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「う~ん」
気が付くと、ケンジは一人で倒れていた。雄司もタケシもいない。
ランプはなくなっていたが、洞窟全体がぼんやりと明るい。先ほどの溶岩の木洩れ日ではなく、青緑っぽい光だ。
ヒカリゴケというものの一種だろうか。
『よくぞ来た! 勇気ある者よ! 我が試験を受けてみよ!』
いきなり頭の中で声が響いた。
「・・・何だって? 試験?」
一体何のことだ?
ケンジの混乱をよそに、その声は続く。
『さあ! 好きな武具を取るがよい!』
「好きな武具って・・・、何もないじゃないか」
その言葉を待っていたかのように、突然目の前に剣や槍、鎧や盾が現れた。
『さあ! 好きな武具を取るがよい!』
再び同じ言葉が響く。
「どれでもいいのかな?」
訳が分からないが、悩んだ末とりあえず目に付いた一本の剣を手に取った。両手で持つタイプの大きな剣だ。理由はカッコいいからだ。
腰を見ると、村で借りた剣は無くなっていた。
「う~ん、他の鎧とかはどうしようかな」
『さあ! 試験を始めるぞ!』
「ちょっと待て!?」
まだ剣しか取ってない。慌てて剣以外に手を伸ばすが掻き消えてしまった。
--ドスン ドスンッ ・・・・
地響きがしてきたかと思うと、1匹のドラゴンが裏から姿を見せた。 トカゲを太らしたような格好で全身をうろこで覆っている。全長はケンジの背丈の3倍は軽く越えている。
目つきは鋭く、口からは腕ほどもある牙が真っ赤な舌を取り巻くように生えている。
見るからに友好ではない。だが、こんな獰猛な姿だからといって悪い奴とは限らない。
「ど、どうも。あなたが、龍神様ですか?」
しかし、返事は返ってこない。
ケンジはドラゴンの神経を逆なでしないよう、微笑んで敵意のないことをアピールしつつ、じりじり後ずさる。
ドラゴンはこっちの声を理解したのか、しなかったのか。
後退に合わせ、少しづつ向かってくる。
「あの~・・・、その~・・・」
「ギャオオオォォォーーー!!」
ドラゴンは牙をむいて咆哮した。
「うわっっ」ビビって逃げるが、行き止まりだ。
「怒って・・・るみたいだな?」
ドラゴンは前足の爪を地面に突き立て、唸り声を上げる。地面がえぐれ、四方に砕けた石が飛び散る。
「うわわわわわ・・・・」
我知らず叫び声を上げ、パニックに陥った。体の奥から恐怖が湧きあがる。
もう訳が分からない。あるのはただ、圧倒的な恐怖、恐怖、恐怖・・・ それだけだ。
恐怖が全身の冷や汗と一緒に噴出して、さっき取った剣もうまく握れない。
バンジージャンプやジェットコースター、お化け屋敷とは全く質の異なった恐ろしさだ。
ーー気が遠くなる。
ケンジの意識を現実に戻したのは、皮肉にもドラゴンの一撃だった。
ガタガタ震えていたケンジをドラゴンは前足で軽く弾いた。
軽くと言っても、それはドラゴンにとっての軽くだ。ケンジは事故再現のダミー人形のごとく吹っ飛ばされた。




