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--その頃、タケシも試験を受けていた。
やることはケンジと同じ。
『さあ、好きな武具を取るがよい』
その声に従い、様々な武器や防具がタケシの周りに現れた。
だが、タケシはそれには目もくれず、逃げ道を探す。体育館程度の広さの空洞だ。出口は見当たらない。
『さあ、好きな武具を取るがよい』
また声が響いた。しかし、無視して探し続ける。
足元、そして壁面を叩いてみるが、崩れそうもない。自分はどこからこの閉鎖された場所に出てきたのか不明だ。
『・・・おい、武具を取るがよい』
どこにも逃げ道がありそうにないのを悟ると、声に耳を傾けた。
振り返ると武器があった。
「ケンジ達はどうしたんだ?」
『・・・武具を取るがよい』
タケシの質問には答えず、四度目の声が響いた。
仕方なく武具を見繕う。
目に付いた足の先から首まですっぽり包む全身鎧、大きな円盾、両刃の戦斧を素早く取った。
選んだ理由は無論実用性ではなく、見た目強そうで格好いいからだ。自分が使いこなせるかどうかは頭の中にない。
「しかし、どうやって着るんだ?」
鎧をしげしげと見る。継ぎ目の金具を揺らしてみるが、着方がさっぱり分からない。
「これ、どうすれば良いんだ?」
その質問を待っていたかのように鎧が光り、光が収まっていた時には鎧を装備していた。
「あれぇ?」
余りのことに驚く。
「う~ん。まあ、いっか」
分からない事には深くこだわらない。きっと魔法的な方法なのだろう。
『さあ、試験を始めるぞ』
ケンジの時と同じく自分の背丈の3倍ほどのドラゴンが現れた。
「うわっっ!? 何だコイツ」
驚いて逃げようとしたが、予想以上に身体が重い。着ている全身鎧の所為だ。
「・・・重すぎるぞ。動けね~じゃね~か!!」
慌てて鎧を脱ごうとしたが、着方も分からなかったのだから、脱ぎ方も分からない。
ドラゴンはゆっくりとこちらに向かってくる。
とりあえず、鎧を脱ぐのは諦めて、少し手も距離を取らなくては。
「しょえぇぇぇぇぇ!!!」
ドラゴンの爪がタケシ目がけて突っ込んでくるが、何とか避ける。
牽制のために戦斧を振り回したが、重すぎて手からあっけなく離れた。
すっぽ抜けた戦斧はドラゴンとは見当違いの方向へ飛んで行ってしまった。
「・・・・あれっ!?」
呆然とする間もなく、ドラゴンの爪が腰の辺りをえぐる。
タケシはあっけなく吹っ飛んだ。鎧には傷ひとつ付いていないが、衝撃は鎧を突き抜け身体へ伝わった。
「ゲホッ、ゲホッ。痛いじゃね~か!」
咽ながら言い放つが、ドラゴンは当たり前のことながら聞いてはくれない。
「こっち来るな! あっち行けよ!」
全力でドラゴンの反対側へ逃げ出した。・・・といっても、鎧の重さでランニング程度のスピードしか出ない。
ガシャ、ガシャッ
走るごとに鎧は不快な金属音を放つ。
ドラゴンの爪が今度は背後に迫る。必死で逃げていたタケシは石につまずき、コケた。
その真上をビューンと風切音を立てて爪が通り過ぎた。
おおぅ、何か知らんがラッキー。
だが、油断はできない。
尻尾を振り回してきたが、これも空振りに終わった。
今度はタケシを踏みつぶそうと突進してくる。
・・・しかし、
「ギャオォォォオォォー!!」
いきなり吠え立てて、前足を振り回す。
「何だ?」
振り回してる前足を見ると、さっきすっぽ抜けた戦斧が前足の甲を突き抜け深々と刺さっていた。
「フオオオォォォォー!!」
全く抜けず、勝手にのた打ち回る。しかし、抜ける気配はない。
あまりの暴れように洞窟全体が振動する。
こっちまで危ない。
「グオォォォーーン!!」
頭にきたドラゴンは次に炎を吐いてきた。
「うげっ!?」
驚いて盾で防ぐ。盾の取っ手の部分がかなり熱くなったが、我慢できないほどではない。凄い丈夫な盾だった。
タケシの所だけでなく、あたり構わず、辺り一面に炎が降り注いだ。
ゴーーーー
炎の音と光が天井や壁に反射し、すごい状況だ。ドラゴンは炎を吐き続ける。
「あちっ、熱ちっ」
盾が丈夫でも、洞窟全体がドラゴンの炎のせいで高熱サウナ状態だ。
もう駄目か・・・
タケシが諦めかけたとき、いきなり視界が揺れる。
--ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
落盤だ!
天井から細かい砂が、石が、そして岩が降ってくる。
「うぎゃ~~!?」
叫び声をあげて目をつぶる。
ゴトッ、ガラガラガラガラ・・・・・
落盤が収まってからタケシは石群の下から這い出る。
熱さも収まっている。
「げほっ、げほっ」
むせ返りながら周囲を見渡す。しばらくするとホコリが収まり、視界がはっきりしてくる。
天井の岩がごっそり抜け落ち、先ほどまでドラゴンがいた場所にその岩が重なり積もっている。
「・・・???・・・」
よく分からず、呆然とするが、ドラゴンは岩の下敷きになってしまったらしい。
--ラッキーだ。今日はついている。
「う~ん。おれってば、やっぱり強かったのかも」
運も実力の内だ。多分。
『よくやった。試験は合格だ』
タケシの頭の中で声が響いた。
「へっ?」
訳が分からず、間抜けな声が漏れる。
--青い光が周囲に降り注ぐ。タケシはまぶしさに目がくらんだ。




