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白の王弟と水の姫君2  作者: ユイカ
2.また一人
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 ディーンが中にいたはずなのに、室内は暗いままだった。ランプをつける。窓が開いていて、カーテンの隙間からディーンの塔が見えた。

「紅茶でいいか?」

「ミルクがいい。」

「無理だ。お湯なら出せるけどミルクは出せない。」

 ディーンが不平を言うのを無視して、ジールはしばらく使っていないティーポットを出した。茶葉を放り込んで、その上で指を鳴らす。お湯は指先から流れ出てポットを充たした。

 カップを2つ持って振り返ると、ディーンは丸テーブルの前の椅子に腰掛けていた。椅子は1つしかないから、ジールはベッドに座る。砂時計はと聞かれ、無いと答えると、ディーンはぶつぶつと数を数え始めた。抽出時間が大事だと言いたいらしい。ジールは無視して、適当な時間でお茶を注いだ。ディーンがいつも淹れるお茶に比べたら、ちょっと色が薄かった。

 揃ってお茶を飲む。

 ディーンはまだ、茶葉の量とか、お湯の温度とかにぶつくさ文句を言っていた。

 ジールはその兄の横顔を見つめた。

 一重の目は兄弟おそろいだが、兄はそこそこ鼻筋も通っているし、顎のラインもきれいだ。鍛えているわけでもないだろうに体は引き締まっているし、上背もある。肩下までの黒髪をリボンで1つに縛っている姿も、女性から見たら可愛いのかも知れない。

 黙っていたら、いや、まともにしゃべっていたら立派な王に見えなくもないのだ。

 レントが言っていたことが本当なら、(たとえ、全てはレイタの受け売りだったとしても。いや、そうに決まっているが)中身はバカじゃないはずなのに。今朝の会話も、内容はまともだったのに。

 しかし、ジールの前では甘えた子どもっぽい口調でしか話さないものだから、何もかもが台無しに見えた。

「ちょっと、ジール聞いてる?」

「聞いてない。ていうか、何の話で来たんだよ。」

 そう聞くと、ディーンはうっと言葉を詰まらせる。どうやら、よほど話しにくいことのようだ。

 ディーンはかなり悩んで、拗ねた子どものように言った。

「レイタが、お見合いしろって言うんだ。」

「は?」

 ジールは近頃何度目か、言葉の意味を見失った。堰を切ったようにディーンがしゃべり出す。

「今日、レイタが僕にお見合いの話を持ってきたんだ。

 レイタはそのつもりはなかったらしいんだけど、恩ある人にどうしてもって押し切られて、断れなかったんだってさ。

 僕はまだそんな気は全然無いって言ったんだ。でも、レイタがどうしてもって頭を下げるんだ。会うだけだからって。」

 レイタがディーンにどうしてもと頭を下げる姿など、ジールには想像がつかなかった。しかしそう言えば、今朝すれ違ったレイタはどこかいつもと雰囲気が違った気がする。彼女にしては珍しくそわそわしていた。きっとあの後、ディーンにお見合い話を持ち込んだのだろう。

 レイタが恩ある人って、昨日のお見合いおばさんか?

 すっげえ。あのおばさん何者だよ。

 という感想を、ジールは飲み込んだ。

「それで、OKしたのか?」

 ディーンは、ううっと唸ってから頷く。させられたといった方が正しいのだろう。

 ジールは、いい女性が見つかればディーンはジールを解放するだろうというリヴァの言葉を思い出した。それがジールにとっていいことなのかは分からなくなってきていたが、少なくとも兄にとっていいことだということは分かる。

「会うだけ会えばいいじゃないか。レイタもそう言ってたんだろ?

 兄貴はまだ若いし、今すぐ身を固める必要は無いかも知れないけど、そういう経験も大事なんじゃないか?」

 ジールが言うと、ディーンは膝に置いた手を握りしめて何やらフルフルと震えている。

 何事かと思っていると、ディーンは急にジールの首に手を掛けた。

「会うだけって簡単に言うけどさ、全然会うだけじゃないんだよ!」

「ぐえっ!な、何が・・・?」

「僕に合いそうな娘をいっぱい集めて、舞踏会を開くって言うんだ!」

「舞踏会?パーティー?」

 ジールは兄の手からやっとの事で抜け出した。首元を握って揺さぶられたせいで息が上がる。

「そう。一ヶ月後、城のホールを使って開くんだって。レイタも完全には把握してないけど、国中の娘を集めそうな勢いだって、言ってた。」

「それは・・・、がんばれ?」

「がんばれじゃないよ!!」

 なるほど、それは、夜更けに弟の留守部屋に忍び込んで泣きつきたくもなるかも知れない。ジールはちょっと兄に同情した。

「まあ、一時のことじゃないか。

 今回はレイタの顔を立てて出席だけして、やっぱりいい娘がいなかったって断ればいいだろ。一対一より気まずくなくていいんじゃないか?」

 それに、もしかしたらいい出会いがあるかも知れないし。と付け加える。

「ジール、パーティーの時僕の横にいてくれる?」

「兄貴のお見合いで、俺が保護者よろしく横にいるのは変だろ。パーティーとなったら王様っぽく振る舞わなきゃいけないんだからな。せめてレイタに頼めよ。」

「レイタも同じこと言った。」

 ディーンは、はあ、とため息を吐いた。

「お見合いとかいらないよ。僕にはジールがずっとそばにいてくれれば十分なのに。」

「やめてくれ。」

 ジールはぴしゃりと言い、それから夕方のレントの話を思い出した。どうせ話さなければいけないことだし、話題を変えるにはもってこいだ。

 ちょっとまじめな話がしたいんだけど、とジールはベッドに座り直した。書庫から持って帰ってきた本を開き、挟んでいた封書を出してくる。

 ずっとまじめな話だったのに。そう愚痴ったディーンはちらりとジールの手元を見て、お茶を飲み干した。眉をひそめて、淹れ直していいかと聞いてくる。ジールはちょっとむかついて、彼にポットを渡してやった。


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