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書庫へ続く扉を出る。
ジールは足を止めた。
書庫の前に客が来ていた。ジールの姿に気付き、細い糸目をさらに細めて手を振てくる。
「あー、良がった。せっかく来たのに会えながったらどうしようかと。
あ、私のこと覚えてらっしゃいますよね。昨日ご挨拶したレントです。」
浮かれた気分が一気に吹き飛ぶ。王立高等院は信用できないと聞いたばかりだ。ジールは自然と表情を険しくした。
しかし当のレントは、ジールの不快な表情など全く気にとめていないようだった。
「何しに来た?」
ジールは低い声で尋ねた。
レントはあわあわと手を振る。
「何って、お手伝いですよ。」
「手伝い?」
「こんな大きな書庫、一人で整理なんて大変でしょう。本って意外と重くて、動かすだけでも重労働でしょうに。私、こう見えて力仕事には自信があるんですよ。これからは学者も体力勝負ですからねえ。
あ。昨日の返事ならまだ結構。
邪魔はいたしませんので、今日はこき使ってやってください。さあ、何から始めましょうか?」
「お、おい・・・!」
相変わらず一切口を挟ませないマシンガントークだ。しかもジールに断る暇すら与えず、勝手に書庫の中に入っていってしまった。
ジールは慌てて追いかけた。
「勝手に入るな。」
ジールが階段を下りると、レントは書庫の中央で立ち尽くしていた。神を仰ぐように両手を広げ、天窓からの光を浴びている。ジールはそれ以上の言葉をかけ損なった。彼の気持ちが分かってしまったから。
かなりの間を置いて、レントは大きく一つ、深呼吸した。
「ジール様。」
「何だ。」
レントはジールを振り返った。見開かれた彼の瞳に射貫かれ、ジールは一瞬どきりとする。その隙を突くように、レントはジールの手を取った。レントの手は小刻みに震えていた。
「だ、大丈夫か・・・?」
「感動です。」
「は?」
「私、今、猛烈に感動しています!
この量、この匂い!こんなに多ぐの本が収められた場所を、私は他に知りません!しがも、一見しただけで、どれもこれも希少な書物ばかり!ジール様は大丈夫ですか?こんな場所に毎日いたら、私だったら発狂してしまいます!」
どうもこの男、興奮すると訛りがきつくなるらしい。ジールはがっしりと握られた手をやんわりとほどいた。
「いや、最初は驚いたけど、慣れないと作業にならないから。」
「その通りだず!」
だず?
「いやー、さすがジール様。確かに、作業中に鼻血でも出して本を汚してしまっては一大事。
私、今すぐこの書庫に慣れます。いえ、慣れましたとも!
さあ、作業の指示を願えますか!」
鼻血・・・。
ジールは反応に困って、とりあえず指示を出した。
「じゃあ、2階のあの一角の本を順に下に運んでくれ。」
「分かりました!」
レントは白い翼を出して飛んでいく。ジールの指示した棚から本を取り出していくのを見ながら、ジールは息を吐いた。
「すっかりあっちのペースに乗せられちゃってるんじゃない?」
リヴァの声が囁く。
「そうだけど・・・。」
ジールにはそれしか答えられなかった。