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白の王弟と水の姫君2  作者: ユイカ
2.また一人
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 幸か不幸か、今回のことで、ジールはディーンの仕事に関わる機会を得た。

 今までは、王の弟に過ぎない者が口を挟むべきではないと、自ら意図的に関わることを避けてきた。だから、自分だけ何も事情を知らされなかったといって恨むなんて、筋違いなのだろう。

 王様としてのディーンに関わっていれば、兄の本当の姿にも近づけるのかも知れない。それに、割り振られた仕事くらいはこなさなくては。

 しかし、扉を開けた先に立っていたのは糸目の青年ではなく、紫髪のご婦人だった。

「失礼、ジール様。私、先日お声をお掛けしました者ですけれど、覚えてらっしゃいまして?」

「ああ。えっと・・・。」

 お見合いおばさん。

 ではなく、名前を聞きたかったから言葉を濁したのだが、伝わらなかったらしい。お見合いおばさんは白いレースの手袋を嵌めた手をぽんっと叩いた。

「覚えていてくださって光栄です。

 ・・・中でお話しさせて頂いてよろしいかしら?」

 言いながら、ずかずかと書庫内に入っていく。ジールは突然の闖入者をまたもや呼び止め損なった。

 おばさんは中央のテーブルの前まで行って振り返る。戸口に向かって手招きをした。

「ちょっと、恥ずかしがってないでいらっしゃいな。」

 恥ずかしがる?

 ジールは首をひねったが、その言葉はジールに向けられたものではなかったらしい。扉の影から、金茶の巻き髪にグリーンのワンピースドレス姿の少女が現れた。

「ああ?!」

 少女はジールより高いんじゃないかという背を屈め、碧の瞳で上目遣いにジールを見てちょこっと会釈すると、何やら顔を赤らめておばさんの方に走っていく。咄嗟のことで、ジールは少女のことも呼び止め損なった。

 全く。何なんだ、こいつらは。

 すると、お見合いおばさんは早口でしゃべり出した。

「ジール様、もうお聞きになりまして?」

「・・・えーと、舞踏会を開く、とか?」

 探るように答える。お見合いおばさんは、パッションピンクに塗られた唇を、にっと引き上げて微笑んだ。

「ええ!こんなに早く実現できることになるとは思いませんでした。

 今、各方面に働きかけて、選りすぐりのレディーに招待状を作っておりますのよ。

 声をお掛けした皆さんは、娘さんもご両親も、ディーン王とお近づきになれるなんて夢みたいだと喜んでおいでですわ。王はなんて仰っておいででして?もちろん楽しみになさってらっしゃるのでしょうね?」

「あー・・・。多分。」

 許せ、兄貴。

 自分で選択肢のない質問を振っておいて、お見合いおばさんはジールの答えに納得したように頷いた。

「まあ、やっぱり!お節介かと思いましたのに、差し出がましく口を出した甲斐がありましたわ。

 でも、実は1つ問題があるのですわ。

 それはこの子のことですの。」

 お見合いおばさんは巻き毛の少女の肩に手をやった。

「実はこの子、私にとって恩のある、さる御方の娘さんなんですけれど、王とのお見合い舞踏会の話をしましたら、ぜひよろしくと頼まれたんですの。でも、私が主催者として各方面にお話しさせて頂いているパーティーで、1人だけひいきするわけにも参りませんでしょ?それで私、すっかり困ってしまったんですのよ。」

「・・・はあ。」

 この連鎖は何なのだろう。ディーンは恩あるレイタに頼まれてお見合いをする羽目になって悩み、レイタは恩あるお見合いおばさんからの頼みを断れずに困り、お見合いおばさんは別の恩ある人の頼みで困っている。

 ジールは少し呆れて巻き髪の少女に目を向けた。

 少女はお見合いおばさんの横に立って、しおらしく目を伏せていた。いかにも良家のご令嬢といった風貌だ。年の頃はジールと同じか少し上くらいだろうか。ディーンにとっては若すぎるのではないかとも思ったのだが、もしかしたら年齢は見立て違いかも知れないから、ジールはその点には触れないことにした。

「それで、俺に何か?」

「そうなんですの!」

 お見合いおばさんは、ジールの質問を待っていたかのように声を張り上げた。

「今日は、この子をしばらくジール様のおそばにおいて頂けないかと思いまして連れてきたんですのよ。」

「・・・は?」

「いえね。お見合いってやっぱり、第一印象が大事でございましょう?特に大勢を集めてのパーティーでしたら、王に目をとめて頂くだけでも困難ですわ。お声を掛けて頂いて、一曲ダンスをご一緒して、初めてその先が見えてくるものですのに。

 でもほら、この子はこのように引っ込み思案で、パーティーの席では思うように振る舞えないと思いますの。

 しばらくジール様のおそばに置いて頂ければ、パーティーまでの一ヶ月、何かにつけてディーン様の目に触れることになりますでしょう?少しは他のご令嬢より有利に立てるというものですわ。私にできる配慮はこれくらいだと考えましたの。

 もちろん、ただでとは申しません。書庫内のお仕事のお手伝いをするようにと言い聞かせてあります。

 では、よろしくお願いいたします。」

「えっ、ちょっと!」

 目をとめて頂くだけでも大変って一体何人集める気だ、とか、むしろジールにつきまとっている女という印象をつけたら不利なんじゃないか、とか、ディーンはダンスなんて踊れるのか、とか、何で二日前に知り合ったばかりのおばさんにやっかい事を押しつけられなきゃいけないんだ、とか。ジールはいろいろ言いたいことがあったのだが、お見合いおばさんは一言も口を挟ませずさっさと書庫を出て行った。またもや名乗ることもなく。

 巻き髪の少女と2人で取り残される。

 ジールは途方に暮れて、とりあえず腕を組んだ。

 今さら帰れとは言いづらい。が、レントからいつ連絡があるか分からない今、素性の分からない者に付きまとわれては本当に困る。

 ジールの困惑に気づいたのか、あのう、と少女が声を発した。ジールは仕方なく振り返った。

「えっと・・・。」

「リーナと申します。申し訳ありません。こんなことになってしまって。」

 少女はちょっと首をかしげた上目遣いでそう言った。なぜか顎下に握った拳を当てていて、声はちょっとハスキーだが、口調が不自然なほどにブリッ子だ。ジールは一瞬呆気にとられて声が出なくなった。その間に、リーナは長い睫をパチパチと二度瞬いた。

「おばさまは、ちょっと変わってますが、根はいい人なんです。

 リーナ、一ヶ月がんばりますので、何でもお申し付けください。」

 ええー。

「・・・・ちょっと失礼。」

 少し頭を冷やそう。ジールはふらふらと書庫を出ようとした。しかし扉を開けると、またもや客が来るところだった。

「いやー、ジール様。今朝は遅いご出勤ですねー。またお手伝いに参りました。」

「あ、ちょっと・・・!」

 レントはジールに構わず書庫を覗いて、一瞬かっと目を見開いた。そしてリーナを差して、「愛人ですか?」と聞いた。ジールはレントのローブを引っ張って書庫を出た。

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