。清楚な感じの正統派美少女だ。 心なしか、ボウジィの奥さんに似ている。
まさか……、まさか……、もしかして……
「お父さま!」
ケンジの願いを裏切り、彼女はそう叫んだ。
ボウジィは顔を背け、心苦しげに声を出す。
「シェーンか。これが生け贄に選ばれた私の娘、シェーンだ」
ケンジは言葉をなくし、彼女を見た。
父親とはアリの触角ほども似ていない。本当にボウジィの娘なのだろうか……
「ハッ、そうか。養女だな」
合点がいったというようにタケシがつぶやく。
「あの……、お二人ともどうかしましたか」
シェーンは思考停止し、硬直した二人に怪訝そうな視線を向ける。
「何でもありません。それにしてもお美しいですね」
ケンジはシェーンをまじまじと凝視し言葉を紡ぐ。父親に似ず、と心の中で付け加えて……
「あ、ありがとうございます」
シェーンは頬を染め、うつむく。……めちゃくちゃかわいい。ケンジの好みど真ん中だ。
そのしぐさに、ケンジの中の何かが弾ける。
「ヴァンパイアの一匹や二匹、簡単に退治して見せましょう。──あなたのために!」
近づき、ドサクサ紛れに手まで握った。
「ケンジ?」
タケシに呆れ顔されるがもうシェーンしか見えない。
「何だ? タケシは困っている人を見捨てるような、そんな人間だったのか!」
真剣なまなざしで相棒を睨みつける。
ボウジィの娘が美少女だと知った途端、この変わり様…… 現金な奴である。
ボウジィはケンジの意気込みに大喜びする。
「おおっ! そんなにやる気になってくれたか。なら、早速行ってくれ。知り合いの者に化け物の住み着いている廃坑まで案内させるから」
「……いえ、場所さえ教えてもらえば勝手に行きます」
「遠慮するな」




