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ケンジは気が付くと倒れていた。眩しい。洞窟の中ではない。
目の前にはパスタがいる。ここは洞窟の入り口だ。
「あれ? オレはドラゴンの炎に巻かれて・・・ それで・・・どうしたんだ?」
自分の身体を見るが、火傷の跡どころか、擦り傷ひとつない。
「あなたは龍神様の試験には不合格だったようですね。龍神様の試験は精神だけの、いわば仮想体験ですから、不合格になっても出口に戻されるだけでだそうです。怪我をすることもありません」
「ふ~ん」ケンジは辺りを見たが、パスタの姿しか見えない。
「・・・ということは、父さんやタケシは合格だってことか?」
「ええ、おそらくは・・・」
ケンジは少々納得がいかなかった。
父さんはともかく、タケシまで合格したというのは絶対おかしい。
どうやってタケシがあのドラゴンを・・・?
落盤でドラゴンが勝手にやられたと知ったら、ケンジは激怒するであろう。
そこへ、雄司が闘気の剣を、タケシが願望の杖をそれぞれ持っていきなり現れた。オームも一緒だ。
「わっ!? 一体どこから出てきたんだ?」
2人と一羽の突然の登場にケンジが声を掛ける。
「あれ? さっきまで広場みたいなところにいたのに・・・」
「龍神様に会ってきたんですね」
パスタの言葉に雄司はうなずいた。
「ねえ、龍神様ってどんな人だったの」
「・・・後で話す。もしかすると、一生この世界で暮らすことになるかもしれんがな・・・」
「そう・・・なのか? で、このオウムは何?」
オームを見てケンジが訊いた。
『この人もわれをオウム言う。違いまんがな。わてはオーム言う精霊でんがな』
嘆かわしそうにオームは言った。
「さぁ。ともかく、神殿に早く帰りましょう」
心細げにパスタが言った。
洞窟の外はもう夕暮れが迫っている。
『何か来まっせ』
オームが空を向いて行った。
「何が来るって?」
空を見ると確かに何かが付かづいてきた。
「鳥じゃないのか」
「いや、・・・違う。人間か?」
近づいて来るに従って、人間の姿をしていることが分かる。
だが、人間ではない。何故なら背中には大きな翼が生えている。その翼の大きさは6メートルを超えている。
「何あれは?」
「分かりません」
パスタにも分からないようだ。
近づいてくるスピードはだんだん早くなってくる。バサッと音をたて、男が目の前に降りてくる。道をふさぐように立ちはだかる。
「貴様ら、龍神に会ったのか?」
降りて来たなり、そいつは言った。
「・・・何者?」
「俺の名前はギニー・ピッグ。だが、俺の名前なんかはどうでもいい。貴様ら龍神に会ったのか?」
「会ったけど、それが何か?」
タケシが素直に答える。
「そうか。・・・ならば死ね!」
ギニーが手をかざし、雄司たち四人を衝撃波が襲った。いきなりの攻撃に全員が吹き飛ばされる。
「何故? お前は何者だ!?」
雄司のみがかろうじて立ち上がる。
「俺様はギニー・ピッグ。龍神に会った者は全て死んでもらう!」
「龍神様に会ったからって、どうして殺されなくてはならないんだ?」
「知る必要はない。死んでいく者には・・・」
再び衝撃波が四人を襲う。
しかし、それは一瞬にしてかき消された。
「なにっ!?」
ギニーは驚きの声を上げた。パスタが防御魔法を放ったのだ。
「・・・何だ、パスタ強いんじゃないのか」
立ち上がりつつ、タケシが賞賛を浴びせる。
「いえ、これが強度的に精一杯です。これ以上強いのが来ると耐えられません」
パスタは体中を震えさせ、恐怖に引きつらせた顔で言った。
「小賢しい真似を!!」
ギニーは呪文を唱え始めた。
「おいっ! オウム! 助けてくれよ!」
『わてはオウムじゃないって、何度言ったら分かるんでっか。それに、わてはあくまでナビゲータ。戦いは嫌いですわ。
--ほな、別の時に呼んでおくれやす』
そう言うと、オームは掻き消えた。
「・・・・・」
「役立たず!!」
「如何するんだ?」
「そうだ! 天野君。その杖を使えないか?」
雄司はタケシの手の中にある願望の杖を指した。
そう言えば、これがあったな。
タケシは杖に力を込めた。
「ふんっっ」
さらに力を込めて握る。
--杖の先端の玉が光を発した。
『何用だ? 我が力を欲する者よ』
頭の中で声が響いた。
『無理だ』
杖はあっさりと言った。
「何で!?」
『我が力ではあやつに及ばぬ』
龍神が「杖に込められた力以上の願いは叶えてくれない」って言ってたっけ。 役に立たねぇ~
「この状況を何とかできないのか?」
杖を揺さぶってすがる。
『そんなに揺さぶらなくても、ちゃんと聞いておる。要はこいつから逃げられれば良いのだろう』
願望の杖は急がずあくまでゆっくり言う。
「喰らえ~~~!!」
ギニーは手から炎の玉を放った。
「ぎょえぇぇぇぇ!」
パスタの防御魔法を突き破って、火がタケシたちに燃え移った。
防御魔法のおかげで多少勢いは減少したが、やっぱり火は熱い。
「アチ、アチッチチチ」
『何やってるんだ』
全く慌てずに杖は言う。
「何でもいいから、何とかしてくれ!!」
『仕方ないな』
杖が輝き、武らの火が消える。
『さて、お前の望みはこいつから逃げることで良いのか。何処へ行く? 半径30キロメートルなら、好きなところまで運ぶことが出来るぞ』
落ち着き払って杖は問いかける。
「何処でも良いから早くしろぉ~」
『何処でも良いというのは無責任だな。何処か決めないと移動することは出来んぞ』
そんなこと言っても、この世界の地名なんて知らない。
リョウのいる村は・・・、え~と、
「ペギンの村だ!」
雄司が叫んだ。
『了解』
願望の杖が青白く光り、ケンジ達を包み込む。
「逃がすか! 全員血祭りにあげてくれる!!」
ギニーは呪文の詠唱を止め、掴みかかってきた。
そして、ギニーは光の中に入ってこようとする。
「早くしてくれ~!」
光が収束し、タケシは自分の身体が軽くなるのを感じた。
ビュューーーンン
光で目がくらんだ。




