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02




 その後、男はすぐにこの島へ渡った。

 船乗りがほとんど誰もデュースター島に来たがらなかったことには閉口した。おかげである程度の金を積まなくてはならなかった。


 ここへ来て半日経つが、男はそれらしい物はまだ見つけていなかった。

「あ~あ~、疲れた~。石ころしかねーじゃねえか。ちきしょう」

 ブツクサ言い、作業を続けた・・・が、

「あ~、もう駄目だ! 一人で探すってのが無理なんだよな!」

 独り言の愚痴も、ついこぼれてしまう。

 男は神殿跡をもう一度見回した。神殿の大きさは400メートル四方はあった。

 男が半日がかりで手を付けたのは、全体から見るとほんの一部でしかなかった。


「やめやめ! も~、終わりにしよう」

 男はそう言い放って、その場を離れる。そして、寝っ転がるのに具合の良い場所を探した。

 迎えの船が来るのは翌日だ。二日かけて探す予定だったが、もう面倒くさくなった。依頼主には見つからなかったと言えば、問題ない。


「よっこらしょ」

 男は野宿するのに適当な場所を見つけ、目に付いた邪魔な石をどかし始めた。



 ーーその過程で、男は不意に何かを見つけた。

 そこは明らかに石の材質が他とは異なっていた。


「もしかして・・・!?」


 はやる気持ちを抑え、四角張った石をどけると地下への入り口が顔を出した。人一人がやっと入れる広さだが、奥を覗くと人の手の入った通路が見える。


「やった! これでオレ様も金持ちだ」

 有頂天になって地下へと降りていく。

 中は狭く、天井はところどころ崩れ、壁は剥げ落ちていた。


 進んでいくと、一番奥に隠れるように腰までの高さで直方体の妙なものがあった。かなり埃をかぶっているが、何かいわくがありそうだ。

 周りの埃と残骸を取り除くと、祭壇だということが分かった。

 その祭壇の上部のくぼみには握り拳ほどの大きさの黒っぽい玉がはまっていた。

 どうやら、これがあの魔道士が言っていた水晶玉のようだ。


「何だ・・・。こんなところまで来たってのに、水晶玉1個かよ。しけてやがんな」

 そう一人ごちりつつも、内心はほっとしていた。

 あいつが言っていたような財宝はなさそうだが、黒水晶の報酬でもそこそこの儲けにはなる。

 もしかすると、財宝というのはこの黒水晶を手に入れるためのホラのようだが、我慢するか。

 半日の労働であの報酬なら十分だ。男はニヤリと笑みを浮かべた。


 わざわざここまで来て、手ぶらで帰ったら笑い者になるところだった。友人たちにはでっかい山があると大見得を切った手前もあった。


 祭壇をよく見ると、横に文字が彫り込んであった。黒ずんではいたが、かろうじて読むことができた。



 此処に来たりしものよ。

 この封印を解くなかれ。

 解くならば、汝とこの地に災いが降りかからん。



 他の場所は欠けたり崩れているのに、ここだけ明らかに違っていた。


 何だ? これは・・・?

 悪い予感がする。


 男は再び黒い水晶玉を見つめた。

 見つめていると、その水晶の中へ吸い込まれるような錯覚を覚えた。

 気味が悪いと思いつつも、操られたように手が伸びる。


 気が付くと、伸びた男の手が水晶玉を手にしていた。

 まじまじと手の中を見る。


 不意に、バチッという音と共に黒い光が祭壇から流れ出す。


「何だ!? 何なんだ!?」

 辺りを見回し、我知らず叫んだ。

 得体の知れない寒感に背筋が凍る。



 ーー水晶玉からなのか、どこからなのか分からないが、黒い影が舞い降りた。

「何だ、人間か」

 影から驚いたような言葉が漏れた。決して大きな声ではなかったが、地底内に低いが響き渡った。

 声の主が、影から・・・いや影そのものから姿を現した。姿は人間に似ていたが、人間であるはずがなかった。


 何もしていないのに、ソイツからひしひしと威圧感が伝わってくる。

 手、足、背中と言わず、全身に冷や汗が流れた。後ろに下がろうとして、いつの間にか尻餅をついていたことに気づく。完全に腰が抜けてしまっている。

 恐怖のためか、好奇心か、声の主から目をそらすことができない。操られてしまっているように目をつぶることもできない。


 影は男の握りしめている玉を見ると笑った。

「この宝玉でワタシが封じ込まれるとは、皮肉なものだな。・・・だが、再びワタシは蘇った。よみがえったぞ!!」

 そういうと、影は両手を広げた。


「あわわわわわわわ・・・・・・・・」

 もう、男は逃げるどころか動くことさえできなかった。



 ーー古の魔王を解放してしまった男。彼の名はフールといった。



 そして、この2年度、ある王国は自ら魔王と名乗る魔物の軍団を率いた存在に攻め滅ぼされた。



 ーーそして時は流れた・・・


 魔物に怯える人々はいつしか、伝説の勇者の到来を待ち望むようになっていった。


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