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そして、すぐに四人は神殿へ向けて出発した。神殿までは街道が整備されていた。もっとも、現代日本の街道に比べれば道というのもおこがましい、当然舗装のされていない道だ。それでも、人が通るには問題なしい、そこを少しでもそれると、深い森が広がっている。
この街道も昔は行きかう人も多かったが、5年ほど前から人通りがめっきり少なくなったらしい。
リナ、タケシ、ケンジ、雄司の四人は沈黙のまま道を歩く。
先頭のリナが競歩の一歩手前の速さで歩いているので、チンタラ歩いていると置いてかれてしまう。
なんか、雰囲気暗いなぁ~。
何か喋らないと・・・
淀んだ雰囲気に耐えられず、タケシがリナに喋りかける。
「そう言えばおれたちの他に異世界から、来たっていう人はいないの?」
「あなた達の世界から来たという人については、古い伝承によれば、これまで2回ほど記録があります。異界から1回目に来た人はこのインゼル大陸の建国王となったそうです。2回目に来た人は昔、魔王を封印したとされています。そして、伝承が正しければ記録上はあなた達は3回目ということになります」
「ふーん。おれたちが初めてじゃないんだ」
「ええ、そうです」
歩調を緩めずに、リナはうなずいた。
「異世界に来るのってそんなに難しくないんだ?」
ちょっとガッカリしたようにケンジが言った。
「いえ、そうとは限りません。ケンジさんはワームホールというものを知っていますか?」
ケンジは「はぁ?」という顔をした。
「ケンジは無知だな。ワームホールってのは空間と空間の虫食い穴のことだろ。ブラックホールとホワイトホールを結ぶっていう・・・、確かこれを使えばタイムマシンが出来るって話を聞いたことがある」
物知り顔でタケシが答えた。
「ええ、それです。この世界・・・っていうのも変ですが、世界、宇宙というものは1つではなく、幾つもあります。その1つがこの宇宙(世界)であったり、あなた達の宇宙(世界)であったりします。
そして、その宇宙同士あワームホールで結ばれています。このワームホールを通ることが出来れば、私たちは異世界を行ったり来たり出来ます」
「へ~。じゃあ、オレたちもそのワームホールってのを作って通れば元の世界に戻れるんだ」
何も知らないケンジが言った。
「ええ。通れれば・・・ですが」
「あのなぁ~、ケンジ。そのワームホールってのはそんなに簡単に作れたり、通れたりするもんじゃないんだぞ」
「だけど、タケシさん。ある条件がそろえば・・・・・」
取り成すように口をはさんだリナの言葉は最後まで続かなかった。
「リナさん。どうしたの?」
雰囲気を変えたリナを不審に思って尋ねる。
「しっ!! --何かいます」
言われて、タケシたちも辺りを見回す。
ーーガサッ
草をかき分けて出てきたのは昨日襲われたのと同じくオーガーだった。
リョウと雄司はアルタァに借りた剣をそれぞれ構える。
雄司が斬りかかっていこうとした時、リナの朗々とした声が響いた。
「風の精霊たちよ。我が声に耳を傾け、かの者を倒す力を我に貸し与えよ。邪悪なる者を切り裂く刃となれ」
周りの木々がガサガサッと揺れ始めたかと思うと、一陣のカマイタチがオーガーの顔を過ぎていった。
「フォッー!!」
オーガーは奇声を発し、顔を押さえて逃げ出した。
ケンジがそれを追おうとしたが、雄司が押しとどめた。
オーガーは完全に戦意をなくし、姿を消した。
「ふっ、他愛のない敵だった」
オーガーが完全にいなくなったのを見届けると、タケシがつぶやいた。
「・・・お前は何もしていないだろ」
「真の実力者はあんな雑魚は相手しないもんだ」
「ふざけんな!!」
ケンジは言葉と応じにアッパーを繰り出した。
「さっきの風、あれも魔法ですか」
気絶したタケシを背負っている雄司が訊いた。
リナがうなずく。
「一口に魔法と言っても、色々な種類があります。さっき使ったのは精霊の力を借りた術です。もっとも、精霊の姿なんて見たことがありませんから、実際にそんなものがいるのか分かりませんけれど」
一行はその後、何もなく無事に神殿へとたどり着いた。




