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一瞬、目の前が暗くなり呼吸が止まる。
「げほっ、げほっ。シャレになんねーぞ!」
ドラゴンは吹っ飛ばされたケンジにその巨体を向ける。
「これが試験? 龍神様に会うのにどこが危険はないって!? くそっ!」
自分自身を叱咤し、立ち上がる。胸の辺りがジクジク痛むが、このままじっとしていたら、踏みつぶされてしまう。
「もうヤケだ! ちくしょー!」
ケンジは跳躍し、剣でドラゴンの横っ腹を切り裂く・・・はずであった。
--カキーン
金属を叩いたような衝撃だけで、肝心の皮膚には傷ひとつ付いていない。
ドラゴンはビビっているケンジを五月蝿そうに睨む。そして鉤爪を振るう。
剣でそれを弾こうとしたが、あっけなく剣は折れ、バキッ・・・耳の奥で鈍い音が響いた。剣の折れた音ではない。ケンジの骨が折れた音だった。
激しい衝撃と共に身体は宙を舞い、想いっきり地面に激突した。
目の前を幾つもの火花がチカチカと瞬いて気が遠くなった。
「死ぬのか・・・オレは」
気を失いそうになった時、ドラゴンが唸りを上げた。
「グオオォォォーン!!」
その心臓まで届くような声にケンジは再び現実に戻った。
「また、オレは死んでねぇー!!」
虚ろな視界いっぱいにドラゴンが埋まる。踏みつぶそうと左足を振り上げる。
転がってそれを何とかかわすと、その途端ドラゴンの尻尾の追撃が入る。体を直撃し、逆側の壁まで吹っ飛んだ。
強さのレベルが違う。
気力を振り絞り、立ち上がる。こんな時なのに、立ち上がれた自分に驚いた。体中が痛いし、相当のダメージを受けているはずだ。
「人間の身体って、思ったより頑丈なんだなぁ」
人体の神秘に感心してしまうが、このままでは駄目だ。
こっちがいくら立ち上がっても、向こうにダメージを与えなけっれば死ぬまでの時間が延びるだけで、意味はない。
ケンジは折れた剣を握りしめて、
「ドラゴンの弱点・・・?」
マンガなんかだと眉間とかヒゲとかなんだけど・・・
ヒゲは一対、大きな口の上に2本あるが、細くて当てにくい。眉間を狙うべきか。
だけど剣は折れてしまったし、下手に近づくとまたあの爪の餌食だ。
そうこうしている間にも、ドラゴンが迫ってきた。
「・・・仕方ねぇ」
持っていた剣をドラゴンの眉間目がけて力一杯投げつけた。続いて、折れたもう一方の刃の方も投げつける。
ドラゴンはその時間差で飛来した2片の刃を避けるため体を動かした。
しかし、その巨体だけあって、動きは鈍い。
先に投げた方は堅いうろこに弾かれたが、後に投げた方は右目に突き刺さった。動かれたために、眉間とは狙いが外れたがOKだ。
「ギャオォォォーン!!」
右目から真っ赤な鮮血が噴出し、悲鳴を上げる。痛みと怒りで尻尾を滅茶苦茶に地面に叩きつける。
その勢いのまま前足を振り上げ、ケンジを狙うが、横2メートル離れた所をえぐっただけだった。その後も攻撃を繰り出してきたが、最初より大雑把な狙いでケンジが簡単に避けられる、もしくは避けるまでもないものが大半だ。
もしや、左目しか見えないから距離感が狂ったのかも・・・
「何とかなるかもしてない」
希望が見えてきた。
だが、ドラゴンはその希望を一息で覆した。直接攻撃が当たらす怒り狂ったドラゴンは口を開き、炎を吐いてきた。
「うわっ! ちょっと待ってくれ。こんなことも出来るのか!?」
しかし、そんな言葉にドラゴンが躊躇するはずもない。ドラゴンが炎を吐くのは定番だけど・・・
「今までやらなかったんだから、いきなりやるなんて! ズルいじゃないか!」
炎は一帯を赤く染め上げ、ケンジを捉え、気が遠くなる。
「今度こそ、オレは死ぬのか!?」
目の前が真っ赤に燃え、熱さだけがケンジを支配した。




