表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アステリオス--転送遊戯--  作者: 士丞 知
プロローグ
2/13

旅立ちの準備-2

投稿ニワメ。

投稿ミスって色々なったけど、無事投稿。

ーーーーー現在ーーーーー


ノトキアは、ふぅ……とため息をついた。


ーーあの頃が懐かしい。


だが、過ぎた年月が長い。それこそ、ノトキアはどうしようもないと、諦めている。

円卓には先程と同じように、フォクセイとノトキアしかいないはずだが、影が四つある。

いったい誰のものか。少なくとも、ノトキアの待ち人というわけではないのだろう。


「アリサか……。といっても、返事はしないか」


アリサと呼ばれた女性は、無言でノトキアの左後ろに佇んでいる。そして、もう片方には鎧を纏った女性が佇んでいる。

しかしながら、ノトキアは意に介した風もない。まるで自然だと言わんばかりに、ノトキアは体をよりいっそう椅子に沈みこませる。

ゆらりと、蝋燭の火が揺れる。


「……アリサとヴァネッサを作った日を思い出すな」


「あー……。ノトキアさんが頑張ってたときか」


フォクセイはやれやれといった様子で、肩をすくめる。

ノトキアはそれを見て、アリサとヴァネッサを見つめる。

アリサは所謂メイド服に身を包み、ヴァネッサはドラゴンの素材でできた、一級品の鎧を身に付けている。

アリサを見れば、はち切れんばかりの胸。

ヴァネッサを見れば、鎧のせいで大きさが分からない。


「…………マスター権限の行使《衣装替え/ドレスアップ》。対象ヴァネッサ・ローズ・アルバート」


変化は一瞬で、まばたきをしただけでヴァネッサの鎧が、可愛らしいメイド服に変わった。

今まで隠れていた胸があらわになり、控えめな可愛らしい胸が認識できる。

ノトキアは満足そうに頷き、フォクセイに向く。

呆れ顔のフォクセイを見て、ノトキアは憮然とした表情を作る。


「お前の言わんとしていることは分かる。だが、アリサとヴァネッサは、俺のレベルを分け与えて作成したんだぞ?」


「それは分かってるよ。びっくりしたからねーあれは」


ーーーー三年前ーーーー


レベルがもうカンストしてしまったため、やることがなくなった。暇潰しに、掲示板に書き込まれていたことを実践しようと、俺は薄暗い洞窟のなかにいた。

吹き込む風は生暖かく、不気味な雰囲気だがなんのことはない。

むしろ今の自分の状態を見たプレイヤーが、モンスターと勘違いして襲ってくるだろう。

簡単に言うと、今俺はいつもの格好ーー人間の状態ーーではない。四つ足で立ち、洞窟内が小さければ破壊してしまう巨体をゆっくりと動かしていく。


「ムゥ……モウ着イテモイイコロダロウニ……」


人の喋るような声ではない声を発し、俺はただ歩いていく。

吸血竜の本当の姿を晒しているに訳がある。

この洞窟は『使い魔の使役』と呼ばれている、ドラゴン種限定クエストの試験会場と言ったところだ。

ま、今はクエストも何も受けていないんだが、ここに入るにはドラゴン種であることを証明しなけりゃならない。


「……ッ」


何だ……?今までの薄暗い感じから、一転して光が目立つ。

閃光弾か……?

その考えは目の前の景色がかき消していく。

一面に広がる花畑。『アステリオス』にしか咲かない花。

ソウル・ファルリア・ローズ。

ファルリアは、『アステリオス』の設定に出てくる、竜を最初に使役した巫女の名前らしい。

その魂の宿った薔薇。


「コレガ……」


俺は、狙われているとは夢にも思っていなかった。

自分の足から流血しているのを認識する。

無論、ゲームとはいえ普通ならば痛みはあるだろう。

だが俺に痛みはない。レベル差がありすぎてか、単純に攻撃力が足りないのか、ダメージが少ないのだ。

ステータスには、出血のバッドステートが表示される。


「生憎ダナ。俺ニハ効カンゾ」


事実。アンデット種である俺には、出血のバッドステートは意味をなさない。ということは無かったりする。

とはいえ、吸血竜の種族効果『状態瞬時回復/ファストステートリカバリ』があるため、ステータス上昇効果、バッドステータス効果関係無く、元の状態に戻ってしまう。

故に、効かないという表現を使った。


「う、嘘でしょ!?」


「ちょ、ちょっと!楽勝って言ってたじゃない!」


どうやら複数人いるようだ。

……。人数がいくらいようが、吸血竜に立ち向かってくるものは中々いない。

初心者……。とまでいかないものの、最近始めたプレイヤーだろう。


「コソコソト……。出テコイ、死ニタクナケレバナ」


ともかく、相手を確認しなければ不利だ。

首を伸ばし、周囲を確認する。

居た。花畑の壁際に三人ほどで固まっている。

人間に獣人。もう一人は……竜人(リザードマン)か?

ふむ……。どうやら、最も人に近い形で作ってるのか。

三人は困惑したように身を固まらせている。

どうやら、まだモンスターと勘違いしているのだろうか。

だが、楽勝と言っていたな。

俺が来ると分かっていたのだろうか……?


「オ前ラ……俺ヲモンスタート勘違イシテイルノデハナイカ?」


「えっ!?」


「俺ニ挑ム奴ハ限ラレテイルカラナ」


「す、済みませんでした!」


獣人の少女が頭を下げる。

やっぱり……。

おおよそ考えていたことが当たったな。

ってことは、彼女たちは『使い魔の使役』を受注したのだろうか。それ以外だと……。祖竜(オリジン・ドラゴン)を狩りにきたのだろうか。

祖竜は名の通り竜族の始まりを示す。しかし、争うものが居なかったためか、現在の竜よりも穏やかで、弱い。

俺は壁際にいる三人を目の前に来させる。

三人は申し訳なさそうに、丁度俺が首を下げると目前に来るところへ移動する。

花畑の真ん中に、一匹の竜と三人の少女ーーオフは分からないーーが対峙する。


「マズハヒトツ。俺ハソコマデ気ニシテイナイ」


安堵の溜め息が聞こえてくる。

この『アステリオス』において、PKは様々な者から狙われる。

一般的には、『法廷国家・アガルテ』に所属するPCに狙われる。

ちなみに、襲われてダメージを受けた。と報告されても狙われる。無論、『記憶投影/シアターメモリー』がなければ証明はできないが。

他にはPKK(プレイヤーキラーキラー)にいきなり襲われることもあるだろう。ま、俺には関係ないが。


「オ前ラハクエストヲ受ケテキタノカ?」


「は、はい」


「フム……。『使イ魔ノ使役』カ?」


「いえ、『花の冠』のクエストです」


『花の冠』……。ああ、あれか。

確か、空羽のギルド『ユルータニア民主国』限定クエストだったか。

俺には全くもって関係のないクエストだ。

しかし……何もソウル・ファルリア・ローズでなくとも良いのでは?

俺の疑念を他所に、三人は何やら話し合いを始めている。

所々、ギルドに所属……?など、聞こえてくる。

まぁ、レベルがカンストしている未所属プレイヤーはなかなかいない。


「あ、あの!名前を教えてもらっても……」


「ノトキア・フェル・アルバートダ」


「の、ノトキアって……」


「って、ってか、アルバートっていった!?」


そんなに有名だったっけか?

まぁ、吸血竜の特殊クエスト『国崩し』で空羽の『ユルータニア民主国』を壊滅させたが……。

クエストだったから、俺の名前は伏せられていたはず。

そのときに居たとなれば、俺を知っていても不思議じゃないか。

それに、アルバートの名を出したのは失策だったか……。

そんな俺の疑問とちょっとした不安を知ってか知らずか、三人は俺へと向いて頭を下げる。


「私達に力を貸してください!」


「私達、この先にいる『竜の聖女』ファルリアに会いたいんですが……」


ふむ。確かにこの先には、『竜の聖女』は、いる。

だが、『祖竜の聖女』ファルリアはいないはずだ。

とはいえ、『竜の聖女』は全てファルリアという名前を受け継ぐ。それならば話は早いのだが……。


「オ前タチハ、『祖竜ノ聖女』ニ会イニ来タノカ?」


「えっと……空羽さんからは『竜の聖女』としか」


「ナラ、俺ノ背中ニ乗レ。ソノ方ガ早イ」


三人は動揺したが、おずおずと俺の背中へと乗る。

実際、この洞窟に来たことがある俺とじゃ、段違いの遅さだろう。

と、全員乗ったな。『竜の聖女』のいる『竜の祈りの祭壇』に行くかーーー。


ーーー十分後。


『竜の祈りの祭壇』へとやって来たが、そこには既知外な人物が居た。


「僕の愛を受け取って欲しいんだ!」


とかほざく全裸のーーーといっても、パンツは履いているーーー男である。

この『アステリオス』において『竜の聖女』とは、竜という種族の主であり、同時に崇拝と愛憎の対象でもある。救われない少女の末裔たち……というコンセプトだったはず。

あげくには『聖女の恋』というクエストが出るほどに、運営側も気に入っているNPCの一人だ。

ちなみに説明すると。『聖女の恋』のクエストを開始してもクリアしても、竜族達から敵とみなされるというおまけがついてくる。

挙げ句の果てには、『ジョーカー』と呼ばれる自分のドッペルゲンガーが現れ、自分を半永久的に追い回してくる。

とはいえ、クエスト完了の報酬は莫大だ。

オリジナル装備ーーユニーク装備ーーのステータス上昇効果を極めに極めた究極の逸品。

『ドラゴンアッシュ』というシリーズ装備が手に入る。

装備欲しさにこの愚行を行っているのならば、正に愚者だ。


「私はあくまでも、『竜の聖女』……。貴方の求愛には……」


先代の聖女に比べると、感情の起伏があるぶん人間らしさがある。しかし……聖女というNPCとしてはどうなのだろうか……?

俺の疑念を他所に、聖女と変態の応酬は続いている。

その応酬をーーいつの間にか降りていたーー三人が止めにはいる。


「か、空羽さん!な、なぜここに?」


「おお!君たち、クエスト通りに来てくれたか」


わざとらしい空羽ーーと呼ばれた男ーーを俺は注視する。

クエストを受注させれば、確認するまでもなく完遂するだろう騎士団を持つ空羽。それだけの権威を持つ空羽が、この女の子三人に個人的な仕事を頼んだとしか言えないクエストの確認をする。

どこか間違いがあるだろうか。

強いて言うなら、いや。言うなれば全てが間違いだろう。

今回の空羽の行動が、俺を警戒させるには十分だ。


「待テ」


ドスのきいた声を出すように努める。

俺の声が聞こえ、こちらを振り向く全員。

空羽は憎しみと憤怒。

三人は驚愕。

聖女は救われたような心持ちな表情。


「聖女ニ用ガアル。空羽、少シ黙ッテクレナイカ?」


今度は、できるだけ威圧しないように喋る。

正直、こいつのを待てるほど暇じゃあない。

そのためか、それをしても空羽には煽ったように聞こえたのだろう。


「ふざけるな!」


と一喝。

しかし、予想していた答えではあった。

空羽は当事者故に、当時の記憶が相当に色濃いはずだ。

当時の俺は空羽よりも低レベルだったから、負けたのが悔しいのだろう。

まぁ、あの時はクエスト限定種族スキル『竜帝の鎧』を発動していて、物理はもちろん、魔法攻撃も無効化していたからな。

負ける方が難しかったろう。

さて、空羽は無視してと。


「聖女ヨ。我ハ竜帝」


掲示板に書かれていた、『聖女と竜帝の恋』のクエストが始まるかを確かめよう。

『我ハ汝ニ恋ヲシタ』

それを言うだけで、クエストが始まる。はず。

しかし、俺が言うよりも早く聖女は口を開いた。


「……私はずっと、あなたを待っていました」


クエストを開始します。と、システム音声が聞こえた。

すぐにメニューを開き、クエストを確認する。


ーー『聖女の恋(奪われし心)』ーー

このクエストは、『国崩し』に無傷かつ『竜帝の鎧』のみ使用した状態でクリアした『竜帝』のみ請けられる。

このクエストにおき、『竜の聖女』は『竜帝』の種族レベルを半分、職業レベル半分を自身のレベルとする。『竜帝』のスキルとステータスに関しては、レベルが下がる前の状態のまま。

『竜帝』はこの時より、『竜騎士』となる。

ーーーー


実質的なジョブチェンジ。

その状態で、クエストをしろと言うことか。

クリア方法が記載されていないあたり、隠しクエストの難しさか……。

そんな俺に、聖女は自ら祭壇を降りて俺の前へと立つ。

何かに押されるよう、俺の意思とは別に体が動く。


ーー我らが聖女に頭が高いーー。


「ッ……!?」


瞬間、俺は竜だった姿から、鎧を纏った正に騎士のような格好で、片膝をつき、聖女にひれ伏すような体勢になった。

何が起きたか、俺は頭ではなく体で理解した。


ーー鎧の意識が、聖女に屈しているということを。


「っざけるなぁぁぁああ!」


びくりと、この場にいた彼女らは肩を縮ませる。

当然だろう。自らの意思で、聖女にひれ伏すようにした者が、いきなり大声を張り上げたのだから。


「ど、どうしたのですか……?」


心配そうに俺に声をかけてくる聖女。

同時に、俺の意思とは関係なしに体が……いや、鎧が服従の意を見せようとする。


ーー俺は、俺の意思で動く。


と、ちっぽけなゲーム内でのプライドに火がつく。

それと同時に、『インテリジェンス・アーマー/知識ある鎧』という知識が、頭のなかに浮かぶ。

『知識ある鎧』の性能は折り紙つきで、一定のINTがないと行動を制限されるがステータスが飛躍的に向上するのが特徴だ。

『ドラゴンアッシュ』は『インテリジェンス・アーマー』の中でも最高峰に位置し、下手なプレイヤーよりもINTが高い。

更に、『ドラゴンアッシュ』は名の通り、竜の灰ーー死んだ後の亡骸で作られている。竜の本能、竜の意志を継いでいても不思議はない。

だからと言って、このゲーム内において最強の鎧だろうが、俺は自分のしたいようにしたい。

別に、聖女の騎士としてロールーー演じるのも良い。

だが、俺は竜帝。


ーー貴様は、竜帝ではなくなった。何を抵抗するーー


思考の邪魔をするように、『ドラゴンアッシュ』は問う。


ーー圧倒的な力。それを聖女のために振るうーー


「……」


ーー実に素晴らしいではないか?ーー


「……ーー」


ーーふむ……。抵抗スルナ、若僧ガ!ーー


ずん、と鎧から圧がかかる。

無論、その様に感じただけ。これはゲームだ。


「……てめぇ」


自分でも少しぞくりとするほど、低い声が出る。

何をこんなに、苛ついてるのだろうか。


ああそう言うことかーー。


ーーゲームだからこそ、俺は苛ついたのか。


「単なる鎧ーーゲームの分際で、俺に指図すんじゃねぇ!」


クエストを開始します。とまたもやシステム音声が聞こえる。


ーー『竜帝への昇華』ーー

自らを竜帝と証明せよ。

ーーーー


鎧が光を放って、俺から消える。

俺は来るときに着けていた『緋緋色金』装備に身を包んで、

目の前に立ち塞がる鎧と最初の聖女を見る。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ