28
前話からそれなりに時間が経ってからの話
モンスターが跋扈し、魔王が実在する。剣と魔法の世界。そんなファンタジーの世界の中。舗装のされていない街道を二人の少年が歩いていた。
一人は白いトレーナーに洗いざらしのGパン。彼の名は草薙ケンジ。十六歳。 しかし、腰と背中に一本ずつ剣を提げており、服装から明らかに浮いている。
もう一人は黒いローブにすっぽりとフードをかぶっている。一見、RPGの魔法使い風だが、背中に大きなリュックを背負っており、やはりちぐはぐな印象を受けた。彼の名は天野タケシ。ケンジと同じく十六歳。
彼らはバリバリの日本人。通常なら高校生として多少退屈でも平和な日常を過ごしていたはずだった。それが、ある事情でRPGでお馴染みの『剣と魔法の世界』に放り込まれてしまった。
来た当初は戸惑いもしたけれど、早三ヶ月が過ぎ、なんとか旅を続けていた。 タケシは魔法使いっぽい格好をしていたが、何一つ魔法は使えない。魔法が実在するからといって、素人がするに使えるようになるものではないらしい。本人曰く、「気分を出すため」だそうだ。 しばらくすると、家々が見えてきた。。
「あ~、やっと町だよ。どっか宿を取ってゆっくり休もう」
町の中に足を踏み入れ、通りを見渡す。通りには観光客らしい人間が往来し、十メートルおきに食べ物の出店が並んでいる。 何かの観光地なのだろう。待ち行く人は老人が多い。が、それよりも早く休みたい。ケンジはその中から自分たちの泊まる宿を物色する。
「ケンジ、……言いにくいんだが、それは無理だ」
「はぁ? なんで?」
「……金がない」
ボソリとタケシがつぶやく。そういえばお金の管理は全てタケシがやっていた。収支がどうなっているのか無頓着だった。
「……。なんで金が無いんだ?」
「なんでって、収入がなければ金がなくなるのは当たり前だ」
責められるのは心外とばかりにタケシは肩をすくめる。
RPGゲームと違ってモンスターを倒してもお金は落としていかない。この世界の冒険者はどうやって収入を得ているのかといえば一般のファンタジー小説世界のように冒険者支援のためのギルドに属している。そこではとレンジャー・ハンターなどの物品売買、賞金首の情報提供やお金の引渡し。その他諸々の仕事の斡旋。ただの旅人でも立ち寄った町でのアルバイトの斡旋もしてくれる。非常に便利ではあるのだが、異世界から来たという身元不明の少年が入れるようなものではないらしい。(ある程度の金を積めばそれもパスできるらしいが)組合費のようなものを取られるのをけっちたため二人は属していないかった。
「貧しい……。世の中はこんなにも豊かだというのにおれたちはなんと貧しいんだ」
「タケシが余計なものばっかり買って無駄遣いしているからだろう」
「余計なものって何だよ」
背中に背負われているパンパンに膨れたリュックを横目で見て 「その中に詰まってるガラクタ」と指摘する。
「いやいや、全部必要なものだろ」
「どこがだよ」
リュックの中には立ち寄った村々で仕入れてきたガラクタにしか見えないもの、道端に生っていた謎の木の実など使い道のないもので満載だった。
が、当の本人は余計だとは少しも思っていない。
「は~。まあ、しょうがない。これも腐れ縁か」
反省の色がないタケシに呆れ、天を仰ぐ。もう苦笑いしか出てこない。
それでもタケシと一緒でよかった。 振り返ってみると多少問題はあるかもしれないが、右も左も分からない世界に来てしまって…、独りだったらおそらく何処かで野たれ死んでいただろう。
タケシとは中学校からの足掛け三年の親友だ。タケシはこの世界に来てしまっても微塵も戸惑ったそぶりも見せず、いつも楽しそうに笑っている。彼の適応能力には舌を巻く。
……何も考えていないだけかもしれないが。
「どうした? 空に何かあるのか」
焼き鳥の串を片手にタケシが覗き込んできた。
「……その串は何だ?」
「いる?」と、刺さっていた鶏肉を口に放り込んでから串を差し出してきた。
「いらない! そもそもそれはどうしたんだ? 金がないんじゃなかったのか!」
ケンジはさっきの想いを撤回したくなった。




